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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第88曲 舞台デビュー

 クラスでの招き猫業務も終わり、交代で再度見回りをしていたらもう演劇部の出番が回ってきた。


 風紀委員に見回りの引継ぎを済ませてわたし達生徒会は体育館へ移動。


 演劇部の部員はすでに揃っているようだ。高坂部長が出迎えてくれた。


「今日は本当にありがとう!控室で着替えて準備してもらうからさっそく入ってもらっていいかな?」


 今日はノーマルなしゃべり方だな。緊張してる?


 舞台の左右で男女を分けた控室になっているので、当然わたしは男性側の控室に向かおうとしたら呼び止められた。


「ゆき会長はこっち」


 え、そっちって女子控室の方じゃ……。


「いやいや高坂先輩? わたし男! そっちはマズイでしょ!」


 それでも気にせずぐいぐいわたしの手を引いていく。


「もうみんな着替え終わってるから大丈夫! それに会長の着替えるスペース作ったから」


 半ば無理やり連れ込まれた女子控室の中。


 高坂先輩の言うとおりカーテンで仕切られた一角が用意されていて、わたしはそこで着替えることになっているらしい。


 でもなんで?


「男子のほうでもよかったんじゃ……」


「そうやってうちの部員をその色香で惑わせようと言うのか!」


 あ、なんか役に入っちゃったみたい。


 色香って……。


 確かに男子の前で着替えるのは恥ずかしい。体育の授業でもわたしだけ生徒会室を更衣室代わりにしてるし。


 だけどこうやってスペースを用意してくれるのなら男子控室の方がよかったんじゃ……。


「美女が薄布一枚隔てただけで生着替え。聞こえる衣擦れの音。それが思春期男子をどれだけ惑わすか、分からぬとは言わせない!」


 男の生着替えで惑うなと言いたい。言うだけ無駄だけど。


「それにゆき会長にはメイクをする必要もありますのでな」


 なんか学者っぽくなった。


 ってちょっと待て。メイクって?


「あら、なんですのその顔。レディたるものメイクは(たしな)みですわよ」


 出たな侯爵夫人。


 化粧するとか聞いてないんだけど。


「あのー生まれてこのかた、化粧なんてしたことないんですけど」


「そこはお任せあれ! ゆき会長の美しさをさらに引き立ててみせましょう!」


 なんだ、何かの司会者か? もういちいち何の役か考えるのもめんどくさくなってきた。


 そして化粧は高坂先輩がやってくれるのね。……不安だ。


「さ、時間も迫ってまいりました! 疾く、疾く御着替えあれ!」


 はいはい。言われた通り早く着替えをすまそうと仕切りのカーテンをめくるとそこに衣装がかけてあった。


 うわぁ、キレイ……。


 ヴィクトリアン朝時代の設定なのでドレスの幅が広く、色は淡い水色。装飾が少ない代わりに精巧な作りの花飾りがついていてシンプルながらも華やか。


 これを着て舞台に立つのか……。


 衣装にすっかり惚れこんでしまったわたしはすっかり楽しい気分になって着替え始めた。


 そして制服を脱ぎ終えたころ。


「ゆき、大丈夫?」


 カーテンを開けて入ってきたのはあか姉。


「……」


「…………」


 すかさず背中を向けたものの、じっと凝視してくるあか姉。いや、なんか言って?


「あの、あか姉? わたし見ての通り着替え中……」


「ん、知ってる。手伝いに来た」


 覗きに来た、じゃなくて?


 あか姉はすっかり準備を終えていて、黒を基調に赤いバラが刺繍されたなんとも大人びたドレス。


 そして端正な顔に施された化粧は白い肌に赤のルージュが強い印象を与え、なんともいえない妖艶さを醸し出している。


 その普段とはかけ離れた容姿に思わず見とれているとおもむろにあか姉が近づいてきた。


「キレイな肌……」


 そう言ってわたしの二の腕をなでるあか姉。ちょ!


 なんだか目つきも怪しいし、ひょっとしてもう『カーミラ』になりきってる!?


 いっぱい練習してたもんね、あか姉。ってそんなこと考えてるうちにさらに近づいてきて抱き着かんばかりの体勢に思わず後ずさってしまう。


 壁際に追いつめられると顔の横に手が置かれた。壁ドン!? なんでそんな男前になってるの!


「どど、どうしたの、あか姉?」


「ゆき、キレイ」


 だんだん顔を近づけてくる。うそ……。


 思わず目を閉じてしまった。なにやってんだわたし!?


 ゆっくりとあか姉の吐息が近づいてくるのを感じる……。


 

「ゆき会長~! もう着替え終わった?」


 突然高坂先輩から声をかけられて2人とも体が跳ねるほどビックリした。


 すかさず距離を取って何事もなかった体を装うものの、2人とも顔が赤いのは誤魔化せない。


 わたしも半裸状態だし、さすがにここに入ってこられるのはマズイ。


「ちょっとドレスを着るのに手間取ってるだけで大丈夫です! 姉にも手伝ってもらってるのでもう終わりますよ!」


「あら、茜さんもいるの? ほんと仲いいね、君たちは」


 半ば呆れ、半ば微笑ましいと言った声で返答する高坂先輩。納得したのか、離れていく気配。


 ふぅ……。


「時間もないし、早くドレス着ないとね!」


「手伝う」


 言葉を交わしたもののお互い顔が赤い。何をしようとしていたんだ、わたし達は。あのまま声をかけられなかったら……。


 いそいそとドレスを着ながらそんなことを考えていると体まで熱くなってきた。なんだこの感覚。


 今まで感じたことのない感情に戸惑いながらも着替えを済ませた。ドキドキと高鳴る鼓動がどこか心地いい……。


 着替えスペースから出ると高坂先輩が待ちかねたように声をかけてきた。


「さすがゆき会長! よくお似合いですぞ! それではさらに完璧を期すためにもささ、こちらへ」


 どうやら化粧をするであろう場所もカーテンで仕切られていて他の人からは見えないようになっている。


 出来上がってからのお楽しみということかな?


 椅子に座ることを促されたので言うとおりにするとたくさんのメイク道具を取り出す先輩。


 うわぁ。あんなに種類があるんだ。けっこう複雑そうな作業だ。


 女の子ってすごいな。こんなこと毎日のようにやってるんだもんなぁ。


 感心していると化粧の下地からということで乳液を塗り込まれた。顔がムニムニされて変な気分。


「うわ。なにこのきめ細かい肌。羨ましすぎる。本当に男なの?」


 いや、そんな疑問を今更言われても。化粧が始まった途端、素に戻るのか。


「これって普段からスキンケアしてるの?」


「洗顔くらいしかしてないけど」


 別にこれと言って美肌を保とうとか考えたことはないのでもちろんスキンケアなんてしたこともないし、まずやり方を知らない。


 ましてや化粧なんてしようと思ったことすらないから知識なんて何もない状態。


「何もしなくてこの肌なんて反則過ぎる。取り換えてほしいわ」


 こればっかりはなんでなのかわかんないな。家系なのか?でも親の顔すら覚えていないわたしがそんなことを知る由もなく。


「なんでなんだろうね。あはは」


 ここはもう笑って誤魔化すしかない。


「まぁこれだけ地がキレイなんだからそんなにゴテゴテ塗り倒す必要もないから楽だけどね」


 どうやらナチュラルメイクというのを施してくれるらしい。


 それでも肌にあれやこれやと塗られるのはすごい違和感がある。


 なんというか顔が少し硬くなったような感じ? 表情を変えようとすると抵抗感があるような。


 ナチュラルメイクというもののおかげなのか、化粧は割と短時間で仕上がった。


「おぉ。我ながら完璧だわ。これも素材のおかげかねぇ」


 素のままの高坂先輩が感嘆している。鏡がないから自分ではどうなっているのかわからない。


「さぁみんなにお披露目だよ!」



 カーテンを開けてもうみんな集まっている控室の方へ戻ると全員の視線がわたしに集まった。


 まず最初に声をかけてきたのは文香。


「すごい! ゆきちゃん、ただでさえキレイなのに化粧したらもう同じ人類とは思えないよ!」


 まさかの人外扱い。


 でもなんだか嬉しそう。


 他の役員や演劇部員の方々も口々に賞賛の言葉をくれる。


「自分で見てないからどうなってるのかわかんないや」


 そう言うと文香がコンパクトミラーを取り出してわたしのことを映し出してくれた。


 なにこれ、わたし?


 化粧ってこんなに変わるんだ……。


 自身の変貌ぶりに驚いているとあか姉がそばにやってきて、顎をつまんで引き上げられた。今度はアゴクイか!


 今日はどうした、あか姉。なんなのそのイケメンムーブ。


「さすがゆき。隙のない完璧な美しさ」


 もう完全にカーミラモードに入ってるね。


 役に憑依されろ!ってうるさかったもんなぁ、高坂先輩。


 じゃあそろそろわたしもローラの役に入らないと。


「またそのようなお戯れを」


 顔を逸らすと笑顔になるあか姉。その艶やかな表情に思わずぞくっとしてしまう。


「本番もその調子。がんばろう」


 すごく楽しそうだな。あか姉がカーミラ役になったのはいいことだったのかも。


 そしていよいよわたし達の出番が回ってきた。

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