第98曲 共同戦線、さっそく発動
「ってなわけで今日から生徒会業務を手伝ってくれるようになった石川穂香さんです。いろいろ教えてあげてくださいね」
さっそくその日の放課後、他の生徒会役員に穂香を紹介。
「雑用だけでも手伝ってもらえるのは助かるけど、今年の任期はもうすぐ終わりだぞ」
谷村先輩の言うとおり、間もなく次期の生徒会長と副会長を選出されるための選挙がある。
「次期もわたし立候補するつもりなんで。運よく当選したら続行して手伝ってもらうつもりです。引継ぎを早めにできると思えばお得でしょ。まぁ落選したら目も当てられないんだけど」
「ゆき会長が落選するビジョンが見えないな。まぁそういうことならこちらとしては文句もない。それじゃ、さっそく仕事を覚えてもらうことになるんだけど、庶務同士ということで文香さんにお任せしていいのかな?」
「はい、お任せください! それじゃ、穂香。まずは資料整理するから資料室に行こうか」
2人連れ立って生徒会室を出ていってしまった。資料室は上の階にあるからだ。
「それで、昨日から大騒ぎになってる岸川琴音のことと何か関係があるんですの?」
2人がいなくなった途端、佳乃先輩が尋ねてきた。
そうだよね、時期的におかしいしタイミングが良すぎるよねぇ。
「あはは、やっぱりわかっちゃいますか。2人が言うにはわたしがいつ襲われても守れるように下校まで一緒にいてくれるということらしくて」
ボディーガードが必要ってわけでもないんだけどね。2人が何からわたしを守るつもりなのか、よく分からない。
「そういうことですか。愛されてますわね、ゆき会長」
上品に笑う佳乃先輩。
友人として大切にされてるなって思う。
「えぇ、本当にいい友人関係に恵まれました」
思ったことを言っただけなのに、なぜか呆れ顔の先輩方。
「こんなのを相手にしたらあの2人も大変だろうなぁ」
こんなのってわたしのこと? どういう意味かな、睦美先輩。
「ゆき会長にとっては恵まれていても、あの2人にとってはとんだ災難ですわねぇ」
災難って。ひどい言い草だ。
「くっ。目から鼻水が……」
谷村先輩、本当に目から鼻水出させてあげますよ?
なんかみんな好き勝手言ってくれてるなぁ。
「もっと好意に気づいてあげてもいいんじゃないの?」
「言われなくてもちゃんと分かってますよ。人の厚意は素直に受け取りなさいってお母さんから教わりましたから」
……。
なんでしょうか、この沈黙は。
「くぅぅ! 鼻水が止まらん!」
本当に止まらなくしてやろーか。
「前途多難とはまさにこのことですわね、はぁ」
ため息つかれちゃった。わたしはこんなに素直なのに。理不尽だ。
「あははは! まぁそこがゆき会長の魅力でもあるんだけどね。いつまでも変わらずそのままでいて欲しいね」
皮肉なのか本気なのか。でもいつまでも……か。わたしもそうありたいものだ。
ちょうどその時に2人が帰ってきた。
号泣している谷村先輩を見てぎょっとする2人。そりゃそうだろう。
「一体何の話をしてたんですか?」
当然の疑問を口にする文香。にしても谷村先輩はいつまで泣いてんだ。
「ちょうどお2人のお話をしていたところですのよ。とんでもない人に好意を寄せてしまったものですね」
だからちゃんと厚意は受け取ってるって言ってるのに……。
「分かってくれますか! 佳乃先輩ー!」
すがりつく穂香。やさしく穂香を慰める佳乃先輩。
そしてさらにハンカチを濡らす谷村先輩。違う意味で泣かせてやりたくなってきた。
なんなんだ、初日にしてこの結束感。わたしひとりをのけ者にして。
もういいもんね。さっさと仕事を片付けてしまおうっと。
「もう、いつまで拗ねてるの? ゆきちゃんってば」
帰り道、文香に声をかけられたわたしはむくれ顔。
拗ねてなんていません! ただ面白くないだけですぅ。
「そういうとこは子供っぽいよねぇ」
穂香、うるさい。
そして校庭を通り過ぎて校門に差し掛かるころ、ソレは草むらの中から飛び出してきた。
「ゆきちゃ~ん! 会いたかったよぉ!」
あぁ、その声は琴音ちゃんか。そんな草むらの中で何やってたの。スタジオ前の時といい、不審者ムーブの好きな人だね。
だけど、わたしに飛びつこうとした琴音ちゃんの目論見は儚くも砕け散った。
阿吽の呼吸でわたしの前に並び守備体勢に入る文香と穂香。おぉ、金剛力士像……。
ほぼ飛んできていた琴音ちゃんは2人にがっちりとキャッチされ、そのまま両腕を2人につかまれ拘束される。
あの勢いで飛んで来たら間違いなくまたわたしが「ぐえ」ってなるやつじゃん。ありがとう、2人とも。
「な、何するの? わたしをゆきちゃんの元に行かせてぇ!」
なんとかもがいて引きはがそうとする琴音ちゃんだけど、しっかりと腕をつかんだ2人はびくともしない。意外と力強い?
「岸川琴音さんですよね? こんな公衆の面前でゆきちゃんに抱き着いたりしたら誰に見られるか分かったもんじゃないでしょう。またスキャンダルになって大騒ぎになったらどうするんですか」
「そんなのもうお嫁さん宣言もしたから関係ないもん! ヤダヤダ離してぇ!」
ジタバタする琴音ちゃん。この人4つ上だから今年でもう成人してるはずだよね。
「はいはい、大人しくしてくださーい。これ以上ゆきに迷惑をかけるのは友人として見過ごせませんよー」
穂香にも諭される琴音ちゃん。もうどっちが年上なんだか分かんなくなってきたな。
「あなたたち誰? 天使のゆきちゃんを守護するために遣わされた仁王様?」
天使じゃなくて精霊だっての。それよりいきなり仁王様って失礼じゃね? わたしも一瞬思ったけどさ。
「誰が金剛力士ですか。とにかく公共の場でゆきちゃんにくっつくのは禁止です」
自覚あったんかい。それにしてもわたしを守るっていうのはこういうことだったのね。
さすがに琴音ちゃんを投げ飛ばすわけにもいかなかったし、確かに助かった。
それにしてもこんなとこまで出没するなんて、琴音ちゃん仕事は?
「せっかく仕事の合間を縫ってゆきちゃんに会いに来たのにそれはあんまりだぁ~」
仕事の合間って。琴音ちゃんくらい忙しい身になると本当に合間なんだろうな。
「なんで草むらに隠れてたの?」
素朴な疑問。
「そりゃ、いくら変装してるとはいえ校門前で待ってたらどうしても目立っちゃうからね。ちゃんとゆきちゃんに迷惑かからないように配慮したのはえらいでしょ?」
ほめてほめての表情。尻尾をブンブン振ってるのが見える。
「本当にゆきの前ではイメージが全然違いますね。テレビではクールキャラなのに……」
「ゆきちゃんの前でだけは素直なわたしでいたいんだもん!」
わたしの前だけって……今まさに歌姫のイメージがガラガラと音を立てて崩れている人が目の前に2人もいますが。
「ゆきちゃんの友人なら大丈夫だよ! ゆきちゃんが選んだお友達なら間違いないもん! それにただのクラスメートでしょ?」
ピキッ。
2人の空気が凍り付いた音を聞いた気がした。
「さ、このまま連行しようか」
「そうだね」
両脇を抱えられてそのまま持ち上げられる琴音ちゃん。囚われの宇宙人みてー。
「ちゃんと自分で歩けるから下ろして~」
琴音ちゃんの懇願に仕方なくといった顔で下ろしてあげる2人。でもわたしの両脇をがっちりガードして琴音ちゃんの入る隙がない。
わたしの前に回ったり、後ろから話しかけてきたりと忙しない琴音ちゃん。ほんとにワンコみたいだな。
そして駅へと続く分かれ道。文香と穂香は電車通学なのでここでお別れだ。わたしの家もすぐそこだし。
「それじゃ~わたしはこのままゆきちゃんの家に……」
そう言った瞬間に再びがっちりとホールドされる琴音ちゃん。
あぁ。このまま連行されるのね。
少し可哀想かなとも思ったけど、仕事の合間って言ってたしな。
「岸川さんはお仕事でしょう。このまま一緒に駅まで行きますよ」
2人に問答無用で引きずられていく琴音ちゃん。
「なんだかマネージャーみたいなこと言ってる! 助けてゆきちゃ~ん!」
黙って手を振るわたし。連れ去られてしまう琴音ちゃん。
わたしの脳内で再生される物悲しいメロディー。
ドナドナドーナードーナー。




