表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
通いの聖女  作者: ぱんどーる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/2

2

日本の家、私の部屋にお父さんと悟の三人で帰ってこれた。


「・・・ここは・・・沙莉の部屋だよね?」

確かめるように悟が尋ねてくる


「・・・だね」

私も見渡して、間違いないと確信してから答えた。


「無事に帰って来られたか・・・。はあ、とんでもない体験をしたな」

お父さんはだいぶお疲れのようだ。


三人で一階のリビングに行くと、聡志さんが泣いてるお姉ちゃんの背中を撫でていた。


「ただいま」

「「 !? 」」


こちらを振り返ったお姉ちゃんの顔は、化粧がほぼ落ちていて、目は赤く充血し、泣きすぎたのか瞼は腫れていて、その上鼻水を垂らして、とにかく酷い状態だった。

いつものしっかり者のお姉ちゃんの姿は全くない。

心配させてごめんね。


お姉ちゃんの傍に行くと、また涙をぽろぽろと流しながら強く抱きしめられたので私も抱きしめ返した。


その間に、お父さんがあちらでの出来事を話し始め、聡志さんからは私達がいなくなった後の事を聞いた。


私達三人と勇者は最初からあの場にいなかった事になっていた。

事故をおこした車は、相手のいない、ガードレールに衝突した単独の自損事故になっていた。


お姉ちゃんと聡志さんは、周囲に親子三人がいたはずだと何度訴えても誰も目撃者がおらず、そのうちに「あなた達が救急車を使った方がいいんじゃない? 」とまで言われ始めてしまい、混乱しながらもどうにか帰宅したそうだ。


こちら側の話を聞いたお姉ちゃんと聡志さんは、目をまん丸にして驚いていたが、最後は信じてくれた。


「沙莉だけの話だったら疑ったけど、お父さんと悟も同じ事を体験したのだから信じるしかないわね」


「むぅ」


信頼度低すぎでしょう、私。


異世界に通う話は、お母さんのお墓参りに行ったこの五人でしか話せない。他の人に話そうとしても言葉が出なくなる。無理矢理話そうとしても自分の喉を痛めるだけだからやめた方がいい。


うちに通ってくれている家政婦さんにも話す事はできないが、私も異世界で十八時までの勤務。家政婦さんもうちで十八時までの勤務なので、私達は入れ違いになって会わないだろうから対処は他の家族に任せよう。


話し合いが終わり、夕食を済ませたので私は部屋に戻ることにした。


ベッドにダイブして大の字で寝転がる。


「はあー、疲れたぁぁぁ」


それにしてもとんでもないことになったわね。

でも、「勇者と共に魔王を倒してこい!」 なんて言われなくて良かった。私じゃ、きっとすぐにHPがゼロになって力尽きてしまうに決まっているもの。そもそも魔王の所まで辿り着けるかどうかも不安だわ。


そんな事を考えていたら、お姉ちゃんが部屋に来た。


「ノックしたけど、反応がなかったから心配したわ。大丈夫?」


いつものお姉ちゃんに戻ってる。良かった。


「うん、大丈夫。ちょっと疲れただけ」


お姉ちゃんはベッドに腰を下ろしてから、真剣な顔をして、


「変な事に巻き込まれてしまったけど、あっちで更に変な事に巻き込まれないようにしなさいよ? 異世界での命は日本での命より全然軽いはず。戦国時代にでも行く心構えで行きなさい」


え?

異世界って所はそんなにヤバいの?

ぽっかーんとしてると、お姉ちゃんは今度は呆れた顔をして、


「転生モノのラノベによくある話じゃない! 常識よ?」


そういうのが流行っている事は知ってたけど、一応これでも浪人三年生なんで勉強に力を入れてたから、ちゃんとは読んだ事がないと答えると、今度は驚いた顔をした。


「・・・まさか、本当にお勉強ばかりしていたの?」


失礼な。

何当たり前な事を聞いてくるのよ。


私の顔をまじまじと覗き込んで、嘘をついてないとわかったのか、


「なんか、沙莉の事を誤解してたかもしれないわ。私、何冊かラノベや漫画を持っているから、それを読んで勉強してちょうだい。今持ってくるから少し待ってて」


そう言ってお姉ちゃんは部屋を出て行った。お姉ちゃん達の新居は我が家の隣にある。妊娠してからはご飯の用意が面倒だからと、家政婦さんがいる我が家に聡志さんと共に入り浸っている状態だ。



『とうっ!』

「っ!? 」


今度は何っ!?

空ではなく、天井から? 猫? が降ってきた。


『沙莉だにゃ? 俺はラギだ。主に言われしばらくの間、お前と共に行動することになった』


「・・・そう」


『にゃんだ? 覇気がなさすぎるっ!』


私の膝に乗ってきて、こちらを見上げる黒猫。そんな可愛らしい行動をされると、黒猫の体を撫でたくはなる。

っていうか、もう実際に自然に手が伸びて黒猫の体を撫でている。


だけどこれが限界。私はもうめっちゃ疲れたのだ。


今日は色々とありすぎた。だから今さら黒猫が突然現れようとも、そのラギと名乗る黒猫が、私とコミュニケーションがとれようとも、驚きよりも疲労の方が勝ってしまっていて、相手が望むリアクションはとれそうにない。


『明日から大丈夫なのか? とにかくこっちでもあっちでも、課せられた任務が終了するまでは、常に俺と一緒だからな? ・・・聞いているのか? ちっ、寝てやがる』


ラギは呆れながらも座ったまま寝てしまった沙莉を寝かせ、布団を掛けてやると、沙那が戻ってきた。


「お待たせ。あら? あらら?」


驚き戸惑った沙那だったが、沙那も沙那で今日一日で充分に免疫がついていた。


スムーズにお互いに自己紹介をして、異世界の状況を確認した後は、家の中を案内し、ラギに軽食やデザートを振る舞い、家族にも紹介して和やかな時間を過ごした。


「沙莉は私の可愛い妹です。よろしくお願いしますね、ラギさん」


『ああ、わかったにゃ』


皆と別れ、沙莉の部屋に戻る。


寝ている沙莉はマヌケな顔をしている。口は半開きでヨダレがいつ垂れてもおかしくない状態でスタンバっている。すぅすぅと寝息をたてながら、たまにイビキも聞こえる。


沙莉よりも沙那が来てくれた方が簡単に終わりそうだなとラギは思った。

まだ目を覚まさない勇者よりも、聡志や悟に依頼した方がスムーズに終わりそうだなとラギは思った。


それでも主が指名したのは、沙莉なのだ。


俺は主が言った事に従うだけだと、己の思考はすぐに捨てた。ラギはベッドに飛び乗り、沙莉の布団に潜り込み、丸まり寝ることにした。





『っ! 痛っ! 蹴るな! あーもぅ、イビキもうるさい! 』



ねぇねぇ主? コイツで本当に大丈夫か?


ラギは再度不安な気持ちになるが、再度己の思考をどうにか捨てた。沙莉を睨みながら、それでも布団を掛け直してやり、自身に防御魔法をかけ、更に防音魔法もかけて寝ることに集中したのだった。






長くはならない予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ