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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第1章 充電期間

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第17曲 急展開

 一度わたしの収録を見学した我が姉妹たちはすっかりはまってしまったのか、暇があれば必ず見に来るのが当たり前になった。


 わたしも配信を始めてから家族と過ごす時間が減ってしまっていたのを気にしていたので、みんなとのコミュニケーションが取れるようになって大歓迎だ。


 ただ、見学の条件として宿題や課題を必ず済ませることという条件を付けたので、高校や中学の宿題と違ってもっと分量のある専門学校の課題をこなさないといけないより姉は、時間のかかる課題の時は泣く泣く部屋にこもっている。


 そんな中で一番熱心に見学に参加しているのがかの姉。


 映像編集に興味があるみたいで、わたしが編集しているのを見ているだけでなく独学でいろいろ勉強していたみたい。

 最初はいろいろとアドバイスをしてくれたりしていたが、そのうち編集を肩代わりしてくれるようになっていった。


 それがまたわたしの編集するものよりも出来栄えが良かったりするもんだから、そのへんのセンスがわたしではかの姉には及ばないんだろう。


 ま、なんでもかんでもひとりで完璧にできるわけでもないから、得意な人が手伝ってくれるならその好意には喜んで甘えておくことにしよう。


 リスナーさんからも【最近編集がうまくなったけど誰かに手伝ってもらうようになった?】って聞かれるんだけど、わたしの技能が向上したとは思ってくれないのね。


 今までのわたしの編集ってそんなにひどかったのかな……。やっぱり物事を美しく見せることに関しては女性の方が優れているのかもしれない。普段からの美意識の違いとでも言うべきか。



 そうやってわたしの動画の質も上がっていき、生配信のやり方にも慣れてきたせいか、チャンネルを創設して2か月がたち梅雨の季節に入るころ、登録者が10万人を超えた。


 当面の目標は100万人だからその10分の1とは言え、短期間でここまで増えたのは十分に快挙と言えるし、嬉しい。


 10万人が一カ所に集まったらどれくらいの規模になるか、なんてなかなか想像も難しいくらいの数字だ。


 Vtuberの個人勢でここまで勢いよく登録者が増えていくのは珍しいようで、10万人突破記念の生配信のときにキリママを始め、いろんな人からお祝いと感嘆の言葉をいただくことができた。


 人気が出るということはわたしの歌とダンスが認められているということで、そのことが何よりも嬉しい。


 芸能界にいたころよりも配信活動をしている今の方がたくさんの人々に支えられて活動ができているんだと実感できて、その人たちからの祝福はとてもありがたい。


 最初期から応援してくれているこの人たちのおかげでさして苦労することなく収益化を達成することもできた。この人たちの応援が土台にあっての10万人だと思えば感謝しかない。


【これだけの歌唱力とダンスだし10万人はまぁ当然ともいえるな。おめでとう!】【おめでとう!だけどワイ的にはもっと早く達成していてもおかしくなかったまである】【企業勢だったらもっと伸びがすごい人とかいたりするけど個人であっさり10万人とは大したもんだよ】

 祝福の声とともにもっと人気が出てもいいはずという意見も多数あり、心から応援してくれているという気持ちが伝わってきてすごく励まされる。


 確かに子役の頃は何もしなくても人気が一気に爆発したから、企業のプロモーション力というのは馬鹿にできないものなんだろう。


 でも、わたしはもうあの汚い世界に戻ることは避けたい。


 わたしの人気とお金だけに用がある大人たちの、薄っぺらくて不自然な笑顔と、心にもないあからさまなご機嫌取りやおべっかに囲まれて最悪の居心地だったあの世界を一度経験してしまえば、よっぽどの理由でもない限り誰が好き好んであの世界に戻りたいと思うものか。


 あの頃に比べたらこうやってわたしの事を大切にしてくれる人たちに応援の言葉や祝福、賞賛をリアルにもらうことができて、直接お礼を言える今の環境の方が心を通わせられているようでどれだけ幸せな事かとしみじみ感じてしまう。


「みんなありがとうね。わたしはもちろんもっと上を目指して地道に活動していくよ。そのうち誰もが認めるような曲をいっぱい作って世界に届けてみせるからね!」


【さすがゆきちゃん、視野はもう世界に広がってるのね】【でもそれが納得できるだけのパフォーマンスを持ってる】【どれだけ有名になってもわたし達が応援するゆきちゃんは変わらないけどね】

 こうやって支えてくれるファンが励ましてくれるというのは本当にありがたい。


「どんなに有名になっても、最初から支えてくれてるみんなの事はいつまでも大切にするからね!」


【ゆきちゃん本当にみんなの名前覚えてるもんね】

 一度でもコメントをくれた人の事をわたしはみんな覚えている。


「せっかく応援してくれているファンの人のことは極力覚えておきたいからね。特に初期の人たちは完璧に覚えてるよ!」


 本当は初期だけじゃなくてみんなの事を覚えてるんだけど、やっぱり最初から応援してくれている人はどうしても特別扱いしてしまう。仕方ないよね。


「次は20万人突破でまた記念配信しようかな。夏本番前に達成出来たらいいな」


【伸びもよくなってるし20万はすぐだろ】【100万人もそんなにかからないんじゃね?】なんていう楽観的な意見もいただけるけど。


「さすがにそこまで甘くは考えてないよ~。もっと自分を磨いていろんなところで存在感を増していかないと、今の伸びも鈍ってくると思うし」


【その謙虚さもゆきちゃんらしい】【かわいい】【でももう今までけっこうな曲数を聞いてきたけどゆきちゃんの歌声には毎回驚く】【そう!声帯何個あるんだってくらい声質変わるんだよね】【違う人が歌ってるんじゃないかと思うくらいだ】

 いろんな勉強や特訓をしている時期に、声帯の開き方を工夫して声質を変えて歌う方法もいろいろ試行錯誤してきた。


「がんばっていろいろ研究してきたから声には少し自信があるよ~! 普通の歌い方だけじゃなくて、どうやったら可愛くなるかとか、かっこよくなるか、なんてことをたくさん特訓してきたからね」


【その探求心はさすが】【本当に歌が好きなんだね】【音域も広いもんね】

 子役を引退してから一度挫折しかけたけど、諦めずに続けてきてよかったと思える。


「音域は長年のボイトレのおかげかな。地声裏声はもちろん、ヘッドボイス、ハイトーン、ホイッスルボイスまで出るようになったからね! 低音域が弱いのが悩みどころなんだけどね」


【いや十分だろ】【人間楽器でも目指すのかw】

 いや楽器て。


「でも低音でかっこよく歌う女性シンガーとか憧れるんだよね。声変わりしないし地声がこんなんだから今更男性シンガーのような歌声は目指してないけど、低音ボイスとかしゃがれ声なんていいなーと思うもん」


【全部制覇したら無敵】【今でも十分だけどね】【動画が投稿されると毎回どんな歌声が聴こえてくるか楽しみ】なんていうお褒めのコメントの中に【何か新しい企画でもしたら爆発的にリスナー増えるだろうな】というのが見えた。


 何かすればもっと伸びるかもという意見はごもっとも。今はまだいいけど登録者数が増えると伸び率も鈍化してくるので、ここらで何かテコ入れをしたいところだ。


「新しい企画かぁ。わたしの他の特技と言えば料理とかあるけど、クッキング動画ってけっこうあふれてるよね」


 そう簡単にいいアイデアが出てくるほどわたしの頭脳も都合よくはできていない。


【ゆきちゃんの手料理は見るより食べたい】【どんなのを作るか見てみたい気もするけど】

 わたしの料理は特別な人しか食べられないんだよ。特別な人って言っても家族だけど。


【そろそろ誰かとコラボとかしてもいいんじゃない?】

 なるほど、もっと早く気づくべき手があった。


 今まで1人でやってても楽しすぎて、人の力を借りるという基本的な戦略を失念していた。


「わたしとコラボしたいって言ってくれる人なんているのかな。わたしは歌が専門だから誰でもいいってわけでもないしね」


 Vtuberは星の数ほどいるけど、その中でわたしと共通したジャンルで活躍している人はどれだけいるのだろうか。


【ゆきちゃんは誰かコラボしてみたい人とかはいないの?】

 思い当たる人は1人いる。


「この人と歌いたいなって人はいるけど、駆け出しのわたしとは登録者数が違いすぎて、こんな新人とコラボしても向こうに何のメリットもないんだよね。すごく歌がうまくて憧れてる人なんだけどね」


【それって誰の事?】

 そりゃ聞きたくなるよね。でも憧れている人の名前を言うのってなんか照れるな。


「みんな知ってる人だと思うけど、彩坂きらりさん」


 登録者数180万人を超える大人気Vtuberだから、わたしのチャンネルに来るような音楽好きで知らないって人の方が珍しい。


【企業勢かぁ】【難しいかもね】

 みんなの言う通り、企業勢と言うのは企業がバックアップしてくれる代わりにいろいろと制限があって、個人勢みたく自由にコラボしたりは難しい。


 特に身バレにつながりそうなことに関してはとても厳しいらしい。そのへんのセキュリティ意識が比較的低い人の多い個人勢とコラボするのはリスクがあると考えるだろうな。


【彩坂きらり:わたしもゆきちゃんとコラボしたいです】

 唐突に打ち込まれたコメント。


「え?」


【本人?】【マジでか】

 わたしの疑問をコメントが代弁してくれた。


【彩坂きらり:もちろん本人ですよ。証拠お見せしますね】

 すぐにURLが貼られ、クリックしてみるときらりさんの公式SNSで、まさに今この時点のやりとりが画像で投稿されている。間違いなく本人だ。


「え~~~~~~~!?」


 今まではわたしがリスナーを驚かせてばかりだったのに、初めてわたしが驚かされてしまい、ちゃんとした日本語が出てこない。


「きらりさんがこんな新米の動画を見てくれてたんですか! いや、それよりきらりさん企業勢なのに勝手にコラボOKしちゃって大丈夫なんですか!?」


【彩坂きらり:わたしも最初の方からゆきさんの歌声に魅了された1人ですよ】【やっぱゆきちゃんすごい】【トップグループの人にも認められるなんて】というコメントが並ぶ。


「ふにゃ~……。ヤバイめっちゃ嬉しい……」


 感極まって思わず変な声が漏れてしまった。どうしても表情が緩んでしまう。


【彩坂きらり:コラボの件ですけど、わたしくらい会社に貢献してるとある程度のワガママは通るので問題ないと思いますよ】

 さすが大人気Vtuber。


「本当に大丈夫ならこちらこそ是非お願いしたいです! うそ~これ本当に現実だよね? ドッキリとかじゃないよね?」


【落ち着けw】【今ほっぺつねってみたがしっかり痛いぞ】

 あなたがつねっても意味ないでしょ。

【彩坂きらり:ドッキリなんかじゃないですよ。詳細はゆきさんのSNSにメッセージ送りますので】


 試しにほっぺをつねってみた。


 痛い。


 夢じゃない、現実だ~!


「はい! メッセージお待ちしてます! ほんと今でも信じられない。今晩眠れるかなぁ」


【彩坂きらり:きっとゆきさんよりもわたしの方が楽しみな気持ちは大きいですよ。ゆきさんの歌声に心酔してますから】

 きらりさんがそこまで楽しみにしてくれてるなんて……。


【よかったね、ゆきちゃん】【初コラボにいきなり大物だ】【さすが我らがゆき氏】

 他のみんなからも祝福と賞賛の声が多数寄せられて、10万人記念動画はわたしにとって思わぬサプライズとなった。



 配信が終わってSNSをチェックしてみると本当に個人メッセージが届いていて、ドッキリという可能性も消えた。


 メッセージにはきらりさん個人の連絡先も記載されていてドキドキ。展開が急すぎてちょっと戸惑うけど、憧れの人とつながれたということに感動。


 配信終了したらメッセージではなく電話連絡が欲しいとのことだったので、さっそく教えてもらった連絡先にかけてみる。


 1コールもしないうちにつながってビックリ。ずっと待っていてくれたのかな?


『ゆきさんですよね? きらりです。さっそくかけてきてくれてありがとうございます。こうやって直接お話できるなんて感激です!』


 あのきらりさんが興奮気味の声で話している。本当に楽しみにしてくれていたようで嬉しい。


「はい、ゆきです。わたしの方こそ光栄ですよ。あとわたしの方が年下なので敬語はいらないですよ」


『じゃあお言葉に甘えて。わざわざ電話くれてありがとうね。さっそくコラボの件なんだけど、もう会社には連絡入れて許可をもらってあるの。あとは日程と場所さえ決めればいいだけなんだけど、打ち合わせのために一度直接会って話したいな。ゆきさんはどこら辺に住んでるのかな?』


「さすが仕事が早いですね、もうそこまで話が進んでるとは思いませんでした。今住んでいるのはS県のK市です」


『うそ、隣の市だわ。けっこう近いね。じゃあ明日T駅まで出てこれない? そこならお互いに交通手段も不便じゃないし』


「そこならうちから電車一本で行けますね。明日は一日空いてるので大丈夫ですよ。時間はお任せします」


 みんなのご飯は事前に作っておけばいいし、何時になっても大丈夫だろう。


『それじゃ明日の13時でも大丈夫かな。改札を出て右の道路に出るとファミレスがあるんだけど、そこで待ち合わせでどうかな? わたしが先に着いたら彩坂で席をとっておくね。ゆきさんが先に着いたらなんて名前で呼びだしたらいい?』


 きらりさんがハンドルネームで予約するのだから、こちらもそうする方がいいかな。


「13時で大丈夫です。わたしは一ノ瀬で予約することにしますね」


『一ノ瀬……雪……? あの?』


 小声でボソボソ言ってるからよく聞こえないけどバレたかな? 一ノ瀬雪はわたしが子役時代、ピーノちゃんをやっていたころの芸名だ。


 ピーノちゃんの名前の方が有名で、芸名の方はそこまで知名度はないはずだけど、知ってる人は知っているだろう。


 今更だけどわたしのチャンネル名、安直すぎたかな? まぁ配信に関しては学校でもバレてないし、きらりさんにならバレても言いふらしたりしないだろうから問題ない。


『まぁいいや。うふふ、男の子と二人きりでなんてまるでデートだね』


「デ……! もう、からかわないでくださいよ」


 こちとら生まれてこのかた女の子とデートなんて一度もしたことがない。そんなことを言われたら意識して思わず赤面してしまう。


『あは、冗談冗談。今からもう明日が楽しみ。それじゃ明日13時にT駅前のファミレスでってことでよろしくね!』


「こちらこそものすごく楽しみです! よろしくお願いしますね!」


 通話終了。通話してるうちにけっこう時間がたってしまったので、みんなもう部屋に戻ってるだろうし、出かける報告は明日の朝でいいか。


 リビングに戻ると両親はすでに帰っていて晩御飯も自分たちで用意していたので、明日は出かけることだけを報告して、わたしはそのままお風呂に入り明日の準備をすることにした。


 初めて会うわけだし男の子らしい恰好をしたほうがいいか、いつも通りかわいい恰好をした方がいいか悩んだけど、どのみちこれから最低でも何度かは会うわけだからいつものコーディネートでいいか。


 ということでちょっと気合を入れたガーリーな服で完全武装。

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