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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第1章 充電期間

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第39曲 クリスマスの奇跡

「ただいまぁ~」


 買出しを終えて家に戻るとリビングはすっかりクリスマスムード。


 神経を集中させると色とりどりの飾り付けがなされているのが見える。


「わぁ~キレイ……」


 思わず感嘆の声が漏れると、ひよりが子犬のように飛びついてきた。


「ゆきちゃ~ん!おかえり!ねね、聞いて!壁の飾り付けはぜんぶわたしがやったんだよ!キレイでしょ!」


 褒めて褒めて。


 ひよりに尻尾が生えているのが見える。ブンブン振ってまぁ嬉しそうだこと。


「えらいえらい。うん、とってもキレイに出来てるよ」


 頭を撫でてあげると満面の笑みでさらに嬉しそう。ちぎれそうなほど激しく振られた尻尾が見えるよ。


「クリスマスツリーはわたしが全部やったんですよ」


 かの姉からも見える褒めて褒めてオーラ。


「ツリーもキレイにできてるね!イルミネーション点けるのが楽しみ」


 かの姉も頭を突き出してきた。はいはい。なでなで……。


「ゆき、ちゃんとケーキ取ってきた。型崩れもしてない」


 あか姉はさすがに頭を出してきたりはしない。


 でも目がキラキラしていて言葉以上に雄弁だ。


 あか姉にも優しくなでなで。目を細めて堪能してる……かわいい。


「ゆき~!重い~ちかれた~。早く片付けてゆっくりしよ~」


 キッチンで荷物を置いたより姉が疲れた様子でへたり込んでる。も~仕方ないなぁ。


 床に座っているより姉の前にしゃがみこんでなでなで。


「だからわたしは頼んでねーだろーが」


 そんなこと言いながらもやっぱり嫌がったりせずに黙って撫でられている。


 ほんとうちの姉妹たちはみんなかわいいな。


 明日はクリスマスイブ。


 こんな素敵な人たちをみんな幸せにしてあげて欲しいなと願う。


 サンタさんに願うようなことじゃないけど、わたしには……やめておこう。こんな日に考えるようなことじゃない。


「下ごしらえするものはわたしが片付けるから、残りを冷蔵庫に入れてくれる?」


 気持ちを切り替えてより姉にそう伝えると「あいよー」と言いながらもそもそと動き出した。


 わたしはじゃがいもやにんじんなんかの下ごしらえできるものを取り出して皮をむいていく。


 明日のイブは家族でクリスマスパーティー。


 献立は食べやすく切ったチキンハーブ焼きにクリームシチューがメイン。


 チキンレッグも考えたけど、みんなもう年頃の女の子なんだから鳥の足にかぶりつくのもどうかと思って一口サイズに切り分けた。


 あとはマッシュポテトやフライドポテトをリクエストされたのでそれも作る。


 女の子ってお芋好きだよね。


 ちょっと野菜が足りないので野菜やフランスパンを一口サイズに切ってチーズフォンデュも。


 さすがにこれだけあればお腹いっぱいになるだろう。


 別腹だろうけどケーキもあることだし。


 交換用のプレゼントも用意したし、これで明日の準備は完了。


 明日は帰国後初のクリスマス。


 キリスト教が国教でもある本場アメリカとは売っているものも街の雰囲気も違ったけど、日本で暮らした期間の方が長いわたし達にとってはこっちの方がしっくりくる。


 今年も家族全員でクリスマスを迎えられることに感謝しながら明日の準備にいそしんだ。




 そして迎えたクリスマスイブの朝。


 朝と昼は簡単な食事で済ませ、夜までの時間をそれぞれ思い思いに過ごす。


 今日はわたしも朝にボイトレだけすませてからは配信の事を忘れてリビングでみんなに囲まれて本を読み過ごすことにする。


 イブの日くらいは家族最優先。


 でないとみんな拗ねちゃうし。


 クリスマス当日は配信をするって言ったらブーイングされたぐらいだし、今日までスタジオごもりしてたらまた大変なことになりそうだ。


 まぁそれは言い訳で今日はわたしがみんなと過ごしたいんだけどね。


 特にワイワイとおしゃべりするわけでもない。


 ただみんなが同じ場所に集い、好きなことをして過ごしている。こんな平穏な時間がとても温かくて優しくて好き。


 当たり前こそありがたいということを失って初めて気づいても手遅れだ。


 日常という、ともすれば当然の事として流してしまいがちな時間こそわたしは貴重だと思う。


 いずれ失ってしまうわたしにとってはなおのこと。




 そして迎えた夜。


 キリスト教では日没から次の日没までを1日としていた。だからクリスマスイブの夜は本来イエス・キリスト生誕当日になる。


「メリークリスマス!」


 声を揃えて言ってからそれぞれが手に持ったクラッカーの紐に手をかける。


 ちょ!みんな揃ってこっち向けんな!こわいこわい!


 ぱぱぱぱぱーん!


 紙吹雪とテープが宙を舞い、ほぼ全てがわたしに降りかかる。わたし紙まみれ。いや笑い事じゃないよ。


 まぁみんな楽しそうで何よりだけど。どうすんのこれ。


 まとわりついた紙テープの回収をみんなが手伝ってくれてどうにか元通りになった後はいよいよごちそうの時間。


 わたしが心を込めて作った数々の料理。


 みんな美味しい美味しいと言って幸せそうな顔を見せてくれる。


 わたしにとって至福の時間だ。


 日常も大切だけどこんな賑やかな時間も楽しい。


 こらこらより姉、そんながっつかなくても誰も取らないから落ち着いて食べなさい。美味しそうに食べてくれるのは嬉しいけどさ。


 ひよりも口のまわりにソースついてるから!紙ナプキンで拭いてあげるからジッとしなさい。


 あか姉は黙って食べてるけど、取り皿てんこ盛り。ちょっとよそ見をしていたらあっという間にそれが消えていた。マジか。


 かの姉だけは上品に食べ……ってリスみたいになっとる!ちゃんと噛めるのそれ?


 賑やかな食事の時間はあっという間に過ぎて、ケーキもしっかり堪能。むふふ、ケーキ美味しい。


 そして迎えたプレゼント交換の時間。


 わたしが受け取ったのはかわいらしいロゴがプリントされた革製のしおり。


 みんな本が好きだから、誰に当たっても使えるものを選んだんだろう。


 さりげなくこういう気づかいをするプレゼントを選んだのはより姉だな。


 わたしが選んだのはシュシュ。


 みんなわたしほどではないけど髪が長いので腕に巻いても髪をまとめるのにも使えるかと思って選んだ。


 みんな女の子だから毎年プレゼントには何を選ぶかすごく悩む。わたし、男だから!


 プレゼントで当たったしおりを眺めていると、より姉が立ち上がってわたしのところまで来てキレイにラッピングされた箱を渡してきた。


「え?プレゼントはもうもらったよ?」


「これはまた別だ。今日もすごいごちそう作ってくれたし、普段からのお礼みたいなもんだよ」


 照れくさそうにそっぽを向きながらそう言ってプレゼントを押し付けてくる。


「わたしも用意したよ!」


「わたしからも」


「もちろんわたしも用意してますよ」


 より姉だけじゃなくかの姉、あか姉、ひより、全員から同じようにプレゼントを差し出される。


「そんな、わたしみんなの分用意してないのに」


「ゆきちゃんまでそんなことしたらみんなが全員分のプレゼントを用意しなくてはいけなくなります」


「さすがにそんなお金ないよー!」


「これはお礼。だから黙って受け取る」


 わたしの腕におさまった大小さまざまな4つのプレゼント。こんなことされたら……。


「嬉しすぎるよ……。みんなのバカぁ……」


 感極まったわたしを見て4人は顔を見合せ微笑んでいる。そしてより姉が合図をするかのように「せーの」


「「「「ゆき(ちゃん)、いつもありがとう!」」」」


 きれいに揃っていないけど、気持ちのこもった感謝の言葉。


 なんなのこの人たち。どうして……。どうしてこんなに温かいの……。


「こちらこそ!みんな大好きだよ!」


 目に涙をいっぱい溜めて、今できる最高の笑顔で精いっぱいの言葉で感謝を伝える。


 神様、素敵なクリスマスをありがとう……。

 


 クリスマスには奇跡が起きるという。


 みんなにとっては当然のことかもしれないけど、わたしにとっては十分に奇跡だ。


 ただここにいられる、そのことが。



「はぁ~いっぱい食べて満足!もう動けない」


 片付けも終えてソファーに座るとさっそくひよりが横に座ってしがみついてきた。


 ふと膝に重みを感じて目をやるとより姉がわたしの太ももを使って膝枕をしている。


 そして間髪入れず背後から感じる気配。かの姉とあか姉が2人同時に後ろからわたしの首に腕をからませ抱き着いてくる。


「ちょ?急にどうしたの?」


 誰も何も答えず、わたしの体温を確かめるかのように黙って寄り添っている。


「クリスマスイブはまだ終わっていませんよ」


 後ろからかの姉の優しい声が聞こえる。


「今日はわたしたちがゆき専属サンタ」


 サンタってこんなに甘えん坊だっけ。


「こうすればわたし達の温もり感じられるでしょ」


 ひよりはいつもと同じじゃない?


「たまにはこういうのもいいだろ。あたしらに愛されてるって実感してろ」


 ずいぶん口の悪いサンタだ。


「なんか全力で甘えられてるような気もするんだけど。ふふ。」


「これぞウィンウィンの関係」


 あか姉ドヤ顔。上手いこと言った自信あるんだね。


 それはどうなんだろうと思うけど。


 みんなの温もりで安心する……。お腹もいっぱいで眠くなってきた……。




 呼吸がゆっくりになっているのを感じる。眠りに落ちる直前の感覚。


「あらあら、眠ってしまいましたね」


 かの姉の声……。


「幸せそうな顔してら」


 より姉……。


「喜んでくれたみたいでよかったね」


 ひより……。


「大切な弟」


 あか姉……。


 意識が途絶える寸前。


 それは夢かうつつか。


 とても柔らかく、4人分の唇が頬に触れた気がした。



 今日はクリスマス。恋人たちの日。


 そして奇跡が起きる日。

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