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スキル【致命眼】の初級魔術〈ファイアボルト〉は最強  作者: 酒とゾンビ/蒸留ロメロ


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20

 王城を出て市街地を歩いた。

 たまたま人気のない区画に立ち入る。

 気が付くと、周囲を物騒な連中に囲まれていた。


 全身黒づくめで性別も分からない。

 確か王室忍者隊とかいう連中だ。


「俺になにか用でも?」

「困るのですよ、あなたのような方がいては」


 それはさきほど王の隣にいた、補佐官の声だった。


「広間にいた老人か」

「守護者ともあろう者が【F+】とは。さらに初級魔術しか使えぬ凡人以下とは、扱いづらいことこの上ない。さらには宮廷魔導師を戻せときた……」

「王様はいいって言いましたけどね」

「そういうお方なのだ。だからこそ我々がお仕えし調整している。でなければ王政はいずれ破綻する」

「なるほど。それで俺を殺しに来たって訳ですか」

「リナリー・ウェストウッドは不敬罪で退職している。それが真実だ」

「実際はエロ公爵の夜の誘いを断っただけって話ですけどね。それでコロシアムに売られるなんてバカげてる」

「それが秩序というだ」

「どこがですが……やりたい放題じゃないですか」

「権威者の気まぐれは絶対だ。コロシアムからウェストウッドが消えた際、ヘルマン・ウィスキーも同様に失踪している。あなたには、何か心当たりがあるように思うが……」

「自分で調べたらいいじゃないですか。こんな【F+】に聞かないで」

「口で言っても分からんか」

「そんなことより……」


 俺は周囲へ目を配った。


「初級魔術しか使えない相手に、この数はおかしくないですかね?」

「続きは地下室でお聞きしましょう」

「……なるほど」


 周囲にいた黒づくめたちの姿がすーっと消えた。

 あの時と同じだ。

 おそらく透明になったんだろう。


「――【ファイアボルト】」


 ――形態【煉獄】!


 周囲から多数の火の柱が噴出した。

 通りの地面はマグマのようにどろどろになる。


「う、うわぁああああ!」


 多数の悲鳴が上がると、全身が燃え上がった黒づくめたちが再度姿を現す。


「これは、一体……」


 補佐官は呆然と立ち尽くす。


「あなたが今さっき見下した初級魔術ですよ」

「待て……よせ、やめろ!」


 黒鞘を抜き、俺は補佐官にそっと近づいた。




 〇




「昇級しないだと!?」


 戻ってくるとギルド内はお祭り騒ぎだった。

 壁には「シンクS昇級おめでとう!」の弾幕が掲げられていた。

 ただ俺は知っている。

 こいつらのほとんどは俺の名すら知らず、つまり賑やかな雰囲気で酒が飲めればそれでいいような連中ばかりだ。


 エルキンスさんはしつこいくらいに確認してきた。


「依頼を受けるようになってまだ数日しか経ってないんですよ? ノルマのこともありますし、流石にSランクは早過ぎですよ。王様は結構頭がアレらしいので、そんな真面目に受けとる必要もないと思います」

「Sランクには色々得点があるんだぞ」

「たとえば?」

「モテる」

「クソですね」


 なるほどとは思ったが、それが俺には特に利点になりえなかった。

 ロードリーさんやパールさんはともかく、女とはデメリットシンクだのファイアボルトバカだのと徒党を組んで言ってくる恐ろしい連中に過ぎない。


 エルキンスさんが熱弁し、そしてロードリーさんが「考え直した方がいい」と説得してくる。

 パールさんは「もったいない気がします」とぼそる。

 そこにウラジミールさんが現れて、「モテる」以外のSランク得点を語り出し辺りから、俺は話を聞いていない。


 俺抜きでの熱い話が行われている一方で、テーブル席にいたとある二人組の冒険者が面白そうな話をしていた。


「あんなもんが女神とは、エリンギン王国ももう終わりだな」

「見失ってんだよ。セロリン王国を出し抜きたいがあまりに女神召喚になんか手を出して」


 俺は声をかけた。


「すみません、少しお話を伺ってもいいですか?」


 二人は不思議そうな顔をし、俺は「女神とは何の話ですか?」と問う。


「女神大聖堂が召喚した異世界人のことさ」

「異世界人?」

「こいつがすげー汚ねえ奴でな」

「汚い?……何をしたんですか?」

「違う違う。見た目の話だ。女神っていうくらいだから、召喚したって話を聞いたときは当然女だと思った。さぞかし神々しい女が現れたんだとな」

「それがただのおっさんだったんだ」

「おっさん?」

「マサオとかって言う、中年太りの体毛の濃い禿げたおっさんだよ。そんな奴が女神を名乗って町の病人たちを治してんだ。力だけは本物らしいから誰もなんも言えねー」


 エリンギン王国か……面白そうだ。

 さっき市街地で王室忍者隊を皆殺しにしてしまった事もある。そろそろ王都を出ようと思っていたところだ。


 俺は礼を言ってロードリーさんたちのところへ戻った。


「シンク、お前はやっぱりSランクになるべきだ!」


 エルキンスさんを無視し、「いきなりなんですけど、王都を出ようと思います」と告げた。


「急な話だな。どうした。どこへ行くつもりなのだ?」とロードリーさん。

「田舎に帰っちゃうんですか?」とパールさん。

「ケイデンスにはしばらく行きません。エリンギン王国に行こうかと思ってます。約束もあるので」


 丁度いいからエメラルダさんの家にも行こう。


「そこでなんですけど、二人も一緒に行きませんか?」


 ロードリーさんとパールさんとの旅は普通に楽しい。

 特に気負うような二人でもないし、いつも自然体でいられる。


「それはもちろん構わないが」

「でも私、学校に通うつもりだったんですけど」

「学校なら向こうにもありますよ。エリンギンに女神が現れたらしいんです。ちょっと面白そうなので行きませんか」

「……それもそうですね。あ、じゃあ私ついていきます!」

「女神の話なら私も小耳にはさんでいる。汚い奴が現れたとエリンギンからの旅人が話しているのを聞いた。今日ではないが、近々王都を発つつもりだったのだ。丁度いい」


 エルキンスさんへ振り返り、


「ということなので、俺はSランクにはなりません。色々とお世話になりました。エリンギンまでは距離がありますから、今日中に出発しようかと思います」


 いきなりの話に、エルキンスさんは「風のように去っていく奴だな」と、熱弁していた時の勢いを失っている。


「ともかく酒だ」


 そういって冒険者に酒を持ってこさせると、エルキンスさんは俺にジョッキを持たせた。


「みんな乾杯だ! シンクが王都を出てく。送別会だ、送別会!」


 壁際の冒険者がペンキで弾幕の文字を「さようなら、シンク!」へ書き換えた。

 普通に送別会と書けばいいものを、冒険者はその辺りがいい加減だ。


「みんなジョッキは持ったな? それじゃあ乾杯だ!――」


 ギルド内に、ジョッキの軽快が音が響いた。




 〇




 送別会のあった翌日――それはシンクがケイデンスを発った10日後ことだ。

 そのころケイデンスでは、聖兎飼いによるシンク捜索が行われた。

 シンクが王都へ発ったことを知ったアリスとニワトリー伯爵は、それから三日間後に王都へ到着する。


 ここは王都。

 ギルドの扉が乱暴に開くと、騒がしい二人の姿を冒険者たちは怪訝に窺った。


「ケイデンスのシンク! 出てきなさい!」


 アリスは乱暴に言い放った。

 冒険者たちは静かに傍観する。


「シンクならいないぞ」


 受付から声があった。エルキンスだ。

 二人は受付へ足を運ぶ。


「あなたは?」

「俺はただのギルド職員だ。シンクなら4日ほど前に王都を出てったぞ」

「なっ!?……」


 アリスは驚愕の表情を浮かべ、絶句する。

 遅かったかと、聞こえないくらいの愚痴をこぼした。


「エリンギン王国に行くとか言ってたなー。あんたら、あいつのファンかなんかか?」

「ファン?」

「貴君、ファンとはどういう意味かな?」

「なんだ、違うのか? 今やあいつは冒険者の星だからなー」

「星?……」


 なんの話だかさっぱり分からない二人を、エルキンスは不思議がった。

 王都で知らないものはいない。


「赤狼の女王を追い返したんだ、たった一人でな。【F+】がだぞ」

「女王?」とアリス。

「赤狼の女王のことであろう」

「昨日まではもう少し賑やかだったんだけどな。あいつを追ってエリンギンに向かった奴もいた。故郷であるケイデンスに向かった者もいる。みんなあいつのファンさ」


 エルキンスが語れば語るほど、楽しそうに微笑むほど、アリスの怒りは増していく。

 それがとうとう沸点を越えた瞬間、アリスは目を見開き叫んだ。


「――くそぉおおおおおお!」


 ギルド内の者全員が何事かと振り返る。

 エルキンスはきょとんとした表情でウサギ耳を見下ろす。


「逃げ足の速い奴だ」


 ニワトリー伯爵は言った。




 〇




 一方――。

 それは王都から離れたとある森の奥地でのことだ。

 決して人が立ち入ることのない深い場所に、木と土を積み上げて作ったような大きな住居の中で、女王レナトゥーレは椅子に腰かけ項垂れていた。

 周囲ではグリムとブラッディーウルフが静かに女王の言葉を待っている。


「レナ、なぜ撤退させた」


 一人のグリムが訪ねるもレナトゥーレは答えない。

 すると入り口の方がざわついた。

 何事かと顔を上げた彼女の目の前に、一人の男の姿があった。


「お久しぶりです。王女様(・・・)


 オルギエルドは親し気に微笑んだ。

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