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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第1章 充電期間
26/41

第26曲 ひとつの区切り

 何度か行われたプール授業を恥ずか死しそうになりながらもなんとか乗り越え、ようやく迎えた夏休み。


 夏休み中もプールを利用することができると言われたけど誰が行くものか。これ以上恥をさらすような趣味はないです。




 4年ぶりに帰国して初めての夏休み。


 外は命の危険を感じるほどの暑さだけど、エアコンの効いた部屋でモニターの前に座るわたしの活動は順調そのもの。


 夏休みに入ってすぐに登録者100万人を突破。よっし!当面の目標を達成!


 わたしの目標は当然もっともっと上なんだけど、それでもやっぱり嬉しい。


 応援してくれてるみんなありがとう!みんなのこと、ゆきも大好きだよ!


 そんな感謝の気持ちを伝えたい。記念配信はどんなことをしようかなと悩んでいるときらりさんから着信。


 あれから何度かやりとりをしてすっかり仲良しになったのでお祝いの言葉でもくれるのかなと思い、通話ボタンをタップ。いきなりきらりさんの元気な声が耳に飛び込んできた。


「ゆきさんおめでとう!さすがというかあっという間に100万人突破したね!実はどうしても直接お祝いしてあげたくて会社に打診したら快く許可をもらえたから、100万人記念配信はコラボでやりたいなって思って連絡したんだけど……ゆきさん的にはどうかな?」


 最初は元気いっぱいだったのにだんだん尻すぼみになっていき、こちらの反応を伺うちょっと弱気なきらりさん。


 配信なんかではけっこう大人の女性って感じがするのに、わたしの前ではどうしてこんなにかわいいんだろう。


「きらりさんの方で可能ならそれは是非お願いしたいですよ!ちょうど何をしようか悩んでいたところなんで渡りに船とはまさにこのことですよ!」


「本当に!?じゃあさっそく告知と宣伝しちゃうよ!配信予定は次の土曜日だったよね?」


 花が咲くような笑顔へと変わるきらりさんの姿が想像できる明るい声に。それにしてもわたしの予定をよくチェックしてくれているな。


「そうです。その様子だと知ってるかとは思いますけど、せっかくの100万人なので準備期間を設けて何かやりたくて、いつもみたいにその日に配信せず告知だけしてあります。なのでコラボが決まったことを再度告知しなおしておきますね」


「お願いね!あ~こんな短期間で達成してくれたおかげでまたコラボできるなんて感激!わたしからもゆきさんのリスナーさんには感謝しなきゃだね!当日はサプライズも用意してあるから楽しみにしていてね」


 サプライズとな。きらりさんのことだから本当にわたしがあっと驚くようなサプライズを仕掛けてくるんだろうな。楽しみでその日が待ち遠しい。


 いつも通り動画配信をして、姉妹とコミュニケーションを取ってみんなの食事を作って。日常生活も十分に充実しているおかげであっという間に土曜日はやってきた。


 今回も東京のスタジオで収録したいということで、またお泊りするということになり案の定姉妹たちが共同戦線を張って反対してきた。


 しかし今回はさすがのわたしも抵抗。もう100万人のリスナーを抱えてただの配信者ではなくもはや仕事になっているからと説得。そこにお母さんも加勢してくれて、どうにかこうにか奇跡的におひとり様での外泊を認めさせることに成功。You Win!


 そしてコラボ当日、きらりさんの用意したサプライズはわたしの予想をはるかに超えるものだった。


 きらりさんの所属する会社で活躍する他のVtuberさんが数名飛び入り参加してくれて文字通り豪華なお祝いをしてくれるというのだ。


 登録者数320万人の疾風クローディアさん、同じく250万人の佐助さん、そして160万人の川合ナノさん。


 この人たちは歌を専門にする配信者ではないんだけど、みんなわたしの歌のファンだということで今回きらりさんが声をかけてくれたらしい。みんな快くどころか是非参加したいと即承諾だったとか。当のきらりさん自身もわたしとのコラボ以降さらに登録者数を伸ばして現在220万人。


 綺羅星のような面々とのコラボ。光栄なこと極まりない。


 そしていつものことながら打ち合わせ時の初顔合わせでわたしの容姿を見て3人とも驚愕。


 佐助さんがわたしの手を取り「めっちゃキレイじゃないですか!会えてうれしい~!」と言うが早いか、きらりさんがものすごい形相で間に入ってきて佐助さんを威嚇するという一場面もあったり。


 いや、きらりさん?


 わたしも男だから。男性に手を取られたくらいでそこまで警戒しなくてもいいのでは?


 それにしてもこの錚々たるメンバーと比較するとどうがんばっても小粒なわたし。


 そんなわたしのためにこんな豪華なステージが用意されていることに少し困惑していたのだけど、年長者のクローディアさんをはじめみなさんとても気さくな方で、恐縮しているわたしに気安く話しかけてきてくれた。


「前のきらりちゃんとのコラボ動画見たよ。あれ以来きらりちゃん、すっかりゆきさんの信者になっちゃってね。俺たちも布教されて動画を見るようになったんだけど、本当に歌とダンス両方抜群で布教関係なしに一発でファンになっちゃったよ」


 そう言って握手を求めてきてくれたのがクローディアさん。


「いやほんと圧倒的な歌唱力だよね。それに加えて中の人がこの美貌じゃ、きらりちゃんが信者になっちゃうのもうなずけるわ」


 ちょっと軽めの雰囲気の佐助さんがそんなことを言ってきらりさんの顔を覗き込んでいる。


「当然です!ゆきさんに比べたらわたしの歌なんてアマチュアもいいところ。今日はみんなもゆきさんの生歌を聴いて衝撃を受けるでしょうね」


 なぜかきらりさんがドヤ顔。


「それは楽しみなの。ゆきの歌はスマホで聴いても本当に良かったから生で聴けるという話を聞いて飛んできたの。それにしても何を食べたらそんなにきれいになれるのか教えてほしいの」


 雰囲気のある話し方で少し何を考えているのかわかりづらい川合ナノさん。めっちゃ小さくてお人形さんみたいでかわいい。


 みんな超有名でまだまだわたしにとっては雲の上な人たちだけど、そんなことは誰も気にしていないようでわたしの緊張をほぐそうと冗談を交えてしきりに話しかけてきてくれる。


 だんだん緊張も薄れてきた。せっかくこれほどの人たちがわたしを祝ってくれるというのだからわたしの持てるものを精いっぱい引き出さないと。


 「よし!」


 自分に喝を入れて気を引き締めなおす。


 「お、表情が変わったね。さすがの度胸だ。これは本番も楽しみだね」


 クローディアさんがそんな様子を見てそう微笑みかけてくれる。笑顔の素敵な人だ。


「そりゃこれだけのスターたちに祝ってもらうんですから。私自身も目いっぱい楽しんで、リスナーさんにもたくさん楽しんでもらえる配信にしたいですよ!」


 クローディアさんが目を見張る。でもすぐに柔らかな微笑に戻り、わたしの肩にポン、と手を置いた。


「さすがきらりさんが入れ込むだけの事はあるね。歌とダンスだけじゃなくて人間的にも魅力にあふれている。君ならすぐにわたし達のいる場所なんて通り過ぎてしまうだろうね」


 嬉しいことを言われて思わず照れ笑い。顔が熱い。


「わたしのゆきさんが赤面してる……!」「ほほうなの……」


 いや、そこ2人!誤解してないか!?


 ナノさんは何を興味深そうに見てるのかな?んでどさくさにまぎれて「わたしの」ってなんだ。


 まったくみんなわたしが男だというのを失念しないでほしい……。




 そして時間が来ていよいよライブ配信がスタート。


 さすがこの世界でトップクラスの人たちだけあって進行の仕方やトークはわたしよりもはるかに上手。


 主役のわたしは気合を入れなおしたにもかかわらず祝ってもらうことといじられることに終始してしまい格の違いというものを見せつけられた。


 負けず嫌いのわたしはその差が悔しかったけれど、同時にとても勉強になった。この経験も吸収していずれこの人たちも超えてトップに立ってやる。


 他の方々が言っていた通りきらりさんはすっかりわたしの大ファンになっているようで、配信中もくっついて離れてくれない。当然コメ欄は大騒ぎで他のメンバーからも冷やかされてしまう。


 本人はそんな冷やかしなんか気にすることもなくわたしにべったりだったけど。


「またコラボできるこの日を指折り数えて待ち焦がれていたんだもん!だから離れたくないんですぅ!」


 ってきらりさんなんかキャラ変わってません?反対側にはさりげにナノさんがくっついていたけど。


 てんやわんやの大騒ぎになってしまった記念配信だけど、とても楽しかった。リスナーさんもとても楽しんでくれたようでそのことが何より嬉しい。


 雪の精霊は人を幸せにしてこそだからね!


 今日は応援してくれているみんなに少しでも恩返しできたかな。幸せを届けることができただろうか。


 そしてきらりさんはというと撮影が終わって撤収の段になってもわたしの腕にしがみついて離れなかったので佐助さんに引きはがされていた。


 最初の印象は大人の女性だったのに最近のきらりさんはまるで乙女みたい。


 今日はみんないるのでさすがにキスはされなかったけど。あのキスはなんだったんだろう……。


 実は収録中からついそのことを思い出してしまいドキドキしていたので密着されているのはやばかった。


 いろんな意味で。


 女の人ってどうしてこんなに柔らかいの……。


 煩悩退散!

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