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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第77曲 初めての5人旅行

 我が家から軽井沢はそんなに遠方というわけではないので、新幹線は使わず快速と鈍行を乗り継いでのんびりした移動。


 それでもみんなはしゃいでいて、さながら小学校の遠足のような賑やかさ。


 さっき駅弁を食べたばかりなのにもうおやつに手を出している。


 わたしももちろん食べてるけどね。甘いものは別腹。


 夏休みと言えど平日、しかも地方へ向かう快速電車なので乗客もまばら。


 車窓を流れていく景色もどんどん緑が増えてきて、遠くには田園風景が広がるように変わっていく。


 そんな移り変わりが旅行に来たという気分をさらに引き立ててくれて、否が応にも気分が上がってしまう。


 トンネルへ入るたびに耳がツーンとするような、普段なら不快に感じるようなことも旅行に来ていると思えば楽しい経験。


「アハハハ、ゆき見てみろよ。スゲー田舎だ」


 無邪気にはしゃぐより姉がなんだかかわいい。


 そりゃ標高1000mの高原に登っていくんだから道中は田舎に決まってるんだけどね。


「ゆきちゃん、そのお菓子ひとつちょーだい!」


「いいけど、代わりのものをなんかよこせ」


 おやつの交換なんかもして、本当に小学生に戻ったみたいだ。


 電車の窓は閉まっているけど、だんだん標高が上がっていくにつれて温度が下がっていくのがわかる。


 標高が100m上がるごとに温度は0.6度下がるから1000mなら6度。そこに軽井沢ならではの高冷地気候が加わって真夏でも20度前後という過ごしやすい気温が避暑地として昔から人気がある理由だ。


 朝晩は逆に冷えることもあるそうなので各自1枚上に羽織れるものを用意してある。


 車内でも賑やかに楽しく過ごしているとすぐに軽井沢に到着。


「うわぁ本当に涼しいー!」


 信じてなかったのか、ひより。


「そりゃ避暑地だからねー。でも本当に過ごしやすい気温で気持ちいいねー」


 高原の空気はとても澄んでいて快適。これが「空気が美味しい」というやつか。確かに美味しいという表現が一番しっくりくる爽やかな空気だ。


 ちょうどチェックインの時間までもう少しだったのでまずはホテルに直行。


 荷物を置いてから軽く観光することにした。本格的な散策は明日にして今日は街並みを見て回ることに。


 銀座通りはレトロと現代が融和した趣のある街並みで見ているだけでも楽しいが、たくさんあるお店で食べ歩きをするのも旅の醍醐味だ。


 お土産屋さんもたくさんあってご当地グッズをあれこれ見ては笑いあう。


 ただ時間もそんなになかったのである程度見て回った後にホテルに戻った。


 ヴィラの中もとても快適で、すこしはしゃぎ疲れたわたし達はしばしのんびりタイム。


 やがて夕飯の時間になったのでレストランに移動すると提供されたのはビュッフェ形式。


 好きなものを自分で選べるので好き嫌いの多いより姉にとっては天国だろう。


「そんなに物珍しいものがあるわけじゃないけど、旅行先で食べる料理ってなんでこんなに美味いんだろーな」


 上機嫌でローストビーフを頬張るより姉。口の端にソースついてるよ。


 それにしても銀座通でも結構食べたのにみんなよく食べる。何回お替りしに行ったことか。


 みんなすっかり満腹になるとヴィラに戻って再度まったりモード。


 誰も話をしようともしないけど、みんなで旅行に来てこうやってゆっくりできているだけでも十分に幸せを感じる。


 みんなの顔を見れば同じような事を考えているんだろうなって表情。


 満足げなその顔を見ていると、来てよかったなって心から思う。


 いつかまた来られるのかな。


 お腹がこなれてきたところで温泉に浸かろうという話に。


 わたしはこんな体なので大浴場に行くと騒ぎになってしまう。だから事前に家族風呂を予約しておいた。


「家族風呂ってことはわたしたちも一緒に入れるんじゃないですか?」


「ばっ!何言ってんのかの姉!?一緒になんて入れるわけないでしょ!」


 突拍子もない言葉に思わず赤面してしまった。


「家族風呂なら混浴してもいいじゃねーか」


 そう言って肩を組んでくるより姉。いいわけねーじゃねーか!


 絶対面白がってるだけだろ。そのニヤけた顔をやめなさい。


「だったらわたしもゆきちゃんと入りたい!」


 ひよりまで乗ってきた。こうなると当然……。


「……」


 服の裾をちょんとつまんで無言アピールしてくるあか姉。最近なんかあざと可愛いんだよなぁ……。


 いやいや、そんなこと言ってる場合じゃない。


 みんなでお風呂なんて冗談じゃない。


「みんなでなんて入れるわけないでしょ!わたし男なんだから!毎度毎度忘れんな」


「何言ってんだ。タオルで隠せばどうってことねーだろ」


 どうってことあるよ!


「お風呂にタオルを浸けるのはマナー違反!それにそういう問題でもない!」


「じゃあどういう問題なんだ?」


 耳元で楽しそうにささやくより姉。わたしに何を言わせたいんだ。


「悪ノリしてないでとっとと大浴場に行ってきて! 家族風呂よりずいぶん広いからみんなでゆっくりしておいで」


「へいへーい」


 ようやくお風呂セットを用意して準備にかかる姉妹たち。


 危なかった。


 より姉とかの姉はまだわたしのことを話題にしながら楽しそうに2人で先に行ってしまった。


「それじゃ、行ってくるね!ゆきちゃん」


「しっかりあたたまるんだよ、ひより」


 頭をくしゃくしゃと撫でてあげながら送り出してあげる。


「ゆきものぼせないよう注意」


「ありがとう、あか姉」


 部屋の鍵を渡してこれで全員送り出した。


 確かに一人だからのぼせて倒れでもしたら一大事だ。つい長湯をしがちだから気をつけないとね。


 自分の用意をしてから上の階にある家族風呂へと向かう。


 衣服を脱ぎ去り、きれいにたたんで脱衣かごに収める。


 浴場へと続く扉を開くと立ち込める湯気がまとわりつき、温泉特有のミネラルを含んだ匂いが鼻孔をくすぐる。


「思ったよりひろーい!」


 思わず感嘆の声が漏れる。ホントに家族で入っても十分な広さがあって、これを独り占めなんて少し贅沢な気分。


 浴場の奥を見ると扉があって、どうやら外につながっているようだ。


「露天風呂まであるんだ!あとで入ってみようっと」


 ひとまず髪と身体を洗い、キレイにしてから湯船の縁に腰をかけてお湯に手を浸ける。


 少し熱めなので長時間入っていたらそれこそのぼせ上ってしまうだろう。


 ひとまず内風呂でしっかり体を温めてから待望の露天風呂へ。


「わぁ……キレイ……」


 さすがは高原だ。空が近いうえに街中の光が少ないこともあって満点の星空。


 いつも見ている空とは迫力が違う。


 空を眺めるのを楽しみにしながら露天風呂にそっと足先から入っていく。


 外のお湯はぬるめの設定にしてあるのか、温まった体をふんわりと包んでくれるようでとても気持ちがいい。


 これなら少しくらい長湯をしても大丈夫だろう。


 大きめの岩を見つけたのでそれにもたれかかりながら空を見上げる。


 何度見ても息をのむ迫力がある。広大な宇宙をこんなに身近に感じられるなんてなかなかない機会だ。


 そんな満天の星に視界を覆われていても、わたしの視線が向かうのはやはり何もない真っ暗な空間。


 あの場所にはどんな星が輝いていて、どんな生涯を送っているのだろう。


 力強く、それでいて安定した光を届け続けているのだろうか。それとも光は弱くとも長期間にわたって周囲を照らし続けているのだろうか。


 それともわたしのようにその短い一生をかけて全力で光り輝き、宇宙の隅々まで光を届けようとしているのだろうか。


 いつものように空想にふけっていると、内風呂の方から物音がしたような気がした。


「……?」


 確かに鍵はかけた。だから誰も入ってくるはずがない。


 だけど内風呂の向こう側、脱衣所の方に明らかに人の気配。


 泥棒!? わたしは湯船からあがってタオルを体に巻き付けると足音を殺して露天風呂を抜け、脱衣所にそっと近づいた。


「ゆきちゃん、きれいに服たたんであって相変わらず行儀いいねー」


!!!!

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