第86曲 祭りにトラブルはつきもの
文化祭は何も生徒会や部活だけが参加するわけじゃない。
もちろんクラスごとの出し物だってある。
それでうちのクラス、1年1組の出し物はあっという間にコスプレ喫茶に決まった。
なんでか知らないけど圧倒的多数で他の案を出す前に決定したんだよね。
それで何のコスプレをするかを決める段になったんだけども。
……。
なんかクラス中の視線がわたしに集まってる気がする……。
な、何?
「ゆきちゃんに似合うコスプレ……」
誰かがぽつりとつぶやいた。
え?わたし基準で考えてるの?だからコスプレ喫茶?
つまり最初からわたしにコスプレさせるのが目的だったということか!
な、なんてやつらだ……。
「ちょっとみんな? わたしだけじゃなくて他の子も着るんだからね? それも踏まえて着るもの選ぼうね」
みんな真剣な顔で考え込んでいる。
「やっぱメイドかな」
「いや、女騎士も捨てがたい」
やっぱり女性向けコスは決まってるのね。勘弁してほしい……。
でも騎士はちょっとかっこいいかも。
「いや、騎士はちょっと露出が多すぎるだろ」
わたしの考えてる騎士と違う!? フルプレートの鎧に露出なんてあったっけ?
「そこまで行くとバトルスーツだろ。騎士ならもっと露出を抑えて、なおかつセクシーさを表現できる」
騎士にセクシーさってあったっけ? どんな格好させられるのか怖くなってきたんだけど。
そろそろ止めないとまずいんだけど、他に出てる案が今のところメイドだけ……。
何かないかな。でも思いつくものといったら。
「執事とか。ダメでしょうか?」
恐る恐る自分の意見を提案してみた。
「ダメに決まってんだろ」「ふざけんな」「なめてんのか」「ゆきちゃんなら似合うかもだけどないわー」
罵詈雑言の嵐でした。理不尽すぎる。
こうなったら仕方ない。なんか変な場所を露出させられてもイヤだし、最悪を防ぐためにも。
「じゃーメイド服でお願いします……」
仕方ないじゃん。こうでも言わないと収集がつかない事態になっても困るし。やだよセクシー騎士。
「しょーがねーな」「まぁ妥協できる点はそのへんか」「セクシーさには欠けるが……」
なんでわたしが妥協されてるんだろう。わたしの人権はどこいった。
恐るべし民主主義。数の前に個人は無力だ。
あと高校の文化祭にセクシーさはいらないから。
「それではうちのクラスの出し物はメイド喫茶ということでよろしいですね?」
ちょっと疲れた様子の文化祭実行委員。なんかごめんなさい……。
わたし何もしてないんだけどなぁ。なぜか罪悪感を感じてしまう。
「それで、結局会長は生徒会の業務と演劇部の練習、そしてクラスの出し物と3つも抱えることになったと」
谷村先輩が少し厳しい顔をする。
「いや、クラスの出し物は準備を手伝わなくていいって言ってもらえたので支障はないかと……」
「当然そうしてもらわないと困ります。俺が言いたいのは文化祭当日に全てのスケジュールをこなせるかという意味で」
ごもっとも。
演劇部の舞台で時間を取られるのはもう決まったことだから仕方ないにしても、それ以外の時間、生徒会には違反やトラブルがないか校内を見回るという業務がある。
もし何かトラブルがあった場合、その場で解決する必要があるので当然時間を取られてしまう。
例年通りだと常になんらかのトラブルは発生していて生徒会の誰かが処理にあたり、残った役員で見回りを継続していたらしい。
トラブルが重なる場合も考えて3名は常に見回りをしている体制だとか。
部隊の上演中は大道具の谷村先輩が見回りを行い、文香ら他の役員が自分の出番が終わり次第合流する予定だ。
文香は最初しか出番がないのですぐに見回りに参加できる。睦美先輩や佳乃先輩も町娘の役なので中盤には手が空く。
わたしだけが最後まで舞台へ釘付けになってしまう。
そこに加えてメイド喫茶でも時間を割かれるとなるとわたしだけが見回り時間を大幅に削られてしまうのだ。
「わたしだけ自由時間なくてもいいから! クラスのみんなもすごく楽しみにしてくれているし、その期待を裏切りたくないんです」
生徒会の役員だって同じ生徒だから文化祭を楽しむ権利は当然ある。
だから当日は交代で休憩を取り、その間に校内を自由に散策できる時間を確保している。
わたしはその時間をクラスの出し物に充てればいいだけだから。
ちなみに文香は生徒会の方を優先してくれて、クラスの出し物の方を断っている。
だからこれは完全にわたしのワガママ。自由時間をなくすくらいは当然だと思っている。
「そんなのダメだよ。ゆきちゃんが来てくれるのを待ってるクラスや部活だってあるんだよ?」
う、それを言われると辛い。確かにいくつかのクラスや部活から休憩時間に覗いて行ってというお誘いは受けている。
見回り中に見ることはできるけど、中に入ってゆっくり見ているわけにはいかない。あくまで通り過ぎるだけ。
「その通りだね。会長だけを休憩もなしに働かせるわけにはいかない」
相変わらず谷村先輩は険しい顔をしたまま。
だったらどうすれば……。
「そんなのみんなの休憩を少しずらせばいいだけじゃない。ずっと3人で見回りしないといけないっていうルールもないんだし」
睦美先輩がそう提案をしてくれた。
「それは無理かもしれない。トラブルが重なることも珍しくないし、3名体制を崩すのはリスクが大きすぎる」
「頭かたーい」
谷村先輩にダメ出しをされて睦美先輩がむくれてしまう。
わたしのせいでこんなことになって申し訳ない。
こうなったらクラスの出し物を断るしかないのかなぁ。みんなすごく楽しみにしてくれているのに……。
わたしがシュンとしていると佳乃先輩が慰めてくれた。
「そんな顔しないの。ゆき会長にはそんな顔似合わないわよ。みんなで考えればきっといい解決策が見つかるわ」
うぅ、その言葉がありがたすぎて逆に申し訳ない。
余計に俯いてしまうわたし。それを見てやれやれと言った顔の役員たち。
「お話は聞かせてもらいました!」
勢いよく扉を開けて入ってきたのは風紀委員長の薫先輩。
また? つい先日同じパターンがあった気するんだけど。なんか生徒会室盗み聞きしてる人多くない?
「ゆき会長が困っている時助けに来なければファンクラブ会員第一号の名折れ! このわたしにお任せあれ!」
その珍妙なクラブ自体あんたが作ったんでしょうが。
でもここで助け舟を出してもらえるのはありがたい。
「ゆき会長が文化祭を目いっぱい楽しんでもらえるよう、風紀委員から人を派遣しようじゃありませんか! ゆき会長の抜けた穴を埋める分くらいなら風紀委員交代でかかればほんの少しの時間で済みますし」
おぉ! そんな隠し技が! 確かに風紀委員に助けてもらえるなら業務の内容的にも人数的にもなんら問題はない。
わたしは期待に満ちた目で谷村先輩を見つめた。
「そんなキラキラした目で見ないで(クッソかわいい!)。わかりましたよ。それなら問題ない」
副会長からも許可が出た! これで心置きなく文化祭に向けて頑張ることができる!
なんか変な心の声が聞こえたような気もするけどきっと気のせいだろう。
「薫先輩ありがとー! おかげで問題が一挙に解決したよ!」
わたしは喜びのあまり薫先輩の手をとって感謝の気持ちを伝えた。
薫先輩はわたしに手を握ってもらえたことに感激してしまい、卒倒しそうな勢いで叫ぶ。
「ゆき会長がわたしの手を! これはしばらく手を洗えません!」
ドン引きするわ! 思わず手を離してしまった。名残惜しそうな顔をする薫先輩。
そんな顔されても……。
ちゃんと手は洗おうね?
汚いよ。




