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スキル【致命眼】の初級魔術〈ファイアボルト〉は最強  作者: 酒とゾンビ/蒸留ロメロ


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「嘘だろ……どういうことだ?」


 アリスラビットの懐中時計は、中心から粉々に砕け散っていた。

 だがナイトラビットに【ファイアボルト】を当てた時でさえ、ここまでのダメージにはならなかった。

 上手く胴体に当てたのにだ。


 すると砕けた懐中時計の中に、どくどくと揺れ動く生々しいものを見つけた。


「これは、心臓か?」


 まさか時計の中にそんなものがあったとは。

 一体どんな進化をしたらそうなるのか……。


「【ファイアボルト】ってこんな強かったっけ? いや、ないない、絶対にない。ナイトラビットの時は弾かれたしなー……」


 って、まさか!?――。


「まさかこれ、弓使いが偶にやる、ヘッドショットってやつか?」


 ヘッドショット――。

 それは人で言えば、頭をぶち抜き一撃で仕留めた際に使われる言葉だ。

 モンスターの場合は急所が頭とは限らないから急所。

 弓使いが偶々急所を射抜きモンスター一撃で仕留め、仲間に「すげー、ヘッドショットだ!」と称賛されている場面を目撃したことがある。

 ん、つまり、どういうことだ?……。


「いや、まさかな……」


 思わずニヤけてしまった。

 まさかそんなバカなこと、あるがずがない。

 これが急所を見抜き、魔術を自動で急所へ誘導し、さらにへなちょこ火球をヘッドショットという名の一撃必殺の魔術へと変える能力なんていう、そんなめちゃくな話……。


「ある訳ない……マジかよ」


 いや、むしとそうとしか考えられない。

 そうでないならアリスラビットがクソ雑魚ということになってしまう。

 となると、これまでに奴が原因で行方不明になったとされる名のある冒険者たちが、クソ雑魚であったということになってしまう。


「確か、【致命眼(マグニ・トラウマ)】とか言ったか?……え、うわっ!?」


 急に目から赤い光が飛び出し、目の前に魔法の文字が浮かんだ。

 加えて頭の中に声が聞こえてくる。


 ――『【致命眼(マグニ・トラウマ)】――それは万物の急所を見抜きます――それは保持者の行使する魔術を保持者の意思に基づき誘い、魔術の効果をも超越した、致命の一撃と成ることでしょう』


 天の声が鳴り止むと、目の前の文字も消えた。




 〇




 アリスラビットをギルドの受付で買い取ってもらうことにした。

 一応、懐中時計の残骸も布袋に集め、持って行った。

 ――冒険者の基本だ。

 討伐したモンスターの持ち物は、どんな些細な物であっても回収する。


「失礼ですが、こちらローブや懐中時計についても買い取りということでよろしかったでしょうか?」


 受付嬢が妙なことを言った。


「え、はい。何か問題でもありますか?」

「いえ。アリスラビットは珍しいモンスターですから。特にこのローブなどは中々手に入らない代物ですし」

「ローブ?……え、ちょっと待ってください。まさか、このローブを使わないのかってことですか?」


 それ以外に何があるんだ――とでも言いたげに、受付嬢は苦笑いをした。

 まさかモンスターの持ち物を使うなんて発想があったとは……。


「あ、じゃあローブは自分で使います」

「かしこまりました。こちらの懐中時計はよろしかったですか?」

「え、まさかそれも使えるですか?」

「いえ。こちらは純度の高い銀で作られていますから、みなさん溶かして武器や防具の素材に使われるので……」

「……じゃ、じゃあ、それも貰います。その、あと何か使えるものってありますか?」

「その他はみなさん、買い取りを希望されますね」

「あ、じゃあそれで……」


 完全に見下された笑顔を向けられた。

 冒険者を始めて4年も経つのに、全く知らなかった。


「お、デメリット(・・・・・)シンクじゃねえか!」

「……モルザフ」


 こいつはモルザフといって、30過ぎのおっさん冒険者だ。

 ベテランらしいが強いとかって話は聞かない。

 冒険者というのは一定以上の力を手に入れると、頑張らなくても日々それなりに暮らしていけるようにはなる。

 安定した収入を得られ、美味いものは食えるし欲しい物も大抵は手に入るようになるから、大半はそのうちモルザフみたいな怠け者になっていく。

 俺が言えたことじゃないが……。


「相変わらず辛気臭ぇ顔してんなー。ん!? お前それ、アリスラビットじゃねえか!?」

「そうだけど、だから何?」

「そんな珍しいもん、お前どうしたんだ、イカサマでもしたのか?」

「イカサマ? なんだそれ……」

「力尽きた冒険者の獲物でも横取りしたのかって言ってんだ。とにかく、【ファイアボルト】しか使えねえヘボ冒険者が、アリスラビットなんて()れる訳ねぇだろ」

「自分で狩ったんだよ」

「嘘つくんじゃねえよ」


 ムカつく奴だ。

 受付嬢が金をお盆に乗せて持ってきた。


「それでは5000G買い取らせていただきましたので、お納めください」

「ご、5000G!? そんなに!?」


 ビールが何杯飲めるか……。


「なんだ、お前アリスラビットの買取金額も知らねえのか? 相変わらず抜けてんなー」

「っるいさなー……」


 金を布袋に入れ、アリスラビットのローブを羽織った。


 ――「【アリスのローブ】を装備しました。魔力が二倍になりました」


「にっ、二倍!?」

「ん、どうしたイカサマ野郎?」

「お前ってホントうるさいよな? もう行くよ、じゃあな」

「なんだよ、愛想のねえ野郎だ。ま、気ぃつけてな。へなちょこが、あんま無理すんじゃねえぞ」

「一言多いんだよ」


 悪い奴でないことは分かってる。

 モルザフなりに気を遣っているだけだ。

 俺みたいなヘボには誰も話しかけてこないもんだし、さっきの受付嬢みたいに冷ややかにニコッとしているのが普通だ。


 ギルドをあとにし、どうせなら懐中時計を熔かしてもらおうと工房を探す。

 路地を歩きながら手に入れたばかりのローブについて考えていると、また天の声が聞こえた。


 ――『【アリスのローブ】――狡猾なラビットが少女の内臓や血や、身に着けていた衣服を基にして作ったとされるローブ。紫色に染まっている。着色方法は不明。装備者の魔力を二倍にする』


「そんな情報いらんわ。それより、魔力二倍はうますぎる」


 つまり、これまで日に5発しか打てなかった【ファイアボルト】だが、これからは10発も打てるようになるってことだ。

 さらに【致命眼(マグニ・トラウマ)】の能力で、【ファイアボルト】は一撃必殺の魔術となった。

 なんだか急に強くなった気分だ。


「でも【ファイアボルト】であることは変わらないんだよな……」


 こういうの、コンプレックスっていうんだっけ……。

 強くなっているはずなのに、なんだか中途半端な気がしてくる。

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