第80曲 2度あることは3度ある
ホテルに帰りついたわたし達。
今夜の夕飯はホテルに備え付けのレストランを利用することにしていた。
出てきたのは海鮮フレンチ。わたしが作ったことのあるものもいくつかあった。
「なんだかゆきの作った料理に似てるな」
一流シェフのレシピを参考に作ったりもしてるからね。
「ゆきちゃんの作ったやつの方がおいしい」
ひより!そんなこと言うもんじゃありません!シェフに失礼でしょうが。
でもそこまで褒められて悪い気はしない。
「また家に帰ったら作ってあげるから」
さすがに気を遣って小声でそう言うと大喜びするひより。
「やったぁ!ゆきちゃんの料理がやっぱり一番だよ!」
だから声が大きいってば!ここもちゃんとした一流のレストランなんだから!
「でも一流レストランの料理にも引けを取らないなんてゆきちゃんの腕は大したもんですね」
もう、かの姉ったらそんなに褒めても何も出てこないよ。カモ肉のソテーをそっと一切れあげる。
まったく、あか姉は文句言わず黙々と食べてるのに、みんな遠慮なく言いすぎだよ。
「ゆきの料理食べたい食べたい食べたい」
なんか呪文みたいなの唱えてた。
まだ旅行来て2日目なのにもう禁断症状が出てるのか。
「もうみんな分かったから。家に帰ったらごちそう作るから黙って食べなさいってば」
「ゆきのご馳走!」
あか姉が帰ってきた。すごい勢いで食べ始めたんだけど。
他のみんなもそれからは文句をいわず、ご機嫌で食べている。
まったく、そんなに風に言ってもらえたら嬉しすぎるじゃないの……。
そして食後少しして、入浴タイム。
「ゆきー!今日も家族水入らずで」
ジロリ。
無言で視線だけを向ける。
それだけで十分に伝わったようだ。
「じょ、冗談だって。今日くらいはひとりでゆっくり入ってこい!あはは」
「今日は合鍵渡さないようフロントには言っておくから!」
警戒心マックスのわたしはそう言って威嚇する。
がるるるる……。
「信用ねーなー」
どの口が言ってるのかな?
さすがに今日はお風呂に突撃してくるような馬鹿な真似はもうしないだろう。
ゆっくりとお風呂に浸かり、いつものように空の何もない場所を見て思惑にふける。
これからの生徒会運営のこと。配信チャンネルのこと。そして自分自身の事。
「卒業。できるよね」
ぽつりとこぼれてしまった言葉。いけないいけない。思考がマイナス方面に引っ張られちゃう。
少し疲れてるのかな。
ぬるめのお湯の中、目をつむるととても気持ちよくて段々眠くなってきてしまった。
うつらうつら……。
「ゆき!?大丈夫か!?」
!?
突然の大声にビックリして目が覚めた。そうか、眠っちゃってたんだ。
ってここお風呂!!
他のみんなもいるし!
「よ、より姉!?なんでまた入って来れてんの!?フロントにも言っておいたのに!」
「バカ!二時間近く帰ってこなかったらいくら何でも遅すぎるわ!フロントの人も心配してたんだよ!」
うわ、そんなに時間が経ってたんだ。
ん?より姉たちが服を着てるから気が付くの遅れたけど、今わたし素っ裸。
タオルも巻いていない……。
「いやぁぁぁぁぁ!ちょっとこっち見ないで!」
咄嗟に股間を隠し、腕で胸もどうにか隠そうとするけど意外と育ってしまった胸はちゃんと隠れてくれない。
姉妹たちの視線はわたしの体を嘗め回すように見ている。少しは遠慮して!
「わたしは大丈夫だからあっち向いててってば!」
みんなに背中を向けながら必死にタオルに手を伸ばそうとするけど届かない。
みんなわたしをじっと見たまま視線を外そうとしてくれないし!
「ゆきちゃん、こんなにきれいだったんですね」「彫刻みたい」「うっとりするくらいキレイだよ~」
何見とれてんの!?
顔が熱い。裸を見られるのってこんなに恥ずかしいんだ。
「より姉!そこのタオルとってってば!」
大声で言うとようやく我に返ったより姉。
「お、おう。これか」
取ってくれたタオルで慌てて体を隠す。
でもバッチリみられたよね……。恥ずかしい……。
* * *
部屋に戻ってもわたしの羞恥心は収まらず、ベッドの隅で足を抱えて拗ねていた。
「ゆきちゃーん?そろそろ機嫌直して?ほんの少ししか見てないですから」
それしっかり見てんじゃん。
ちらりと2人の方に首だけ向けると2人がじっとこっちを見てる。
じー……。
…………。
………………。
思いっきり赤面する2人。
「うわああぁぁん!」
めちゃくちゃ思い出してるしー!
もうお婿にいけない……。行かないけど。
「まぁまぁゆきちゃん、あまりにゆきちゃんがきれいだったので見とれてしまっただけですから」
「眼福」
あか姉おっさん臭い。
「だって男のくせに胸だってあるし、どう考えたって変でしょう」
「そんなことない!」
あか姉が珍しく大きな声を出して否定したかと思うとつかつかと近づいてきて。
勢い余ったのかそのまま押し倒されてしまった。
「あか姉?」
やっぱりここまでするつもりはなかったようで、あか姉の顔は朱に染まっている。それでも一生懸命訴えかけるように訥々と話し出した。
「本当にキレイだった」
な、何を急に……ってあか姉、なんか近いんですけど?
「まるでミロのヴィーナス。見てるだけでドキドキした。キレイで、肌も艶があって、はかなげで、幻想的。目が離せなかった。仕方ない」
珍しく饒舌なあか姉。いつもと違う真剣で情熱的な目。
あか姉に覆いかぶさられたような状態で、わたしは身動きを取ることができない。
手首を握られているのでなおさら。
何?この体勢……。なんだかめちゃくちゃドキドキするんですけど。
潤んだ眼でそんなに見つめられたら……。
高鳴る鼓動の音があか姉にも聞こえてるんじゃないかと思う。あか姉も真っ赤になって緊張している様子。
2人だけの世界。時間が止まってしまったかのよう。
あか姉の顔がだんだん近づいてくる。
わたしはごく自然に目を閉じてしまっていた。
「おっほん!」
分かりやすいを通り越したわざとらしい咳払いで我に返る。あか姉は驚いて猫のように飛び跳ねた。
まだドキドキしている。あか姉……あのままかの姉が何も言わなかったら何をするつもりだったの?
思わず口元を抑えてしまう。顔が熱い。あか姉の温もりがまだ残っている。
ちらりとかの姉の顔を見ると、いつもの穏やかな笑顔なんだけど何かが違う。
まるで木彫りの仮面に掘られたような……。
張り付いた笑顔のままじっとあか姉の方を見ているけど、怒ってる?
「茜」
かの姉が目を細めてあか姉に声をかける。やっぱり怒ってる。
「ああいうことをするときはお姉ちゃんも混ぜなさい!茜ひとりであんなことするなんてズルいです!」
そっちかい!
てっきりあか姉が何かしようとしていたのを咎めるのかと思いきや。
2人してわたしに何をするつもりなの!?
ちらっとこっちを向いたかと思うと、2人は部屋の隅に言ってコソコソと何か密談を始めてしまった。
「楓乃子も勝手に混ざればいい。早い者勝ち」
「抜け駆けはズルいですよ!ゆきちゃんはみんなのために、わたしたちはゆきちゃんのために!ですよ」
……。
「遠慮はしない」
「焦っちゃダメですよ。ゆきちゃん戸惑っているじゃないですか」
あのー。
「そんなの待ってられない」
「ゆきちゃんを困らせるのはダメです。茜も言っていたでしょう」
もしもーし。
「楓乃子だって本当はいますぐ襲い掛かりたい」
「否定はしません!けどゆきちゃんが嫌がることはしたくないです」
お2人さーん?
「もう少しゆきちゃんが自分の気持ちに自覚を持つまではがっついちゃダメです。嫌われても知りませんよ」
「む。嫌われるのはダメ」
「ちょっと2人とも!」
少し大きな声を出したら2人揃ってビクッてした。なんか面白い。いったい何の密談をしてたんだか。
「こんな時間になってるし、もう寝るよ」
もう0時を過ぎている。明日はチェックアウトしないといけないし、そんなに夜更かししているわけにもいかない。
もう少しお話をしていたい気もしたし、2人も不服そうな顔をしているけど、またさっきみたいな空気になってもマズイ。
わたしは部屋の照明を落とし、ベッドに潜り込んだ。残る明かりはベッドライトのみ。
2人も渋々ではあるがそれぞれのベッドで横になる。
「それじゃ、暗くするよ」
枕もとの照明も落とし、部屋は真っ暗だ。
「かの姉、あか姉。おやすみなさい」
「おやすみなさい、ゆきちゃん」
「おやすみ、ゆき」
なんでわたしにだけ返事するのさ。まぁいいけど。
そう時間も経たないうちに2人の寝息が聞こえてきた。
うちの姉妹みんな寝つきがいいんだよね。うらやましい。
さっきのあか姉、なんだったんだろう。まだ少しドキドキしている。
わたしを真っすぐに見つめる瞳。上気した顔。潤った唇。徐々に近づいてきていたその顔を思い出すとさらに鼓動が激しくなってしまう。
「おやすみなさい」
返事のない2人にもう一度声をかけたけど、わたしはまだしばらく眠れそうになかった。




