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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第91曲 より姉の憂鬱

「なんにもねーよ」


 うん知ってた。より姉ならそう答えるよね。


 文化祭が終わったその夜に何かあったのかと聞いてみたけど返ってきたのは不機嫌そうな答え。


 あれだけ来たがってた文化祭に来なかったのもそうだし、今の態度を見ても何かあるってバレバレなんだけどなぁ。


 家族に心配かけまいとする気持ちは分かるけどね。


 そんなとこだけ姉弟で似なくてもいいのに。


 ここは作戦変更をするしかないだろう。


 幸い明日と明後日は文化祭の振り替え休日。


 名付けて『より姉の秘密大暴露作戦』発動だ!



 翌日、より姉が学校に出かけるのを見送った後、すぐに計画を実行する。昨日から用意してあった服にささっと着替えてより姉の後を追うために家を出た。


 わたしの変装も完璧。キャップをかぶって伊達メガネをかけただけだけど、変に凝った変装をするよりはいつもと違った印象にするだけで意外と人は気づかないものらしい。こないだ読んだ推理小説に書いてあった。


 駅までの道のりをつかず離れず、気配を殺して尾行する。格闘技の経験も生きているため、気配を殺すのは得意だ。時代が時代なら忍者になっていたかも。


 得意の尾行術で追いかけていると、何人かの人と挨拶を交わしていた。


 わたしの知っている人もいれば知らない人もいる。まだ家の近所なのにより姉にはより姉の人脈があるんだな。当然と言えば当然なんだけど。


 そして何事もなく駅に到着。より姉は定期があるから改札をすんなり通るけど、こっちにはこっちでスイイカがある。いつどこにでも行けるように持っていてよかった。


 わたしもスイイカをタッチして改札を通過。


 さすがに同じ車両に乗るわけにはいかないので、隣の車両に乗り連結部分の窓からより姉の様子を伺う。


 痴漢でもされているようなら即ぶっ飛ばしてやるところだけど、そんな様子もなく静かに本を読んでいる。デザインに関する本だろうか。


 最近、より姉はさらにデザインの勉強に力を入れていて、自分でデザインした服を何着か作成しているようだ。


 164㎝とそれなりに身長もある上に細身の体でありながら出るところはちゃんと出ている女性らしいスタイル。そのうえ美人。


 吊革につかまりながらもその姿勢は真っすぐでキレイであり、切れ長の目で真剣に本を読む姿はどこかかっこいい。


 わたしのことばかり美人だとか言うけど、姉妹みんな美人ぞろいでより姉だって周囲の男の視線を十分に集める器量の持ち主だ。


 実際に周りの男どもを見るとチラチラとより姉の方を伺うような視線を送っている。


 なんだかモヤモヤするけど、これはきっとより姉に危険が迫っているような気がするからだろう。


 もしより姉に危害を加えるような輩が現れたら容赦はしない。わたしの大切な4人の天使様たち。絶対にわたしが守るって決めてるんだ。


 やがて目的地の駅に到着し歩くこと数分、それらしい建物が見えてきた。より姉がそこの門をくぐり入っていく。このままでは見失ってしまうと思い急いで追いかけた。そして校門をくぐったところで……。


「こんなところで何やってんだ」


 ふいに後ろから声をかけられて肩が跳ねた。あれぇ? なんで後ろから……。


 恐る恐る振り返ると校門の横の壁にもたれているより姉の姿。腕組みをしてわたしのことをじっと見ている。


「あ、いや、ちょっと道を間違えたかな?」


 まだわたしとはバレていないはず! ここは何事もなかったように距離を取ろう。


「最初っからバレバレなんだが? ゆき」


 なんだってぇ! この完璧な変装を見抜くとは! まさかより姉には名探偵の素質が!?


「なんでわたしだってわかったの?」


「いや、逆になんでその恰好で誤魔化せると思ったのか聞きてーよ」


 そんな! 著名な名探偵が木を隠すなら森の中、目立たない格好をするのが一番だと言っていたのに!


 ショックを受けているとより姉が呆れたようにため息をついた。


「ゆきって時々賢いのかバカなのか分かんねーときあるよな」


 そこまで!?


「おまえはもう少し自分がどれだけ目立つかを自覚した方がいいぞ。メガネと帽子程度で隠せるわけねーだろ」


 くそー全然使えないじゃないか、あのヘボ探偵め。


 こーなっては変装してる意味もないのでメガネを外す。少しだけ視界が歪んで気持ち悪かったんだよね、これ。


「で?なんであたしのことつけ回すんだ?」


 まだ聞いてくるか。分かってるくせに往生際が悪いなぁ。ってそれはわたしもか。


「より姉がちゃんと白状しないからでしょ」


 そう言うとばつの悪そうな顔になった。ほらやっぱりなんか隠してるんじゃない。


 しばらく頭をかいたりして言いにくそうにしていたより姉だけど、やがて観念したかのように話し出した。


「お前に言うと絶対心配するし、やりすぎたりしないか心配だったんだよ」


 わたしがやりすぎる? 何を?


「実は最近変な奴につきまとわれてるんだけどさ……」


 そこで言葉を区切る。続きは?


「だけど? なーに?」


 ここまで来たら逃がさないよ。ちゃんと全部白状しなさい。


「実はそいつ高校から同じ学校に通ってるやつなんだけどさ。以前から……ゆきの……ファンらしくってな……」


 ん? わたしのファンがなんでより姉を追いかけまわしてるの?


 わたしが分からないという顔をしていると、補足説明をしてくれて全てが分かってしまった。


「ほら、以前にゆきが風邪ひいてるのに無理して配信したときあったろ?」


 ああぁぁぁ! あの時に顔バレしたせいか!


 それじゃ、ほとんどわたしの責任じゃん……。


 衝撃の事実にシュンとしていると、やれやれと言った様子のより姉。


「ほらな。そうやって気にするだろうから言いたくなかったんだよ。どうもあの時にわたしに一目惚れしたってことらしいんだけど、付きまとわれてるだけでこれといった実害もねーしな」


 その言葉でわたしの中の何かに火がついた。


「甘い! 甘いよ、より姉! 今は良くてもこれから先なにが起きるか分からないよ!? 今日にでもそいつを捕まえてガツンと言ってやらないと!」


「ガツンとって言われてもなぁ。ちゃんと断ってるっつーの」


 口は悪いけど根は優しいより姉のことだ。断るにしてもそんなに強くは言ってないに違いない。


 そういうしつこい男ってのは諦めないことが愛の深さだって勘違いしてるやつも多いんだよ。


 そういうのはあくまでも相手が迷惑にならない程度にやるべきであって、こんな困った顔をさせるべきじゃない。


「まったく、より姉らしいっちゃらしいけど。ここはわたしに任せておいて!」


「えー」


 なにその顔。わたしでは何か不満でも?


「ゆきに任せるとぶん投げたりちぎったり丸めたりしねーか?」


 ちぎったり丸めたりしたことないよ!? いったいわたしを何だと思ってるのかな?


 まぁ投げるのはたまにやったことあるけどさ……。


「大丈夫! あくまで穏便に話をするだけだから! 最初は。」


「最初はってなんだよ! つまり相手次第ってことじゃーか!」


「大丈夫! 怪我はさせないから!」


「投げる気満々じゃねーか!」


 わたしだって暴力は嫌いだから大人しく言うことを聞いてくれたら投げたりなんてしないよ。


 でも大切な人を守るためなら手段を選ばないってのも事実。


 わたしの天使様を傷つけることは誰であれ許さない。



 そのストーカー(勝手に決定)が声をかけてくるのはいつもお昼休みか講義が終わった後だというので、それまでは学内にある食堂で待たせてもらうことにした。


 ちゃんとメガネと帽子は装着してある。なんか遠巻きにヒソヒソ話をされているような気もするけどきっと気のせいだろう。


 待ってるだけってのも暇なのでSNSに『お姉ちゃんの専門学校に潜伏なう』って打ち込んでみた。


 途端にざわつく周囲。


 あれ? ひょっとしてやっちゃった?


 めっちゃ視線感じる……。


 この完璧な変装を見破れるのは親しい間柄の人だけだと思ってたんだけど……。


「やっぱりそうだよ」「お前声かけて来いよ」「やっぱりかわいい~」


 なんて声がちらほら聞こえてくる。そう言えばより姉がわたしの姉だってバレてたんだった。


 あーもう! わたしのアホ!


 これでストーカー男が逃げちゃったらどうすんの!


 頭を抱えていたら講義終了のチャイムが鳴りだした。


 すぐにより姉が来てくれるはず。あ! でもここにより姉が来たら余計にわたしがYUKIだってバレちゃう!


 どうしようかとアワアワしてたら遠くから誰かが走る音が聞こえてきた。


 より姉がSNS見て駆けつけてきてくれたのかな? でも足音がひとり分じゃない。


「待てコラー!」


「ゆきちゃーん!」


 なになに? 何事!? なんかわたしの名前読んでる?


 2人の男女が走ってくるのが見えた。前を走る男は知らない人。後ろにいるのは……より姉?

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