白い犬
以前書いた短編です。
元ネタは友人の考え、それに私が肉付けをして、一編の話にしました。
この頃、僕はいつも同じ夢を見る。
真っ白い白銀の世界に、僕は一人で歩いている。どこかからの帰り道なのか、僕は公園の前を通りかかる。
そこにはいつも子犬がいる。そいつは真っ白で雪の中にいると、さもすれば見落としてしまいそうなのだけど、絶対に僕は見落とさない。そいつも絶対に僕を見つける。
そうして、とても嬉しそうに笑うのだ。声を出して笑うのではない、でも、僕にはそいつが笑っているという事が分かった。
そいつは、嬉々として尻尾を振り、僕に駆け寄ってくる。そして、そこで気付く。
その子犬には、左の前足が無かった。
いつもそこで目が覚める。最悪な目覚め。
その子犬は、今もどこかで僕を待っているのだろうか。
白い雪の中で、僕を。
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「ねぇ、加藤さんの家に子犬をもらいにいくわよ?」
母が僕を呼ぶ声。今日は母の友人の加藤さんの家に子犬をもらいにいくのだ。
そうして、加藤さんの家に行った僕たちが見つけたのは、健康な子犬の中に埋もれる、白い、左前足のない犬だった。
「母さん、こいつがいいよ」
「え? その子、足が無いでしょうに」
「いいんだ。こいつが僕を呼んでたんだ。大丈夫、こいつはちゃんと歩けるし、きっと不自由はないんだよ」
「そう…なの? あなたがそう言うなら、加藤さん。この子を頂くわ」
加藤さんは不思議そうに僕を見た後、箱の中から子犬を取り出した。
子犬はひくひく鼻を動かしながら、僕の方に近寄り、そして、夢のままに僕に笑いかけてきた。
「そうだな。お前は、雪とでも名付けようかな」
まだ小さい雪を僕の目線の位置まで持ち上げて、そう呟いた。
母は、安直ねぇ、とぼやいていたが、僕には一番似合っている名前に思えた。
「夢に見たまでに、育つのはいつ頃だろうな?」
その頃にはきっとあの公園で、雪は僕に向かって笑うのだろう。