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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第108曲 ゆきの幸せ

 ひよりとの初配信は大成功で、再生数も今までの神回に負けないくらいの勢いで増えていった。


 すっかりダンスの楽しさに目覚めてしまったひよりは、次の配信に向けて昨日とは別の楽曲のダンスを練習し始めた。


 そして配信が終わった翌日の日曜日。


 まだみんなが寝ている早朝からわたしはスタジオでひとり、ダンスの収録に励んでいた。


 昨日、ひよりがわたしのアバターを使っていたのを見て思いついたこと。それを早速試してみているのだ。


 まずは普通にダンスを踊りながら、優れた空間認識能力と記憶力を使って自分の動きを頭に叩き込む。


 次にモーションキャプチャを装着して、先ほど撮った動画に重ね撮りする形でトレースした動きに合わせ踊る。


 これぞゆきちゃんのゆきちゃんによるゆきちゃんのためのダンス!


 ただ1人2役でデュオをしているだけなんだけどね。


 でも動画を見直してみるとなかなかの完成度。


 明日の投稿動画にするにはちょうどいい。さっそく予約投稿をして月曜の朝には配信されるようにしておいた。


 そこまで終わると休日出勤する両親の朝食を準備するため、リビングへ向かう。


 作り置きのおかずやみそ汁を温め、目玉焼きを作っていると両親が起きてきた。


「お父さん、お母さん、おはよう」


 キッチンの中から声をかけると、2人とも朗らかに返事をしてくれた。


「おはよう、ゆき」


「おはよう」


 最近休日出勤や残業ばかりでとても忙しそう。わたし達のために一生懸命働いてくれるのはありがたいんだけど、2人の体のことが心配だ。


「2人とも大丈夫? とても忙しそうだけど、疲れが溜まったりしてるんじゃないの?」


 無理がたたって体を壊してからでは遅い。この先姉妹たちには大変な思いをさせてしまうから、両親にはいつまでも元気でいてもらわないと。


「大丈夫よ。そろそろ2人ともまとまった休みが取れそうだし、また家族みんなで旅行にでも行きましょう」


 そう言ってくれるのはありがたいけど、休みの日くらい夫婦水入らずで仲良く過ごしてほしい。


 再婚したばっかりの頃はわたし達もまだ小さくて、ゆっくりと新婚気分を味わうこともできなかったんだから。


「わたし達ももう大きくなったんだし、そういうのはいいから2人でゆっくりして。そうだ! 日頃の感謝も込めてわたし達から2人に温泉旅行をプレゼントするよ! あとどれくらいで休みがとれそう?」


 最初はそんなのいいと遠慮していた両親だったけど、わたしがしつこく勧めたので最後には渋々といった感じで了承してくれた。


 それでもどこか嬉しそうなのはわたしの気のせいではないだろう。


「ところでゆきは分かるとして、他の子達はお金出すことなんてできるの?」


 収入のことかな?


「全員が高校に進学して、一人残らずアルバイト始めちゃったからね。旅行資金を出し合うくらい問題はないよ」


 まぁわたしがほとんど出すつもりだけど、問題はそこじゃなくてこういうのは気持ちだからね。少しずつでもお金を出し合って両親を労ってあげたいとみんななら考えるはず。


「でも、どうせならあなた達も旅行に行って来たら? もうすぐ夏休みでしょ。海近くの民宿とかいいんじゃない?」


 ふむ。民宿なら温泉の大浴場がないからいいかもしれない。


 度重なる襲撃でもう大浴場には懲りた……。男の入浴シーンなんか見て何が嬉しいんだか。誰得シーンだよね?


 以前は避暑地だったし、今年は思いっきり夏を楽しむための旅行をしてもいいかもしれない。


 それから仕事に出かける時間まで、両親の旅行先がどこがいいかを話し合っていた。なんだかんだで2人とも楽しみにしていそう。結婚してからだいぶ経つけど、いまだに仲いいもんね、この2人。


 両親を送り出してから、もはや日課となっているゆきちゃんの目覚ましタイム。


 毎度あらゆる手段でわたしに甘えようとする姉妹たちを、あの手この手で叩き起こしていくのはもう日常の一部としてルーチン化している。


 今日も目いっぱい甘やかして全員を起こした後の朝食の席で、両親に旅行をプレゼントすることと、わたし達もついでに旅行へ行こうという提案をした。以前はお金の問題もあっていろいろと紛糾したけど、今ではみんながアルバイトをして収入を得ているので、問題なく全員が乗り気になっていた。


 話し合いの結果、両親には東北の温泉地の旅館を予約してあげることと、わたし達は房総半島にある海水浴場近くの民宿に泊まることが決まった。


「その前にひよりは期末テストを乗り切らないとだね。中間もギリギリ赤点回避だったみたいだし、期末で赤点なんて取ったら夏休みは補習で旅行どころじゃなくなっちゃうよ」


「せっかく楽しい気分になってたのに現実に引き戻さないでよ、ゆきちゃん」


 さっきまでウキウキしてたのが目に見えてしぼんでしまう。そんなにヤバいのか。


「それじゃこれからしばらくはダンスの練習の後に勉強会だね」


「うぅぅ。練習の後に勉強かぁ……。眠くならないかな」


「それじゃ、ダンスの練習はなしにする?」


「それはヤダ」


 すっかりダンスにハマっちゃって。ひよりと同じ趣味を持てるのはわたしとしても嬉しいけどね。


 いずれはわたしのチャンネルを引き継いで、盛り上げていってくれるかもしれない。


「勉学に趣味、そして遊びもしっかりと満喫して、みんな目いっぱい青春を楽しんでるね。あとはいい恋愛もしないとだね」


 より姉なんかはもう成人もしているし、いついい人を見つけて家族に紹介するという話になってもおかしくはない。


 ひよりだってもう思春期だし、彼氏のひとりくらいいてもいい歳だ。


「あたしは男になんて興味ねーからな。どの男も同じ顔にしか見えねーよ」


「そうですね。知らない男の子と恋愛をするなんて想像もできないですね」


「みんなじゃがいも」


「わたしも興味ないかなー。男の子の友達はいるけど、みんなどこか幼いしね」


 全員一致で恋愛に興味なさげな意見を述べた後、じっとわたしの事を見つめてくる。なんだか視線が痛い。


「そういうゆきちゃんはどうなのかな? 恋人候補はたくさんいるみたいだけどー」


 なーんでひよりは少しトゲのある言い方するのかな。


「そうですね、ゆきちゃんなら老若男女問わず選び放題ですもんね」


 かの姉まで。わたしそんなに無差別に手を出しそうに見えるの? せめて同年代の女の子に絞って欲しいんだけど。


「わたしには恋愛してる時間なんてないよ。学校はもちろん、プライベートも忙しすぎてそんな暇ないからね」


 そう、わたしには時間がない。恋愛に時間を割いている暇なんてないんだ。


 生徒会長と配信者を両立させるのは大変なことだしね!


「まぁゆきちゃんがその気になったら、いつでも結婚してくれる人が何人もいるもんね!」


 だから言い方。なんで今日はそんなに噛みついてくるのかなぁ。


「そんなこと言ってくるのはきらりさんと琴音ちゃんくらいだよ」


 まるであちこちに手を出しているような言い方なので一応反論しておく。


「2人もいれば十分」


 あか姉まで手厳しい……。もう……。ほんとにわたしにはそんな気も時間もないんだってば。


 でもみんなはたくさん時間があるんだから、しっかりと自分の幸せを見つけてほしいんだよ。


「わたしのことはいいんだってば。それよりみんなもいつかはお嫁さんになって、子供も作って幸せにならないとだよ」


「そんな型通りの人生が必ずしも一番幸せとは限らねーだろ。あたしらにはあたしらなりの幸せの形ってのがある。それはゆきだって同じだろ」


 やけに真剣な顔をして、間髪入れずに反論してくるより姉。


 どうしたの?


「わたしの幸せはみんなの幸せそうな顔を見ることだから」


 そんな顔で見られても困っちゃうよ。


「そうじゃねーだろ。あたしらの幸せを願ってくれるのはそりゃ嬉しいよ。でもゆき自身の幸せ、いや、安らぎはどこにあるってんだ」


 わたしの安らぎ……。


「極端な話、あたしら全員が明日にでも結婚相手を見つけて、この家を出て行ったらゆきはどーすんだ? それでもあたしらが幸せならそれでいいってのか?」


 明日みんながいなくなる……。そうなればわたしは一人ぼっち……。


 チクチクと胸に痛みが走る。恐怖に似た反応が体を走り抜け、震えそうになる。


 だけどわたしは自分の事を優先するわけにはいかない。


 心を締め付けてくる切なさをグッと抑え、柔らかく微笑みながらより姉の問いかけに答えた。


「そうだよ。わたしは雪の精霊だから。たとえみんながいなくなっても、幸せになってくれるのが一番なんだよ」


「なんだよそれ」


 吐き捨てるように言って横を向くより姉。


 なんでそんなにイライラしてるの? どうしてそんなに悲しそうな目でわたしを見るの?


「そんな取ってつけたような笑顔で祝福されたところで嬉しくねーよ。おまえがあたしらの幸せを願ってくれるように、あたしらだってゆきには幸せになって欲しいんだよ。なんでその気持ちがわからねーんだ」


 わかってるよ。みんなの気持ちは痛いくらいにわかってる。でもわたしはその気持ちに応える手段がないんだよ。


 もういっそ全部話してしまおうか。


 本当はわたしだって!


「わたしは!……っ!」


 やっぱりダメだ。まだ話すわけにはいかない。せめて卒業までは……。


「わたしは何だよ。今何か言いかけただろ? 教えてくれよ、ゆき。みんなお前のことをもっと知りたいんだよ」


 より姉が立ち上がり、わたしのそばに来た。


 座ったままのわたしをふわりと包み込む感触。気が付くと優しく抱きしめられていた。


「あたしらだってゆきの幸せを守ってやりたいんだよ。もっと自分の幸せの事を考えてみてくれ」


 より姉のお腹から直接声が響く。なんだか懐かしいような感覚に包まれ、安心する。


 わたしの幸せ……。神様はね、その資格をわたしには与えてくれなかったんだ。たくさんのギフトをもらった代償。


 だからお願い。


「みんなありがとう、大好きだよ。だからね、これ以上わたしのことをいじめないで……」


 わたしの言葉は返事もなく虚空に消え、リビングに染みわたる沈黙。

 そこに漂う感情は悲しみなのか怒りなのか。


 どれくらいの時間が経っただろう。


「はぁ~~~~……」


 大きなため息と共に体を離し、わたしの顔を覗き込むより姉。

 その眼には浮かぶのは怒りでも悲しみでもなく、慈愛の色。


「ほんとゆきの頑固さは筋金入りだよな。仕方ねーから今日のところはお願い聞いてやる。でもな、あたしらは絶対に諦めたりしねーからな」


 いったい何を諦めないと言うんだろう。


 わたし自身はもうとっくに諦めているというのに。

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