第7曲 初配信、そして知らぬは本人ばかりなり
ゆきちゃんがスタジオに入ったのをしっかりと確認すると、より姉がわたしに尋ねてきた。
「それでひより、こっちの手筈は整ってるのか?」
もちろん抜かりはないとばかりに笑顔でサムズアップ。
ゆきちゃんのことに関してはわたしに任せてもらえれば万事大丈夫。マネージャーかってくらい予定を細部まで把握してる。
スマホを取り出し、動画アプリを立ち上げる。そこに表示されている配信者のチャンネル名『雪の精霊/YUKI』
「そのまんまじゃねーか! 隠す気ほんとにあんのか?」
わたしもまさかとは思っていたんだけど、ものは試しと検索してみたら一発で見つかったので思わず笑ってしまった。普段から自分を雪の精霊だって言ってるのにそのまんまって。
これでわたし達には秘密にしておきたいって言うんだから、どこまで本気なのか疑っちゃうよね。
「完璧人間なのに変なところで抜けてやがる」
まぁそういうのもゆきちゃんのかわいいところなんだけどね。
「天然さんなのかしらね」
かの姉もくすくす笑いながらスマホを操作してる。
「記念すべきゆきの初配信はスマホじゃなくて大画面で見たい」
「ナイスアイデア、さすがあか姉! テレビにつなげるね」
アプリを使ってスマホをテレビ画面にリンクさせたところで配信開始三分前。
今頃ゆきちゃんはどんな気持ちでいるんだろうな。
不安半分ワクワク半分ってところかな?
わたしもまたこうやって画面の向こうにいるゆきちゃんを見ることのできる日が再び訪れたことをとても嬉しく思っている。
子役の頃から画面の向こうでキラキラと輝いているゆきちゃんを見るのが好きだったから、突然引退したときは寂しくて、わたしの方が泣いちゃったくらいだったもんね。
アメリカではヒットしなかったせいですぐに活動休止しちゃったから、テレビで見る機会もほとんどなかった。
媒体は変わったけど、こうして画面越しにキラキラするゆきちゃんをまた見ることができる。ゆきちゃん本人よりわたしの方が嬉しさで興奮してるかもしれない。
「始まるよ」
カウントダウンが終わって画面が切り替わり、さっきゆきちゃんに見せてもらったアバターが画面に大きく映し出された。おー動いてる!
『見に来てくれたみなさん、はじめまして~! わたし、今日からVtuberとしてデビューしました雪の精霊、YUKIです! 初配信なのに160人も来てくれたんだね! ありがと』
絵師さんの最高傑作だけあって確かにかわいいし、コメントを見ていても見た目の賞賛がたくさんある。でも、なんというか……。
「毎日あの顔を見ながら話してるからあんまり意識したことなかったですけど、ゆきちゃんって声もかわいいんですね」
そう! いざ声だけに注目して聞いてみると抜群にかわいい。
多少余所行き用の声を作ってはいるものの、聞いてるだけで癒されるような、笑顔になれるような。
ドキドキする。
「声だけで十分お金とれる」
違いない。ゆきちゃんの声にはそれだけの魅力がある。Vtuberでも十分人気が出るだろう。
「その声で毎朝起こしてもらってるあたしらは幸せもんだな!」
より姉の言う通り、ゆきちゃんに朝起こしてもらうと目覚めがいいのも、このかわいい声を聴くことができるからかもしれない。
コメント欄も最初はキャラの見た目への反応だったけど、ゆきちゃんが自己紹介をするとコメントの内容も変わっていく。
【これは声とキャラが見事にハマってますな】【カワユス】【耳が幸せ~】【推し決定】
声に対する評価も好評なものばかりで、みるみるうちにチャンネル登録者が増えていく。
その流れに便乗してわたしもちゃっかり登録。お姉ちゃんたちもこのタイミングを逃さずにしっかりチャンネル登録をしたみたい。
「これでまたゆきちゃんを愛でる機会が1つ増えたね」
「好きな時に聞けるのがいい」
「こりゃ睡眠用にもいいかもな」
「ゆきちゃんにはバレないようにしてくださいね」
本気で隠す気があるのか疑うレベルのチャンネル名だけど、本人が恥ずかしがってるのだから知らないふりをしてあげるのも思いやりだよね。うん。
賞賛のコメントとはじめましてのあいさつが落ち着いてきたころにゆきちゃんの絵を描いた絵師さんからコメントが入った。
【日向キリ:配信開始おめでとう! この日が来るのを指折り数えて心待ちにしてました】
ただの祝福コメントにしては熱量が高いような。
『キリママも来てくれたんだ、ありがとう! みんな、YUKIの産みの親のキリさんです! 以前からわたしの推しの絵師さんなんだ!』
キリさんは絵師界隈でもそれなりに名前が通っているらしく、最初は【おぉキリさんの絵だったのか】【キリさんの絵ワイも好き】なんてコメントが並んでいたけど、そのうち【でもなんか今までの作品よりクオリティ高くない?】【めっちゃ丁寧に書いてある感ある】【レベチでかわいいやん】という意見が出てきた。
【日向キリ:とある事情により、YUKIちゃんの絵は全力を注いで書き上げた最高傑作です】ということなので、知っている人なら誰の目から見ても分かるくらい気合の入れようが違うみたい。
本当に頑張ってくれたんだと、ゆきちゃんの身内としては感謝の言葉しかない。
『わたしも仕上がった絵を送ってもらって一目で気に入っちゃったよ! キリママありがとう!』
【日向キリ:YUKIちゃんのおかげで絵師としてワンランク上がった気がする。こちらこそありがとうだよ】
それだけ苦労したんですね、お察しします。
リスナーの人たちはよく意味が分かってないみたいだけど、わたし達姉妹にはキリさんの苦労が良くわかる。
ゆきちゃんのかわいさを2次元に落とし込むなんてマジ無理ゲーだよね、ほんとお疲れさまでした。今後のさらなる飛躍と活躍が楽しみです。
『挨拶も終わったところで、今後の活動方針を発表します! わたしのチャンネルの主なコンテンツは歌とダンスです!
いいネタがあれば何か企画ものをやるかもしれないけど、メインはあくまで歌とダンス。
基本はわたしが自分で作った曲を歌うけど、リクエストがあれば歌ってみたや踊ってみたもやってみたいかな。
リクエストはボカロなんかの著作権のないものに限らせてもらうけど、希望があればSNSの方にどんどんメッセージくださいね。
生配信は毎週土曜日の二十一時予定! 初回はいきなり明後日だね! 動画投稿は月金と週2回を予定してるよ!』
これでわたし達姉妹も、毎週土曜夜の予定が決まった。ゆきちゃんの生配信を見逃すわけにはいかない。
【毎週新曲をだすの?】【ふつーに無理じゃね?】
まぁ常識的に考えて毎週新曲を出すとか無理だよね。でもゆきちゃんはそのへん普通じゃないからなぁ。
『途中リクエストなんかも受けるつもりだし、どうしても間に合わなかったら他の曲もやるつもり。だけど作り貯めてある曲がそこそこあるんでしばらくは大丈夫だと思う!』
【ダンスも自分で?】
ゆきちゃんは歌ができたころにはもうダンスもできている。
横で見ていたら神業にしか見えない。
『そうだよ! 曲を作りながら同時に頭の中で振り付けもできていくからそんなに苦にならないし』
当然のことのように言ってるけどそれが一般的なわけもなく。
【え、それって普通なん?】【いやフツーじゃねっしょ】【天才?】【そういえば昔、曲歌詞ダンス全部自分で作っちゃう神童子役っていたよな】
当然そうなるよね。
そんなことを簡単にできる人がゴロゴロいてたまるか。いきなり核心つかれてゆきちゃん動揺中。
『そ、そうなんだ! 世の中上には上がいるもんだね! あははは』
誤魔化すの下手か。とりあえず落ち着け。
『こないだアメリカから日本に帰ってきたばかりで、芸能関係とか疎いから知らなかったよ。わたしも負けないようにがんばってみんなに歌声を届けていくね!』
「……これ誤魔化せてんのか?」
より姉が疑問に思うのも分かる。だよねぇ。
「さぁ……。突っ込みがないからある程度は信用されてるのかな? アメリカに渡ったっていう情報までは一般に出回ってないだろうし」
「名前もそのまんま。バレるのは時間の問題……」
「バレようがバレなかろうが、人気が出るのは間違いないですね~。こんなにかわいいんですもの」
それについては同意。容姿と声、両方とも受け入れられてるし、なによりゆきちゃんの歌を聞いて魅了されない人なんていないもんね!
歌声を聞いた後のリスナーさんの反応が今から楽しみで仕方ない。
『それじゃ、さっそく明後日わたしのデビュー曲を披露しちゃいますね! あと、歌の後に大事な発表もあるのでみんなぜひ見てくださいね~!』
Vtuberとしてのゆきちゃんの初舞台は好印象で終わった。
大事な発表ってなんなのかすごく気になったけど、本人に直接聞くわけにもいかないから明後日の生配信を楽しみにすることとしよう。それよりゆきちゃんが戻ってくる前に証拠隠滅しとかないと。
スマホをポケットにしまい、適当にテレビのチャンネルを変えて何食わぬ顔でちょうど放送されていたバラエティ番組を見ていた風を装う。
途中からだから内容は誰もわかってないけど。
少しして、ゆきちゃんが戻ってきた。
「終わったよ~。緊張したけど楽しかった!」
「お疲れさん。デビューおめでと」
より姉がそう声をかけると、嬉しそうにパタパタとスリッパの音を鳴らしながら小走りで寄ってきて、いつもの指定席にストンと座る。
こんな仕草のひとつひとつもかわいい。
「これからまた歌える。ゆきおめでとう」
「より姉、あか姉もありがと! もうデビュー曲はしっかり出来上がってるし、早くカメラの前で歌いたいよ」
本当に楽しみで仕方ないんだろうな。
子供のように足をぱたぱたさせながら目をキラキラさせている。こうやって生き生きとしているゆきちゃんはやっぱり誰よりも輝いていてかわいいし、キレイでかっこいい。憧れるなぁ。
それぞれが確信をもってゆきちゃんに激励の言葉をかけていく。
「ゆきちゃんならすぐに人気者になれますよ~」
「応援してるから頑張ってね!」
姉妹全員が必ず人気者になれると信じて疑っていないのだ。
「かの姉ありがとう。ひよりもありがとうね! お兄ちゃんいっぱい頑張るからいっぱい応援してね!」
そう言って隣にいるわたしの頭を撫でてくれる。
むふ~、顔の筋肉が緩んでしまう……。ゆきちゃん大好き!
「ひよりちゃんだけズルいです!」
「私も頭ナデナデ所望」
二人の姉から苦情が出ると、ゆきちゃんは飛びつくように抱き着いていって、両手を使って頭を撫でてあげている。
二人ともだらしないくらい表情が緩んでるね。さっきのわたしも同じような顔してたんだろうな。
より姉は微笑ましい光景を見るかのような笑顔を浮かべて珈琲をすすっている。
元の位置に戻ってきたゆきちゃんは何も言わずハグしてナデナデ。そういったところはさすがだね。
「ちょ、わたしは頼んでねーぞ」
そんなこと言ってるけど顔が緩みまくってるよ。
「顔に書いてあったもん」
ゆきちゃんに強がりは通用しない。
些細な表情や仕草から分かるのか、人の心が読めるんじゃないかと思うくらいこちらの気持ちを的確に読んでくる。
寂しかったり、悲しかったりした時、ゆきちゃんは決して見逃さずに声をかけてくれる。相談に乗ってくれることもあれば、何も言わずそばにいてくれることもある。
こちらがしてほしいと思うことを何も言わなくてもしてくれるの。
逆にいいことがあって喜んでいる時も一緒になって自分の事のように喜んでくれる。
そうやって一人一人の心にきめ細かく寄り添ってくれるところがゆきちゃんの本当の魅力なのかもしれない。
ゆきちゃんが隣にいてくれるだけで安心できる。そういうところも含めてわたし達姉妹は全員ゆきちゃんのことが大好き。
姉妹同士も十分に仲がいいんだけど、なんだかんだで中心にはゆきちゃんがいることの方がほとんど。誰もブラコンであることを隠そうともしない。
こんなにわたし達に溺愛されているゆきちゃん、きっと世間からも愛されるだろうな。
ゆきちゃんの魅力の前では老若男女問わずメロメロに決まってる!
初配信でテンションの上がったゆきちゃんが可愛すぎて、つい遅い時間まで盛り上がってしまった。
これから頑張って! わたし達はいつでも見守ってるからね。
* * *
それから何事もなく日は過ぎて、金曜日の放課後。
明日はお休みということもあり、たくさんの生徒が残っておしゃべりしたり休みの日の予定を約束したりしている。
喧騒の中、わたしの名前を呼ばれたような気がしてそちらを向くと、男子生徒が数人集まってスマホを覗き込んでいた。
『わたし、今日からVtuberとしてデビューしました雪の精霊、YUKIです!』
うわ、めっちゃ昨日の配信見てる。ちょっと照れるんですけど。
「な!この子めっちゃ可愛いだろ?」
「絵師は日向キリか。俺も推しの絵師だけど、これはいつもよりクオリティが高いな」
さすがキリママの力作! やっぱりみんなかわいいと思うよね!
自分のことのように嬉しい。まぁ自分の分身なんだけど。
「それにこの子の声よ! チョーかわいくね?」
「キャラによく合ってるな」
わたしがまだ中学生ということもあって、キリママの書いた絵も幼い印象だったから意識して少し高めの声で話してよかった。
普段そんなに高い声で話してるわけでもないしこれで身バレすることはないだろう。
「歌とダンスが好きなところといい、名前といい、……広沢っぽくね?」
えぇぇ! そんなあっさり……? 名探偵すぎない?
いやいや、ここは他人の空似ということでしらを切りとおすべし。
ワタシカンケイナイ。心を無にしてやりすごそう。
幸い話をしていたのが男子だけだったので、直接聞かれることはなかった。
女子なら遠慮なく聞いてくるけど、男子はいまだにわたしに対して遠慮がち。
女子はもうみんな『ゆき』か『ゆきちゃん』って呼んでくれるのに男子は全員『広沢』って呼んでくるし。
広沢は各学年にいるんだけどな。
ともあれ余計な火の粉が飛んでくる前にさっさと退散。
* * *
(ゆきとひよりはもう待ってる頃かな)
そんなことを考えながら急いで教科書をカバンに詰め込む。今日は日直だったので時間が遅くなってしまった。
「ねぇ、ちょっといい?」
帰り支度をしているとクラスメートが話しかけてきた。
わたしは普段から無口なのでおしゃべりに興じることは滅多にないが、別に友達がいないとかではなく、時折会話を交わす相手くらいはいる。
「茜ちゃんの弟って、確か自分のことを雪の精霊だって言い張ってるって言ってたよね?」
他の話題なら帰り支度を優先するけど、ゆきのことならいつでも大歓迎だ。他ならぬゆきのことなんだから二人ももう少し位は待ってくれるだろう。
ゆきの魅力はいくら語っても語りつくせない。なんならこのまま明日のホームルームが始まるまで語り続けてもいいくらいだ。
転校初日からその美貌と歌唱力で瞬く間に全校生徒から注目を集めているらしく、姉としても鼻が高い。
ブラコンなのは自覚しているし、隠す気もない。出会ったころからずっと好きなんだからどうしようもない。
そういえば先日、自分を雪の精霊って言い張っているところがかわいいって友人に熱く語ってしまったな。
「うん、ゆきは小さいころからそう言ってる」
「いや、昨日から配信を始めたVtuberがさ、『雪の精霊/YUKI』って名前なんだけど、茜ちゃんの弟さんじゃないかって噂になってるんだよね」
しまった、余計な情報を流してしまったか。でもゆきは普段から口癖のように言ってるからな。
その本人がこんなチャンネル名つけて……悪いのわたしか?
「……お願い、本人には黙っていてあげて」
「やっぱり弟さんなんだね……なんというか、名前安直すぎない?」
「本気で隠す気あるのかわたしも疑問。でも近しい人に見られることは恥ずかしいみたいで、頑なに隠そうとはしてるから」
「けっこうあちこちで噂になってるけど……割と天然なのかな? そゆとこもなんか可愛いし、黙ってた方が面白そうだね。部活や委員会で後輩にも箝口令出しとくよ」
そんなとこもゆきのかわいさのひとつ。またゆきの魅力の片鱗を知る人が増えた。惚れるなよ? あげないからな。
「ありがとう。本人が気づかなければいい。温かい目で見守ってやって」
きっと明日の朝にはほぼ全校生徒が知ってることになってそうだ。
知らぬは本人ばかり。
「よろしくお願い。弟たちが待ってるから帰るね。また来週」
「うん、またね。陰ながらゆきちゃんのこと応援してるからね」
「ありがとう。それじゃ」
クラスメートに別れの挨拶をして校門に向かうと、すでに二人とも待っていた。
「ごめん、日直で遅くなった。待った?」
「ううん、そんなに待ってないし大丈夫。日直だったら仕方ないしね」
ゆきの様子を伺うにVtuberの件は本人の耳には入ってないのかな。
「二人とも今日は何の問題もなかった?」
それとなく話題になっていないか探ってみる。
「今日は何事もなくいたって平和な一日だったよ。さっそく昨日の配信を教室で見てる生徒もいたけど、わたしだとはバレてないみたいだし」
あー、本人から何も言わないし、クラスメートもきっと気を遣ってくれたんだろうな。良い友達に恵まれてよかったな、ゆき。
無邪気な顔して笑ってるけど、今頃校内はおまえの噂でもちきりだよ。
「どうしたの? なんか切なそうな眼をして」
「いつも思うけどゆきちゃんってよくあか姉の表情の変化に気づくよね」
「そう? わかりやすいよ?」
そんなことを言ってくれるのはゆきだけだ。
大体の人たちはわたしが何を考えているかわからないと言う。
生来の観察力の鋭さもあるだろうけど、それだけじゃなくいつもわたしのことをよく見てくれているということなんだろう。
それはそれで嬉しいんだけど、そんな頭のいいゆきが、まさか普通に考えたらバレるってわかりそうな安直なチャンネル名をつけるなんて。
普段の完璧さとのギャップがたまらない。不憫かわいい……。
「あれ? 今度は哀れむような目でわたしを見てない?」
「気のせいだ」
ほんとよく見てるな。大丈夫、どんなことがあってもお姉ちゃんはゆきの味方。何かあったときにはフォローくらいはしてやるから。
帰り道、少し歩調を遅らせてゆきと距離をとり、本人に聞こえないくらいの声でひよりが尋ねてきた。
「あか姉のクラスでも噂になってた?」
それだけでひよりが何を言いたいのかわかってしまう。やっぱりすでに全校生徒に広まってるであろう確信が持てた。
「うん。口止めしといた」
「わたしもみんなにお願いして本人には伝わらないように頼んだよ」
「世話のかかる弟だ」
「そんなこと言いながらあか姉笑ってる。さすがにその顔はわたしにもわかるよ」
「そんな抜けたところもかわいいから」
「ほんとゆきちゃんは何をしてもかわいいよね。かわいいのオバケだ」
そんなことを話していると前を歩いていたゆきが振り返って声をかけてきた。
「ちょっと二人ともそんな後ろで何してんの~? ひとりにしちゃイヤだよ」
少し話し込みすぎたみたいで、距離が開いてしまい不審な顔をしている。
こんなことでバレてしまっては何のために口止めをしたのかわからなくなるというものだ。話は打ち切って何事もなかったように追いつく。
「ゆきは後ろ姿も美人だなってひよりと話してた」
「そうそう、全距離全方位どこから見ても隙がないなって」
「なにそれ。そんなおだてても晩御飯のおかずが好きな物になるくらいだよ」
「それは十分なご褒美だ」
ゆきが作るご飯プラス大好物となれば最強の組み合わせで自然とテンションが上がる。ひよりは飛び上がって喜んでるくらいだ。
そんなことを言われたら遠慮なく好きなものをリクエスト。
ゆきの作るものは何を食べても美味しくて、それこそ高級レストランにでも行かないと食べられないくらいレベルが高いのだけど、それが好物ともなれば格別だ。
ひよりはハンバーグを、わたしは海老フライ。
ゆきは上機嫌で「期待しといて」と言うが毎日のご飯自体が期待度最大。
こうして毎日愛情たっぷりで作ってくれた美味しいものを食べられることが、いかに幸せな事かをゆきはわたし達に教えてくれる。
こんな他愛のない日常会話も、ゆきと話しているというそれだけのことで楽しくて幸せで、愛しさがあふれて止まらない。
いつも変わらず仲良しでいられることを誰かに感謝したいくらいに嬉しくて、いつまでも姉弟仲良く楽しい毎日が続いてほしい。わたしは切に願う。




