第109曲 海だ! ビーチだ! しりとりだ!
昨日は微妙な空気になっちゃったけど、その後は気を取り直して旅行計画の方へと夢中になり、最終的にはいつも通り仲良く過ごすことができた。
心の中にくすぶるものまではわからないけど。
それでも心境になんらかの変化はあったようで、以前よりもわたしにべったりな状況がひどくなったような気がする。
だからいい人見つけなさいって言ってるのに……。
まぁ否応なくその日はやってくるから、いずれみんなも自分の道を模索し始めるだろう。
その時に何もお手伝いしてあげられないのが心苦しいんだけど。
生徒会長として忙しく働き、家ではきらりさんや琴音ちゃんの襲撃をいなし、家事をこなして配信活動に打ち込む毎日。
先日投下した1人2役動画はすごい反響があって、再生数はあっという間に1000万回突破。今でもぐんぐん増えていってる。
「これってゆきひとり?」
あか姉がびっくりした表情で聞いてきた。
「そうだよ。重ね撮りしてるだけ」
「いや、簡単に言うけど、相当難易度高いんじゃねーのか?」
より姉が疑問を挟む。普通そう思うよね。
「まぁ空間認識能力をフルに使ってるからね。全てを覚えているわたしならではのチート技、ではあるかな」
心底感心した様子の姉妹たち。
「でも見ている人の中には、別の人を使ってるって疑う人もいるんじゃないの?」
ひよりの言う通り、たまにそんなコメントも入ってる。
「いるねー。でも古参のリスナーさんから言わせると、わたしのダンスかそうじゃないかってのは見れば分かるらしいね。だからそんなコメントは勝手に潰されていってるかな」
ファンの存在ってありがたいよね。
以降もたまに1人2役動画は撮り続けているのだけど、評判は上々。
そうやって投稿した『YUKIちゃんが2人』動画はひとつのジャンルとして人気コーナーになり、別に再生リストを作ったほどだ。
公私ともに充実した毎日を送っていると、夏休みはすぐに訪れた。
ひよりはわたしとあか姉が付きっ切りで勉強を教えてあげた甲斐もあって、赤点どころか平均点を少し上回るくらいの成績を残すことができた。
やればちゃんとできるのに、普段からやろうとしないんだよなぁ、この子は。
知識の吸収を楽しいとは思わないみたいだから、仕方ないことなのかもしれないけど。
勉強だって楽しんでやれば勝手に成績はついてくるからね。
わたしが言っても説得力ないかもだけど、いくらわたしでも教科書くらい読まないと、知らないことに答えることはできない。
教科書や論文は、自分の知見を広めてくれるようで楽しいから率先して読む。
忘れることのないわたしはもう高校の履修科目は全て頭に入っているので、今はいろんな論文を読むのが楽しくて仕方がない。隙間時間を見つけては読書に勤しんでいる。
夏休みは生徒会の仕事を除いて学校に行く機会が減るので、自分の時間を確保しやすいのが良い。
そうして充実した毎日を送っていると、両親がようやくまとまった休みを取れたので、久々に家族全員揃っての団らん。
せっかくだからわたしも腕によりをかけて豪勢な料理を振る舞い、日ごろの感謝を両親に伝える。
他の姉妹も貯金していたアルバイト代でなにかプレゼントを用意したり、お土産代としてそのままお金を渡したりして思い思いに気持ちを伝えていた。
お母さんは感極まったのか少し涙ぐんでいたけど、みんながここまで大きく育ったことに親としていろいろと思うことがあるんだろう。
実際にお母さんの実子はより姉とひよりの2人だけなのに、いつのまにか5人もの子供の母親として今まで頑張ってきたんだ。
ようやくその苦労も報われた気持ちになってくれたんだろうか。
休みが終わればまた以前のような忙しい日々に戻るだろうけど、せめて今はゆっくりと羽根を伸ばしてきてほしい。
お父さんとの新婚旅行もずっとお預けになってたんだから、この機会を新婚旅行だと思っていっぱい楽しんできてね!
嬉し恥ずかしといった様子の両親を見送ったら、次はわたし達が旅行へと出発する番だ。
全員キャリーバッグを持って玄関前に集合。玄関のドアに施錠をして「いってきます」
いつぞやの軽井沢旅行を思い出すけど、あの時は避暑地に向かうところだった。だけど今回は、夏を語る上で避けては通れない海!
みんなすでに下には水着を着込んでるから、すぐにでも脱げるようにラフな服装。
わたしもショート丈のTシャツにホットパンツ、キャップを被っただけの簡単装備。
「ゆきのへそ出しルック、なんかエロイけど大丈夫か?」
なんでより姉が鼻の下伸ばしてんの? 夏なんだから少々布面積が少なくてもそっちの方が涼しくていいでしょ。
「そうやって男どもの視線を釘付けにする」
人聞きの悪いこと言うなぁ、あか姉。なんで釘付けになるのは男なんだろーね。おかしいよね。
わたしに欲情する男どものことなんて知らないよ。
「ゆきちゃんはどんな姿をしてても結局人の目を集めちゃうんだから、抵抗するだけ無駄だし。どうせならかわいい服を着てる方がいいよね!」
さすがひより、いいこと言う! もう自分が可愛いと思う服を着てやるって開き直ってるよ。
は! こういうとこか! ……まぁいいや。
最近ではあか姉やひよりの選んでくれた可愛い服を、自分なりに選んで組み合わせることにハマっちゃってるくらいだし。
かっこいい服も好きだからたまに着るけど、外に出るとやたら女性から声をかけられるようになるんだよね。
そうするとみんなだんだん不機嫌になってくるし。
それに今日はみんなも露出度の高い服着てるでしょ。
木を隠すなら森の中ってね。みんなに紛れていれば、わたしもそんなに注目されることはないだろう。
と思っていた時期がわたしにもありました。
木どころか森そのものが目立ってしまっているから注目されまくり。あらゆる方向から視線が集まってくる。
美人ばかりが集まってラフな格好をしてると、こんなにも見られるものなんだね。
それだけ注目されていると当然のように湧いてくるのがナンパ男。
街中でのナンパはまだいい。他にも視線がたくさんあるからなのか、そこまでしつこく食い下がってくることなく、断ればすんなり引き下がってくれる。
問題は旅行先に到着して、水着に着替えた後のチャラ男どもだ。
旅の恥はかき捨てとばかりにしつこいしつこい。そういうのが現れると姉妹たちはみんなわたしの後ろに隠れてしまうから、結局わたしが対応するしかなくなるし、いい加減めんどくさくなってくる。
「ねーねー。こんな美人が5人も集まってて女だけで遊んでるのはもったいないって。任数多いほうが楽しいでしょ? 俺らと一緒に遊ぼうよ」
うるさい。女だけちゃうわ。
ただでさえうちの姉妹をいやらしい目で見られて不機嫌なわたしに絡んでくるものだから、そろそろ我慢の限界が来そうだった。
「君が一番かわいいね。俺と楽しいことしようよ」
そんな状況の時に声をかけてきたチャラ男のひとりが、馴れ馴れしくも肩を組んできたことでわたしの我慢もプッチンプリン。お前が選んだ相手は男だぞ。
肩に回された腕をとって親指をつかみ、思いっきり外側に捻ってやった。
「いだだだだだ!」
悶絶して痛がるチャラ男。これくらいで騒ぐな。
まだ日も高いうちからわたしを怒らせたんだから、煩わしいものを予防するために犠牲になってもらいましょうか。
まだまだ遊び足りないしね。
相手は4人しかいないしすぐに終わるだろう。
離してやると、手を押さえて怒り出すチャラ男。
こんな護身術をいとも簡単にやってのける時点で、少しくらいはこちらの実力も推察してほしいものだけど、どうやらそこまで頭が回らないらしい。
頭に血が上ってそのまま殴りかかってくる単細胞ぶり。
「房総半島!」
当然そんな大ぶりなパンチがわたしに掠ることもなく、大の男が無様に宙を舞う。
「しりとり始まったからあたしら遊んでるな。終わったらこっちこいよ」
うん、冷静だね、より姉。
「どこ見てんだよ!」
次にかかってきた男の拳を左に身をよじって難なく避ける。当たるかバカ。
「海!」
顎先を狙い、力はないがスピードのある拳を掠らせる。
「はえ?」と間抜けな声を出してへたり込む男。顎を狙ったことで頭が大きく揺さぶられ、脳震盪を起こしただけだ。
「大人しくしろやー!」
するわけないでしょ。ホントにこんなセリフ言うやついるんだね。
次の男は大きな体格を活かしたつもりか、両手を挙げて襲い掛かってきたのでそのがら空きボディの鳩尾めがけて矢のような蹴り。
「水面!」
最後に残った男は狼狽えていたけど、容赦はしない。走り寄ってジャンプ。そのまま体を半回転させてローリングソバット!
「もうくんなー!」
下から強烈な突き上げを顎に食らった相手は吹っ飛び、そのまま波打ち際にばしゃん。鼻に水が入ったのかすぐに起き上がったけど、そのまま四つん這いになって動かなくなってしまった。これにていっちょ上がり!
この乱闘はいいデモンストレーションになったようで、それ以後わたし達に声をかけてくる輩はいなくなってくれた。
「ゆきちゃーん! そんなのほっといて早く一緒に遊ぼうよ!」
乱闘騒ぎがあったのに、なんら気にすることなく普通に過ごせている姉妹たち。たいがい肝が据わってしまったよなぁ。




