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白い犬

作者: 宮村 鴻

以前書いた短編です。

元ネタは友人の考え、それに私が肉付けをして、一編の話にしました。



この頃、僕はいつも同じ夢を見る。

 真っ白い白銀の世界に、僕は一人で歩いている。どこかからの帰り道なのか、僕は公園の前を通りかかる。

 そこにはいつも子犬がいる。そいつは真っ白で雪の中にいると、さもすれば見落としてしまいそうなのだけど、絶対に僕は見落とさない。そいつも絶対に僕を見つける。

 そうして、とても嬉しそうに笑うのだ。声を出して笑うのではない、でも、僕にはそいつが笑っているという事が分かった。

 そいつは、嬉々として尻尾を振り、僕に駆け寄ってくる。そして、そこで気付く。


 その子犬には、左の前足が無かった。


 いつもそこで目が覚める。最悪な目覚め。


 その子犬は、今もどこかで僕を待っているのだろうか。

 白い雪の中で、僕を。


+++


「ねぇ、加藤さんの家に子犬をもらいにいくわよ?」

 母が僕を呼ぶ声。今日は母の友人の加藤さんの家に子犬をもらいにいくのだ。


 そうして、加藤さんの家に行った僕たちが見つけたのは、健康な子犬の中に埋もれる、白い、左前足のない犬だった。

「母さん、こいつがいいよ」

「え? その子、足が無いでしょうに」

「いいんだ。こいつが僕を呼んでたんだ。大丈夫、こいつはちゃんと歩けるし、きっと不自由はないんだよ」

「そう…なの? あなたがそう言うなら、加藤さん。この子を頂くわ」

 加藤さんは不思議そうに僕を見た後、箱の中から子犬を取り出した。

 子犬はひくひく鼻を動かしながら、僕の方に近寄り、そして、夢のままに僕に笑いかけてきた。

「そうだな。お前は、雪とでも名付けようかな」

 まだ小さい雪を僕の目線の位置まで持ち上げて、そう呟いた。

 母は、安直ねぇ、とぼやいていたが、僕には一番似合っている名前に思えた。

「夢に見たまでに、育つのはいつ頃だろうな?」

 その頃にはきっとあの公園で、雪は僕に向かって笑うのだろう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 白い犬、読ませて頂きました。 短い文で構成されているにも関わらず、タイトル、内容にぶれず、ともすれば、日常の日記の片隅に書かれている様な暖かいお話に、心が和みました^^ それでは、これから…
[一言] 拝読させて頂きました。 優しいお話ですね。あまりインパクトはありませんが、白い犬と主人公の運命的な出会いの内容。 あたたかい、お話でした。 もう少し何か他のエピソードがありますと、物語として…
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