身長
短編です
「ん?何だこれ」
実家を解体する数日前、施設に入っている母が、どうしても最後に解体する前の家が見たいと言うので、何とかアポを取って、前日に連れてきたのだけど、見慣れない傷が柱に入っていた。
「お母さん、足元気を付けてね」
よろよろと玄関の上がり框に足をかけた母に声をかけ、その見なれない傷をしげしげと見つめた。
玄関の正面にある、大黒柱。その大黒柱には、私と姉の身長が刻まれている。
姉の名前の横に3歳と書かれた線が一本、それより少し下に私の名前が書いてあって、同じく3歳と書かれていた。それぞれ15歳まで、一本ずつ油性ペンで書かれている。
途中で私の線が姉を追い越しているのが懐かしい。
その小さな傷は、丁度私と姉が5歳頃につけた身長の線と同じ高さに有った。彫刻刀のような何かでつけたような傷は、よく見ると、私たちの身長の間に一本ずつ入っている。油性ペンの間に、木の肌の線。
「お母さん、この線見覚えある?」
母は私の声にゆっくりと歩いてきたけど、まったく覚えがないような顔をした。
私たち姉妹の線は父がつけたものだから、母の記憶がほとんどないのは確かだ。
少し気になりつつも、母を支えながら他の部屋を見て回って、気の済んだ様子の母を連れて施設に戻ってきた。
あの線がまだ少し気にはなったけど、どうせ明日で解体してしまうのだ。別に傷が増えていたって何の問題もない。
「じゃあお母さん、明日も迎えに来るから。明日は姉さんも一緒に来られるって」
「わかったわ」
少し背中の曲がった母を職員さんにお願いして、私は帰路に就いた。一応今日あったことを姉に報告して、明日の集合時間などを確認するために、電話をかけた。
「うん、それで大丈夫。・・・あのさ、お姉ちゃん、ちょっと聞きたいんだけど、柱に身長書いたの覚えてる?」
「あー、あれね、懐かしい」
「あれさ、なんかもう一本ずつ増えててさ、なんか気になったんだけど、覚えてる?」
「え~?あったっけ?わかんないや」
どうやら姉も覚えていないらしい。ここまで来るともうどうでも良くなってきて、今日の事と明日のことを報告する間に、ほとんど忘れてしまっていた。
翌日、施工業者の人が、挨拶をしてくれて、解体が始まった。
重機が音を立てて、幼い頃住んだ家を破壊していく姿を見るのは、なんだか寂しい気持ちがするものだ。
「実はね、あなた達の生まれる前に、もう一人お兄ちゃんがいたのよ」
母がポツリとそう呟いた。初耳だ。父も母も私たちの前に兄弟がいたことなど教えてはくれなかった。
「生まれてすぐ亡くなってね。成長させてあげることが出来なかった。ソレがとっても悔しくて」
母が涙を浮かべて家を見る。次第に大黒柱がむき出しになって土煙が舞う。
大黒柱だけが妙にしっかりと立っている。ソレがなんだか妙に気になった。
「あぁ、でもほら、あんなに大きくなって・・・」
——ただの柱、だよね?——
子供の成長記録ですね~。




