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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第1章 充電期間
27/42

第27曲 夏休みの思い出作り

この物語のテーマソングをお借りすることができるようになりました。


https://www.youtube.com/watch?v=yreXKXtu5xI&list=WL&index=5

蒼狼あおかみルナ

「君の痛みを奪えないから」


リンクを設定できないのでコピペするしかなく申し訳ないです。この話を読み終えた後に聞いていただければよりこの物語に没入することができるかと思いますのでよろしくお願いします。

 チャンネル登録者100万人突破という目標を達成してとりあえずVtuber活動にも一区切りがつき、時間的にも余裕ができていたのを目ざとく察知したひより。


 お兄ちゃん大好きを公言するひよりがそのチャンスを逃すはずもなく、どこかに遊びに行こうとせがまれた。


 スケジュールにも空きがあるので遊びに行くこと自体はいいんだけど、問題は提案されたその行先。


 せっかく夏なんだから海に行きたいと声を揃えて提案されたものの断固拒否。


 あまりにも強く拒否をしたものだから、理由をしつこく問いただされてしまう。


 恥ずかしいから言いたくなかったんだけど、さすがに誘いを拒否したうえに黙秘と言うわけにもいかず渋々理由を告げると全員に大爆笑されてしまった。


 笑い事じゃなく本気で恥ずかしいんだからね!


 その理由はさらに胸が大きくなってしまったというわたしにとっての衝撃的事実。前に買ってもらったブラがかなりきつくなっていたのだ。


 そんなことなかなか言い出せず黙って苦しい思いに耐えていたんだけど、姉妹たちに自白したらさっそく新しいものに買い替えるためにもサイズを測りに行こうという話に。


 案の定Cカップにサイズアップ。まぁわかってはいたんだけど……。


 そして当然のごとく選ばれるフリフリの付いた下着たち。あぁまた女体化が進行してしまう……。


 さらに成長してしまった胸をひっさげて人の多く集まる海やプールにおもむいて衆目にさらすことに対しどうしても恥ずかしさを拭うことができないので、今年はわたし抜きで行ってくれるようお願いした。


 でもわたしがいないとつまんないという理由で結局今年は誰も泳ぎに行かなかった。4人で行ってくればいいのにと思ったけど、わたしがいないところでナンパ男にちょっかい出されるのも不快だから結果的にはよかったかな。


 その代わり少しでも涼しいところへ遊びに行こうということで水族館巡りをすることに。


 近場の水族館に行った後、ジンベエザメを見たいということで関西まで遠征したりもした。


 楽しかったけどよく考えたらただサメを見るだけのことにすごい行動力。


 そして夏のもうひとつの定番といえば夏祭り&花火。


 日本に戻ったとき学区の違うところに引っ越ししてしまったけど、以前住んでいた場所からそんなに離れているわけでもないので今年参加する夏祭りも子供の頃からよく来ていたお馴染みの場所。


 夏祭りでは当然のごとく浴衣を着せられた。


 長い髪をアップにしてお母さんに着付けをしてもらった浴衣姿は自分で見てもなかなかに様になっており、夏祭り会場で出会った同じ中学の生徒たちだけでなく外国人旅行客にまで写真を撮られてしまった。


 外国人のお兄さんはやたらテンションが高くて、最後に「アジアンビューティー!サンキュー!」と言いながら去っていった。


 あのノリはアメリカ人に間違いない。


 流暢な英語で旅行客と楽しそうに会話してることに周りの学生連中は目を丸くしてたけど一応帰国子女だからね。


 そこからは屋台を制覇する勢いで食べ歩き。かき氷、わたあめ、りんご飴、フランクフルトに焼き鳥、焼きそば。


「相変わらずよく食うな。その体のどこに入ってくんだ」


 より姉があきれたように見てたけど、育ち盛りの男の子ならこれくらい普通じゃない?胸以外育たないけど……。


 食べたものは一体どこに行ってるんだろう。


 おなかもいっぱいになったところで毎年恒例の姉弟5人による金魚すくい競争。


 勝負はけっこう白熱したけど今年もわたしの圧勝、ビリは半泣きのひよりという結果に終わりいよいよ花火の時間が近づいてきた。


「みんな、そろそろ行こうか」


 小さいころから毎年参加していたお祭りなので花火の始まる時間はもちろん、あまり人の来ない穴場スポットまで知っている。


 少し高台にある神社へとたどり着くと、わたし達以外には誰もいなくてすごく静かでいい雰囲気。


 意外だけど実は暗いところの苦手なあか姉はわたしの浴衣の袖をつかんだまま離してくれないけど。


 やがて時間になり、花火が上がり始める。最初は単発でぽつぽつと。


 ひとつひとつの花火をはっきり確認できるこの時間がわたしは好きだったりする。


 もちろん連続でさまざまな花火が炸裂する時間も派手で好きなんだけど、それよりもひとつの花火に対して職人さんが精魂込めて向き合い、いかに美しく見えるか工夫した痕跡をしっかり確認できる単発の方が見ていて感動する。


「キレイ……」


 目の前で大きく花開く大輪を見つめているとつい呟いてしまった。


「そうだな」


「本当にきれいです」


 そうだね。きれいだね。


 でもわたしじゃなく花火を見て言ってくれない?わたしの視野が広いの知ってるくせに絶対わざと言ってるでしょ?


 まぁいいや。


 わたしの歌も一曲一曲丹精を込めて作ってるけど、この花火みたいに大輪の花を咲かせることはできてるのかな。


 この花火みたいに人の心を打つことができているかな。


「大丈夫だよ」


 ふいにひよりから声をかけられて我に返った。


「ゆきちゃんの歌も絶対聴いてくれる人の心に届いてるから」


 驚いた。


 何も言ってないのにどうしてここまで的確にわたしの考えてることがわかったんだろう。


 花火を見ながらわたしはどんな表情をしていたのかな。ちょっと自分ではわからないや。


 わたしは何も答えず微笑みながらそっとひよりの頭を撫でてあげた。


 みんなもそのやりとりも見ていたのだけど、いつもみたいにひよりだけズルいと言い出すこともなく、優しい笑顔でわたしの方を見ている。


 ほんとにこの人たちは。


 これが以心伝心ってやつなのかな。わたしはとても幸せ者なんだと思う。


 やがて打ちあがる花火の数が増えていき、大輪の花が咲き乱れ始めるとようやくみんな花火の方を見て歓声をあげている。


 わたしも花火の方に視線を戻し、絶え間なく打ち上げられる大小さまざまな光の乱舞に拍手を送る。


 広い空を所狭しと埋め尽くす花火はやがてその勢いを失っていき、最後はフィナーレを飾るようにまた派手な連発を披露して終了する。


「わたしの最後もこんな風に派手にいけたらいいな」


 最後の花火の音に紛れて小声でそんなことをつぶやいた。そのつぶやきは誰にも聞こえていない。


 そして訪れる静寂。


 さぁ帰ろうかと視線をやるとみんながわたしの方を向いている。なんだろう。最後の言葉は小さな声だったから聞こえたはずもないし……。


「何考えてるのか知らねーけど、ゆきにはあたしらがいること、忘れんなよ」


「自分一人で抱え込まないで、言いたいことがあったらいつでも言ってくださいよ」


「いつもそばにいる」


「わたしたちはゆきちゃんの傍から離れたりしないからね」


 今回は笑顔で花火を見上げていただけ。それにみんなも花火を見上げていたはずだ。


 それなのに……この人たちは……。


 胸が痛い。


 涙がこぼれそうになる。


 でも今はまだそんな姿を見せるわけにはいかない。


 幸いまだ時間はある……はずだ。


 ちゃんと準備が整うまで、この大切な人たちに余計なことを考えさせてはいけない。


「何言ってんの。わたしだってみんなの傍から離れてあげないよ!」


 笑顔でそう答える。そんなわたしを見てみんな微笑んではいるけど、心から楽しんでいるような笑顔ではない。


 ドキリとした。


 そんな暗い表情をしていたはずはない。それなのにまるで心を読まれたように感じて不安になっているとより姉に抱きしめられた。


「ゆきが何を考えて何を思い悩んでるのかなんて、おまえと違ってわたしらにはわかんねーよ。でもな、隠していても微妙な表情の違いくらいはわかるんだよ。少し寂しそうな、でも諦めたかのような表情だってな。何もかもを白状しろなんて言わねーよ。言える時が来たらちゃんと言うこと。それは約束しろよ」


 あぁ、わたしがみんなのことをよく見ているようにみんなもわたしのことをよく見ているんだ。


 自分でも気が付かないような表情の変化まで読み取れらてしまうとはね。


 まったく、この人たちには敵わないや……。


「うん、ありがとう。必ず伝えるよ。ずっとみんなの傍にいるからね」


 まだ本当の事は言えない。


 でも言えない期間の分だけわたしは嘘をつき続けていくことになる。


 申し訳ないなとは思うけどこれは仕方のないことなんだ。その時が来るまでは……。


「さ、そろそろ帰ろっか。歩きすぎて鼻緒の部分が痛くなってきちゃったよ」


 そう言ってこの話題の終了を告げる。みんなもようやく笑顔に戻って、それ以上わたしに何かを聞いてくることはなかった。


「肩を貸そう」


 あか姉が肩を貸してくれた。


「ありがとう」


「世界一大切な弟のため。これくらいなんともない」


 そう言っていつも無表情なあか姉が笑顔になる。普段が無表情だから余計にってのもあるけど、もともと美人なあか姉の笑顔はまぶしいくらいにキレイだ。


「いつもその笑顔でいれば男子にモテモテなのに」


 そうやって茶化すと少し不機嫌な顔になった。


「ゆき以外の男どもに興味なんかない」


 見事なカウンター。


 こっちが赤面させられてしまった。だけど本人もさすがに赤い顔をしている。ちょっと家族愛が強すぎるよ、うちの姉妹たちは。


 そうして帰り道は姉妹たちが順番にわたしに肩を貸してくれてずっと笑顔が絶えない和やかなムードのままで。


 みんな大好きだよ。


 ありがとう……ごめんなさい……。

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