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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第1章 充電期間
32/55

第32曲 『YUKIの応援ありがとう恩返し企画!』抽選

 直接募集するのは次のライブ配信の時でいいとして、まずはSNSで募集をかけないと。


「えっとなんて書けばいいんだろ?タイトルはコラボ相手募集中でいいか」


 ワクワクした気持ちを抑えながらSNSに投稿する文の内容を考える。


 きらりさんがわたしにしてくれたように、誰かとコラボすることでその人の飛躍のきっかけにでもなれればそんなに嬉しいことはない。


 それこそみんなを幸せにする雪の精霊にとっては面目躍如ってもの。


 まずは最初は当然のことだが歌ってみたでもオリジナルでもいいので、歌をメインとしたコンテンツであることが最低条件だな。


 ハードルを上げてダイヤの原石を見逃してしまっては意味がないので、チャンネル登録者数は問わないことでいいだろう。


 ひとりで活動している人でもグループ活動していてもオッケーと。性別も問わず。


 ただあんまり遠くに遠征してしまうとまたより姉が怒るし、みんなのお世話もできないので近辺に住んでいるかもしくは遠征してきてもいいよという人に限る。


 あと配信のスケジュールはこちらに合わせてもらって土曜日の21時配信。


 この時間の配信だと遠方の人の場合お泊りになってしまうので、わたしのように中学生にとっては難しい条件になってしまう。だけどこればっかりは仕方がない。


 コラボ企画もこれ1回こっきりにするつもりはないので何年後かにはわたしの方から遠征できるようにもなるだろう。


 申し訳ないけどそれまで待ってもらおう。


 そして応募が複数きた場合は抽選で選ぶ。今回は3人まで選ばせてもらって順番にコラボさせてもらおうかな。



 条件面はこんなもんかな?事前打ち合わせは電話で済ましてしまって大丈夫だろう。

 これぞ題して『YUKIの応援ありがとう恩返し企画!』


 わかりやすく短文にまとめ、文面の最終チェックをしたら投稿ボタンをぽちっとな。



 どれくらいの応募が来るかな。


 10人くらい?抽選だから外れてしまった人は可哀そうだけど、残念ながらわたしの体はひとつしかないからなぁ。


 まったく来なかったらどうしよう……。ちょっと弱気な自分が顔を覗かせる。


 いやいやいやいや。


 たとえきらりさんのおかげとはいえ、わたしも120万人の登録者を抱える配信者なんだ。


 応援してくれているみんなの期待を裏切らないよう、少しくらいは自信を持つようにしよう。


 あとは次のライブ配信の時に大々的に募集をかければそれなりの数は集まるだろ。


 果報は寝て待て。


 必要以上気にせず気楽に応募を待てばいいんだ。


 さっきバルコニーへ出ていたおかげですっかり冷えてしまった体を温めるためにもお風呂に入ってさっさと寝てしまおう。


 明日になればいくつか応募も来ているだろうし。


 そう思ってスタジオを出ると両親が帰ってきていたので、いつものように晩御飯と晩酌の用意をしてお仕事の疲れをねぎらう。


 ある程度準備をすればあとは2人にゆっくり食事とお酒を楽しんでもらうだけなので、その間にわたしはお風呂へ入ることにする。


 ゆっくり長湯を楽しんですっかり温まった体をお気に入りのパジャマで包み、お風呂から上がってくるとお母さんから声をかけられた。


「なんかゆきのスマホ、ずっと音が鳴り続けてるんだけど壊れたんじゃないの?」


「え?」


 そう言われてお風呂へ行く前キッチンに置いてあったスマホを手に取って確認してみると、通知が62件。


 なにごと?


 びっくりしてロック解除すると通知は全部SNSアカウントからのもの。


「え、え、どういうこと?」


 何が起きているのか咄嗟に理解できず戸惑っている間も通知音は鳴り続け、どんどん増えていく。


 SNSのアプリを開いて確認してみるといろんな人からのメッセージが届き続けていて、内容を確認するとどれもコラボ希望の文字。


「うそ、こんなに来るものなの!?」


 少し怖くなって思わず募集打ち止めのメッセージを投稿しようか悩んだけど、募集条件に書いたのは先着順ではなく抽選だ。


 みんな抽選に当たるようにとの願いを込めて応募してきているのに、それを途中で打ち切ってしまうのは実質先着順にしてしまうようなものだ。


 幸い応募期限は明後日までと区切ってあったのでそれまでは応募が増えていくのを見守るしかないだろう。


 さすがに通知音が鳴りっぱなしだと夜も眠れない事態になりそうだったので、締め切りまではと思い通知をオフに設定したらようやく通知音のスタッカートも収まった。


 それでも目の前の画面に表示されている応募総数はみるみる増えていっている。


「抽選、どうやってやろうかな……」


 

 2日後、スマホを前に頭を抱える。


 ようやく締切期限が過ぎて応募数がこれ以上増えることはなくなったものの、現時点で応募総数387件。


 とりあえず全員分の名前をノートに書き写しリストを作成まではしたのだけどその作業すら大変だった。


「よかった、配信で募集しなくて」


 ライブ配信で大々的に宣伝などしていたらどんな結果になっていたやら、想像するだけで恐ろしい。


 4桁に届いていた可能性もあるかと思うとゾッとする。


 募集をかけたのが月曜日だったので2日後の今日はまだ水曜日夜。幸い次のライブ配信まで実質3日近くある。


 その間にどうにか抽選を終えて配信の時に発表するのが最善の選択だろう。


 とりあえずSNSの方には抽選結果は応募多数のため次のライブ配信で発表しますと打ち込んで投稿。


 これでどうにか時間稼ぎをすることはできた。あとは抽選方法。


「こうなったら古典的だけどくじ引きにするしかない!」



 次の日、学校帰りに100枚入りの折り紙を買ってきた。それをとりあえずカッターで4等分。


 これで400枚だから応募者全員の名前を書くことができる。そこから地道にリストを見ながら名前を書き写していく作業。


 あはぁ!つ、つらい……。


 予想以上に手間のかかる作業に心が折れそうになるが、もとはと言えば自分で蒔いた種だ。泣き言を言っても始まらない。


 抽選結果を心待ちにしているであろう人たちの事を思い浮かべ、土曜日に発表する抽選結果で当選して喜ぶまだ見ぬ人たちの笑顔を想像するとなんだかやる気が出てきた。


 やっぱりわたしの原動力は誰かの笑顔なんだな。


 そこからは当選者とどんな話をしようかとか、どんな歌声を聴かせてくれるのだろうななどと想像しながら作業を進めていく。


 そんなことを考えていると当初より効率が格段に上がり、翌日の金曜日にはどうにか全員分の名前を記入したくじを用意することができた。


「できたー!」


 けっこう辛い作業ではあったけど、完成してみれば心に去来するのは応募者のこと。


 積みあがったくじを見ながらこれには応募者の希望が詰まってるんだろうなと考えるとやり遂げたという達成感もあり抽選が楽しみ。


 だけどひとりでくじ引きをして抽選結果を決めてしまう、というのも味気ない。といか寂しい。


「そうだ、どうせなら配信中に抽選をして当選者の喜びをライブで伝えよう!」


 ナイスアイデア!わたし!


 いい思い付きだと思い、再度SNSに投稿。


 抽選の準備が整ったことと、抽選は土曜日にライブ配信で発表することを打ち込む。


 通知音が鳴りやまなかったときは先行きに不安を覚えすらしたけど、結果的にこれでよかった。


 ライブ配信で抽選結果発表と言うのもまるでテレビ番組のようで楽しそう。


 応募した人、コメントくれるかな。



 そして迎えた配信当日。


「まずはみんなにお礼を。今回の『YUKIの応援ありがとう恩返し企画!』にたくさんの方から応募をいただきました。


 ネーミングセンス?うるさいよ。


 応募総数なんと387件!本当にびっくりするくらいスマホの通知が鳴りやまなくて、嬉しい悲鳴でした!こんなにわたしとのコラボを望む人がいてくれるなんて、とても感激しています。ほんと、ありがとうね!」


 感謝の言葉を笑顔で届け、昨日くじを作った後、追加で自作しておいたくじ引き用の小箱を取り出す。


 お店なんかに置いてある手を突っ込んでくじを引くタイプのあの箱だ。


 仲には387名分のくじが入っている。


 折り紙とはいえそれなりの量があるのでリスナーにも聞こえるようにヘッドマイクの近くで箱を振ってガサガサと言う音を鳴らす。


「ここに応募してくれた全員分の名前が書かれた387枚の紙が入ってるよ!この中からランダムに選んで、見事当選した幸運な人たちのお名前を発表していくね!」


【ゆきちゃんの自作?】【マメだな】【くじを作ってるゆきちゃん想像したらかわいい】そうだよ、ひとりで全部作ったよ!


 よく考えたらひよりとかにも手伝ってもらえばよかったということは作り終えた後に気が付いたんだよ。


「2日間夜なべして作ったよ。そこ笑わない!他に手段が思いつかなかったんだもん、しょうがないじゃん!」


【わかたわかた】【わかったからすねないの】【ひとりで全部作ってえらいぞ!】なんか子ども扱いされてる。


 こればっかりはいくら387人全員分の名前を覚えられるわたしでもどうにもならないもんね。


 わたしの頭を振ってもくじが出てくるわけじゃなし。


【めっちゃドキドキしてきた】【どうか!】【神さまー】応募者たちの緊張のコメントが並ぶ。


 ほぼ全員見に来ているね。よかった。


 名前が見当たらない人はコメントせずに固唾をのんで見守ってるのかな?


「さて、いよいよ選考会を始めますよ!やばい、なんかわたしもドキドキしてきたよ」


 自作抽選箱を持ち上げ、もう一度よく振る。どうかいい人と巡り合えますように。


「まず1枚目!引きます!」


 中が見えないように顔を背け、ゆっくりと箱の中に手を差し入れていく。緊張で手が震えてしまう。


 選ぶ側にもこんなにプレッシャーがかかるとは思ってなかったな。


 手の先に紙の束の感触が当たり、少しかき混ぜた後一枚の紙片をつかむ。これで1人目が決まった!


 紙片を握って中身が見えないようにしながら手を引き抜き、胸の前で手を組む。


 良い出会いを願った願掛け。


 手を開き、紙片を顔の前に持ち上げゆっくりと開封する。出た。


 意識したわけではないが某クイズ番組のように思わぬタメが発生してしまった。


 発表するの緊張するんだもん。


「まず一人目の当選者……水音紡みずねつむぎさん!おめでとうございます!」


【水音紡:やったぁぁぁぁ!!!】抽選前から緊張した様子をコメントしてくれていたので見に来てくれているのは知っていたけど、ここまで喜んでくれると選んだこっちとしても嬉しい。


「紡さん、おめでとう!来週いきなりのコラボになっちゃったけど都合は大丈夫かな?他の当選者と変わってもらう手もあるから都合が悪かったら遠慮なく言ってね」


 いくらコラボする側と言ってもこちら側の都合ばかり押し付けるわけにはいかない。


 みんなそれぞれの生活があるんだからリアルのことも大切にしてほしい。


 でもそれは杞憂だったようで【ゆきさんとコラボするのめっちゃ期待してましたから予定はちゃんと開けてあります!】っておいおい。落選してたらどうするつもりだったのか気になったけど聞くだけ野暮ってもんだろう。


 それだけわたしとのコラボを望んでくれていたってことなんだから。


「そっか、ありがとうね!来週のコラボめっちゃ楽しみにしてるよ!このあとDMで連絡するから詳細はその時にね」


【水音紡:待ってます!まだ夢見心地だぁ】もっと話してたいけど、あと2組の枠をみんな待ち望んでいるだろうから抽選に戻らないと。


「続いてどんどん当選者を発表していくよ!2人目の当選者は誰だろう!?」


 2回目になっても抽選の紙を引くのは慣れることができない。


 一度目と同じようにゆっくりとした動作で抽選用紙を取り出し、発表する。


「2人目の当選者…………冬空雪乃ふゆぞらゆきのさん!おめでとうございます!」


 …………。


 あれ、反応がないな。少し待ってみたけどやっぱりコメントがない。


 抽選前はコメ欄に名前があったんだけどな……。


「あれ、見ていないのかな?」


【冬空雪乃:ごめんなさい!涙が止まらなくて】そんなに喜んでくれてたんだ。嬉しいな。つい顔が綻ぶ。


「そんなに楽しみにしてくれてたんだね。おめでとう、無事当選だよ。2週目だけど、よろしくね」


【冬空雪乃:はい!ずっとゆきさんに憧れてて、名前もゆきさんの名前からもらって】文章からも感極まっているのが伝わってくる。


 そんなに愛されていたんだと思ったら感激で鼻の奥がツーンとしてきた。


「そう言ってもらえるとわたしとしても嬉しいよ。本当にありがとう!当日が楽しみだね」


 返事がないのは号泣してるのかな?さていよいよ最後の1人。


「いよいよ最後になっちゃったね。応募してくれたみんなはドキドキしてくれてるかな?実はわたしめちゃくちゃドキドキしております」


 そしてこれが最後となる相手を選ぶため、抽選用紙をつかみ取る。


「最後の相手が決まりました!最後の当選者のお名前は…………Reiraレイラさん!おめでとう!」


【Reira:ありがとうございます。歌に関してはゆきさんにも負けないくらいの情熱があるので、よろしくおねがいします】なかなかに挑戦的な内容のコメントがきた。


「おぉ!すごい自信ですね。だけどわたしも負けるつもりなんてありませんよ!当日はその情熱をぶつけあいましょう!」


 わたし自身も負けず嫌いなのでこういう反応は大好物。


「それじゃ、当選したお3方にはそれぞれ直接連絡させてもらうので、まずは紡さんに連絡させてもらいますね!今日はもう遅くなってしまうので雪乃さんとレイラさんはDMで明日以降連絡に都合のいい日時を教えてくださいね!」


 こうして厳正なる抽選の結果3人の当選者が揃った。


 全然違うタイプの人たちが当選し、三者三様の反応。


 これはいっそう楽しみになってきましたよ。

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