表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第1章 充電期間
34/57

第34曲 『YUKIの応援ありがとう恩返し企画!』開幕!

挿絵提供:ひらじ様 

X:@hirazi_illust

ギャラリー:https://hirazisora.wixsite.com/home



「はじめまして、YUKIです。紡さんですよね」


「ゆ、ゆきさん!?…………はぁ~~~~」


 もう何度目だろう、このやりとり。


「驚かせてしまってごめんね。そりゃ男の子だって言ってるのにこんなナリじゃ驚くのも無理ないよね」


「いえいえ、とんでもない!いやぁ、かわいい男の子なんだろうなとある程度は思っていたけど、それにしてもここまで予想の斜め上をいかれるとは……」


 斜め上ってどういうことだろう。わたしってなんかおかしな方向に行ってる?


「今日1日よろしくね!今からもう楽しみ」


 考えても仕方ないのでスルーして今日の抱負を語り合う。


 お互いの持つものを全てぶつけ合って、わたしも紡さんも双方がレベルアップできるような、そんな配信にしたい。


 それがわたしなりに考えた恩返し。


 全員にしてあげられるわけじゃないから微々たるものだけど。


 だけど見ている人の中に同じ歌をメインに活動している人がわかったし、その人たちにとってもいい刺激になればなと思う。


 ちなみに紡さんはわたしよりもけっこう年上なので最初敬語で話していたんだけど、「そんなのいつものゆきさんらしくなくてイヤだ!」と駄々をこねられてしまったのでフランクに話すようにしている。


 自分は「ゆきさん」って言うくせに。



 紡さんとのコラボは予想していた以上に盛り上がった。


 紡さんが歌うわたしの曲は彼女の持つ圧倒的な熱量がそのまま反映されるのか、全く別の歌かのように力強い曲にアレンジされていた。


「すごい、ここまで変わるなんて!」


「んふふ~伊達にゆきさんのファンやってないからねぇ。ゆきさんの曲は全曲歌いこんでるよ~」


 紡さんは「自分で作詞作曲する才能なんてないから」とのことで歌ってみたを中心に活動してるんだけど、その熱量はしっかりリスナーさんにも届いているようでオリジナル曲はないにも関わらず登録者22万人。


 全部見せてもらったけど本当にわたしの曲は全曲あった。


 嬉し恥ずかし。


 一応わたしの曲は著作権フリーじゃなく、許可制にしてあるので配信で歌う分には一報をしてもらうようお願いしてあるのだけど基本的にお断りすることなんてないからいろんな人が歌ってくれている。


 芸能界にいた経験で著作権を完全に放棄してしまうと後でいろいろ問題が起きるのを防ぐために保険をかけているだけ。


「そういえば紡さんが初めてわたしの曲の使用許可を求めてDMしてきたときのことを思い出したよ。『拝啓、はじめまして。当方Vtuberとして活動させていただいております、水音紡と申しまする……』」


「その話はらめぇ~!めちゃくちゃ緊張して書いたから文章がおかしかったのはわかってるから!」


 大笑いしながら紡さんの黒歴史を暴露してしまう。


 これくらい無遠慮に接しても受け流してくれる包容力のある人だ。恥ずかしさは別みたいだけど。


「最初、どこの時代の人から来たメッセージかと思ったよ。そのうちござ候とかいいだすんじゃないかってくらい畏まってて!」


「あーあーあー!それ以上バラすとみんなの前で公開ハグしちゃうよ!」


 それきらりさんにもうやられました。


 でもやっぱり恥ずかしいから勘弁してほしい。


「ごめんってば。これ以上は言わないから。じゃあ時間も迫ってきたし最後のデュエットいってみますか!」


「この瞬間を待ってました!ゆきさんとデュエットできるなんて人生最大の思い出になるよ!」


 大げさな。


 でも本人からすれば大げさでもないようで、ただでさえ高い熱量がさらに爆増してるのを感じ取れるくらい興奮している。


 これは呑まれないようわたしも気合を入れなおさないと!


 その後のデュオは完璧と言っていい出来で、紡さんの力強い歌声とわたしがヘッドボイスで合わせたハモりは大盛況。



 結局、デュオが終わって感極まった紡さんにハグされてしまった。


 約束と違うやんけ。


 終わってみれば同時接続数はわたしで90万、紡さんで20万と大盛り上がりとなり神回として認定されることになった。


挿絵(By みてみん)


 次は雪乃さんの番だ。


 あの一見気弱で大人しそうな雪乃さんのことだからきっと天使の歌声なんだろうなと思って聞いてみたら心底驚いた!


 あなたそんな声が出る人だったの!?ていうくらいの低音ボイスが響いてきてめちゃくちゃかっこいい!


 高音部分はしゃがれ声にしているけど、これもきっとわざとやっているんだろう。なんだこの歌唱力。


 世の中はやっぱり広い。こんな才能が埋もれていたなんて。


 今はチャンネル開設して間がないので2000人ちょっとしか登録者がいないけど、彼女に秘められたポテンシャルはこんなもんじゃない。


 わたしも天才だなんてもてはやされているけど、彼女だってタイプは違えど紛れもない天才だろう。


 魂が震える。


 曲数はわずかだけど、オリジナルもいくつか出していてその出来も文句のつけようもないほどのクオリティ。


 この曲を歌ってみたい!と思わせる魅力にあふれている。


 夢中になって聴き惚れ、衝動を抑えきれなくなって何度も練習した。楽しい。


 歳は雪乃さんが1個上でほとんど変わらない。


 同世代にこんな天才がいたことに喜びを感じる。


 この人とコラボすれば間違いなくお互いを高めあえる、そんな確信に似た予感を感じながら聴きこみと練習に励んでいれば当日なんてあっという間に訪れてしまった。


「雪乃さんはじめまして!YUKIです」


「……」


 石化してる……。これは初めてのパターンだな。


 どうしたらいいんだろ。


「もしもーし、雪乃さん?生きてる?」


「……は!ゆ、ゆゆゆゆゆきさん!」


 生き返った。


 でもまた最初の時の反応に戻ってるね。ゆって何回言った?


「ゆ、ゆきさん、キレイすぎますぅぅ~~」


 うわ!今度は泣き出したよ!やめて、みんな見てるから!


「ちょちょ!泣かないで!」


 どうしたらいいかわからなくて、思わず軽く抱きしめて頭を撫でてしまった。


「はぁうぅぅ~~……。ゆきさんに抱きしめられて……もう死んでもいい……昇天しそう……」


「帰ってきてー!一緒に歌おうねって約束したでしょ!」


 そう言うと今度は私の胸に顔をうずめてきた。


 なんだか自由だよこの人。


「あぁ、ゆきさんの腕の中。温かくていい匂いがしていつまでもこうしていたい……」


「あ、こら。匂いかがないでってば。ほらいつまでも泣いてると目が腫れちゃうよ」


 どうにか顔を上げて泣き止んでくれたんだけど、離れてくれない。


 こんな往来のど真ん中で女の子と女の子にしか見えない男が抱き合ってる姿は目立つようで思いっきり衆目を集めている。


「そろそろ離れてくれないとみんな見てるからぁ」


「はっ!ご、ごめんなさい!あまりに幸せすぎてつい……ふへへ」


 なんて顔してるの。


 せっかくのかわいい顔がもったいない。


 でもこれだけ喜んでくれるのもそれだけわたしのことを好きでいてくれてるからなんだよね。


 そう思うとなんだか愛しいような気持ちになってくる。


「それじゃ、そろそろ行こうか?」


「はい!」


 まぁなんていい返事だこと。まるで結婚を申し込まれた乙女みたいだ。


 雪乃さんがようやく落ち着いたのでスタジオ入り。


 スタジオに入っていざ配信が始まった途端、さっきまであれだけキョドっていた雪乃さんがすっかりVtuberの顔に豹変していたのでまた驚かされてしまう。


 最初の挨拶から始まってフリートークになると雪乃さんのわたしへの愛が爆発。


 いかにわたしが偉大でどれだけ大好きかを延々と語られてしまい、わたしは終始赤面状態。


 好きでいてもらえるのはとってもありがたいことだけど、限度を超えると困惑することもあるんだなと初めて知ったよ。


 いつまでも続きそうなゆき大好きトークにはさすがに耐え切れなくなって、歌を聴かせてほしいと話題転換。


 やっぱり生で聞いた雪乃さんの歌声は圧巻の一言で、いっそう今日のコラボを企画してよかったと喜びをかみしめてしまう。


「雪乃さんの低音ボイスがかっこよくてホント大好きだわ~。裏声やヘッドボイスとの使い分けも上手くて歌を聴いているというよりまるでオーケストラを聴いてるみたい!」


「そんなゆきさんに褒めてもらえるなんて~~」


 しまったまた泣きそうになってる。


 配信モードになっても泣き虫はかわらないのね。


「それじゃわたしも歌うね!生のゆきちゃん、よく聴いていてね」


 泣き出す前にそう言うと、今度は一転して表情がパッと明るくなり目をキラキラさせる。


 ほんと感情豊かな人だ。


 まだデビューしたてなので曲数は少ないけど、その中でわたしが気に入った曲をわたしなりの解釈で気持ちを込めて歌い上げる。


 雪乃さんを意識してわたしも声変わり以降出せるようになった低音ボイス。


 わたしが歌っている間中、雪乃さんは祈りをささげるかのように手を組んで聞き入っていた。


 讃美歌じゃないからね。


「ゆきさんやっぱりすごすぎ。わたしこの曲いっぱい練習しまくって自分のものにしたのに、わずか1週間でこんな完成度に仕上げてくるなんて。やっぱり天才です!」


「そうは言うけど、わたしも同じこと雪乃さんに思ってるよ。この歌唱力は才能だけでも努力だけでも片付けられない。いわば才能と努力両方の天才だよ」


 そう言って微笑むと真っ赤になってしまう雪乃さん。


 ほんと見てて飽きないなぁ。


 最後のデュエットではAメロBメロは交互に歌いあい、サビをハモるというありふれたデュエットだったけど、わたし達2人が奏でるハーモニーは決してありふれたものなんかじゃなかった。


 お互い低音ボイスで牽制しあうかのように様子見をして、サビの部分でぶつかり合う。


 わたしは低音ボイスから一転してハイトーンボイスで雪乃さんを圧倒しにかかるけど、彼女も負けじと高音でのしゃがれ声で応戦。


 まるで勝負をしているようだが、しっかりと息は合っていて染みわたるような和音がマイクを通してリスナーの耳に届き、鼓膜と心を同時に震わせる。


 きらりさんとコラボした時にも感じたことだけど、息の合った掛け合いは呼吸だけじゃなく心まで通じ合うようで何度体験しても心地いい。


 この時間がずっと続いてほしい、そう感じてしまうほど。


 そう感じれば感じるほど歌というものはあっという間に終わってしまう。


 雪乃さんとわたしは全力を出して己の持てるものを全てぶつけ合った。


 心はいまだに高ぶったまま。


 何も言わずとも双方同時に両手を差し出して握手。


 そのまま健闘を称えあう格闘家のように抱擁。


 わたしは雪乃さんの頭を優しく撫でつける。



「またか~~~~~!」


 自宅では今日も姉妹の叫びが響き渡る。



「ゆきさん、今日は本当に楽しかったです。このまま終わっちゃうなんて寂しくて……ぐす」


 雪乃さんの瞳には涙がいっぱいまで溜まり、今にも決壊寸前。


「今日で終わりなんかじゃないよ。お互いこれからもVtuberとして活動していくんだし、同じ道を歩いていく以上わたしたちの道がまた交差することだってあるって。」


 これは本心だ。


 よく一期一会とはいうけど、せっかく奇跡的な確率で結ばれた縁を大切にしていきたい。


 出会った人全員といつまでも付き合っていくことは無理でも、同じ道、同じ志を持った人との関係は積極的につなげていきたい。


「本当ですか?いつかまたお会いできます?」


「またコラボしたっていいじゃん。そうじゃなくてももう友達なんだから、気軽に連絡してきてくれてもいいんだよ」


 せき止められていた堤防がわたしのその言葉でとうとう決壊してしまった。


「本当にゆきさんに会えてよかったです……。思っていた通り、いやそれ以上に温かい人で前よりもっと好きになりました」


 ぽろぽろと涙をこぼしながら、それでも笑顔をつくってそう言ってくれる雪乃さん。


 あなただって十分に温かいよ。ちょっと熱すぎる時もあるくらいに。



 恩返しをしたいという思いから企画が始まって2週間。


 その間にスタイルは異なっているが熱狂的なゆきのファンという共通点を持った2人と情熱的な時間を過ごし感動的なフィナーレを迎えるという体験をすることができた。


 しかし最後の1人にゆきはこれまでに出会ったことのない全く違ったタイプを見出すこととなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ