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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第119曲 心配かけてごめんね

 文化祭が終わればすぐに12月。


 すぐに行われるのが、生徒会選挙。次年度の会長副会長を決めるための全校集会。


 だけど今年度も生徒会長には他の候補者がおらず、信任投票すら省かれた満場一致の拍手で選任されてしまった。いや、いいんだけどね。

 来年からはちゃんと投票して選んでね?


 でもこれで3年連続、高校生活の全てを生徒会長として過ごせることになった。生徒たちのためにやりたいことだらけのわたしにはありがたい。


 講堂で受けた拍手の音を落胆の声に変えてしまわないよう、来年も登校が楽しみになる学園目指して頑張ろう。


 今年は意外なことがひとつだけあった。


 副会長の立候補が2名で、一歩も譲らないデッドヒートを繰り広げたのだ。


 意外だったのはデッドヒートではなくて、立候補した人物。

 今年度の副会長である文香と争ったのは、なんとひより。


 わたしと同じく2年間の役員実績を誇る文香に対し、わたしの妹というネームバリューを活かして堂々と演説をしたひより。


『生徒会長というのは激務です。そんな激務を日々こなしている日々こなしているゆきちゃんを癒し、支えてあげられるのはわたししかいません!』


 そんな健気な事を言われたら……。うぅ、わたしはどちらを応援すればいいんだ……。ただ全校集会でゆきちゃん呼びはやめようね。


 投開票はその場で行われる。


 得票数はほぼ互角で最後まで勝敗が決しなかったけど、最終的に副会長の座についたのはひよりだった。おめでとう、ひより。1年間よろしく。


 惜しくも落選してしまった文香には会計として活躍してもらい、書記には前年からスライドで穂香。

 庶務にはひよりの友達で1年生の東堂早紀(とうどうさき)ちゃんを指名した。


 これで来年度の生徒会の布陣が決まった。


 そして選挙が終わればすぐに期末テストの期間に入る。



 家では、晴れて副会長となったひよりの赤点を回避するため、つきっきりで勉強を教えてあげる日々。さすがに副会長が赤点はマズいしね。


 それにしても、ちゃんと教えてあげれば理解できるのになんでいつもギリギリなんだろう。授業中ちゃんと聞いてる?


「寝てることが多いかも……」


 やっぱり。何やってんの副会長。


「Hey YUKI! この問題の答えを教えて!」


「Siriじゃないし。真面目にやれ」


 参考書を頭にポフンと落としてたしなめる。舌を出して「はーい」と返事をするひより。あーもう! 可愛いな!


 緩む顔をなんとか抑えて勉強続行。


 やれやれな妹だけど、こうやって2人きりで勉強をする時間も悪くない。

 初冬の少し冷えた空気が頭を冴えさせて勉強をするにはうってつけ。だけど少し寒いかな?


「ひより、寒くない?」


「めっちゃ寒い。ゆきちゃん抱きしめて温めて?」


 ナチュラルに甘えてくる才能は天性のものだろうな。お兄ちゃんを誘惑してはいけません。


 無言でエアコンと加湿器のスイッチを入れると、口を尖らせて抗議の声。


「ゆきちゃんのケチー。ぶーぶー」


 クッソ可愛い! 抱きしめたい! でもダメダメ勉強中。平常心平常心。


 少し経つと部屋がだんだん暖まってきた。


 日曜日の午前。窓から入り込む日差しは柔らかく、静かな部屋にひよりの立てるペンの音だけが小さく響き、心地いい空間を作り出す。


 昨日は配信で結構遅くなったからなぁ。少し眠い。

 でもひよりが勉強してるんだからしっかり起きてなきゃ……。


 * *  *


「ひよりーゆきー! 勉強頑張ってるかー」


「しー!」


 勢いよく入ってきたより姉を慌てて黙らせる。より姉もすぐに気が付いたようで、口を押えて静かにしてくれた。


「なんだ、せっかくコーヒー淹れてきてやったのに、ゆき眠っちまったのか」


 小声で尋ねて来るより姉に笑顔で返した。


「昨日遅くまで配信頑張ってたみたいだからね。いつも頑張りすぎだから少しは休ませてあげようと思って」


 わたしの言葉に優しく微笑むより姉。

 ゆきちゃんを見つめるその眼はとても優しく、愛情に満ちてる。


 ホントにみんなしてゆきちゃんのこと好きすぎでしょ。

 まぁわたしだってみんなに負けないくらい大好きだけどね!


「なぁ、ひより、どう思う?」


 より姉が何の脈絡もなく突然質問をしてきた。


「なんのこと?」


 主語も述語もない質問にどう答えろっていうのさ。


「ゆき、まだ何か隠してるのはみんな分かってるよな」


 そのことか……。


「そうだね。いずれ明かしてくれるって言ったからみんな黙ってるけど、本当は気になって仕方ないんでしょ?」


「そりゃそうだろ。母さんが明かしてくれたゆきの脳障害の話。あれだけでも相当に衝撃的な話だったじゃねーか。そのうえでこれ以上隠していることがあるなんて……。正直こえーよ」


 より姉の言うこともよく分かる。

 こうやって安心しきった顔で眠っているゆきちゃんを見ていると、とても脳に障害を抱えているようには見えない。


 だけどゆきちゃんの世界には色がなくて、辛いことがあっても忘れることもできなくて……。

 考えるだけで涙が溢れそうになる。


 そんなゆきちゃんがいまだにわたし達に明かせない秘密……。


 体が震えそうになった。


「今は考えちゃダメだよ。いずれゆきちゃん自身が教えてくれるんだから、それまで待っていようよ」


 より姉に答えているふりをしながら自分にも言い聞かせる。考えちゃダメ。


「いなくなったり……しねーよな……」


「より姉! 滅多なこと言っちゃダメだよ! ゆきちゃんに限ってそんなことあるはずない! だってずっと一緒にいるって言ってくれたもん!」


 思わず声を荒げてしまった。ダメだ。涙が出てきちゃう。本当はわたしだって怖いよ……。


 でもゆきちゃんは約束してくれた! ずっとそばにいるって! その約束をわたしは信じるんだ。


「大きな声出したらゆきが起きちゃうって。悪かったよ。もう言わねーから泣くなって」


 慌ててなだめてくれるより姉。もう、バカ!


「ん、んんっ……」


 わたしが大きな声出したからゆきちゃん起きちゃった。ごめんなさい!


「あれ? わたし眠ってた? ごめん、ひより。勉強見てあげてたのにいつの間にか寝ちゃってた」


 慌てて涙をぬぐい、笑顔を作る。ゆきちゃんすぐに勘づいちゃうから無駄かもしれないけど。


「ひより、どうしたの? 泣きはらしたような目をして」


 やっぱりバレちゃった。しかも優しい手つきで頭を撫でてくれるし……。

 もう、ダメだよ。せっかく涙を引っ込めたばっかりなのに……。


 抑えきれなくなったわたしはゆきちゃんにすがりつき、その胸に顔を埋めていた。


「ゆきちゃ~ん! より姉がひどいんだよ」


 突然のことに驚いたみたいだったけど、何も言わずに抱きしめてくれるゆきちゃん。

 あぁ、安心する……。

 ゆきちゃんの温もりが心にまで染み込んでいくみたい。


「より姉? ひよりに何をしたのかな?」


「ちょ! ひより!? いや、ゆき、笑顔がこえーよ。」


 ゆきちゃんに詰め寄られて焦るより姉の図。

 フンだ。変なことを言ったより姉が悪い。


「なんでひよりが泣いてるの?」


 さらに追い詰められるより姉。ゆきちゃん相手だと長女ですらタジタジになるんだね。


「えと……勉強頑張らないとクリスマスプレゼントお前だけ無しなって……」


 言い訳下手か!


「そっか」


 ゆきちゃん納得しちゃった! いや、わたし幼児じゃないから! クリスマスプレゼントで泣いたりしないからね!?


「ヨシヨシ。意地悪なより姉がくれなくてもわたしがあげるからね。でも勉強は頑張ろうね」


 慰められちゃったよ。どれだけ子ども扱いされてんの。

 なんか複雑な気分……。


 まぁゆきちゃんに甘えられるならそれでもいいか!


 ぬふふふ、ゆきちゃんやーらかい。あったかーい。もうほんとに大好き! 

 このまま溶け合ってしまいたいくらい……。


 心臓がドキドキして切ないような苦しいような。でも心地いい胸の高鳴り。わたし、本当にゆきちゃんに恋しちゃってるなぁ。


 * * *


 ひより、より姉。本当にごめんね。


 2人の会話、全部聞こえてた。


 隠し事ばかりでいろいろ心配させているよね……。

 もう少しだけ待って。


 ひよりの背中を撫でながらそんなことを考えているわたし。それは罪深いことなのかもしれないけれど、この子の心に少しでも傷が残らないように。

 もう少しこの子が大人になって受け入れられるようになるまで。


 約束の期限まであと1年。


 ひよりには強く、美しく育ってほしい。

 ふふ、まるで親になったような気分。


「ゆきちゃん、ずっとわたしと一緒にいてくれるよね?」


 いつもの無邪気な、それでいてどこか懇願するような目で見つめてくるひより。


 もう、そんな顔しないの。


「もちろん。わたしはどこにも行ったりしないよ」


 この言葉に嘘はない。わたしはどこへも行ったりなんかしない。

 愛しい家族がいる限り、わたしは存在し続けることができる。


「ゆきちゃ~ん! 大好き~!」


 わたしの胸に顔を埋め、スリスリしてくる可愛い妹。猫みたいだけど。

 それを優しい眼差しで見つめるより姉。

 ちょっと羨ましいのかな?


「より姉も来る?」


 手を差し伸べると赤くなって反論してきた。


「ばっ! わたしはそんな! うぅ、でも……」


 おずおずとわたしの手を取り、そっと寄り添ってくるより姉。まったく、素直じゃないんだから。


 長女の威厳とか気にしたりしてるのかな? より姉はより姉でいろいろと大変なのかも。

 わたしの前では肩ひじ張らずに素のままでいて欲しいな。


 溢れそうな想いを込めて2人を抱きしめる腕に力を込めた。それに応えるかのように強くしがみついてくるひよりと、身を任せるかのように力を抜くより姉。


 わたしの大切な天使様。ずっとそばにいるからね。

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