第117曲 トラウマ文化祭(笑)
ヤダ、話したくない。
思い出したくもない。
今年の文化祭も盛況に終わりました。
完
これでいいでしょ?
ダメ? うぅぅぅ……。
ヤダヤダヤダ~~~!
意地悪な神様がダメだというので今年の文化祭のお話。
ここからはわたしがどのようにしてトラウマになってしまったかを綴る悲しい物語。
今年も生徒会長であるわたしが校内放送で文化祭の幕開けを告げる。
『今年度、学園文化祭の開幕だコンチクショー!』
常軌を逸した開幕宣言の後、校内になだれ込んでくる人々の群れ。それを出迎える生徒会役員たち。
道すがら視線をたくさん感じたけど、不機嫌なわたしにはそんなことを気にしている余裕もない。
そして校門で待機している役員たちと合流。
「どうしてゆき会長はそんなにやさぐれてるのかしら?」
当然の疑問を口にする薫先輩。ヤダ、話したくない。
「あはは、ちょっとクラスでいろいろありまして~。すぐに大人しくなるかと」
代わりに答えてくれる文香。大人しくなるってどういうことだ。わたしは猛犬か。
ガルルルル……。
「クラスでいじめられているとかじゃないですよね?」
「ゆき会長をいじめられる猛者なんてこの世にいるんですか? まぁクラスの出し物のお手伝いが終われば少しは復活するかと」
その言い方は酷いよ穂香? クラスの出し物……。う、また嫌なことを思い出してしまった。
「はい、その話題はおしまい! キビキビ見回りしちゃうよ~!」
こうなりゃヤケだ。気を取り直して笑顔で文化祭を楽しもう! せめて憩いの時間である見回り中くらいは。
そこからはいつもの快活な笑顔を取り戻し、楽しく見回りをして過ごしました。
うぅ、これで終われたらなぁ……。
今年は盛況だった去年に勝るとも劣らないほどの来客者が訪れてくれていた。
今年の卒業生達も大挙して押しかけてきたので、きっと去年の記録は塗り替えているだろう。
そしてとうとうやってきてしまった。何がって? そんなの決まってる。
クラスの出し物のお手伝いだよぉ!
くそーこうなったら来る人来る人全員を腰が抜けるくらいに脅かしてやる!
そう思っていた時期がわたしにもありました。
「ひゃあぁぁぁぁ!」
「うわぁあぁぁあ!」
「んにゃあぁぁぁん!」
「はひいぃぃぃぃ!」
暗いの怖い、血まみれの自分の衣装が怖い……。
暗闇の中、人が来るたびに怯えるのはお客さんじゃなくてわたしだったとな……。
大体なんなんだこの衣装! なんだゾンビナースって! どこぞの静岡なゲームのアレか!
ところどころ破れて血糊はついてるし、暗闇でよく見えないからいいものの何気に露出度高いし。
これ作った人の趣味がこれでもかってくらい盛り込まれてるでしょ!
あ、また人が来たぁ……。もうヤダ……。
一応持ち場に移動してスタンバイ。そしてタイミングを見計らって……今だ!
飛び出したと同時に暗闇に浮かび上がる人影。ヤダ怖いぃぃ!
「きゃあぁぁぁぁぁ!」
「うるさ! ちょっとゆきちゃん、わたしだよ!」
ゆきちゃん!? ゆきって誰!? あっわたしだ……。
「ふえ?」
恐る恐る人影をよく確認してみると……ひより!
「うわあぁん! ひより~! 怖かったよ~!」
ようやく見知った顔を見つけて安心したわたしは、見栄も外聞もなくひよりにしがみついていた。
「ヨシヨシ、ゆきちゃん怖いの苦手なのによく頑張ったね~」
妹に頭を撫でられ半べそをかいている兄の図。うぅ、安心したけど恥ずかしい……。
「ひより~、もうヤダよ~」
「ほら、しっかりして。さっき受付の人に聞いたらゆきちゃんもう上がっていいってさ。この後休憩でしょ? 一緒に回ろ!」
え、終わり? ようやくこの地獄から解き放たれる時が来たってこと?
「うわぁ、分かりやす! 表情が一気に明るくなって、周りに花が咲いているのが見えたよ」
何とでも言え! こんなとこもう一秒たりともいたくない。
ひよりの手をとってさっさと退散だ。
「ちょちょ! ちょっと待ちなってば! その恰好のまま校内を練り歩く気なの?」
忘れてた。明るい場所でこんなの見かけたらお客さんビックリしちゃうよね。
鏡見たらわたしも卒倒しそうだし。
「そんなミニスカナース服であちこち破れて肌が露出して……。いろんな意味で注目浴びちゃうよ?」
そうだった。
怖いにばっかり意識が行って、そっちのことはすっかり頭から抜けてたよ。
暗い中を手探りで歩き、教室の端に備え付けられたブースで着替えをしたいんだけど……。暗い。
ちゃんと着替えられるようにぼんやりとした光源は用意されているんだけど、その薄明かりが逆に雰囲気を醸し出したりもしている。
「どうしたの、ゆきちゃん? 早く着替えて遊びに行こうよ」
「あの……ひより? 暗いからその……近くにいてね?」
こんなとこでひとり着替えるのももう怖い。
最初に着替える時は、カーテン越しの場所にメイクをしてくれる子がいたからまだ耐えられたけど。
さんざん怖い思いをした今ではもう姿が見えていないと安心できない。
「それじゃ、着替えるからあっち向いててね?」
はいはいと言って背を向けるひより。その後ろでいそいそと着替えるわたし。
気持ち悪いメイクも落として、ようやくこの暗闇から抜け出すことが叶ったわたしの気分は戦いを生き残った戦士の気分。
「ひより、迎えに来てくれてありがとね!」
気を取り直したわたしは素直にお礼を言う。だけどひよりの様子が少しおかしい。なんだか顔が赤いような……。
「あべこべでしょ!」
突然大声でそんなことを言うからびっくりした。何が?
(いやいや、おかしいでしょ。なんで女の子が男の子の着替えの横にいてドキドキすんのさ……)
じっとわたしの顔を見つめて険しい顔をするひより。
「ん?」
訳が分からない。どうしたのかな。わたしはもう平気だよと笑顔を向けたらさらに赤くなってしまった。
「ゆきちゃん反則すぎ!」
べしっと顔を押さえられてしまった。いたひ。
それから少しひよりと遊んでいたら、ちょうどわたし達を探していたらしきあか姉たちと合流した。
より姉とかの姉もいる。
去年はより姉がいなかったから、学校で家族揃って遊べるのはこれが初めて。なんだか嬉しいな。
「おい、見ろよ。会長のとこの美人5姉妹勢ぞろいだぞ」「うぉ! マジ眼福!」「あそこだけ別次元みたいに華があるわね」
そこかしこから聞こえる声と集まる視線。まぁこれだけ美人がそろってたらねぇ。
わたしをそこに入れるのは勘弁してほしいけど。
5姉妹ちゃうわ。
フランクフルトや焼きトウモロコシ、焼きそばなんかを食べつつ展示品を眺めて感心したり笑ったり。
やっぱりみんな揃って遊ぶのは楽しい。
いつまでもこんな時間が続いてくれたらいいのに……。
「そーいやゆきはミスコンに出るんだろ? もうすぐ時間じゃねーのか?」
う、またしてもヤな事思い出させてくれたねより姉。せっかくの家族団らんの時間が……。
「そうなんだよね。もうすぐ用意しないとだから、そろそろステージに向かわなきゃ」
「ゆきならステージに立つのはお手の物だろ。堂々とがんばってこい!」
簡単に言ってくれるけどね、より姉。またわけが違うんだよなぁ……。
せっかくの時間に後ろ髪をひかれながらとぼとぼと去っていくわたしを見送ってくれる4人。
きっとこの後のミスコンも見に来るんだろうな。気が重い……。
そして始まったミスコン。すごい数の観客……。
11月と言えば晩秋から初冬に移り変わる時期。当然みんな秋か冬用の服装で薄着の人間なんてひとりもいない。
その中に単身水着で出ていく恥ずかしさよ……。
特別枠ということでトリを飾ったのだけど、わたしが出ていった瞬間、会場にどよめきが起きた。
「これはなんとも……」「ありがたや~」「めちゃくちゃキレイ……」
いろんな言葉が聞こえてきたと思ったら、すぐに盛大な歓声にかき消されてしまった。
ちょっとおじいちゃん、手を合わせるのはやめてくんないかな。
『これぞ我が校が誇る名物会長、ゆき会長の雄姿だ! 会長の水着姿なんて滅多に拝めないぞ! みんな脳内アルバムにしっかり保存したかー!』
やめろ、変な紹介文つけて煽るんじゃない。
だけど観客は大盛り上がりで、嬌声と拍手が近所迷惑になるんじゃないかと思うほどに響き渡る。
恥ずかしいよぉ。穴があったら入りたいとはまさにこのこと。
『それでは次のアピールタイムのトップバッターはこのままゆき会長に務めてもらいましょう!
お題はズバリ「こんなお嫁さんになりたい」だぁ! さぁ会長どうぞ!』
どうぞじゃねーよ。誰が嫁だ。
マイクを手渡され固まるわたし。何を話せと? 間違えても嫁に行くことはないから。
こうなりゃ仕方ない。夢を壊してごめんね、おじいちゃん。
『あのー、さっきからいろいろと誤解を招いているようなんですが……。わたしの性別は男ですよ? 忘れてたのか、わざとかどっちかな?』
広がるざわめき。
なんで同じ学校の生徒まで驚いた顔してんだ。その顔覚えたからな。
「嘘だろ?」「ありがたやありがたや!」「あれで男とか世界は広いわぁ」「新しい扉が開きそう」
おじいちゃん、もっと熱心に手を合わせているのはなーぜ?
結局その後もいろんなアピールタイムをやらされ、そのたびに観客は大盛り上がり。
特技を聞かれた時に歌とダンスと答えたものの、さすがに水着姿でダンスを踊るのはリスクが高い。
だから歌を披露するだけで済ませたんだけど、それもライブ会場さながらの大歓声と拍手に包まれてしまった。
おじいちゃんもハッスルハッスル。倒れないでね?
最後に審査員としてグランプリを選んだのだけど、いったい誰のために開かれたミスコンなのやら分かんなくなっちゃったような……。
もう絶対に出ないからね? てゆーかいい加減寒いわ!




