第2話
「いい?佳奈。ちゃんと行くのよ?」
母の逃げるなよ?と言わんばかりの鋭い声に、軽く身震いしながら佳奈は答えた。
「分かってるよ!!ちゃんと行くし!!いってきま~す・・・」
「気を付けるのよ~」
ニコニコとしながら元気に佳奈を見送る母とは対照的に、佳奈は浮かない顔をしながら家を出た。
もはや逃げることはできないと昨日の内に分かってはいたものの、いざ当日になるとさらに行きたくない度合は高まり、佳奈は時間ギリギリまで粘ったが、結局母の有無を言わせない目線に耐えることができず意を決してバイトへ行くことにした。
昨日の夜、母に送られた住所を確認しながらバイト先へ向かう佳奈は、何日ぶりか分からない程久しぶりの外出だったためか、少し気分が変わっていた。
やっぱり外に出るって大事なんだな~。行きたくなかったけど、いざ外に出ると天気もいいせいか少し気分も変わってやる気も出てきたし!バイト先の人どんな人なんだろう・・・
前日の夜とは変わって、少し前向きになりながら、佳奈はバイト先へと足を急がせた。
「ここで合ってるのかな・・・まじで?」
佳奈はバイト先について驚いていた。なぜなら目の前に見えているマンションが超が付くほど高級と言われているからだ。住所を見たときは、特に意識をしおらず気づいていなかった佳奈は、目の前の建物に思わず尻込みをしていた。
ほんとにあってるよね?まじでここ?何度も住所を確認し、マップも確認してもやはり場所は合っているので、佳奈は意を決して送ってもらった部屋番号のチャイムを鳴らした。
「・・・・・はい」
「あの、私今日からここでバイトするよう言われた成瀬と申しますが・・・」
「あ~!どうぞ、今開けるので待っててください」
「ありがとうございます」
インターフォンが切れるとすぐにオートロックが解除されたのか扉が開き、エレベーターへと向かった。
どんな人だろう・・・怖い人じゃありませんように!佳奈は、エレベーターに乗りながら少しの不安と緊張が高まっていた。
「ここか・・・」
エレベーターを降りた後、部屋番号を確認していきながら、いよいよ部屋の扉の前へと着いた。
一度チャイムは押しているおかげか、部屋の前についてからは先程よりは緊張せずにいれたので、一度だけ深呼吸をし改めてチャイムを鳴らした。
少し間が空いてから、中から人の声が聞こえてきて鍵が開き扉が開いた。
「どうも、初めまして」
現れたのは、長身で男らしい体格をしているが、顔は中性的で優し気な印象をもたらす美男子で佳奈は一瞬思わず見とれてしまいそうになった。
「あ・・えっと・・・初めまして!私、成瀬佳奈と申します。本日よりよろしくお願いいたします」
「よろしく、とりあえず中に入って」
「失礼します」
やば~~!めっちゃイケメンじゃん!こんなイケメンの傍で仕事できるとか超ラッキーじゃん!!目の保養だわ~
家族以外の異性と話すこと事態が久々だった佳奈は、緊張もあったがそれよりも顔がイケメンでそちらの破壊力のほうが勝った。久々の異性との対面ということもあり、いろんな意味で緊張をし心の中は荒れまくっていたが、あくまで表向きは平静を装った。
中に通され、リビングへ入るとそこは自分の家のリビングの数倍は広くてきれいで佳奈はあっけにとられていた。
「・・・広いですね」
「そう?普通じゃない?」
「いや、これは普通じゃないと思いますよ・・・」
思わず苦笑いをし、彼のほうを見ると目が合い微笑まれてまたもドキッとしてしまった。
「にしても、急でごめんね。実はバイト雇っても数日したら辞めるかいなくなることが多くてさ~」
「え、そうなんですか?」
「うん、だから来てくれてすごく助かるよ」
数日したら辞めるって、しかもいなくなるってやばくないか?大丈夫かなここ・・・
佳奈が彼から聞いたことに不安を覚えていると、彼が優しく話してきた。
「大丈夫、別に変なことはさせないし、長時間労働とかもさせないから!信じて!」
「はい・・・」
不安そうな返事とは裏腹に、佳奈の心はまたも荒れ始めていた。
そんな捨てられそうな子犬見たいな目で見ないでくれ!!顔がいいから余計にたちが悪いでしょうが!!
佳奈はもう一度心を落ち着かせ、改めて彼に話しかけた。
「あの、バイトなんですけど、母からはあまり詳しいことを聞いていないのですが、何をすればいいのでしょうか?」
「そうだね、まずバイトをする前にいくつか確認と条件があってね。それがオッケーならぜひお願いしたいんだよ」
「条件?」
そういうと彼は、棚から一枚の紙を取り出しリビングにある机の上に置いた。
「とりあえず座って話そうか」
そういう彼の顔は、優し気だが、どことなく影を感じる雰囲気を帯びており佳奈は思わず身震いをしそうになりながら、通された席に座った。




