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雪の精霊 ~命のきらめき~【PV50000突破☆感謝!明日完結】  作者: あるて
第3章 拝啓、未来のわたし

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第140曲 愛情と友情の狭間で

 高校生活最後の夏休みが始まった。


 今年は何かと忙しい。

 配信活動や生徒会長の仕事は例年通りにこなしていくけど、今年は文化祭に発表するダンスの練習があるからだ。


「穂香、そこは指先をしっかり伸ばすことを意識して。文香はターンの時、お腹にぐっと力を入れて。そうすればふらつかずに回れるよ」


 朝のジョギングを終えた後、スタジオで練習を開始。


「ゆきの家に招いてもらえると喜んだけど……」


「これはけっこうキツイね」


 家に学校の友人を招くのはこれが初めて。というかキリママ、きらりさん、琴音ちゃん以外を呼んだことがない。あの三人も呼んだというより勝手に来たんだけど。


「ほえ~。ここが伝説の生まれる場所なんですね」


 なぜかサキちゃんもくっついてきてる。


「あなたはひよりに呼ばれてうちに来たことあるでしょ」


「ありますけど、その時はひよりちゃんの部屋にこもってましたから。この聖域に足を踏み入れるなんて畏れ多くて!」


 そんな神聖な場所じゃないよ。

 そんなことより。


「どうしてサキちゃんはカメラを回してるの?」


 わたし達の練習風景を撮影している理由を教えて欲しい。


「そんなの決まってるじゃないですか。生徒会ドキュメンタリーの撮影ですよ!」


「はぁ。なんでドキュメンタリーが必要に?」


「そりゃファンクラブで売れ……ゆき会長の伝説を後世まで語り継ぐためですよ!」


 本音が漏れてるぞ。


「語り継がなくていいから。あとお金儲けに利用するのはダメだよ」


「やだな~。お金儲けなんてそんなことするわけないじゃないですか~」


 うん、そういうことは目を見て言おうね。


「邪魔にならないよう、ほどほどにね」


「は~い」


 本当にお金儲けしてたら折檻だからね。喜んじゃうから今は言わないけど。


 気を取り直してダンスの練習へと向き直る。

 文香も穂香も、運動神経がいいので動きに問題はない。歌の内容を体で再現する表現力も残り期間練習を重ねればどうにかなると思う。


 あとは楽しんでやってくれるのが一番なんだけど。


「きつーい」


「そろそろ休憩したい~」


 部活にも入っていない二人は体を動かすことに慣れておらず、辛さの方が先行してしまっているみたい。ジョギングは毎日してたけど、ダンスに必要な瞬発力は鍛えてなかったからなぁ。


 うーん、どうしたものか。


「そんなにきついなら考え直した方がいいのかな……」


 少し弱気になってしまう。


「ま、まだ始めたばかりだから仕方ないよ。それよりほら! もういい時間だからお昼ごはんにしない? お腹いっぱいになったらもっと動けるって!」


「そうだね! お昼ご飯買いに行こ!」


 少ししょんぼりして気を遣わせてしまった。楽しんでもらいたいのにこんなことじゃダメだな。

 ここはみんな揃って気分転換しないといけない。


「コンビニ弁当じゃ体力づくりのための栄養取れないよ。わたしが作るから二人も食べて!」


 少しでも美味しいものを食べれば気分転換になるだろう。お口に合えばいいんだけど。


「え、ゆきが作ってくれるの?」


「さすがに悪いよ。材料費くらい出さないと」


 遠慮がちながら、わたしが作る料理には興味津々といった様子。


「いいってば。どうせ家族の分も作るから材料もそんなに変わらないし。腕によりをかけて作るから、是非食べて欲しいな」


 顔を見合わせる仁王様たち。


「本当にいいの?」


「もちろん!」


「それじゃ、ご馳走になろうかな」



 朝からジョギングをして汗もかいていたので、二人にはお風呂に入ってもらい、その間にお昼ご飯を作ってしまった。


「お風呂ありがとう~! めっちゃ広いから驚いたよ。でもゆっくりできた」


「気持ちよかった~。ってもうご飯できてるの!? 長湯したわけでもないのに、手際いいね」


 手際いいのかな? 毎日やってることだからよく分からない。


「簡単なものしか作ってないしね。手抜きでごめんよ」


「これで……」


「手抜き……」


 テーブルに所狭しと並んだ料理を見て呆気に取られる仁王様たち。

 穂香がぽかんと口を開けている。見比べると阿吽の形になっていて笑いそうになった。


「美味しくなかったら残してもいいからね。それじゃ食べようか」


 先に座っていたより姉の目が輝いた。


「ピーマン残していいのか?」


「ダメに決まってるでしょ」


「差別だぁ!」


 ってピーマン入ってないでしょうが。


 でもそんなやり取りを見て、少し緊張がほぐれたのかもしれない。仁王様たちも笑顔で食卓についてくれた。


「それじゃー食べるか。いただきます」


「「「いただきます」」」


 より姉の音頭で食事が始まる。今日はいつもより少し賑やかだ。


「うま!」


「ほんと、美味しい……」


 一口食べるなり感嘆の声を上げる文香と穂香。お口に合ったようでよかった。


「これで簡単なものって、普段はどんなものを作ってるのかすごい気になるな」


 夢中になって食べながら感心したように言う穂香。


「だったら晩御飯も食べていく? 夜はもっとちゃんとしたもの作るよ」


「「いいの!?」」


 ハモった。そんなに気に入ってくれたのなら嬉しいな。


「全然かまわないよ。みんなもいいでしょ?」


「あぁ、いいぞ」


「食卓は賑やかな方がいいですね」


「歓迎」


「生徒会で合宿してるみたいだね!」


 生徒会で思い出した。さっきからサキちゃんが静かだ。

 他の姉妹たちが勢ぞろいしたときに少し興奮してたみたいだけど、緊張してるのか何も言わなかった。

 まだ猫を被ってるのかな?


「はぐはぐはぐはぐ!」


 めっちゃ食べてた。

 まさに一心不乱。わき目も振らずに食べてる姿は犬みたいだ。もうほとんどなくなってるし。


「そんなに気に入ってくれてるならサキちゃんも食べてく?」


「食べまふ!」


 食い気味に答えてくれるのは嬉しいけど、飲み込んでから話そうね?


「そんじょそこらのレストランより美味しいね。毎日これを食べてるお姉さんたちが羨ましいです」


「ほんとそれな」


 いつも家族たちには褒めてもらえるけど、友人に褒められるというのはまたちょっと違うものだ。嬉しいけどちょっと照れくさい。


「だろ? ゆきの料理は三ツ星レストランよりうまいからな!」


 なんでより姉がドヤ顔なんだか。


「そうですよ~。ゆきちゃんは何をさせても超一流。自慢の弟なんです」


 かの姉まで。友人の前で姉バカを発揮されるとちょっと恥ずかしいんだけど。


「……」


 ん? 何を無言で見つめ合ってるのかな。


「お姉さんたちは本当にゆきちゃんのことが大好きなんですね」


「「「「もちろん」」」」


 いただきますよりキレイにハモったね。そういう話題はわたしのいないところでやって欲しいなぁ。

 なんだかいたたまれない気持ちになってると、穂香がさらに質問を重ねた。何かを思いつめたような表情に見えるのは気のせいだろうか。


「でもそれって家族としての情ですよね?」


 え、どういうこと? 質問の意図が分からず、固まってしまうわたし。

 じっと穂香の顔を見つめる姉妹たち。


 なんなのこの緊迫した空気。


「おかわり!」


 空気を読まないサキちゃんの言葉で、張り詰めた雰囲気は雲散霧消。マイペースってのもたまには役に立つもんだ。


「こんな美味しいご飯も食べられて、素晴らしい歌とダンスを見ることもできて。ゆき会長のそばにいられる幸運に感謝ですね!」


 きっとサキちゃんは思った事をそのまま述べただけだろう。

 だけどここにいるみんなにとっては何気ない一言ではなかったみたいで、衝撃を受けたように目を見開いている。


「え。わたしなんかマズイこと言いました?」


 焦るサキちゃん。

 嘘や忖度のない、正直な子なんだろうな。


「何もマズイことなんてないよ。そんな風に言ってくれてありがとね」


 おかわりをよそって、手渡しながら微笑むわたし。


「サキちゃんもゆきちゃんのこと大好きだよね? そこまで崇拝してるなら恋人になりたいとかは思ったことないの?」


 ひよりがさらにぶっこんだ質問。だからなんで本人がいるとこで……。


「そりゃ思ったことあるよ。憧れの人だからね。だけどそんなこと言って気まずくなるくらいなら、崇め奉ってる方がいいな」


 神格化はやめて欲しいんだけどなぁ。


「それにそんなことはゆき会長が選ぶことでしょ。もし選んでもらえたらラッキーですけど。グイグイ行って避けられることになるくらいなら、ずっと友達としてそばにいられる方がわたしはいいかなぁ」


「……そんな愛し方もあるんだね。ほんと、サキちゃんが親友でよかったよ」


 そう言ってサキちゃんを見るひよりの目はとても優しい。いい友達を持ったね。


「神は少し離れたところで崇拝するのが正しい信仰です!」


 それはちょっと違う。

 なんだかいろいろと残念な子なんだよなぁ。いい子だとは思うんだけど。


「ぷっ、あはははは! すげー信仰心だな! あたしには真似できそうにねーや。やっぱり好きになったからにはどう思われてるかが気になる。誰にも渡したくないって思っちまう。俗物なのかねぇ」


 弾けるように笑い出すより姉。


「まぁわたしの場合はってだけですから。普通はそっちが正しいんじゃないですか? 性癖が歪んでるのは自覚してますし」


 飄々と答えるサキちゃん。この子意外と大物なのかな。

 ちゃんと自分の変態性に気が付いてるみたいでよかった。


「何も変わらない」


 あか姉がボソッと呟いた。


「……そうだな。茜の言うとおり、あたしはあたしでゆきを想い続けるだけだ」


 ほんと何があってもめげないよな、この人たち。


「どうしてそこまで想うことができるんですか? 血のつながった家族でしょう?」


 文香が不思議そうに聞いてくる。そういえばこの二人は知らないんだった。


「なんだゆき。親友にも教えてなかったのかよ」


「?」


 何のことといった表情でわたしを見る2人。


「二人には言ってなかったね、ごめん。わたし、家族とは血がつながってないの。里子としてもらわれた子なんだ」


「え、うそ……」


「ご、ごめんなさい……」


 恐縮してしまった。そんなつもりはなかったんだけどな。


「気にしなくていいよ。別に隠すつもりもなかったし。まぁ堂々と宣言するようなことでもないけどね、あはは」


 極力深刻にならないよう、笑い飛ばしてしまうしかない。

 文香と穂香は顔を見合せて困惑していたけど、何やら納得した様子。


「ゆきちゃんはどうなの? お姉さんたちにここまで想われて、その、心が動いたりしないの?」


 言いにくそうにしながらも、決心したように尋ねてくる文香。穂香もじっとわたしを見つめている。

 そういうことか……。これは誤魔化すわけにもいかないな。


「みんなにも言ってあるけど、わたしはこの先もずっと恋人を作る気はないんだよ」


 きっぱりと言い切った。適当なことを言って余計な期待を持たせるわけにはいかない。


 二人は驚いたような顔をしていたけど、やがてより姉の方に向き直った。


「ゆきちゃんの決心は固そうですけど、お姉さんたちは平気なんですか?」


 さすが付き合いが長いだけあって、わたしの目から思いの強さに気が付いたようだ。

 少し挑戦的な言い方だったけど、より姉は気にすることもなく微笑んでいる。


「ほんとにゆきは頑固なんだよなぁ。何度想いを伝えても、毎回この答えだ。でもそんなことくらいであたしの気持ちは変わったりしねーけどな」


「わたしもです」


「わたしも」


「わたしだってそうだよ!」


 それぞれ同じ想いだと口にする姉妹たち。嬉しい気持ちはあるけど、それだと困るんだよね。


「でもそれってゆきにとっては重くありませんか? どうしてそこまで自信満々なんですか?」


 穂香が食い下がってきた。

 だけどより姉は動じることもなく、優しい口調で答えた。


「もちろん強制したりなんかはしねーよ。どうしてもひとりで生きていきたいなら家族として見守るだけだ。ただ、こいつは自分の幸せってのを度外視する悪い癖があるからな。そんなゆきの考えを変えて、幸せにしてやれるのはあたしらしかいねーとも思ってるよ」


 他の姉妹たちも一斉にうなずく。そんな風に想ってくれていたんだね……。

 あなた達の家族になれて本当によかった。それだけで生まれてきてよかったって思えるよ。ありがとう。


「……そうですか」


 そう言って黙り込む穂香。文香も目を伏せたままだ。

 こんな空気のままじゃダメだな。


「ほら、この話題はもう終わりにしよ。せっかく作ったご飯、早く食べないとサキちゃんに全部食べられちゃうよ」


 さっきから我関せずとばかりに無心に食べているサキちゃん。おかわりしたばっかりなのにもうなくなってるし。


「よく食べるね―」


 ひよりが感心している。


「そりゃ育ち盛りですもの! それにこんな美味しいものなかなか食べれませんから、しっかり食いだめしておかないと!」


 サキちゃんの無邪気な言葉に、みんなの顔が綻ぶ。

 おかげで場の空気が和らいだ。本当に大物だな、この子。


 口いっぱいに頬張ってリスみたいになってるけど。

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