《補給隊》と《開発隊》・1 10月25日/141
風登場です。
【SRにて】
◆◇◆◇
向かって来た狐に似た魔物に、取り敢えず左手の剣を叩きつける。
「キュウウゥゥゥ……」
情けない声だな。
動かなくなった狐型魔物の首根っこを掴み上げ、一応左右に振って反応が無いのを確認してから腰にチェーンで繋がれている白っぽい箱に放り込む。13匹目になるその魔物は、箱の中に溜まっている血で、黄金の毛並みを真紅に変えた。が、
「お~、Fu、結構殺ってるね。……んでもこの魔物は毛を使うから血で汚しちゃ駄目だよ」
直後(箱の)左側からその魔物がヒョイ、と持ち上げられる。持ち上げた本人は血を落としている様だが、右から同じ魔物が3匹も来てしまったので取り敢えず無視。ステップで攻撃を回避してから、首元に左手の剣を叩きつけ、絶命させる。この仕事も、最初のうちは生物を殺すのにすら躊躇ったものだ。流石に人までは殺った事は無いが。
その3匹を掴み上げてから、その人物へとやっと向き直る。視線を15度ほど下に下げなければならなかったが。
「……それ初めて聞いたんですけど。と言うか、辞書に載って無かったんですけど」
「ん~、最近見つかったばっかの奴だからねぇ。でも此奴の毛って、良い服の元になるんだ。通気性抜群で、支給される服に使おうって話題になってる位」
「……へー」
全くもって初耳だ。
「……なら、此奴らも汚さない方が良いですよね……どうしよ、首に引っ掛けるにしても2匹は手で持たないといけないか……でもそれじゃ攻撃できないしなぁ……」
「……僕の荷物まで持ってくれるなら、周囲の警戒はするよ?」
「…………」
先輩である見た目7歳の少年――邀撃・輪廻先輩がそう申し出て下さったが、ふと先輩の背後を見ると、白い箱に山盛りになった魔物が見える。
……明らかに重そうだ。しかし、それ以外に案が思い付かないのも事実。仕方なく頷いた。
「……じゃあ、それでお願いします……」
「ん、宜しく」
カチン、と音をたてて2つの箱を連結。ちょっと動いてみようとしたが、
「…………(汗)」
全く動かない。足を踏ん張り、前方に全体重を傾けてやっと数ミリ動く。
「ほらほら、頑張れFu」
「……っ、」
返答する余力も無い。スタスタ先へ行ってしまう先輩を必死で追いかけ、何とか背後につくと、切れ切れながらも一応問う。
「……あ、の、こ、っこれ、……な、何匹っ、入、ってるん、ですか……?」
「んー、7匹位だと思うけど、内5匹は重量級だったかな」
「…………」
聞くんじゃなかった。
◆◇◆◇
単純計算で2倍になった荷物を引き摺っていたが、先輩のペースに頑張ってついて行ったため、拠点への道のりは30分程度で済んだ。先輩が2度ほど寄ってきた魔物を瞬殺しなければ、もっとかかっていただろう(副次結果で荷物が更に重くなったが)。
拠点となるテント付近では、魔物避け&不可視化の結界が張り巡らされていて場所が分からないのだが、先輩は迷いなく歩いていき、視界から消えた。
同様に歩を進め、境界線を越えきってから(荷物の所為で)ゼーハー言ってると、苦笑と共にもう1人が近づいて来た。所属する《補給隊》第8班の最後のメンバー、匣・仙女先輩だ。
「ふふ、お疲れ様。そんな中悪いけど、このままじゃ食材の部分とか腐っちゃうわ。分類だけやっちゃってくれる?」
「……は、ハイ、……分かりました」
箱を腰のベルトから外し、テント内に置かれている4つの箱の前まで引っ張って行く。赤、黄、緑、青の4色があり、赤=食糧部分、黄=防具等に使う硬質部分、緑=皮部分、青=それ以外、と言う風に分類する。さっきの狐型魔物(後で調べたらフェザーフォックスと言うらしい)の毛は青となる。近くに置いてある魔物分類本を捲りながら、魔物共を分けていく――。
ふと。
胸の奥深く、心に深く厳重に――掛けられた、錠前。その奥から、微かに声が漏れ出している事に、気付く。
(何で此処にいる必要があるんだ?)
――……またか。
(此処にいる必要性無いじゃないか。アイツから逃げ出して、どっかに隠れて、そうしてから方法を探せば良いじゃないか)
――……五月蝿い。
(そもそも、此処に連れて来られてからずーっと、アレを抑えるのに精一杯じゃないか。早く回復する為にも此処から)
――五月蝿い五月蝿い五月蝿い! 黙ってろっ!
頭の中で鳴り響く、錠前の隙間から漏れ出す不安を押し殺す。単調な事をしだすと、心にかけた鍵が緩んで、何時もは考えない、考えない様にしている不安が表面に出てくる。
(なんで、此処に来なくてはならなかったんだよ……?)
と。
◆◇◆◇
今いる場所の事も、何故此処にいるかも、十分すぎる程の情報は得ている。
〝2次元世界〟の正式名称である、World of Imagination Planet、略してWIP。『想像の惑星世界』――聞いた時はなんて仰々しい名前なのだろう、と思った--要するに、〝本や漫画、その他2次元に描かれた色々な想像の産物から生まれた世界が集まる所〟と、言う意味らしい。電〇文庫やらジャ〇プやらアニ〇ックスやら――現実に有り得ない事が起こる世界。現実――3次元から1つの情報が欠け落ちた、欠陥がある故におかしな状況が起こり得る世界。
初めて此処に来た時は頭がおかしくなったのかと思ったモノで、この状況に慣れるのに苦労した。
何も無い空間に、1つ1つ別々の設定・登場人物・世界観がある小説が惑星の様に散らばっている。――宇宙空間を想像すると分かりやすい。惑星は傍から見ると球形にしか見えないが、中に飛び込めば別世界が広がっている。この惑星にあたる物を、Small・Real、略してSRと呼ぶ。
SRは、3つの要素があって成り立つ。
1つ、その小説の舞台となる空間。たった1つの街だけだったり、果ては宇宙空間までもが同じ大きさにしか見えないSRの中に詰まっている。
1つ、その小説に出てくる登場人物。
1つ、その小説のいく先を決める。《原書》。
《原書》が無ければその小説は存在できず、その《原書》には、その小説が今後どう進むのか、それが事細かに記されている。登場人物は自覚しないまま、《原書》に記された行動をなぞる。これは小説(世界)中心人物ーー主人公とも言う――になる程行動・言動は制限され、中心人物より離れたガヤ|(小説の話で背景にいる人々の事)になる程制限は緩くなる。だが、《原書》に反する行動は(そう明記されてない限り)取れないのだ、その小説の人々1人たりとも。
――の、筈だった。少なくとも、このWIPで10年前までは。
突如WIPに現れた1人の《異考者》(《原書》から逸脱した行動・言動をする様になった人物の事)。その人物の出現によりWIP内で一気に《異考者》の出現率が増え、同時にそれぞれのSRでも異常な事に――そのSRでは発達知り得ない技術が出てき始めたのだ。科学技術が発達したSRに魔法が存在していたり、そのSRにいない筈の魔物がはこびっていたり。果てには、2つ以上のSRを跨いでそれぞれに無い技術を乱用したり……。
始まりの、最初の《異考者》は思った。WIPで《異考者》が出るのはいい。だが、大元の、SRの《原書》に記された中心人物達にまで、その影響が及んでしまったら、そのSRは壊れ、最終的にはWIPそのものが崩壊してしまうかもしれない――。
そう考えたその人物――今ではWIP最大のコミュニティ(SRを跨いで存在する組織)となった多重時空間警察――Multiple Spatiotemporal Police、略してMSPの初代最高責任者、滋源・麒麟は、MSPを作った際、MSPの仕事を、次の様に定めた。
1・MSPは、WIPの秩序と平安を守る為に存在する。
2・MSPでは、《原書》に反する《異考者》を監視し、《異考者》が《原書》に反した場合、直ちにその《異考者》を捕らえる事を義務とする。
3・MSPは、SR内にそれぞれ存在する《原書》をコピーし、上記の事に利用する為だけにしか中心人物達に近付かず、また中心人物達にその存在がバレた場合、その記憶を抹消できる。
4・また《原書》に反する行動でない限り、SRには自由に入って良い。但し、少しの歪みもWIPの崩壊に繋がるかもしれないので、よくよく注意する事……。
等々似た様な事が後10個弱も続くので割愛させて貰うが、要点だけまとめれば、「身内ならWIP(世界)を壊さなければ何しても良いよ」である。何とも自己中なルールだと何度思ったか。
前に述べた通り、このルールに乗っ取って作られたMSPは、色々な仕事が存在する。
WIPでまだMSPの自治下に入っていないSRへ出向き、《原書》を手に入れMSPの勢力を広げる事が仕事で、MSP一番過酷な《未確認SR調査隊》、通称《調査隊》。
自治下にあるSRをパトロールし、《異考者》が《原書》に違反した時点でその《異考者》を捕らえる《パトロール隊》。
《原書》を手に入れ、安全の確認されたSRで、《原書》に載っていないそのSRの情報や、自治下のSRでのMSP以外のコミュニティの情報を集める《諜報隊》。
新たに見つかった技術と元々ある技術を融合したり、新しい武器の開発全般に手を染める《開発隊》。
《開発隊》が作った武器の実用化や、服、果てまでは薬までの製造に、消耗した武器の回復等に携わる《生産隊》
怪我の治療術や、医療関係に特化した《医療隊》。
そして、《調査隊》や《パトロール隊》、《諜報隊》に物資を運び、《開発隊》や《生産隊》、《医療隊》の要望に合わせ必要な素材を集める――《補給隊》。
そこの第8班が今、風・双剣士と名乗っている(ウィンド、ではなく、フウと呼んで貰っている)自分が所属する場所だ。
(本当なら、って思ってるんだろ?)
また胸から声がする。しかし、その声はさっきより些か――悲しげに聞こえた。いや、悲しく思っているのは――自分か。
――確かに……。
(――もっと平穏な日々を過ごせていたんじゃないのか……)
以上です。
風は(周囲には隠していますが)チートです。思いっきりチート使いです。でもチートすぎるのとまだ本人も気付いていなかったりする事もあって序盤は普通です。ですが今後、酷い事までやらかしたりします。
そんな風を、どうぞヨロシク!