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通いの聖女  作者: ぱんどーる


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今日はお父さんとお姉ちゃん、お姉ちゃんの旦那さんの聡志さん、それに弟の悟に私という五人でお母さんの墓参りに行ってきた。


車の快適さを知ってしまったら、もう電車で行くのがイヤになりそうだ。


「聡志君、今日は車を出してもらって悪いね」

「いえいえお義父さん、お気になさらずにーーああっ!!」

「うわっ! 危ない!!」


え? なになに? どうした?


そう思った時には、すごくイヤな音が近くで聞こえてきた。


「・・・事故?」

「ああ。ちょっと行ってくる。救急車を呼んでくれ」


お父さんが車から降りて現場に向かった。聡志さんは車を端に寄せハザードランプをつけた後、スマホを取り出して連絡をしてくれている。


「私もお父さんの所に行ってくる」

「俺も行く」


私が言うと、悟も続いた。


「やめなさい。きっと酷い状態よ」


妊娠中のお姉ちゃんがお腹をさすりながら止めるが、ドアを開けて降りながら


「ちょっとだけ。すぐ戻るから」

「俺もちょっとだけ」


「まったくもう。すぐに帰って来なさいよ? 」


「「 うん 」」


お父さんがいる方に走って行くと、車と人がぶつかったにしては、倒れている人がキレイな状態で違和感がある。


「父さん、聡志くんが救急車を呼んだよ」

「そうか、ありがとう」

「お父さん、この人は大丈夫そう?」

「・・・いや、不思議な事に外傷は見当たらないが、亡くなっている」

「え?」

「は?」


悟と2人で、お父さんの隣で観察してみる。

横たわっているこの人からは全く血が出ていないのに、近くに停めてある相手の車は破損し、運転手はケガをしているようだ。


不思議に思っていると、倒れている人が淡く光り始めた。


「「「 え? 」」」


驚いているうちに、私達も光りに包まれてしまった。


「沙莉! 悟!」


お父さんが慌てて私と悟をまとめて抱きしめる。

突然の不思議な出来事に、私はお父さんの腕を必死に掴みながら、目をぎゅっと閉じることしかできなかった。



***



「あらあら。どうしましょう、困ってしまったわ」


困ってなさそうな口調で、困ってると言っている声が聞こえてきた。ゆっくりと目を開けると、キラキラと光りを纏った綺麗なお姉さんが目の前にいた。


この真っ白で眩しい部屋はいったいどこなの?

目に悪すぎるわ。


「うふ。 私は女神なの」


とても柔らかそうで大きな胸をお持ちになった自称女神は、その胸が半分は露出しているドレスのスカートをつまみ、綺麗なお辞儀をした。


「あ、おっぱい出ちゃいそう」

「こら、悟。黙りなさい」


「うふふ。ここは貴方達からみたら異世界にあたる所よ」


「召喚!?」

「こら、沙莉。黙って話を聞きなさい」


「うふふ。その通りよ。事故に遭った男性を勇者として召喚したけど、貴方達も巻き込まれてしまったみたいなの。これもある意味事故ね。困ったわ」


さっきから全く困っているように見えないし、上手いこと言ったでしょ? 的な顔をしている自称女神だが、全然笑えない。


お父さんが、

「私達を今すぐ日本に帰らせてください」


自称女神は、

「サリさん? だったかしら。貴方だけはこちらに滞在してもらいたいのだけど、どうかしら?」


そこに私が、

「沙莉です、伊藤沙莉の沙莉! 私は伊藤じゃなくて佐藤で、さいりと読まずに、さりと読みます!」


ここで初めて本当に困った顔をした自称女神。


「うーん、ごめんなさい。わからないわ」


「こら、沙莉。落ちつきなさい。女神様、沙莉も一緒に帰らせてください。私と妻の大切な娘ですので」


「勇者が魔王を倒したら必ず日本に帰すわ。ダメかしら?」


首を傾げて、可愛らしく聞いてくる自称女神。


「魔王がいる世界なんて危険すぎます。娘は二十年間、平和な国で暮らしてきました。絶対にムリです」


「うーん、何か能力を付与すればいいかしら?」


「「 チート!? 」」


「こら、沙莉、悟。お前達は黙っていなさい。女神様、しばらくの間この2人を黙らせる事は可能ですか?」


「うふふ。お安い御用よ」と言っただけで、こちらに近づいて来たわけでもなく、手も動かさず、呪文を唱えた声も聞こえなかったのに、


なんと! 本当に声が出せない!


悟も驚いた顔をして自分の喉を押さえている。

自称女神じゃなくて、もしかして本当に女神様なの?


「ありがとうございます。なぜ私や悟ではなく、沙莉がいいのですか?」


「うふふ。聖女も召喚したわ!っていう方がいいと思わない? 癒し系の魔法を使えるようにするわ。あと、防御系も使えるようにしちゃいましょうか」


魔法を使えるなんて楽しそう! ・・・だけど、一人で生活するなんてムリだし、寂しいからイヤだな。


私の顔を見ていたお父さんは、

「沙莉は、姉の沙那と違って掃除も料理も苦手です。魔法が使えるようになっても、生活能力のない娘では生きていけません。どうか諦めてください。お願いします」


何度も頭を下げるお父さん。

っていうか、私ってそんなダメ人間?


「もう、頑固なお父様ね。でも娘を思う気持ちはとても素敵ね。うーん。なら、夜はそちらに帰すというのはどうかしら? 昼間はこちらで人々の病気を治してもらいたいの」


「病気?」


あちゃー、それ禁止ワードよ!

お父さんの目がきらりと光ったわ。


うちのお父さんは病院を経営しながら、医師としてはほぼ働かず、病院の地下につくった研究所にこもり続けているような人だ。従業員達に「モグラ医院長」と言われているらしい。聡志さんはうちに勤めている医師でお姉ちゃんは看護師。弟の悟も一応医師を目指している。


ん? 私? 私は才能ナシね。医師を目指してるけど、今年もダメで現在三浪中よ。

うん、きっとほんわかしたお母さんに似たのよ。


病気について女神様とお父さんが話し合いを始めてしまった。あーなったお父さんは止まらない。これは長くなりそうだと思っていると、何もなかった部屋なのに、突然テーブルと椅子が出て、テーブルの上には美味しそうなお菓子と飲み物が用意されている。


女神様に目を向けると、ふわりと微笑んでからウインクをした。食べてOKと言っているととらえ、悟と一緒に堪能していると、いつの間にか喉も元通りに戻った。


悟と楽しんでいるとお父さんが、

「沙莉、九時から十八時まで異世界に通いなさい。私が薬を作る。勇者が魔王倒さずとも、流行病を治療すれば役目は終わりにしてくれるそうだ。異世界に渡る人間は制限があり一人しかダメで、私達が一緒に異世界に行く事はどうしてもムリらしい。だから沙莉が現地に行って、病に倒れている人々の症状を教えてくれ」


「俺じゃダメ? 沙莉じゃ不安すぎる。沙那姉ちゃんなら上手く立ち回りそうだけど」


五つも年下の弟に不安と思われるなんて、なんて可哀相な私。


「沙那は妊娠中だし、聡志君がいるじゃないか。それに沙莉よりも悟の方が医師になれる可能性が高い。悟は日本で励みなさい」


「えー。・・・わかったよ」


嘆きたいのはこっちよ! 親に可能性なしと判断されるし、彼氏がいないこともバレてるわ! しかも家事もダメダメだとちょっと前にはっきり言われたわ!


その後も当事者の私とではなく、女神様とお父さんでどんどん話を詰めていって、私と悟はお菓子を食べてのんびりと過ごしている。


きっと結果は変わらないのだろう。


現在三浪中で、生活能力もなく、彼氏もいない、家族で一番ポンコツな私が、本当に異世界に通うことになりそうだ。














のんびり更新になる予定です。


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