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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第114曲 変わらぬ想い

 わたしの提案で、もう一度海で遊んでから家に帰ることになった。


 それは何よりもひよりのため。海で溺れた恐怖をまだ鮮明に覚えているうちに水へ触れさせて、自分は大丈夫だという体験をさせてあげないといけない。

 でないと最悪の場合PD(パニック障害)を引き起こして、水に浸かることすら怖がるようになってしまうかもしれない。


 幸いなことにひよりのポジティブさはわたしの予想以上だったみたい。

 最初こそ恐る恐るといった様子だったけど、ものの数分でいつものように遊ぶようになっていた。

 最後にブイのところまで競争をして、ひよりは難なく昨日の事故を克服。さすがわたしの妹!


「むふふ~ん! ひよりはあれしきのことでへこたれたりしないよ!」


 わたしの狙いに気が付いたのか、ドヤ顔で胸を張るひより。


「調子に乗ってるとまた痛い目見るよ~」


 そう言って脅してもキャッキャと笑ってはしゃいでいる。うん、これなら本当に大丈夫そうだ。



 午前中いっぱい海で遊んで、昼食をとった後に民宿へ帰還。

 少しゆっくりしていたらチェックアウトの時間になったので、受付で清算をして帰路についた。


 決して豪華ではなかったけど、家庭的な雰囲気のいい民宿だったな。またいつかみんなで来たい。

 いつか……。


 帰りの電車の中では朝から泳いで疲れたのか、わたしを除いて全員が眠ってしまった。


 わたしはみんなの寝顔を見ながら物思いにふける。



 この旅行で明確になったことがある。

 それは姉妹たちのわたしに対する想いだ。


 今までは家族愛の延長線上にある、過度なブラコンだと思っていた。

 ちょっと行き過ぎかな? と思うことはあってもあくまで家族としての情愛なんだと。


 だけど、昨日のひよりの言葉と行動で、家族のラインを踏み越えようとしていることが分かってしまった。


 それはひよりだけじゃなく、それを温かい目で見守っていた他の姉妹も同じ気持ちなんだろう。


 それに対してわたしは……。


 わたしにはどうしてもそのラインを踏み越える覚悟が持てない。


 わたしもみんなのことは大好きだ。それがただの家族愛じゃなくなってきているんだということも、ようやくはっきりと自覚した。


 より姉、かの姉、あか姉、ひより。4人の事を等しく愛している。


 そう、誰か1人を選べないということが、踏み越えられない理由のひとつ。


 誰だって愛する人には自分だけを見てほしいと願うものだろう。わたしだってそうだ。


 なのにわたしは、そんなケジメひとつもつけることができない。

 男としては最低の部類に入るだろう。そんな優柔不断な男は、あの4人には似つかわしくない。


 だけど、それは大きな問題ではない。


 逆にこんなはっきりしない男を見限ってもらう、いい理由になるのかもしれない。

 ひとつ懸念があるのは、この4人ならそんな状況を受け入れかねないという点だ。


 うちの家族の仲はすこぶる良い。

 いつもわたしを中心に考えてくれているけど、姉妹同士もたいがい仲がいいのだ。昨日のひよりの暴走に対しても、みんなどこか受け入れているような感じだった。


 もしみんながこんな男をそれでいいと受け入れてしまった場合、わたしは間違いなく4人を不幸にしてしまうことになる。

 しかも大きな傷を負わせて。


 強盗事件の際にお母さんがみんなにわたしの秘密を話してしまったけど、肝心な部分だけは黙っていてくれた。


 自分で言うのもなんだけど、これだけのいろんなギフトを神様から与えられていて、代償がたったあれだけでは軽すぎるということなのだろう。

 神様がわたしに背負わせた最も大きな十字架の事は、お母さん以外誰も知らない。


 わたしは雪の精霊。

 人々に幸せを届けるのが使命であって、特定の誰かを幸せにするため存在しているわけではない。そういうことだよね、神様?


 わたしの大切な大切な4人の天使様。


 今も完全にわたしのことを信用して、無防備な寝顔を見せてくれている愛しい人達。

 できうることなら彼女たちに、わたしにしかできない幸せというものを与えて、とびっきりの笑顔を見てみたい。だけど……。


 わたしにはその()()がない。


 今までたくさんの人にわたしの歌とダンスを見てもらい、元気と幸せを届けてきた。


 そして生徒会長として、学園をより楽しいものに作り替えることも出来てきていると思う。

 このまま卒業まで続ければ、きっと後々にまで受け継がれ、伝統になるような校風を作り上げていけるだろう。


 そしてそれらが全て済んだ時、わたしの役目は終わる。


 それはあの雪の日に決められた、変えようのない運命。役目が終わった雪の精霊は神様のもとへ戻らないといけないのだから。


 使命を背負うことで、あの日終わるはずだった命をつないでもらった。


 そんなわたしが自分の幸せを願うなんてことを許されるはずがない。


 必ず傷つけ、悲しませることがわかっていて、この4人を安易に受け入れていいはずがないんだ。


 だからみんなの気持ちには応えることができないことを、はっきりと伝えておかないといけない。

 そして卒業前にはわたしの抱えるものを、洗いざらい話してしまおう。


 それがわたしにできる最大の誠意。

 みんなが幸せになれる唯一の道。それ以外の選択肢なんてない。


 正直、胸が痛い。

 涙が溢れそうになる。

 だけど泣いてはいけない。

 そんな顔を見せたら、またこの人たちに心配をかけることになってしまうんだから。



「なんて顔してる!」


 あか姉の声でビックリして我に返った。気が付くとみんな起きていて、心配そうにわたしの顔を覗き込んでいる。しまった。


 自分のことばかり考えて周囲に注意を払うのを忘れていた。これじゃ精霊失格だな。


「ううん、何でもないよ! ちょっと考え事をしてただけ」


 苦笑いで誤魔化そうとしてみるけど、きっとこんな手は通用しないんだろうな。


「嘘をつかないでください。さっきの表情は何でもないって顔じゃありませんでした」


 険しい表情でわたしを見つめるかの姉。

 思った通りだ。そりゃこの人たち相手じゃそうなるよね。


 やっぱりはっきりと言うしかないのかな……。ヤダな。これからぎくしゃくしちゃったりしないかな。


「どうしたんだよ、ゆき? 何かあるならちゃんと言えよ」


 そんな心配そうな顔しないでよ、より姉。


 そうだね。わたしの勝手な迷いで、いつまでもこんな表情をさせているわけにもいかない。


「わかったよ。ちゃんと言う」


 わたしの言葉に少し安堵した様子の4人。ごめんね、今からその気持ちを裏切っちゃうんだ……。


 許されたいなんて言わない。恨んでくれてもいい。

 これがみんなの幸せのためにできる、最良の選択だと思うから。


「まずひより。昨日は中途半端な形であなたの質問に返事をしなくてごめんなさい」


 この言葉だけで何のことかみんな分かったようで、表情が引き締まる。これからわたしの言うことに想像がついたのかもしれない。


「思い上がりだったら申し訳ないんだけど、ひよりとあんなことをしてた後のみんなの態度を見ていて、全員が同じ気持ちでいてくれているって気づいちゃったんだ」


 固唾を飲むというのはまさにこんな表情の事を言うんだろうな。誰も否定したりせず、真剣な眼差しでわたしの言葉の続きを待っている。


 ここから先の言葉は勇気がいる。でも今更何もありませんなんて言うこともできない。


「みんながわたしに対して、家族の範疇を超えた好意を抱いてくれているんだって感じたんだけど、違うかな?」


 全員が顔を赤くして顔を横に振る。そこに言葉はないけれど、表情でその想いの深さが読み取れてしまう。


 みんな、ごめんね……。


「そっか……。こんなわたしなのにありがとう。でもごめんね、わたしはこれから先も、死ぬまで恋人を作る気はないんだ」


 言ってしまった。誰も何も言わない。沈黙。


 わたしはみんなの顔を見ることも出来ず、ただ俯いたまま審判の時を待つ。

 怒られようが罵られようが、わたしは何も言い返せない。みんなの気持ちをたった今踏みにじってしまったのだから。


「な~んだ、そんなことか」


 少し場違いにも聞こえる、ひよりの気の抜けた声に顔を上げると、みんなが微笑んでいた。


「そうだな。そんなこと言われなくても知ってるっつーの」


 知ってる? どういうこと、より姉?


「おまえが()()そういう気持ちでいるってことくらい分かってるよ。だから昨日ひよりにも焦るなって言ってたんだ」


 確かに言っていた。まだまだ時間はあるとも。


 でもわたしにはその時間が……。


「どうせまだ何か隠してるんだろ? じゃなきゃおまえはあんな顔しねー。母さんから聞いた話が全てじゃないってことだよな」


 みんな一様にうなずいてわたしの目を見つめてくる。


 もう、なんなのこの人たち。どうしてわたしのことに関してはそんなに鋭いのさ。


「いつ?」


 あか姉が真剣な眼差しで聞いてくる。いつっていうのはわたしが本当の事を話す時期のことだ。


「卒業前には……」


 まだ秘密があると白状したようなものだけど、これ以上誤魔化しはきかない。


 だったらちゃんと期限を明言することでしか、誠意を見せる方法はない。


「あと1年ちょっとじゃねーか。あたしらが何年この想いを抱えてきたと思ってんだ。それくらいすぐだよ」


 にかっと笑いながら、わたしの肩に手を置くより姉。ヤダ男前。


 ってそうじゃなくて。


「でもみんなにはちゃんと幸せになって欲しいから!」


「だから他の男を探せと言うのですか?」


 口調はきつめだけど、そこにあるのは怒りじゃなくて、どちらかというと呆れ。


 かの姉の言葉に胸が痛む。だけどここで自分の気持ちを見せるわけにはいかない。


 黙ってうなずくと全員からため息が漏れた。えぇぇ……。


「そんなのわたしらの勝手じゃん。ホントのことも分からないのに、そんな簡単に目移りしちゃうほど軽い気持ちじゃないよーだ」


 ひよりにあかんべーをされてしまった。

 そんな顔も可愛いけどさ。


 確かに人の気持ちなんて自由だ。わたしがどうこう言えるようなものでもない。だけど……。


「大体あたしらの隣に知らない男がいて、ゆきは平気でいられるのかよ」


 !!!!


 より姉の言葉にぶん殴られたような気がした。みんなの横に見も知らない男が立っている……。

 そんな姿を想像しただけで胸が締め付けられる。


 それを見ていたあか姉がふんわりと笑う。


「なんて顔してる。心配しなくてもわたし達はゆきしか見えない」


 それが心配なんだってば……。


「とにかく! おまえの全てを聞くまでは、何があってもあたしらの気持ちは変わんねー。以上だ。これでこの話はおしまいな!」


 肩を叩きながら満面の笑みを浮かべるより姉。

 もう、ほんとにこの人たちには敵わないや……。


 でもわたしには分かっている。これは問題の先送りでしかないことを。

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