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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第85曲 祭りは準備期間から楽しい

 あの日以降、琴音ちゃんだけでなくきらりさんも頻繁に家を訪れるようになった。


 賑やかになったのはいいんだけど、そこはかとなく漂う緊張感がけっこう居心地悪い。


 まぁ夏休みが終わればみんな忙しくなるから落ち着くだろう。


 

 そう考えて2人を適当にあしらっているうちに夏休みも終わってしまい、学校が始まると生徒会長としての仕事が山積している。


 たいていは普段の通常業務で地味なものがほとんどだけど、その地味な事こそ何よりも大事だったりする。


 会社であれ学校であれ、大抵はそういった地味な仕事の上に業務は成り立っているもんだ。


 派手で生徒ウケするような行事だって、こんな日々の積み重ねをおろそかにしないからこそつつがなくスムーズに進行できるのだ。


 そして2学期と言えばその生徒ウケ行事の中でも筆頭にあがる文化祭が開催される。


 11月に開催されるので夏休み明けの時点で残された準備期間は2か月。


 その期間でいったい何ができるのか。



「生徒会でも何かやろう!」


 ホワイトボードにでかでかと『生徒会参加行事提案会議』と書いて生徒会メンバーに問いかける。


 副会長谷村先輩、書記の睦美先輩、会計の佳乃先輩、庶務の文香。


 一番最初に手を挙げたのは文香だった。いつも先輩方に遠慮して控えめな文香にしては意外だ。


「ミスコン!もちろん水着審査ありの!」


 ほほぅ。なかなかいい案じゃないですか。11月に水着って寒くないかな?


「くふふ。ゆきちゃんの水着……」


 ちょっと待てーい!


「ナニソレわたしも参加する予定なの?」


「「「「もちろん」」」」


 こやつら……。


 会長をおもちゃにしてはいけません。


「他に案はなーい?」


 笑顔で次を促してみる。


「………」


 …………ないんかい! マズイこのままだと数の暴力で押し切られてしまう。他になにか妙案はないか!


 その時、生徒会の扉をノックする音が。


 待ってましたよ、ご都合……いや天の助け!


 きっとこの状況をひっくり返す救いの手が待ってるに違いない。


「はいどうぞ~」


 気持ち弾んだ声で入室を促す。


 勢いよく開けられる扉。


「たのもー!」


 ……道場破り? そー言えばわたしも職員室でやったなぁ。この人の影響で。


「これはこれは生徒会長様。ごきげんうるわしゅう」


 今度は上流階級の貴婦人か。相変わらず忙しい人だな。


「これはどうもご丁寧に。高坂先輩、わたし以外初対面でしょ?」


「おっとわたしとしたことが。手前、演劇部部長の高坂晶(こうさかあきら)と申します。以後お見知りおきを」


 次は任侠ね。ここはさすが演劇部と褒めるべきなんだろうか。


 背が高くて切れ長の目。ショートヘアの良く似合う中性的な女性だからか、そんな演技のひとつひとつが妙に似合っている。


 キャラの統一感に支障をきたしそうな人だ。癖が強いからわかりやすいかもだけど。


「ご用件を伺ってもよろ……いいですか?」


 こっちまでキャラがブレそうになるがそこはグッとこらえて平常心。


「ふむ。ミスコンですか。会長の雄姿、それも大変興味深い。だがしかし! 今日はゆき会長にぴったりの案件を持ってきたと自負しています!」


 さすが名探偵。ホワイトボードに書かれたミスコンという4文字だけでわたしが参加させられることまで見抜いたか。


「会長お願い! 今度の文化祭に演劇部で劇を披露したいんだけど、今年は部員が少なくてどうしても人手が足りないの! 生徒会のみなさんの力をお貸しください!」


 急に素に戻ったな。それにしても演劇かぁ。それもいいな。


 王子様役とかやってみたい。少なくとも水着姿をさらすよりは全然いい。


「それは生徒会と演劇部の合同主催ということになりますよ。それにわたし達、誰も演劇の経験なんてないですけど」


「合同主催でけっこう! 経験の方も我々にお任せあれ! 2か月もあれば立派な役者に仕立て上げて進ぜよう!」


 今度は何だろう、武士? ちょっと楽しくなってきたかも。


「して、配役などはもう決まっているんですか?」


 ヤバいちょっとうつった。わたしまでキャラブレてどーする。


「できればわたし王子様役なんてやってみたいなぁ」


 それとなくやらせろアピール。


「はっはっは。お戯れを。ゆき会長と言ったら深窓の令嬢、高貴な姫君以外の適役がありましょうか、いやない!」


 見事な高笑い。中世の騎士団長といったところか。


 そしてわたしはやっぱりそっち方面の役どころなんだね。なんとなく分かってはいましたよ。


 でも少しくらい希望を述べたっていいじゃない。そんなに力強く言い切らなくても……。


「あのー、ちなみに何の演目をやるつもりなんですか?」


 黙って聞いていた文香がそこで質問する。そりゃそうだ。


 わたしも気になる。そもそもどんな内容の役なんだろう。


「よくぞ聞いてくださいました! 今年の演目はずばり『女吸血鬼カーミラ』! ゆき会長を見てこれしかないと!」


 バリバリの百合系! なんでわたしを見てそれを連想した?


 カーミラで深窓の令嬢って言えばローラしかいないし。それはいいとして、ひとつ問題点が。


「あの作品ってたしか性的描写が多かった気がするんだけど、そんなの高校の文化祭でやっていいの?」


 いわゆる18禁。1800年代の古典文学で、カーミラとローラの絡みが濃厚に描かれている。


 百合族のバイブルとも言われるほどの名作ではあるがなにせ過激なシーンもあるだけに簡単には許可できない。


「もちろんそこは脚本でちゃんと調整してありますわ。台本を読んでいただければご納得いただけるかと」


 上品な仕草。侯爵夫人を意識してるのか。


 ちゃんとぼかしてあるなら問題はないか。まがりなりにも古典文学だし。


 古典文学に過激な描写はままあること。ちゃんと高校生向けに作り直されているなら問題はないだろう。台本はちゃんとチェックするけど。


「それでカーミラ役は誰に?」


「それがまだ決まっていないんですの。わたくしでは役不足ですし、この人、といった適役がいなくて」


 高坂部長がそう言うと、それまで黙っていた文香、睦美先輩、佳乃先輩の3人がほぼ同時に挙手。


「「「ぜひ、わたしに!」」」


 そこまで息が合ってるなら演劇の練習も大丈夫そうだね。


 しかし、意外な人物の登場で3人の目論見は儚くも散ってしまうことに。


「話は聞かせてもらった」


 扉を開けて入ってきたのは。


「あか姉!? なんでここに?」


「わたしも用事があって遅くなった。どうせなら一緒に帰ろうと思って待ってた」


 それで盗み聞きをしていたと。扉に張り付いてないと声まで聞こえないはずだよ。


 みんなの前で言うのも可哀想だから黙ってるけど。


「カーミラの役はわたしがやる」


 いや、それはわたしが決めることじゃないから。そんなにガン見されても困る。


 高坂部長の方を見て助けを求めると、じっとあか姉の事を観察していた。


「マーベラス! こんな逸材を隠しているなんてゆき会長も人が悪いですわ。これぞまさに適任! カーミラ役は彼女以外考えられません!」


 まだやってたのか、侯爵夫人。カーミラの話題だからいいのか。


 でも確かにあか姉なら適任かも。


 わたしより()()()()背が高いし、大きな目は少し釣り目気味で意志の強さを感じる。そして寡黙さとその整った美貌もあいまって、化粧をすれば妖艶さを醸し出せるに違いない。


 生徒会の面々は少々ご不満な様子だけど。


「あか姉がいいって言うんならわたしは別にかまわないけど。高坂先輩も乗り気みたいだし」


 無言でうなずくあか姉。めっちゃ小さくガッツポーズしてるのがなんか可愛いぞ。


「それじゃ、わたしの役ってなんなんです? 高坂先輩」


 文香も不満そうだけど、仕方ないといった様子で自分の役を確認している。


「んー。あなたはベルタかな?」


 それ最初に死んじゃう人! 出番あるの!?



 それからは生徒会の業務をこなしながら演劇の練習ということではっきり言って激務の毎日だった。


 助かったのは谷村先輩が早々に演劇には向いていないということが判明し、大道具の制作に回されたおかげで時間に融通が利くようになり日常業務の多くを引き受けてくれたこと。


 本人はヴォルデンベルグ男爵の役をノリノリでやってたんだけど、あの大根ぶりじゃあね……。


 そしてわたし達主役組はというと。


 さすが姉弟といったところか、息はぴったりで打ち合わせなしでもセリフの掛け合いをほぼ完ぺきにこなし、高坂部長も感心するほど。


 そして意外と言えばいいのか当然と言えばいいのか、あか姉のカーミラ役はドはまりしていた。


 よほど台本を読み込んだのかすっかりセリフを丸覚えしていて、演技とはいえ感情を乗せて迫ってくるもんだからローラ役のわたしは終始ドキドキ。


 すっかりカーミラになりきっているあか姉は普段と違って色気がすごい。


 こんな一面もあったなんて意外……。


 妖艶な雰囲気で語り掛けてくる愛の言葉は破壊力抜群で、わたしも本当にローラになったかのように翻弄されてしまう。


 わたしとあか姉の演技は演劇部内でも嬌声が上がるほどの出来栄えだった。


 本番まで時間はまだあるから、ここからさらに完成度が上がっていくのかと思うと本番当日が楽しみで仕方ない。


 わたしの心臓大丈夫かな。

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