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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第76曲 姉妹と言えど真剣勝負

「ただいま」


 あか姉がバイトから帰ってきた。


「おかえりー」


 声をかけるとあか姉は笑顔で返事をしてくれたが、そこにより姉がスススと近づいて行って2人で何やらコソコソと話している。


「給料はもらえたな。それで目標金額は?」


 あか姉が無言でサムズアップしている。なんだろう。


 一人遅くなってしまったあか姉のご飯を温めなおしながら様子を伺っているとこちらをちらりとみて微笑む、というよりニヤつくより姉。


 なんか隠し事してやがるな。


 気にはなるけど、先にあか姉のご飯をしてあげないと。


 何を隠しているのか知らないけど、そのうち話してくれるだろう。



 あか姉の食事も済んで、家族団らんでまったりしていると雑誌を片手により姉が自分の部屋からパタパタと下りてきた。


 なんだか得意げな顔をしている。


 より姉の今日の表情、なんかイラっとする。


 そしてわたしの前に仁王立ちするとその得意げな表情を緩ませた。締まりのない顔。


「ゆき、旅行に行こうぜ!」


「はぁ?」


「……」


「……」


「いやなんか反応しろよ!」


 しびれを切らしたより姉がそう叫ぶけど、何がなにやらわかっていないわたしにリアクションを求められても困る。


 こっちはその先の説明を待ってるんだけど。


「依子さんのプレゼンって絶望的ですね」


「全く伝わってない」


 かの姉とあか姉の言う通り、突拍子もないことを言い出すのは昔からだけどさっきのはちょっと意味が分からない。


 旅行に行こうってのはわかったけど、どこへ?どうやって?


「こりゃより姉に任せておけないなぁ。あのね、ゆきちゃん。みんなゆきちゃんと旅行に行きたくてアルバイト頑張ってたんだよ」


 なるほど合点がいった。


 ようするにバイトをして旅行資金を稼いでいて、それが貯まったから旅行に行こうということね。


 最初からそう言ってくれればいいのに。


「で、どこへ?」


 主語も目的語も抜けてしまいがちなより姉のためにこちらから質問をしてあげる。


 ようやく自分の番が回ってきたのが嬉しいのか、さっき持ってきた雑誌を広げながら得意満面で説明を始めた。


「場所は日本の避暑地、軽井沢!5名1室のヴィラで温泉もついてるぜ!」


「いいね!で、みんなはアルバイトをしてたからいいけど、ひよりの分はどうするの?」


 この中でひよりだけがアルバイトをできないからそこが気になる。


「ひよりとゆきの分はあたしら3人が分担して……」


「ダメだ」


 いつものより姉の真似をしてダメ出し。


「最後まで言わせろよぉ……」


 フンだ。いっつもわたしの提案にダメ出ししてたお返しだよ。


「自分の分は自分で出します。あとひよりの分もわたしが出すから」


「なんでだよ!せっかく5人分のお金貯まったのに」


 その気持ちはすごく嬉しいよ、より姉。でもいつも自分が言ってたんでしょうが。


「自分の分は自分で負担するのが当たり前、でしょ?」


「ぐぅ」


 人間意外とぐうの音って出るもんだな。


 でもさすがに常日頃自分が言ってることだから反論はできない様子。


「ひよりの分はなんでゆきが出すんだよ」


「わたしが一番お金持ってるから」


 ここで厳しい現実を叩きつける。


 Vtuberデビューしてすぐに収益化が認められたわたしは以後もずっと収入があって今ではそれなりの金額が貯まっている。


 中学生の分際でそんなにお金を使うこともなかったし、自分で言うのもなんだが物欲は薄い方だと思う。


 使い道のないお金は貯まっていく一方なので、全員分の旅費を出すのだって余裕だ。


 そんな現実を突きつけられたより姉は撃沈。


 もともとわたしはみんながアルバイトをすることには反対だったんだ。


 姉たちが選んだアルバイト先は喫茶店やファーストフードなんかの接客業ばかり。


 こんな美人姉妹が接客業なんてやったら悪い虫が寄ってこないか心配だったから。


 わたしが反対したにも関わらずアルバイトを強行したんだからこれくらいの意趣返しはいいよね。


 反対の理由は恥ずかしいから本人たちには内緒だけど。


「ゆきちゃん、より姉たちが無理やりバイトしたことへの仕返しでしょ」


「知らない」


 ひよりはなんとなく気が付いているようだ。


「ヤキモチ焼きなんだから」


 いや、バッチリ見抜かれてた。


「うるさい。生意気言うとお土産代あげないよ」


「ごめんってば。でもそんなゆきちゃんもかわいくて好きだよ」


 どこがかわいいんだか。ただのヤキモチなのに。


「もう予約はとってあるの?いつ?」


 わたしの質問により姉が息を吹き返した。


「おう!来週の平日に2泊3日で予約を入れてあるぞ!お父さんとお母さんにもちゃんと言ってあるから」


 両親も知ってたのか。またわたしに黙ってコソコソと……。


 でもわたしを喜ばせようとがんばってアルバイトまでしてくれたんだ。そこは素直に嬉しいよ。


 だけどみんなが出かけるたびにモヤモヤしてたこの気持ち。なんでわたしはヤキモチなんて焼いてるんだろう……。


 そりゃわたしの4人の天使様たちのことは大好きで仕方ないけど、家族なのに。


 いつかはより姉たちも素敵な相手を見つけてこの家を出ていくんだから。


 なんだか胸が痛い。寂しいのは仕方ないとしてもこの胸の痛みはなんなんだろうか。


 より姉たちにはちゃんと将来があるんだから祝福してあげないといけないのに。


 わたしの分まで幸せになってもらわないと困る。


「ほらほら、部屋はこんなん。いい感じだろ?」


 より姉が雑誌の記事を見せてきたので思考を中断して覗き込む。


 そこには窓から庭の景色が一望できそうな広いヴィラの室内風景の写真が載っている。


 手軽に楽しめる別荘体験。でも本館も利用できるので温泉なども楽しめるようだ。


「ここってベッドルームはいくつあるの?」


「あ」


 調べてなかったんかい!


 いや、そこけっこう重要なとこでしょ? わたし男だからね?


 雑誌には掲載されていなかったので、直接ホームページにアクセスして調べてみたところ。


「2部屋……」


「じゃー4人で1部屋使ってね」


 当然そうなるに決まってる。男女7歳にして同衾せずってね。


「なんでだよ!」


「3:2で分かれればいい」


「すこしでも広く部屋を使いたいです」


「ゆきちゃんと一緒に寝たい!」


 他の3人はオブラートに包んでるのに相変わらずど真ん中ストレートだね、ひよりは。


 でもまぁそれなりの広さはありそうだし、離れて眠れば大丈夫かな。


「それじゃ、誰と誰が同室にするの?」


 わたしのその一言で姉妹たちの間に緊張感が立ち込める。なんだこの張り詰めた空気。


 一触即発のただならぬ気配を漂わせ、牽制しあう姉妹たち。


 喧嘩はしちゃだめだからね?


「こういう時、日本人でよかったと思うよな」


「そうですね、古来より受け継がれた公平な解決方法がありますもの」


「覚悟はできた」


「それじゃ、みんな用意はいい?」


 顔を見合せ、頷きあう姉妹たち。


 部屋決めだけでどれだけ盛り上がるつもりだ、この人たち。


 傍観者として少し呆れながらその様子を眺めるわたし。


「それじゃいくぞ!じゃーんけーん!」



「ゆきちゃんと一緒がよかったよーしくしく」


「世の中理不尽なことばっかだ」


 理不尽て。じゃんけんなんだから十分に平等でしょうが。


 地獄に叩き落とされたような顔をしている2人とは対照的にすっかりご機嫌になっている勝利した2人。


「ウフフたのしみですぅ~」


 かの姉なんかちょっと怖い。


「……」


 無言でニヤついてるもっと怖い人がいた。あか姉……。


 旅行ってこうやって準備してる時間も楽しいんだよね。


 生徒会長としての仕事も切り詰めればなんとかなるし、投稿用の動画だけは撮りためて旅行先からでもアップできるようにしておかないとな。


 部活応援の方も夏の大会もほとんど終わって落ち着いてきた。


 来週は男子バスケ部の試合があったけど、1回くらいはわたしが居なくても大丈夫だろう。


 ごめんね、男バスのみんな。


 もうわたしの意識はすでに軽井沢に飛んでいってしまったよ。


 涼しい環境ときれいな景色に美味しい料理。


 そういえば両親がいない5人だけで旅行というのも初めての経験だな。


 みんなの心にいい思い出として残るといいけど。


 これは来週が楽しみで仕方ないな。



 待ち遠しくて長く感じる時間もワクワクした気持ちが上回り、忙しさもあいまってあっという間に出発日を迎えた。


 各々キャリーケースを持って全員が外に出たところでわたしが玄関に施錠。


「それじゃ、いってきます!」

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