第123曲 それぞれの人生
みんなの力を合わせて作り上げた、新年初の生配信。
神回を超えた伝説回として、口コミが口コミを呼んで拡散していき、チャンネル登録者数は指数関数的に増加していった。
「すごいよみんな! クリスマスの時に比べて300万人も増えたよ!」
3年間活動してようやく500万人を超えたところだったというのに、たった1回の配信で800万人に急増。
みんなが持てる力を結集させて得た結果に、喜びを超えて身震いをしてしまう。
立ち上がって熱弁を振るうわたしに対し、ソファーでくつろぐ姉妹たちはいたって冷静なもの。
「おー、すげーじゃねーか。さすがゆきだな」
「ゆきちゃんの可愛らしさにようやく世間が気づいたんですね」
「至極当然」
「ゆきちゃんおめでとう~!」
いや、呑気か!
「ちっがーう!」
思わず叫んでしまっていた。自分でも興奮してるのが分かるくらいすごいことなのに、どうしてこの人たちはこんなに冷静なんだ。
「わたしひとりの力なんかじゃないよ! より姉の衣装、あか姉のカメラワーク、かの姉の編集、ひよりとのペアダンスが評判になって得られた結果なんだよ!」
熱く語るわたしとは対照的に、困惑気味の姉妹たち。もう、なんで分かんないかなぁ!
「んなこと言われても、あたしらは裏方だしなぁ」
いやより姉、裏方だって大事なんだよ!
「ゆきちゃんなら登録者1億人も夢じゃないでしょう?」
かの姉は数字の感覚がバグってる!
「ゆき伝説、始まる」
変なナレーションはいらないから! なんでドヤ顔してんのあか姉。
ダメだ、伝わらないよこの人たち。
「だーかーらー! わたしじゃないんだよ、みんななんだよ! ゆき伝説じゃなくて広沢伝説! わかった!?」
「うわダッセ」
「ネーミングセンス壊滅的」
そこ2人、うるさい!
「まぁまぁゆきちゃん、興奮するのもわかるけどさ。わたし達みんな、ゆきちゃんならこれくらいの結果はすぐに残すだろうって確信してたから」
く、妹になだめられるとは。なんだか一人ではしゃいでるみたいで恥ずかしくなってきた。
「すごいことなのに……。みんなで一緒に喜びあいたかったのになぁ」
がっくりと肩を落として落胆していると、あか姉が近づいてきた。
「十分喜んでる。ゆきが認められるのはみんな嬉しい」
優しく微笑みながら、頭をぽんぽんしてくれる。あか姉……。
「そうだぞ、ゆき。あたしらだって嬉しいよ。ゆきがどんどん認められていくことも、その手伝いができてることもな」
「主役はあくまでゆきちゃんだからね! でもお手伝いができてとっても誇らしいって思ってるよ」
より姉、ひより……。
「登録者さんには外国人の方も多かったんでしょう? そうやって世界に羽ばたいていくゆきちゃんを支えられるなんて、贅沢な事なんですよ」
そんな嬉しそうに言われたら何も言えなくなっちゃうよ、かの姉。
そっか。みんなもちゃんと喜んでくれているんだね。そして期待もしてくれていた。
みんなの期待を裏切らないよう、これからも頑張っていかないとだね!
「ゆき」
なんだろう、あか姉の笑顔がいつもより優しくて、ちょっとドキドキするよ……。
「胴上げする?」
「……しない」
わたしのドキドキを返して。
800万人突破もめでたいことだけど、時期を同じくしてもっとおめでたいことがあった。
「より姉、就職内定おめでとう!」
わたしが存分に料理の腕を振るった『より姉内定おめでとうパーティー』は盛大に行われた。ネーミング? うるさい。
アパレルメーカーへの就職が決まったより姉。おめでとうの言葉に照れくさそうにしながらも、その顔は嬉しそうだ。
「将来的には独立して、自分のブランドを立ち上げるのが夢だけどな」
表情を綻ばせ、将来の夢を語るより姉の姿はとっても輝いていて、眩しくて。ちょっと羨ましい……。
「これからもゆきの衣装は作り続けていくからな! 専属デザイナーはあたしだから浮気すんなよ」
専属デザイナーかぁ。いい響きだね。
「わたしの衣装を作れるのは、後にも先にもより姉だけだよ」
そう言って笑いかけたら赤くなっちゃった。最近、より姉の乙女化が進行しているような気がする。
なんだか可愛い。
「よ、よく分かってるじゃねーか。ゆきの美貌を完全に活かした衣装を作れるのは、あたししかいないってことだ」
「ふふ、そうだね。でもこれからはお仕事もあるんだし、無理だけはしないでね」
手伝ってくれるのは嬉しいけど、みんなにはしっかりと自分の人生を歩んでいってほしい。
みんなには明るい未来が待ってるんだから。きっと神様だって祝福してくれるよね。
「ゆきのためにすることなんだから、無理でも何でもねーよ!」
今度はわたしが赤くなる番だった。そんな顔でそんな男前なこと言われたら……。ってわたしまで乙女化してどーする。
「なんだ、赤くなって。さてはあたしの言葉でときめいたか?」
「ときめいてないよ」
ニヤニヤしながらそんなこと言って、さっきの男前が台無しだよ。
まったくこの姉妹たちときたら……。
今年は何かと幸先のいい出来事が続き、みんなの将来に光明が見えてきた。
より姉は一足先に社会人となり、かの姉とあか姉はそれぞれ自分の道というものを見つけた。
ひよりもわたしのチャンネルに出演することによって、世間にその存在を見せることができただろう。
ただできることなら、ひよりには大学まで進学してほしいというのがわたしの願い。
わたしのチャンネルをあげてもいいけど、ちゃんと現実的な進路も考えておかないと。配信者なんて博打もいいところだしね。
「大学? わたしの成績で行ける大学なんてあるのかなぁ」
夕食の席で切り出すと、そんな呑気な返事が返ってきた。まだ1年生だしそんなものかもしれないけど。
「ひよりの場合、やってこなかったからであって、やればちゃんとできるじゃん」
「やってできる子はやらない子。なんてね」
自虐にしても笑えないぞ、妹よ。
「でもなんで急にそんなこと言い出したの? 今までわたしの進路について口出しなんかしたことなかったのに」
「もうひよりだって2年生になるんだから、将来のことも少しは考えないと。このまま配信者になろうってわけでもないんでしょ?」
まだ焦るような時期でもないし、お節介なのかもしれないけど他のみんなが進路を決めていく中、ひよりだけが何も決まっていないのはどうしても気になってしまう。
「配信者かぁ。歌に自信があるわけでもないし、それはないかなぁ。わたしはゆきちゃんと一緒に踊っているだけで十分だよ」
嬉しいことを言ってくれるけど、それじゃダメなんだよ。
「だったらなおさら自分の将来について考えていかないと、ひとり立ちできないでしょ。何も目標がないんだったら、進学して自分の可能性を広げていくのもいいんじゃない?」
学歴が全てなんてこれっぽちも思わないけど、進学することによって自分の可能性が広がっていくのは確か。ひよりにはまだ無限の可能性があるんだから、それを自ら潰してしまうことはしてほしくない。
「なんだかゆきちゃん、お母さんみたいだね」
そこはお父さんじゃないの? まったく、この姉妹たちはわたしを好きだと言いながら、どうして女の子にしたがるのか。それって百合だぞ? いいのか?
「お母さんじゃないっての。でも頭の隅には置いておいてね。勉強ならいつでも見てあげるからさ」
「家庭教師ゆきちゃん! その時は是非、女教師の服装でお願い!」
なんで女教師……。なんだか性癖が歪んできてないか? それもわたしのせいなのかなぁ……。




