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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第118曲 終わりよければ全てよし?

『文化祭2日目、ただいまより開幕だコノヤロー!』


 またしても狂気を感じさせる開幕宣言の後、開けられた校門からは前日よりさらに多くの来客が押し寄せていた。

 前日のミスコンが口コミで広がり話題となって、名物会長がどんなものか好奇心に駆られて見に来た人がほとんど。わたしは珍獣か。


 おかげで校門前に赴いたわたしはいろんな人の好奇の視線を一身に浴びる。


「あらあら本当にキレイなお嬢さんねぇ」


 いや、おばあちゃん、お嬢さんではないです。

 いったいどんな噂が広まったんだ?


 通りゆく人々からたくさん声をかけられて、わたしの周囲には人だかりができてしまった。

 まるで動物園のパンダになった気分。客寄せパンダとはよく言ったものだ。


 どうにか人をさばききって見回りを開始。だけどわたしにはこの後試練が待ち構えている。

 そのことを考えるとどうしても気分が沈んでしまい、機嫌よく声をかけながら見回りというわけにもいかない。


 おかげで「ゆき会長の機嫌が悪い」という評判がたってしまい、わたしに話しかけてくる人もほとんどいなかった。

 そんなに怖い顔してたのかな?


 だけど、来客者が増えたということはそれだけトラブルの種が増えたということでもあり、見回りの間中その対処に追われてその後のことを考えている余裕もないくらい忙しかった。

 ほとんどが道案内や迷子の保護とかそんなんばっかだったけど。平和だ。


 

 そして来校者が増えた結果、文化祭2日目はわたしにとってさらに地獄と化していた。


 前日、わたし達のクラスの出し物であるお化け屋敷から毎回尋常ならぬ悲鳴が聞こえるということが噂になり、来客が前日比激増。


 その悲鳴はお化け役(わたし)だよ!


 おかげで今日は休む間もなく人が訪れ、わたしの悲鳴が途絶えることもない。

 いい加減疲れたよ……。



「お、終わったー!」


 ようやく持ち時間が終わったわたしの口から飛び出た歓喜の声、魂の叫び。


 怖かった記憶にはさっさと蓋をして、すっかり元気を取り戻したわたしは意気揚々と見回りを再開した。

 この解放感、たまらない。


 悪魔の強制労働から釈放されたわたしは朝とは違って上機嫌。

 ニコニコ笑顔のわたしに生徒たちも安心したのか、行く先々で声をかけられる。


「ゆき会長~! うちにも寄ってって~!」


「まだ見回り中だから後でね~!」


 かけられる声に機嫌よく応対しながら校内を巡回していると、突然後ろから声をかけられた。


「やっと見つけたぞ、我が運命の人!」


 はぁ?


 なんかどっかで聞いたことのある声だなと思いながら振り向くと、そこに立っていたのはピッチリ横分けメガネの男。


 誰?


 こんな人知らない。それになんか運命の人とか訳の分からないことをのたまっていたような。


「なんだよ、運命の人。俺の顔をそんなに見つめて。俺に会えたのがそんなに嬉しかったのかい?」


 うわぁ……。なんていうか……ウザ。


「あの、どちらさまですか?」


 不審者を見るような目で聞くと、オーバーな身振りで嘆く見知らぬ男性。


「俺のことを忘れるなんてひどいな! 運命の人! あんなに熱く語り合ったあの日の事を忘れてしまったというのか!」


 こんな暑苦しい人と語り合った記憶なんてどこを探してもないんだけど。


「あー人違いですね。わたし忙しいんでそれでは」


 先ほどまでの上機嫌は吹き飛び、無の表情で事務的に応対するわたし。そして慌てる見知らぬ男。


「ちょっと待ったー! オレオレ、俺だって!」


「オレオレ詐欺ですか? 警察呼びますよ」


「目の前でやるやついる!? そうじゃなくって俺だよ、富樫! とーがーしー!」


 うん、知ってた。声でそうだろうなって分かってたけど、あまりの変貌ぶりに脳が認めるのを拒否していただけ。


「で、その昭和アニメ先輩が何の用ですか?」


「誰が昭和アニメだよ! なんでその呼び名が定着してるんだ!」


 あーうっせー。


「そりゃとある人が与えてくれたありがたいお名前ですから」


「もう違うよね? すっかりイメチェンして爽やかになったよね?」


 確かに見た目は相当変わった。ヤンキー(笑)な風貌から一転、白のTシャツにダメージジーンズ、カラフルなパーカー。しっかり横分けされた髪型に黒縁メガネ。

 爽やかかどうかは置いといて、かつての面影はどこにもない。


「確かに随分変わりましたね。おめでとうございます。それではお元気で」


「冷たくない!? 塩対応すぎない!?」


 もううるさいなぁ。


「それで何の用なんですか?」


 仕方なく向き直り、用件だけは聞いてあげるわたし。これだけ寛容な応対をしているのに何が不満なのか。


「そりゃ、お前との愛を語りに……」


「さよなら」


 背を向けるわたし。


「せめて最後まで聞いて! このほとばしる想いを少しは受け止めて!」


 ヤダよ気持ち悪い。

 それにしてもしつこいな、この人。もう何年こんなことやってんだろ。


「お前が中二で転校してきたときからずっと一途に思い続けてるんだぞ? 少しはキュンと来たりしねーのか?」


 するかバカ。


「いえ全く。ご存じだとは思いますがわたし男なんで。同性に愛を語られても1ミリも響きませんね。そっちの趣味はありませんから」


「そりゃねーぜハニー。愛に性別は関係ないぜ!」


 鳥肌立ちそうなんですけど。


 どうでもいいけどキャラ変わりすぎだろ。


「関係大ありです。決して絶対絶望的にその愛が届くことはありませんので、その性癖を受け入れてくれる方をあたってくださいね」


「拒絶が強い! 別に男が好きなわけじゃねーよ! お前だから惚れたんだよ!」


 公衆の面前でよく愛だの惚れただの大声で言えるもんだな。いい加減注目を集めてるのが分からないのか。


「ごめんなさい。これでいいですか? それでは」


「淡泊すぎるぅ! もうちょっと相手して!」


 なんか必死だな。すがりついてくんな。


「もうめんどくさいなぁ。また投げたらいいですか?」


「毎回その退場の仕方イヤなんですけど!」


 愉快な人なのは認めるけどね。同性は対象外でしょう。


 ん?


 だったら異性だったらいいのか? 違う違う。わたしは恋愛をしないって決めてるんだ。この人の相手をしているとなんか調子が狂う。


「わたしは誰とも恋愛をしないって決めてるんです。どうやったら諦めてくれるんですか?」


「う~ん。例えばビンタされるとか?」


 スパーン!


「いでぇ! 躊躇なしか!」


「リクエストされたもので」


「リクエストはしてない! そんなドMじゃねーよ! 例えだ例え!」


 これだけ明確に拒絶されているのにどうして諦めないんだろう? この根性は大したもんだ。


「もういいでしょう? これ以上つきまとうと警察沙汰ですよ?」


「ホントにダメ?」


 急に捨て犬みたいな目になるな、気色悪い。


「ダメです」


「デート1回くらいは?」


「ムーリー」


 冗談じゃない。何が悲しくて同性とデートなんてしなきゃならんのだ。

 しょんぼりしてしまった富樫先輩。やれやれ、これで諦めてくれるかな。


「隙あり!」


 なにが隙ありだ。そんな見え見えの手に引っかかるわたしだとでも思ってるの?


 抱き着こうと飛びついてきたところを無事に投げ飛ばされる富樫先輩。彼はそのまま星になった。


 まぁそんなわけはなく、ちょうど通りかかった庶務の鬼嶋先輩に保健室へ連れて行ってもらい、その後お帰り願ったんだけどね。


 ホント、今年の文化祭は受難の年だったな。来年は何か派手な事やりたい。



 やがて文化祭も終幕となり、後夜祭でもあるキャンプファイヤーの時間が訪れた。


 パチパチと音を立てて燃え盛る炎を、運動場へと下りる階段に腰掛け眺めていると、ひよりとあか姉がやってきた。


「ゆきちゃんやっと見つけた! もうほっといたらすぐどっか行っちゃうんだから」


「終わったらちゃんと声かける」


 両隣に腰掛けながら苦情を言ってくる2人。


「ごめんなさい。ちょっと忙しかったからね~」


 苦笑しながら謝るわたし。なんだかんだでけっこうバタバタしてたからちょっと疲れたかなぁ。


「ひとりでゆっくりしたかった?」


 あか姉が気を遣って聞いてきたけど、ゆっくりと首を横に振った。


「そんなことないよ。2人が来てくれて嬉しい」


 笑顔で返すと2人とも安心したのか、同じように微笑んでいる。


 そのまま黙ってキャンプファイヤーを眺める3人の影。視線の先には炎を囲み、スローテンポの音楽に合わせてダンスを踊る生徒たち。


 ペアを組んで踊る生徒たちはどれも楽しそうな、はにかんだような笑顔を浮かべていて、青春の輝きを感じる。


 ふと両肩に重みがかかった。見るとあか姉とひよりが頭を乗せている。とても幸せそうな顔。


 いろいろと大変だったけれど、最後にこんな時間を過ごすことができて良かった。この温かい時間を大切にしたい。

 いつまでもこの時間が続けばいいのに。


 そう願ったところで、時間は無情に過ぎていく。


 来年はどんな気持ちでこの炎を眺めているんだろう。

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