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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第99曲 実はこれが前例になってしまったりして

 あの後、琴音ちゃんはしばらく姿を現すことはなかった。


 連行されたのがショックだったのか、仕事が忙しいからなのかは知らない。両方のような気もする。



 そして間もなく生徒会長選挙の開催。


 今年も対抗馬が不在で、わたしの演説に対する生徒たちの熱狂的な拍手により信任投票もなしで会長職就任。いいのかなぁ。


 意外だったのは副会長に文香が立候補したことだろう。


 普段は引っ込み思案な文香が立候補のような目立つ行動をとるとは思ってもみなかった。


「どうせならすぐそばでゆきちゃんを支えてあげたいからね」


 そのセリフになぜだか照れてしまった。


 もうひとつ意表を突かれたのが、文香と投票数で争ったのがあの「昭和アニメ先輩」富樫先輩だったこと。


 いつのまにやら服装も頭髪も普通になっていて、メガネまでかけていたので最初は誰だか分からなかった。名前を聞いてびっくり。そのメガネ、絶対伊達だろ。


 だけど、やっぱり去年わたしと一緒に生徒会を盛り上げた実績のある文香が票数を争ったとはいえけっこうな大差をつけての当選。


 よかった。あんなのと生徒会室で一緒に過ごすなんて考えただけでゾッとする。


 文香よ、立候補してくれてありがとう。


 そして書記には庶務をやっていた穂香が就任。


 そして会計には……。泣いて頼むもんだから仕方なく。本当に仕方なく御手洗薫先輩を起用。


 今年で一緒にいられるのも最後だからと泣かれては無下にもできない。そのまま風紀委員長でよかったのに……。


 そして庶務には鬼嶋健司(おにしまけんじ)先輩を登用した。わたしが会長職についてすぐにいわゆるイジメ問題で被害者だった先輩だ。


 あれからたまに稽古をつけてあげるようになって、今ではすっかり意気投合していたのでわたしの依頼に対して二つ返事で了承してくれた。


 これで今年度の生徒会の体制が整った。



 そしてわたしの16歳の誕生日を盛大に祝ってもらい、2か月もしないうちに迎えるのは卒業式。


 わたしと離れたくないと言って駄々をこねるかの姉。2年前に同じような光景を見たなぁ。さすが血を分けた姉妹。


 隣に立つあか姉の方を見るとそっぽを向いてしまった。わたしの考えてることがわかったみたいだね。


 かの姉は号泣したまま式が始まる寸前まで離してくれなかったけど、さすがにサボるわけにもいかず意気消沈したまま教室へと向かう。大丈夫かな。


 そして式が厳かに始まり、粛々と進行していく。やがて在校生から卒業生に向けての送辞となり、当然ながら生徒会長であるわたしが読むことに。


 静かに歩き壇上へと向かう。静まり返った講堂に突如響く声。


「ゆきちゃ~~~ん!」


 かの姉、うるさい。もはやヤジられてる気分だよ。


 ほら、保護者席からも笑いが起こってる。あ、先生に注意されてら。そりゃそうだよ。


 原稿を広げ、マイクを前に気持ちを込めて読み上げていく。


 何も知らず入学してきて、いきなり生徒会長に立候補するなどという暴挙に反発することなく支持をしてくれた心の広い先輩方。


 かの姉からいろいろと噂を聞いていたにしろ、ぽっと出でいきなり生徒会長なんて生意気な奴だと思われてもおかしくなかったと思う。それでも所信表明演説の後に講堂を揺るがすほどの拍手喝さいをくれたことがつい昨日のことのように思い出される。


 そして高校で右も左も分からない状態で就任した会長という重責を背負ったわたしの依頼に対して、嫌な顔ひとつせずサポートしてくれた3人の先輩たち。


 体育祭でも文化祭でも、積極的に協力してくれた先輩方は数知れない。風紀委員の3年生にもお世話になった。


 そして田渕先輩との『お昼休みはウキウキリスニング』は変わらず好評で、次の委員長である伊山登(いやまのぼる)君が引き継いで続けていくことが決定している。たくさんの思い出を振り返りながら滔々と読み上げていく送辞の言葉。


 そのうち、こんな紙に書かれた言葉を読み上げていくだけでは物足りなくなってきた。ただ文字を読むだけでなく、自分自身の言葉で伝えたい。


 思い立ったら即行動がわたしの信条。というか悪癖?


『とまぁ、ここまでは型通りの文章を淡々と読み上げてきましたが、先輩方がわたしに期待するのはこんな紋切り型のあいさつなんかじゃないですよね!』


 その宣言とともにわたしはそれまで読み上げてきた原稿をビリビリに破り捨てた。


 待ってましたとばかりに響き渡る拍手と歓声。


「さすがゆき会長!」「このまま終わるなんてらしくないと思ってたぞ!」「わたし達だけの卒業式を!」


 やっぱりみんな待ってくれていたんだね。


 先輩方の後押しを受けて自信をつけたわたしは声を大にして語りだす。


『先輩方! いえ、家族のような時間を一緒に過ごしてきたみなさんにはここであえて言わせてもらいます! お兄ちゃん、お姉ちゃんたち!』


 その言葉に嬌声があがる。喜んでくれているみたいだ。よかった。


『わたしはたったの1年しか一緒にいられなかったけど、それでも楽しかった! みんなは楽しんでくれたかなー!』


 またしても湧き上がる歓声。「もちろんー!」「ゆき会長のおかげだよー!」「楽しかったぜー!」といった言葉も聞こえてくる。


『思春期を終えて、大人になっていくお兄ちゃん、お姉ちゃんたち。

 だけど、この学校で過ごしたたった3年という短い期間の中で奇跡的な確率で出会った仲間たち、そしてたくさんの思い出はみんなにとって紛れもない宝物だと思うから!

 いつまでもこの輝きを忘れないで! 

 一生懸命に命を燃やしてきらめいたこの青春という期間をただの思い出としてじゃなく、これからの人生の糧にしてさらに輝き続けていって!

 たった1年だったけど、わたしという風変わりな生徒会長と一緒に作り上げてきたいろんな行事。

 とんでもない恰好をさせられた体育祭。恥ずかしかったけど、気持ちを込めて作ってくれたドレスは嬉しかったよ!

 応援合戦でくれた声援、そしてみんなの息の合ったダンスや騎馬戦で見せてくれたかっこいい姿は決して忘れない!

 そして例年にないほどたくさんの来場者であふれかえった文化祭。

 みんなの情熱を込めた催し物はどれも素晴らしくて、ひとつも欠かさず見れたことは本当に嬉しかった。

 生徒会の見回りの途中だったからゆっくりできなかったのはごめんね!』


「いいよいいよー!」「来てくれただけで嬉しかったよ!」「ゆき会長の演劇もすげーよかったよー!」


 ここであの劇のことを持ち出されるとは。あか姉との共演。誇らしいけど役に入り込みすぎて思い出すとちょっと恥ずかしいんだよね。


『演劇だって先輩後輩関係なくみんなで作り上げたもの。関わった人も観ていた人もみんなの心に残るようなものにできていたなら嬉しいな!

 あの劇でわたしは主役の片方を演じたけど、これからの人生の主役はみんな自身だからね!

 わたしと同じように、ただ演じるんじゃなくて精いっぱい楽しんでほしい!

 楽しむことができればそれだけで大丈夫! 辛いことや苦しいこともこれからの人生にはたくさん待っていると思う。

 だけどしんどい時にはこの学園で過ごしたことを思い出して!

 何にでも楽しんで精いっぱい頑張っていたことを思い返して!

 そうやっていろんなことを乗り越えて人生を楽しむことができれば、それだけで豊かな人生を歩めると思うから。

 立ち止まっても、つまづいても、道に迷っても! 決して前に進むことだけは忘れないで。

 進めば必ずどこかにはたどり着ける。でも止まってしまったらその場から動くことなんてできないよ。

 前だけを見てがむしゃらに進み続けた青春時代を胸に刻んで、みんなの人生が実りあるものになることを祈っているよ!

 わたしはいつでもネットの向こう側にいるから。挫けそうな時はわたしの動画でも見て今の情熱を思い出してね!』


 ちゃっかり自分の宣伝も忘れないことに笑い声が起きる。


 そう、わたしはいつまでもみんなを見守っている。


 たとえわたし自身がいなくなろうとも、ネットに残されたわたしの姿は消えることなく残り続けるだろう。


 それを見て励まされる人がいるならそんなに嬉しいことはない。


 そろそろ時間も押してきた。わたしの締めくくりはやっぱりひとつしかないよね!


 本当は後半に唄うはずだった曲を告げる。


『それでは最後にわたしの歌声で送辞の言葉とさせてもらうよ! ちょっと予定が早まったけど放送委員の皆さんお願いねー!』


 田渕先輩からいろいろ聞いていたであろう伊山君はこうなることも予想していたのかもしれない。


 突然の展開に教師たちも驚く中、慌てることなく音源を準備してスムーズに曲が流れ始めた。


 彼とは今後もいい関係が築いて行けそうだね。


 そして卒業生に送った歌は『シャイニング・スター』


 見えなくたって、誰に知られることもなくたって、そばにいる人から見ればそれぞれが力強く命を燃やし続ける一等星なんだ。


 ライブ会場さながら、わたしが唄う時にはみんな総立ち。もはや恒例となる姿に教師や保護者たちも呆れながらも温かく見守ってくれている。


 この温かい空気がいつまでもみんなを包み込んでくれるように願いながら。


 情熱を込めた歌声に卒業生はみんな泣き笑い。そこに込められた想いは人それぞれだけど、どれひとつとっても尊いもの。


 どうかここで過ごした時間がみんなにとって実りあるものとなりますように。



「ゆきちゃん、ありがとう~!」


 式が終わって外に出るなり飛びついてきたかの姉。待ち構えていたのかってくらい見つかるの早かったな。


 他にも卒業生の方々が群がってきた。かの姉はくっついたまま離れない。


 でもそんなこと誰も気にせず話しかけてくる。もうすっかり見慣れちゃったんだね。


「ゆき会長のおかげで忘れられない卒業式になったよ」


 谷村先輩がまず声をかけてきた。


「こちらこそ、1年間副会長として支えてくださってありがとうございました。先輩方の未来が光り輝くように祈っていますよ」


 寂しそうな顔をする谷村先輩。


「そんな顔しなくてもまだあと2年はわたしもこの学園にいますから。またいつでも遊びに来てくださいね」


 笑顔を見せてくれたものの、まだ寂しそうな色はぬぐえない。この人こんなに感傷的なキャラだったっけ。


「いや、最後に心残りがひとつできてしまってな。お願いがあるんだが」


 心残りができた? あったじゃなくて? お願いって何だろう。


「最後にもう一回『お兄ちゃん』と呼んでくれないだろうか!」


 言った瞬間に周囲の先輩方からボコられる谷村先輩。わたしも混じっていいかな。人の心遣いを返せ。


「そんなの俺も言ってほしいわ!」「わたしだってあの時震えたんだから!」


 口々に出てくる文句はそんなのばっか。


 結局みんな同じ穴のムジナじゃないか。まったく、仕方ないなぁ。


「いつまでも元気でいてね! お兄ちゃん、お姉ちゃん!」

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