第87曲 文化祭開幕!
問題が全て片付き、舞台の練習と生徒会業務、私生活では家事と配信活動で忙しく過ごしていると2か月はあっという間に過ぎ去ってしまった。
文化祭の準備のための生徒会の仕事は驚くほどあって、演劇部の練習にも役員が交代で参加するしかないほど多忙を極めた。
だけどこれもみんなが楽しい文化祭を迎えるためだと思えばやりがいもある。
人々に幸せを届けるのが使命である雪の精霊にとってはここが頑張りどころといったところ。その甲斐もあって準備万端で当日を迎えることができた。
午前9時。放送室でマイクを握ったわたしは高らかに宣言した。
「それでは今年度の学園文化祭を開始いたします」
歓声とともに忙しく動き始める生徒たち。
今か今かと待ちわびていた校外からのお客さんたちが雪崩をうって校門にしつらえてあるアーチをくぐる。
あっという間に校内は人でごった返すことになっていた。
わたしは校門前でお客様の出迎えに当たっていた生徒会メンバーと合流。
「すごいよ、ゆき会長! 去年やおととしの倍、いやもっといるかも!」
興奮気味でそう教えてくれたのは3年生である睦美先輩。
今年は校外活動を積極的に行ったおかげですっかり仲良くなった地元商店会のバックアップを受けることもできたので、宣伝効果がかなり高かったようだ。
催し物の買出しも生徒会からの呼びかけで地元商店街を利用すればほぼ卸売り価格に近い値段で売ってくれたので、まさにウィンウィンの関係。
商店街の方もたくさんお客さんとして来校してくれていて、見知った顔がたくさん。
「今年は大成功だね。これも会長さんの人徳だろうねぇ」
すれ違いざまにたくさんの人が祝いの言葉をかけてくれた。
「いえいえ、わたしのしたことなんて微々たるものです。これは全校生徒が一丸となって取り組んだ結果ですよ。だから生徒たち自慢の出し物、たくさん楽しんでいってくださいね!」
笑顔で手を振りながら見送るわたし。
そこかしこに溢れる笑顔、笑顔、笑顔。
これこそがわたしの本当に見たい光景だったんだ。そう思ったら、感極まって涙がこぼれそうになる。
でも泣いてる暇なんてない。
今からしばらくは風紀委員と協力しての校内見回りだ。
結局風紀委員の全員が見回りへの協力を快諾してくれて、逆に生徒会役員の自由時間を増やせるほど人員に余裕ができた。
変な人だけど薫先輩には感謝しないといけないな。変な人だけど。
見回りをしているといろんなクラスや部活から声をかけられる。
「ゆき会長! 休憩時間にはうちのクラスの占いを覗いてねー!」
占いかぁ。ひよりが喜んで入りそう。
当たるも八卦当たらぬも八卦。そういうので気持ちが上がるならそれもいいよね。
「うちのクラスにも寄って行ってね! ゆき会長」
その声に振り返ると教室の入り口におどろおどろしい文字で書かれた『お化け屋敷』の看板。
ひいぃぃ……。
「う、うん。時間があったらねぇ~」
休憩時間はこの近辺には近寄らないようにしよう、うん。
3年生の校舎を見て回ったので今度は部活棟。
文化部がそれぞれの個性を活かした特徴的な展示や催し物をやっている。
茶道部の野点はいいなぁ。校庭でやってるらしいから休憩時間になったら覗いてみよう。
華道部と園芸部が協力して作り上げた華やかな空間を抜けると、壁一面にとてもキレイな筆跡で書かれた書道部の展示が重厚感をまとって並んでいる。
科学部はいろんな実験や機械工作があって楽しそう。
さすが文化祭というだけあって文化部の展示はどれも魅力的で、これを全部見て回るだけで休憩時間が全部終わってしまいそうだ。
文化棟の見回りを終えると、次は校庭に出る。
校庭とグラウンドは文化部と運動部が入り混じって出し物をやっている。
運動部は主に飲食物を提供しているのでグラウンドはまるで夏祭りのような様相。運動部らしい元気な声で客引きをしているから校内でもひときわ賑やかな場所になっている。
「ゆき会長! フランクフルト食べてってよ! おごるからさ!」
陸上部の先輩にそう声をかけられたけど、今はまだ見回り中だ。
「まだ生徒会のお仕事中だから休憩に入ったらまた来ますね。それとちゃんとお金は払いますよ。ありがとうございます」
さすがに無料で食べ物をもらったりしては会長の職権乱用と思われかねないので、おごりというのは丁重にお断りする。
「なんだ、まだ仕事中なんだ。楽しそうな顔してるからもう休憩中かと思ったよ。それじゃ、また後でね!」
わたし、そんなに楽しそうな顔してるんだ。
それはきっとみんながキラキラ輝いているからだよ。力を合わせて何かひとつの目的に向かっていく姿はとても尊い。
そしてそれを目いっぱい楽しんでいる姿はとても眩しく見える。
みんなのそんな姿を見ていると雪の精霊はとても嬉しくなるんだよ!
そして見回りが終わって生徒会室に一旦集合し、次の担当者に注意事項などの引継ぎを済ませた後わたしは自分のクラスに向かう。
クラスの『メイド喫茶』の手伝いをするためだ。
自分で言ったこととはいえ、メイドかぁ……。
できればあんまり人には見られたくない。とくに身内には。
そしてわたしのためにと用意された衣装を、しつらえられたバックヤードで着替えようとしまわれていた袋から取り出して絶句した。
なんか上半身の布地が極端に少ないような……。
さすがに下半身はわたしの性別をちゃんと覚えていてくれたのか、少し長めのフリッフリのスカートを用意してくれていたんだけど。
「高校の文化祭でこんなの着ていいの?」
着替え終わり、設置されていた姿見で自分の姿を確認して再度言葉を失う。
丈が短いせいで完全にへそ出しルック。胸元はけっこう深い部分までシースルーになっていて胸の谷間が……。
こんなの着て公衆の面前に出ていいの?しかも学校で?
「ゆきちゃん、着替え終わった?」
クラスメートから声がかかったので着替え終わったことを告げると遠慮なく仕切りのカーテンを開けて入ってきた。
「おぅふ。けっこうエロイな」
いや、エロイなじゃないよ! 文化祭でエロスはダメだってば!
「さすがにわたしだけこの格好はマズいんじゃない? やっぱり他の子と同じやつの方がいいんじゃ」
「大丈夫大丈夫! このカチューシャをつければあーそういうコンセプトねって分かるから!」
そう言う彼女の手に持ったブツを見てわたしはさらに驚愕した。
本気か、こやつら!
ちくしょー、生徒会の業務の合間にでも一度くらいクラスにも顔を出しておくべきだった……。
そしてバックヤードから出て教室内、今は店内だけど、に姿を見せるとそれまで騒がしかったのが一瞬にして静寂に包まれた。
「バ、バニーメイド……だと?」
そう、わたしのカチューシャだけに取り付けられたウサギの耳。
なにがどう転んでこうなったのやら。
もはや店内の視線は全てわたしに釘付け。そりゃこんだけエロかったらなぁ……。
「なんていうか、もはや尊いよね」「うん、芸術的な美しさ」
なんか予想と違う感想が返ってきた。
「写真撮って保存しておきたい」「あ、写真撮影禁止です!」
そりゃそうだよね。みんなもメイド服着てるし、写真撮影は許可できないよね。よかった、良心は残っていたか。
「チェキは1回500円ですよ」
欠片も残ってなかった! それすらも商売にしてしまうとは! もはや本物のメイド喫茶じゃねーか。
もえもえキュンとかわたしはやらないぞ。おいしくなーれも。
幸い、わたしはずっとチェキの撮影に追われてしまい、接客や給仕はほとんどやることなく交代の時間が来てしまった。
ただ、その間の店内は大賑わいで廊下に行列までできていたので男子が列整理をしなければいけないほどだった。
ただその行列に並んでいる生徒の大多数が男子生徒だったという……。男のバニーメイドを見るために……。
大丈夫なのかなぁ、ウチの生徒たちは。
「いやーゆきちゃんのおかげで集客効果抜群! 大盛況だよ!」
わたしはただの客寄せパンダだったのね……。




