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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第78曲 バスルームの危機再び

 その声はひより!?


「ひより!なんでそこにいるの!?」


 思わず大声を出してしまったのでお風呂内に声が反響する。


「おーゆきか!あたし達も一緒に入りろうと思ってきたぜ」


 より姉!?しかもあたし()!?


「ひょっとしてみんないるの?」


 問いかけに応える2つの声。


「わたしもいますよ、ゆきちゃん」


「いる」


 結局姉妹全員いたぁ!ヤバいヤバい!


 慌てて露天風呂に戻ると、扉をチェック。


 鍵が付いていない!ジーザス!


 わたしはそのまま湯船に飛び込み、口までお湯につかる。


 お湯をブクブクさせていると、まずはひよりが入ってきた。その後ろに姉が3人。


 みんなタオルを巻いてくれているけど、こっちは気が気じゃない。


「ゆきちゃーん!」


 ひよりが行儀悪くドボンとお湯に飛び込むと、そのまま傍まで近づいてきた。


「それ以上近寄っちゃダメぇ!」


 わたしの叫びに不思議そうな顔をするひより。


「なんでー?せっかく一緒にお風呂入ってるのに」


 そんなこと言ってるひよりも顔がすっかり赤く染まってるの、見逃してないからね。そっちだって恥ずかしいんでしょうが。


「中に水着とか着てる?」


 一応聞いてみた。


「ゆきちゃん、さすがに高原に来て水着を用意してる人なんていないよ」


 くっ、ひよりのくせに正論を。


 ということはみんなタオルの下は裸ってことで……。


 すっかり顔が熱くなったわたしはまたしても口まで浸かってブクブクブクブク。


 そんなことをしていたらいつの間にか姉妹4人に取り囲まれてしまっていた。もはや逃げ場はなし。


「どうやって入ってきた」


 より姉のことをジト目で見ながら問い掛けた。主犯はきっとこの人で間違いない。


「なんであたしがやったって決めつけるんだよ」


「日頃の行い」


 間髪入れずに答えると観念したのか、事の顛末を白状した。


「旅館の人に恥ずかしがり屋の妹が1人で家族風呂にはいってるんだけど、いつもより遅いからのぼせてるかもしれないって言って合鍵借りてきた」


 なんてことを。さらっと弟の性別詐称までしてるし。


「なんで」


 ジト目のままそう聞くとかの姉が答えてくれた。


「ゆきちゃんひとりぼっちで寂しくないのかなって話になったんですよ。それでみんなで行こうって話になって」


「ゆきが可哀想だったから」


 あか姉……。お風呂はいつも1人で入ってるんだけどなぁ。


 でもみんなそんなこと言いながら耳まで赤くなってる。決して恥ずかしくないわけじゃないんだね。そりゃそうか。


 そして誰も言葉を発しなくなった。静かな空間。そよ風が髪をなでる。


 その静寂の中、わたしの心臓はうるさいくらいに鳴っている。他のみんなに聞こえるんじゃないかってくらい。


 首までしっかりお湯につかったまま視線をかの姉に向けると目が合った。ふんわりと微笑んでくれる。色っぽい……。


 慌てて目を逸らすと今度はより姉がじっとわたしを見つめていた。柔らかな表情で微笑みかけてくる。大人だぁ……。


 よく見るとみんながわたしの事を見つめている。気持ちがこもった温かい目で。


 まったく、そんな目を向ける相手はわたしなんかじゃないでしょ。


 それにしてもみんなとてもキレイだな。


 ダメだよ。


 こんな状況でそんな表情をしたらダメ。高鳴る心臓の音で耳までガンガンする。


 これが吊り橋効果ってやつなのかな。


 違うか。


 それでも。タオル一枚で隠されただけのその姿はあまりにも刺激的過ぎて。


「そろそろのぼせてきそうだから、あがろうと思うんだけど」


 顔が熱いままだから余計にのぼせてしまいそうだ。


「そうだな、そろそろ上がるか」


 ……。


 そしてまた訪れる静寂。


 誰も動こうとしない。まるでせっかくの水入らずの時間を惜しむかのように。


 静かな空間に時折響く水の音。みんな今何を考えてるの?


 意を決してゆっくりと立ち上がると目の前が白くなりよろめいた。


「危ない」


 より姉に抱きとめられた。タオルが少しズレてしまい、肌と肌が触れ合う。


 背中に触れる柔らかい感触。


 火照った体にそれよりも高くなった体温と、すぐにわかるほど早くなっている鼓動の感触が伝わってきた。


 より姉もドキドキしてる……。


 目がチカチカする。意識があいまいになる。


 無意識に腕を伸ばし、その細い腰に手が触れそうになる。


 ハッとしたわたしはとっさに腕を上げ、より姉の肩を掴んで体勢を立て直す。


 わたしは今何をしようとしたんだ?


「ありがとう。ちょっと立ち眩みしただけだから」


 タオルがはだけかけているより姉の方を見ないようにしながらゆっくりと歩き出すと後ろでみんなの立ち上がる水音が聞こえてきた。


 うそ。みんな一緒に来るの?


 脱衣所でわたしは背中を向けたまま服を着ていく。


 視覚情報がないのでどうしても聴覚が鋭くなってしまう。


 姉妹が奏でる衣擦れのカルテット。これまた思春期の男子には十分に強い刺激だ。


 もうお風呂からは上がっているのに頭はいつまでものぼせたまま。


 脱衣所から出て近くの自動販売機でスポーツドリンクを買って半分ほど一気に飲み干した。


 少しは落ち着いたけど、まだ姉妹の顔をまともに見ることができない。


 そのまま部屋に戻るとなぜか全員ついてきた。


 いや、2部屋に分かれているはずなのになんで?


 4人で仲良く話をしているようなので少し湯あたりをしていたわたしはベッドに横たわり目を閉じる。


 しばらく4人の声を子守唄のように感じながら目を閉じていた。ついさっきの出来事を思い出してしまい、また顔が熱くなってくる。


 気が付くと4人の声がしなくなっていた。続いてベッドが沈み込む感覚。


 ひよりがちょっかい出しに来たのかと思って目を開けると1人だけじゃなくて4人ともがベッドに乗っていた。


 みんなうつぶせで頬杖をついてわたしの顔を覗き込んでいる。


「みんなどうしたの?」


 誰も答えない。ただわたしの顔を見て微笑んでいる。


 一番近くいたひよりとあか姉の頭に両手をのばし、まだ少し湿気の残る髪を撫でつける。


「ゆき」「ゆきちゃん」2人がわたしの名前を呼んでくれる。


 胸に重みを感じて目をやるとより姉とかの姉がしがみついて頭を乗せていた。


 姉妹4人に囲まれ、とてつもない愛しさに襲われる。


 切ないような、痛いような、胸が締め付けられるこの想い。なんだろうこれ……。


 みんな大好き。この気持ちには嘘はない。


 だけど今までとは何かが違う。


 だからそんな目でわたしを見つめないで。そんな優しい目でみつめられたら壊れてしまいそうな気がする。


「全員で乗っかられたらさすがに重いよ~」


 冗談ぽくいうことで変わりかけていた空気を元に戻そうとする。


「重くない~。もう少しゆきちゃんに甘えていたいから我慢して」


 ひよりが頭をスリスリしながら甘えてきた。


 よかった。いつもどおりのやりとりだ。


「より姉、かの姉。お腹の中身が出ちゃう」


「失礼な奴だな。くらえ」


 わたしの上に乗せられた頭にぐっと力を入れられた。


「ぐはっ!ごめんごめん!ほんとに中身出ちゃうからやめて~」


「許してほしかったらもう少しこうさせてろ」


 なにその脅迫。


「ゆきちゃん成分をこの旅行でめいっぱい補給させてもらいますから」


 かの姉まで。


 しばらくそのままの状態でじゃれあっていたらいつの間にかひよりが眠ってしまっていた。


 とても幸せそうな寝顔。


 このまま寝かせるとさすがに狭いし、より姉が一人ぼっちになってしまう。


 起こさないようそっと抱き上げて部屋まで連れていくことに。


 より姉とひよりの部屋に着いてゆっくりベッドに寝かせる。起きる気配はない。


 自分の部屋に戻ろうと(きびす)をかえすと後ろからより姉に抱きしめられた。


 より姉はわたしより背が高いから首に腕を回されて、まるですっぽりと包み込まれているかのようだ。


「どうしたの?今日はずいぶん甘えん坊だね」


「旅行に来て少し感傷的になってるだけだよ」


 髪にキスをするかのように顔を埋めてくる。少しくすぐったい。


「まだ待っててやるよ」


「なんのこと?」


 より姉は何も答えない。


 それ以上深くは聞かない。だってわたしにはどうすることもできない……。


 ごめんね、より姉。こんな弟待たなくていいから。そんな価値ないよ。


「それじゃ。部屋に戻るね」


 その空気から逃れるようにそう告げるわたし。


「ああ。また明日な。おやすみ」


 そんなわたしに優しい笑顔を向けるより姉。胸が痛い……。


「おやすみなさい」


 その言葉だけを残してより姉たちの部屋を後にした。



 自分の部屋に戻るとかの姉とあか姉の2人は仲良く同じベッドで寄り添うように眠ってしまっていた。


 そこわたしが寝てたベッドなんだけどな……。

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