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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第1章 充電期間
28/43

第28曲 異変

 そして夏休みも半分以上が過ぎた盆明けの頃、わたしの体にもうひとつの異変が起きた。


 なんと声がでなくなってしまったのだ。


 完全に出ないというわけではない。


 でも風邪でもひいたかのようなかすれ声。ただ他には症状が何もなく、熱があるわけでも咳が出るわけでもない。


 ただ単にのどがいがらっぽく声が出にくくて、無理に出そうとするとかすれてしまうというだけの症状。


 不調はどこにもないからのど飴でも舐めていればそのうちよくなるだろうと高をくくっていたら症状が数日続いてしまい、動画投稿ができないという事態になってしまったのでさすがに病院へ行くことにした。




「あー声変わりですね」


「へ?」


「だから声変わり。中学2年生だよね?たいてい身長が急激に伸びた後に声変わりすることが多いんだけどね。その様子からするともう身長の方は頭打ちかもしれないね」


 わたしにとって衝撃的なことを告げ、人の気も知らず朗らかに笑う医師。


 このことは2つの意味でショックだった。


 まず、声変わりして今までのような声が出なくなったらどうしようというショック。


 ただこれに関してはいずれ起きうることと想定していたので、変わってしまった声質に合わせた曲を作ればいいだけなので対処のしようはある。


 今までの声が好評だったので声変わりをして人気が落ちてしまったらどうしようかという不安はあるけどこればっかりはどうしようもない。


 男性の声質に合わせたボイトレを勉強しなおさないとな……。


 声のことはそれでいいとして、それ以上にショックだったのが身長の件だ。


 これ以上伸びない!?夏休み前の身体測定で2cm伸びて155cmとなりまだまだ可能性はあると喜んでいたのに!


 160にも届いていない現状でまさかの最後通告をされてしまうなんて……。


 ショックから立ち直れないまま家に帰ると、みんな心配してくれていたようで全員揃ってお出迎えしてくれた。そして沈んだ表情のわたしを見てみんな大慌て。


 極力心配はかけたくなかったけど、ショックが大きすぎていつものような笑顔をみせることができない。


「どうしたんだゆき!?そんなに重い病気だったのか!」


「まさか声が出なくなるとかじゃないよね!?」


「心配!」


「何があったのか言ってください!」


 みんな矢継ぎ早に質問してくる。みんな本気で心配してくれているのが伝わってきてとてもありがたい。ここは誤魔化したりせずちゃんと説明するべきだろう。


「声変わり……だって……」


 この世の終わりを迎えたかのような表情でそう告げると、よく聞こえなかったのかより姉が聞き直してくる。


「え、なんだって?」


「だから、声変わり」


 沈痛な顔で再度そう言うと、なぜかみんなへたり込んでしまった。


「なんだよ、ただの声変わりかよ~。心配させやがって……」


「成長期ですし、男の子ですもんね……」


 みんな安堵してる様子。わたしがこんなにショックを受けているというのに!


「安心してる場合じゃないよ!声変わりをしてしまうとこれ以上身長が伸びない可能性が高いってことなんだよ!?」


 それは心から切実な魂の叫び。


「身長が?」


「伸びない……」


 ひよりとあか姉がわからないといった表情で首をかしげる。


「なんかね、声変わりって急激に身長が伸びた後になるらしくて、その後はあんまり伸びないことが多いってお医者さんが言ってた……」


「…………」


 返事がない。みんなもようやくわたしの心の痛みを理解してくれたんだろうか。


「いやそっちかよ!」


 違った。


「てっきり声変わりして今までのような歌声が出なくなったらって悩んでるんだと思ったよ!」


「声は変わってもまた上手くなるように練習すればいいだけじゃん!でも身長が伸びなかったらこれ以上どうしようもないんだよ!?」


 これはわたしにとっては由々しき事態。せめて男として160cmは超えたい!


「ぷっ……」


 まず最初にひよりが噴き出した。


「あはははははは!」


 続いてみんな一斉に大笑い。笑い事じゃないんだけど~!


「だって!だって~!あははは!」


 より姉は涙を流して笑っている。なにがそんなにおかしいんだよぉ……。


 ひよりにはなんとか勝ってるけど他の姉はみんなわたしより背が高い。そのうちひよりにまで抜かれてしまったらわたしはもう……。


「うううぅぅ~~。わたしにとっては切実なのに……」


「悪い悪い!でも今のままでも十分かわいいんだからいいじゃねーか」


 ポンポンとわたしの肩を叩きながらより姉が慰めの言葉をかけてくれる。かわいいって言われても……。いや嬉しいけどさ……。


「このままじゃ子供っぽいでしょ。もっと大人の雰囲気を出したい……」


「まだ完全に成長が止まったわけでもないでしょ?まだこれから先に希望はありますよ」


「そうだな。それにゆきは今でも色気がある」


「そうだよ、ゆきちゃんはきっと大人の女性になれるよ!」


「男だよ!」


 色気ムンムンの男ってどーなのよ……。


 せめてもう少し背が高ければ……。


 もはや女性に見られるのは仕方ないとして、身長が高ければ『かっこいい』って言ってもらえる可能性だってあるのに……。


「そんなに悩まなくてもゆきちゃんは今でも十分かわいくて色っぽいし、それにかっこいいよ!」


 わたしは何も言っていないのにひよりから思わぬ形でかっこいいと言われてしまった。面食らうと同時に、なぜか猛烈に恥ずかしい。


「ゆき顔が赤い」


「ほほう。さてはゆき……かっこいいって言われたいから背が高くなりてーんだな?」


 そのとおりですよ!


 男の子だもん、それくらいの願望はあったっていいじゃない!


「大丈夫。ゆきは今のままでもかわいいだけじゃない。ちゃんとかっこいいよ。それはみんなも思うよな?」


 みんな一様にうなずく。本当?いつもみんなわたしのことをかわいいとしか言わないのに?


 すっかり疑心暗鬼になっているわたしが懐疑的な目でみんなを見ているとより姉が苦笑しながら頭を撫でてくれた。


「ゆきもちゃんと男の子なんだな。背が高くなりたい願望もあるし、いよいよ声変わりか。ゆきがこれから声も含めてどんな風に育っていくのかあたし達も楽しみにしてる。いつも自分を最高の状態にしようと努力するゆきの向上心は誰の目から見てもかっこいいもんだよ」


「歌とダンスに取り組むゆきの真剣な顔は見惚れるくらいかっこいい」


「難しいことに直面しても決して諦めずに立ち向かうゆきちゃんもかっこいいですよ」


 ひより以外の3人も口々にかっこいいを連呼してくれる。


 ずっと言われたいと思っていた言葉だけど、こう何度も言われるとかなり恥ずかしいものなんだと知りました。


「みんなありがと。身長の事に関してはもう天に任せる。あとはこの声がどう変わるかだね」


 すんごく低くなっちゃったらどうしようかな。


 というか声変わりってそんなに激変するものなの?今晩お父さんにでも聞いてみようかな。


 結局その日の夜は気疲れしたわたしが早くに寝てしまい、お父さんに声変わりの詳細をきくことができなかった。


 いったいどうなっちゃうのかな、わたし。

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