第155曲 幸せのスイーツ巡り
「うん、美味しそう!」
ずらりと並んだ多種多様な食べ物。
普段あまり口にすることのないいろんな料理を前にして、期待を隠せないわたし達。
わたしが注文したのはボタニカリー。
鶏がらスープに玉ねぎ、野菜、スパイス、ハーブが煮込まれていてスパイシーで美味しいし、副菜がアートのように盛り付けられている。
より姉はシンガポールチキンライス。
かの姉はお好み焼き。
あか姉はキーマカレー。
ひよりはハラミ重と黒毛和牛フィレステーキ トリュフがけ。
「ステーキはみんなで食べようね」
そう言って購入しようとしているのはいいけれど、お値段がべらぼうに高い!
「ちょっとひより、お小遣い大丈夫なの?」
「そろそろなくなりそうだから、ゆきちゃんに借りないとダメかも」
そう言って苦笑いするひより。苦しいなら無理してステーキなんて注文しなくていいのに。
「だってみんなでシェアするもの欲しいじゃない」
そんな可愛らしいセリフを言われては止めることもできない。
もう、みんなのことを考えてくれるのは嬉しいけど、やりすぎだよ。
「そのステーキはわたしが買うから。ひよりはこの後に行くデザートでお金を使いなよ」
「そんな悪いよ。わたしが勝手に買おうとしてるだけなんだし」
「みんなのためでしょ? わたしもみんなと食べたいから買うだけだよ」
みんなで食べるものを末っ子に負担させるというのもなかなかに目覚めが悪い。
ここは一番経済力のあるわたしが出してもみんなから異論は出ないだろう。
「ゆきちゃん、ありがとう」
「いいんだよ。どれも美味しそうだね」
「うん!」
元気よく返事をするひより。ほんとに良い子だ。
フィレステーキも含め、みんなでシェアした料理を堪能してお昼ご飯の時間は過ぎていった。
「さて、いよいよ今日の本番だね!」
「昼飯食ったばっかじゃねーか。もう食べ歩きすんのか?」
「もちろん! 時間は有限、甘いものは別腹! 時間の許す限り食べつくすよ!」
すでに候補は三つほど見繕ってある。あとは観光がてらにあちこち探し回るのもいいだろう。
ということで最初に向かうはハービスプラザ四階にあるチョコレート専門店。
わたしはショコラパフェ、ひよりはチョコラータケーキ、あか姉はタルト・オ・ショコラ。
より姉とかの姉はハーブティーのみ。
「せっかくスイーツを食べに来てるのにもったいない」
「あたしの胃袋は4つもねーよ」
誰が牛だ。
甘いものを見ると胃袋が動いて隙間を作り出そうとするのは、科学的にも証明されてるんだぞ。
「うーん、甘くて冷たくて美味し~」
外野の野次はほっといて目の前のパフェに集中。
カカオの味がしっかりと効いていて、口に含むと少しの苦みと共に芳醇な香りがいっぱいに広がる。
ここまで濃厚なチョコレートの味はそこらでは味わえない。甘いもの好きにはたまらない至高の逸品。
「ゆき、こっちも美味しい」
あか姉が分けてくれたタルトもこれまた絶品。
サクサクのタルト生地に濃厚なチョコを流し込んだだけというシンプルなものだけど、それぞれの素材がうまく絡んでいてお口が幸せ。
「ゆきちゃん、これも!」
ひよりが選んだチョコラータケーキはしっとりとした生地にチョコレートが練りこまれていて、口いっぱいに広がるカカオの風味がたまらない。
もうどれを食べても幸せの言葉しかない。
「ほんと、ゆきって幸せそうに食べるよなぁ」
だって幸せなんだもの。
「ゆきちゃんを見てるだけでこっちも幸せになりますね」
そんなにかなぁ。そこまでの自覚がないから恥ずかしくなってきた。
「あんまりこっち見ないで」
「なんでだよ。至福の時間を取り上げるんじゃねーよ」
至福の時間って言われても。人が食べてるところを見てそんなに楽しいのかな。
「可愛い子が美味しそうに食べている姿はとっても尊いです。癒されます~」
そういうものなんだろうか。よく分からん。
気にしていたらアイスが溶けちゃうし、まぁ好きにさせておくか。
少し視線が気になるものの、美味しいパフェの誘惑には勝てずしっかりと完食。余は満足じゃ。
「けっこうお腹もいっぱいになったし、次は軽くシュークリームでも食べに行こうか」
「軽いか? シュークリーム」
より姉から無粋なツッコミが入ったけど無視無視。
そんなに大きくないし、いっぱい空気が入ってるから軽いんだよ。
次に向かうは阪急梅田本店にあるエシレの専門店。
エシレというのはフランス産の発酵バター。クリーミーな口当たりと芳醇な香りが特長らしい。
そのバターをふんだんに使ったシューブールバタークリームは感動するほどにおいしかった。
普段はすぐに売り切れてしまうそうなんだけど、奇跡的に六個入りが残っていたので迷わず購入。さすが神様、粋な計らい。
「これは、なんて言うか……うめーな」
無理して食レポしなくていいってば。言いたいことは分かるから。
少し固めに焼き上げた生地に包まれた、香り豊かなバターを使ったクリームがお口に優しいね。
「六個だから一個余っちゃうね……」
残ったひとつをじっと見つめてしまう。
「心配しなくても残ったやつはゆきが食べてもいいぞ」
「いや、そういうつもりじゃ……」
「名残惜しそうに見つめて何言ってるんですか。ゆきちゃんが食べていいですよ」
「ひとつじゃ足りないんでしょ。遠慮せずにお食べ」
かの姉のみならずひよりにまで優しい微笑みを向けられて。
わたしの方がお兄ちゃんなんだけどなぁ。
だけどみんながいいよと言ってくれているのに、遠慮してしまうのも失礼か。こうなったら仕方ない。
「それじゃ、遠慮なく」
最後の一個にかぶりつく。うん、みんなの気持ちも相まってさっき食べたやつより美味しく感じる。
だけどやっぱり一人で食べてしまうのは悪いよ。
「はい、みんなで一口ずつ食べよ。わたしの食べかけで悪いけど」
そう言ってみんなに差し出す。
「え、いいのか?」
そんなに驚くようなこと? わたしそんなに食いしん坊だと思われてるのかな。
「みんなで食べた方が美味しいよ」
「そういうことなら遠慮なくいただくけどよ……」
より姉の言葉に、姉妹たちの間で緊張感が走る。なにごと?
「いいか、おまえら。半分ずつとして特等席は2つだ。恨みっこなしだかんな」
何の争奪戦? 特等席ってなんのことだろう。
「ゆきちゃんと間接キス! この権利は誰にも譲れません!」
そういうことか! 何も意識してなかったけど、いざそう言われると恥ずかしい!
「あにょ。やっぱり食べちゃってもいい?」
「ダメ! もうベットされたものは引っ込められません!」
必死だな、ひより。ベットって。いつからシュークリームは賭け事になったんだ。
もし残りを食べちゃったらひどい目に遭わされそうだ。
君子危うきに近寄らず。恥ずかしいけど黙っておこう。
殺気すら感じる空気の中、緊迫したじゃんけんの結果が出る。こんなじゃんけんも……あるんだな……。
「勝者!」
「やったぁー!」
勝利の雄たけびを上げたのはあか姉とひより。
うなだれて燃え尽きるより姉とかの姉。
いくらなんでも大げさすぎない?
「いっただきまーす! うん! さっきのより三割増しで美味しい!」
「いや、三倍は美味しい」
さっきのと同じだよ。わたしの唾液は化学調味料か。
「うーん、味気ないな」
「美味しさ半減ですね」
失礼なこと言うんじゃありません。一生懸命作ってくれてるんだから。
美味しさの半分がわたしの唾液でできてたらびっくりだよ。
「それじゃ、もう三時だし、おやつでも食べに行こうか」
「いや、今までの二件はなんだったのさ。ゆきちゃんの胃袋ってどうなってんの?」
今まで? そんなのもちろん、オードブルに決まってる。
「ほんと、なんで太らねーんだ」
「糖分は頭を使えば消費できるんだよ」
「おいヤメロ! その理屈だとあたしらが全然頭を使ってねーみたいじゃねーか!」
違うの?
「あたしらって言わないでください。わたしは糖分をお酒で補ってるだけです」
最近飲むようになったばかりなのに。より姉と仲間はそんなにイヤなんだろうか。
「裏切ったな楓乃子! あたしだってお酒くらい飲むっての!」
かの姉に比べたらかなり弱いけどね。お酒の強さって遺伝もあるのかな?
お父さんは少々飲んでも表情変わらないけど、お母さんはすぐに赤くなっちゃうもんね。前のお父さんは飲まなかったし。
「それじゃ、またハービスプラザに戻ろっか」
「なんだ、また戻るのか。今度は何を食べるんだ?」
「次はイチゴパフェとケーキだよ」
「またパフェかよ」
さっきのは前菜パフェだからまた違うんだよ。チョコだから濃厚だったけど。
「より姉たちはコーヒーでも飲んでて。わたしはスイーツ巡りを堪能しまくるんだから」
「そろそろ腹がちゃぽちゃぽだよ」
そう言えばドリンクばっかりけっこう飲んでるもんな。
「じゃー別行動でお土産でも見てくる?」
無理に付き合わなくてもいいんだよ。
「イヤです。ゆきちゃんから離れません」
「仲間外れはダメだぞー」
まぁ、退屈じゃないんならいいんだけどね。
結局次のお店でもパフェを三人でシェアし、わたしはケーキを三個、あか姉とひよりは二個ずつ食べた。さすがに満足。
より姉とかの姉は青い顔して見てたけど。
「もうケーキは見たくねー」




