第133曲 王子様のエスコート
より姉に腕を絡ませ、駅への道を歩いていく。
上機嫌なより姉は気付いてないけど、すっごく注目されてるからね。
わたし達って傍から見たら、どういう風に見えてるんだろう。男装してるけど、より姉はどこからどう見ても女性だもんなぁ。
「やっぱり百合カップルだよねぇ……」
「ん? 何がだ?」
ニコニコ笑顔の依子さん。鼻歌でも歌いだしそうだ。
「いや、わたし達ってどういう風に見えてるのかなぁと思ってね」
「そりゃ美男美女のベストカップルだろ」
それは無理があると思うな。白い歯を見せてにかっと笑う姿は男前ではあるんだけど。
「より姉、逮捕されたりしないかな」
「なんでだよ!?」
「わたしまだ17歳だし。未成年を連れ回す怪しい人物として」
「……」
あれ? いつものツッコミがない。「そんなにおっさん臭いか!?」とか言いそうなものなのに。
「ゆき、ちゃんと鏡見たか?」
「え? そのまま家を出てきたから見てないけど……嘘! どっかおかしい!?」
慌ててカバンから手鏡を取り出そうとしたら、制止してきた。より姉?
「そうじゃない。全然おかしくない。なんてーか、その……大人びた雰囲気だから未成年に見えねーんだよ。……綺麗すぎて……」
え? 大人びて?
「またまたぁ。さすがにそれは言い過ぎでしょ。もう口説き文句? ちょっと早くない?」
「なんでそんなに自己評価低いかなぁ。そこまで言うなら見せてやるよ」
そう言うとスマホをかざして写真を撮ってきた。そのまま手早く操作すると、画面をこちらに向ける。
「ん」
そこに映っていたのは、妖艶な色気を醸し出した女性と「愛してる」の文字。周囲にはきらきらのデコレーション。
この一瞬でこれだけ加工したの!?
いや、それよりも……。
「え、これ……わたし……?」
「ゆき以外に誰がいるんだよ」
確かに自分であることは分かる。いつもの見慣れた顔。のはずなんだけど。
えぇぇ……。自分で言うのはアレだけど、めっちゃ綺麗な女性が映ってて、これが自分だとはにわかに信じがたい。
「ふふ、混乱してるな。間違いなくこれが今のゆきだぞ。どうだ、綺麗だろ?」
改めてより姉から念を押されると、否が応でもこれが自分だということを認識してしまう。
「わたし、綺麗?」
「口裂け女か?」
違うっての。
「何度も言ってるだろ。連れ歩いてるのが誇らしく思えるほど綺麗だ。この世の誰よりも、な」
そんなこと言われたら……。顔が熱くてしょうがないよ。
「なんでそんなに男前なのかな。そんなの殺し文句だよ。このスケコマシ」
「こんなことお前以外には死んでも言わねーよ。あたしが口説きたいのはゆきだけだ」
「~~~~~! もう、ばか……」
やばいやばいやばい! 心臓が口から出そうなほどバクバクしてる!
乙女化絶賛進行中! 全部より姉のせいだかんね!
「っ! そんな上目遣いで睨まれても……。くっそ可愛いんだが!」
組んでいた腕を振りほどき、そのまま肩を抱き寄せられた。当然体は密着し、より姉の体温を強く感じてしまう。
「ちょっとより姉! 恥ずかしいよ……。歩きにくくない?」
「はぁ! 羞恥に染まる顔もまたたまらん! 絶対離さねーぞ」
傍から見れば絶対にバカップルだよ、この2人。すっかり俯いてしまったわたしは周囲に目を配る余裕なんてないけど。
「どうした、ゆき? あたしが男前すぎて惚れたか?」
まったく、この姉ときたら。すっかり調子を狂わされてしまったけど、そろそろ気を取り直してデートを楽しまないと。
「これくらいじゃまだまだだよ。しっかりエスコートして、もっとアピールしてもらわないと」
「手厳しいな。でもそれくらいの方が落としがいもあるってもんだ。もう離れられないくらいに惚れさせてやるからな!」
自信満々だね。
「ふふ、期待してるよ」
わたしはそんな簡単に落ちないんだからね。
少しの期待も込めて、挑戦的な微笑みをより姉に向けた。
「っ……! ず、ずいぶん余裕じゃねーか。絶対『より姉ちゅきー!』って言わせてやるからな!」
間違ってもそんなこと言わないけどね。それ誰の真似?
肩を抱き寄せられたままなので、仕返しにより姉の腰に手を回してやった。
「ゆき!?」
「ウエスト細いねー」
「ちょ! くすぐったいって! やめろスケベ~!」
「わたし今日は女の子なんでしょ? 女の子に向かってスケベはないんじゃないかな~」
じゃれ合いながら歩き続ける2人。
大人びた服装の割には、やってることが幼いよね。やっぱりバカップルだ。
電車を乗り継ぎ、最初にやってきたのは戦国時代に作られたお城の城址公園。
戦国時代の大名が、関東支配の拠点にしていた有名なお城だ。最大に拡張された時には日本一の規模を誇っていたらしい。
「うわ、すごい! 本物の刀だよ、より姉!」
刀剣や甲冑が展示されている、城門に併設された資料館を訪れ、刀や鎧に目を輝かせるわたし。
「ふふ、やっぱりこういうのが好きなんだな。こういうところは男の子って感じなんだけどな」
「見た目以外は立派な男の子です~。でも、ちゃんとわたしの好きそうなところに連れてきてくれるのはポイント高いよ」
「当然だろ。ゆきの好みはちゃんと把握してるからな」
お城に来るのなんて初めてだけど、以前から興味があって一度は訪れてみたいとは思っていた。
わたしの趣味的な分野まで把握してるとは、さすがは家族といったところだろうか。
「戦国時代の終わりまで落とされることのなかった城だからな。ゆきを連れて来るのにちょうどいいだろ」
「わたしも難攻不落だって言いたいの? まぁ間違ってはいないけど」
ずっと難攻不落を謳っていた城も、最後はあっけなく開城したからなぁ。
「わたしは兵糧攻めくらいでは落ちないよ?」
「簡単に落ちるとは思ってねーよ。でもあたしらに完全包囲されてるからな。逃げ場はねーぞ」
確かにアリのはい出る隙間もなさそうだね。
目を見合わせて、くすくすと笑い合う。お城なんてデートには向いてないかと思ったけど、2人とも十分楽しめているし意外とムードもある。
やるな、より姉。
「ただね、ひとつだけ言いたいことがあるんだけど」
「なんだ? もうあたしに惚れたか?」
「違うわ。そうじゃなくて。すごく楽しいんだけどさ……。この服装、場違いじゃない?」
パーティーに着ていけそうなドレスを着た女と、宝塚も顔負けの凛々しいスーツ姿の男。中身は正反対。
周囲を見ればお年寄りか家族連れが多く、みんな動きやすいラフな格好。
はっきり言ってめっちゃ浮いている。おばあちゃんが呆気に取られてこっち見てるし。
「そうか? あたしは気にならねーぞ」
ドレスコードにセーラー服を持ってきた人はやっぱり違うな。この独特な感性もデザイナーには必要なものなんだろうか。
でもさすがに動きづらいことには変わりなく、次に訪れた忍者館では体験型のアトラクションは断念するしかなかった。手裏剣投げは楽しかったけど。
忍者館を出て天守閣前広場に戻ってきた時、観光で訪れていたらしきご婦人から声をかけられた。
「さっきも見てたんだけど、すごく人目を集める素敵なカップルさんよね。よかったら写真を1枚撮らせてもらってもいい?」
てっきり場違いで浮いてると思ってたから、突然かけられた賛辞の言葉に面食らった。
より姉は違う言葉に反応してるみたいだけど。
「カップル……」
何嬉しそうにしてんの。目がキラキラしてるよ。
「ありがとうございます、ご婦人。僕たちの姿をカメラに収めたいなんて、とても光栄な申し出をありがとうございます」
誰だコイツ。
何が『僕』だ。いつもみたいに『あたし』って言わないのか。
髪をかき上げるんじゃない。笑ってしまいそうだからやめなさいって。
「なに気取ってんの。ありがとうございます、ご婦人。よかったらわたしのスマホでも撮ってもらっていいですか?」
「……」
ほらー、ご婦人がぽーっとしちゃってるでしょうが。見も知らない人に王子様ムーブすんなっての。
「大丈夫ですか?」
「あらら、ごめんなさい。つい見惚れちゃったわ。ほんと、美男美女で素敵。お嬢さんもとっても綺麗よ。写真なら任せて」
美男美女かぁ。そういう風に見えるものなのかな。
スマホをカメラモードにして手渡し、天守閣が背景になる位置まで移動した。
「見ろ、やっぱりあたし美男なんじゃねーか」
さっきの『僕』はどうした。
「はいはい、どうせわたしは美女ですよ。ほら、カメラ向けられてるから笑って」
当然のように肩に手を回してくるより姉。
「なんか手馴れてるよね。さっきもご婦人を虜にしちゃってさ。この浮気者」
カメラに向かって笑顔を作りながら、より姉の脇腹を優しく小突いた。
「なんだ、ヤキモチか?」
「ばーか」
写真を撮ってもらい、お互いにお礼を言い合いながらスマホを返してもらう。
ご婦人が立ち去った後、写真を確認していたらより姉が覗き込んできた。
「いい映りだな。その写真、あたしにも送ってくれよ」
「うん、わかった」
穏やかな空気。大切な宝物を眺めるように、じっと写真を見つめ続けるわたし達。
スマホの画面には、とても幸せそうな笑顔のカップルが映っていた。




