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世界に愛を届ける雪の精霊は超絶美少女!でも現世では配信者(♂)  作者: あるて


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8/22

第8曲 眠れぬ前夜

「明日からまた歌える」


 お風呂に入った後、あとは寝るだけの時間になってわたしはバルコニーから星空を眺めてそうつぶやいた。


 そういえば告知の配信からまだ何もしてないのにチャンネル登録者が千人超えるくらいまで増えていたのがどうしてかわからないんだけど、キリママが宣伝頑張ってくれたのかな?


 それだけ期待もされているようで少し緊張感が高まる。


 そんなことを考えながら私は夜空を眺め続ける。


 星空を眺めるとき、わたしはキラキラとゆらめく星の光を見つめているわけではない。肉眼では何も見えない虚空の闇をじっと見つめている。


 目には見えないけれどそこに確かに存在している、力強く輝く恒星を想像する。


 望遠鏡で覗けばどこを見ても星の光にあふれているけど、夜空には肉眼では見えない星の方がずっと多い。その数はそれこそ天文学的数字。


 しかも中には昼間地球を煌々と照らす太陽よりも何百倍、何百万倍も明るく輝いている星やほぼ光速の速さで自転して電波を撒き散らかしている星、いままさに燃え尽きようとして大きく膨らんでいる星などいろいろある。


 それこそ想像が追い付かないほど多種多様な星が見えない闇の向こうに確かに存在している。


 わたしという星も今はまだ世間からは見えない。望遠鏡を覗き込んでも見えるかどうかも分からない小さな点でしかない。


 だけどわたしはその程度で終わらない。もっともっと輝きを増していずれは一番星に、いやそれすらも超えて世界中を照らせるような輝きを放つようになりたい、いやなる。


 恒星が自分自身を燃料にして輝くように、この命ある限り魂の全てを燃やし尽くして歌い続ける。


 明日の夜がスタート地点。生まれたばかりの星として最初の輝きを人々に届ける。


 わたしの声が、パフォーマンスが一人でも多くの人の耳に、そして心に響くようわたしは歌い踊る。わたしの光で一人でも多くの人に元気をもらってほしい、前を向く勇気を受け取って欲しい、傷ついた心に癒しを届けたい。


 それがわたしの幸せであり、使命。


 その輝きで闇夜を昼間のごとく照らしだしてみせる。


 恒星に起きる最もまばゆい輝き、銀河全体の光にも匹敵する超新星爆発のように。


「こんな時間に何をしてるんですか?風邪ひきますよ」


 わたしの思考を中断させたのはかの姉の優しい声だった。


「もう四月といっても夜はやっぱり冷えますから、湯冷めしてしまいます」


 そう言いながら近づいてきて、そっとくるむように後ろから優しく抱きしめてくれる。かの姉そのものを体現するかのようなふんわりとした、心まで温まるようなぬくもり。


 その体温がやけに温かく感じたので、自分で思うより体温が下がってきていたのだろう。


「ほら、こんなに冷たくなって。ゆきちゃんのことだから明日の事を考えて気が高ぶってしまったんでしょう」


「かの姉にはお見通しだね。なんだか体が熱くなってきちゃって少し冷まそうと思って空を見てたんだけど、少し冷ましすぎちゃったみたい。それにしてもよくわたしが外に出てるって気が付いたね」


「ゆきちゃんのことならなんでもわかりますよ。きっと遠足前の小学生みたいに眠れなくなってるだろうなってことも」


「そこまで子供じゃないと思うんだけど」


 そんな軽口を言い合いながら笑っていると気が楽になってきた。わたしはもう一度空を見上げる。


「空を眺めて物思いにふけるゆきちゃんもとても絵になっていていいんですけど、さすがに体を壊すので長時間はダメですよ」


 そう言ってわたしの手を取って部屋の中へと導いてくれるかの姉の手はとても温かくて、手だけじゃなく体全体ポカポカするような気になる。


 凝り固まった体と心をほぐしてくれているかのように気持ちも楽になっていった。自覚してなかったけど、やっぱり少し気負いがあったみたい。


 かの姉と一緒にいるといつもこうやって気持ちが落ち着いていく。


 狙ってやっているわけではないのだろうけど、気分が落ち着かないような時にかの姉だけが持つこの独特な雰囲気とおっとりした話し方、柔らかな表情、こちらの発言を急かすこともない自然体で隣に寄り添ってくれていると、それだけで引っかかっていることやなんとなく他の人には言いにくいことでも自然と口から出てきてしまう。


 目の覚めるようなアドバイスをしてくれるわけでもないのに、かの姉にそばにいてもらうだけで気持ちの波が凪いでいく。


 これが人徳というやつなんだろう。


 そう思ってかの姉の手を握っていると、肩の力が抜けてさっきまで全く訪れなかった睡魔がやってきた。


「ありがと。おかげさまで眠れそうだよ」


「わたしは何もしていませんよ。ゆきちゃんは頑張り屋さんすぎるところがあるから少し力を抜くくらいでちょうどいいんです」


 あなたはもう少し力を入れてもいいのでは?なんて思っていると今度は正面から抱きしめられて柔らかい感触といい匂いに包まれた。


「ちょ?かの姉?」


 今日のかの姉はそのまま開放してくれずに、それどころかより一層力を込めて抱きしめてきた。


「ほら、体が冷え切っている。よく眠れるようにちゃんと温めてあげますからね」


「さすがに恥ずかしいよ」


「今は二人きりなので大丈夫ですよ」


 恥ずかしいんだけど、やっぱり体の力が抜けていく。羞恥心とは裏腹に心と体の方はすっかりリラックスモードに入っているみたい。




 ガチャっ。


「ゆきちゃん、こないだ貸してくれた漫画の続き読みたい~」


 ひより登場。だけど、特に何を言うでもなくわたし達を見つめている。


 ひよりから見ればどう見ても2人抱き合ってるように見えるだろう。実際その通りだ。


 大騒ぎをするかと思っていたけど、そのまま何も言わずに回れ右をすると廊下に出てしまった。あれ?無反応?


「より姉~!あか姉~!ゆきちゃんとかの姉が密室で抱き合ってるよ!スキャンダルだ~!」


 緊急招集をかけに行っただけだった!


 しかも集合はやっ!あっという間に私の部屋に3人が集まって尋問体制。


「ふたりきりで何してた」


 珍しくあか姉が真っ先に食いついてくる。


「愛情たっぷりのハグをしていただけですよ」


 言葉のチョイスが確信犯!わざと話をややこしくしようとしてるよね?3人ともこめかみに青筋が見えるよ!


「かの姉!それあおってるから!わたしがお風呂上りバルコニーにいて体が冷えてたから温めてただけって言えばまだマシなのに!なんでそんな誤解を招くような言い方するの!」


「あら。愛情たっぷりってのは本当の事ですよ~」


「ほう、愛情たっぷりに熱い抱擁で温めてたってーことだな」


 より姉がしっかり挑発に乗っちゃってるじゃない!あか姉とひよりもふくれっ面してるし。


「これはわたし達も温めてあげないといけない」


「茜の言う通り、抜け駆けや仲間外れはうちでは御法度だ」


「わたしもゆきちゃん温めてあげたいし!」


 そう言うなり全員でわたしを温めようとくっついてきた!だからいつも言ってるけどわたしも男の子だから!そんな一斉に抱き着かれるといろんなところが当たって……。


 4人分の女体が密着しているのは思春期の男の子には刺激が強すぎる!みんな柔らかいしお風呂上がりのいい匂いがする……あ、なんか頭が真っ白になってきた……。


「さすがに暑いですぅ……」


「ほんとだ。ゆきちゃん顔が真っ赤になってるよ」


「ほんとに暑いだけで赤くなってんのかな~、ゆき?」


 より姉。


「逆に汗かいちゃうから。もう限界みんな離して……」


「違うとこも限界なんじゃねーの?」


 より姉確信犯だな!ええい無視だ無視!年頃の女の子がいきなり下ネタぶっこんでくるんじゃない!


「どうせ明日からの配信が楽しみで寝られないからバルコニーに出てたってなところだろ。夜はまだ冷えるんだから気をつけな」


「ゆきちゃん違うとこってどこに限界がくるの?」


 ひよりはその話題引っ張らないで!


 かの姉とあか姉は少し顔も赤いしさっきから黙ったままだから意味がわかってるみたいだけど、気まずくなるからこれ以上はやめてほんと。


「み、みんなが温めてくれたおかげでぐっすり眠れそうだよ!ありがとね」


「違う意味で眠れなくなったりしないか?よかったらわたしが添い寝してやるぞ」


 ニヤニヤしながらとんでもないこと言わない!当然のごとく他の姉妹も添い寝希望しちゃってまた詰め寄ってきた。


 ほらまた収集が付かなくなっちゃうでしょうが!


「ひとりで眠れるから平気だってば。明日に向けて体力を温存しとかないといけないし、そろそろ眠ることにするね」


 これ以上はダメだと思って会話の強制終了。全員に速やかに自室へ戻ってもらった。


 結局大騒ぎになって終わっちゃったけど、本当のところはきっとわたしが初配信に向けて気持ちが高ぶっていることをみんな察していて、様子が気になっていたんだろう。


 だからかの姉は様子を見に来たし、ひよりはわざわざ騒ぎにしてみんなを集めたんだろう。


 励ますなり落ち着かせるなり、なにかしらわたしに声をかけて明日の応援をしたかったんだと思う。


 直接そう言われたわけではないけど、小さいころからずっと一緒にいればなんとなく察することもある。


 1人1人からすごく大切にしてもらってるんだということが伝わってきて心がすっかり温かくなり、気持ちも落ち着いたわたしはいつも以上に心地よい気分で眠りへ落ちていくことができた。

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