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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第107曲 ひよりのデビュー

 学校での放送の効果があったのか、近所での噂もすっかり落ち着いた。


 そしてあの事件が起きて以降、変化したことがある。


 姉妹たちの距離がやたらと近くなったような気がするのだ。


 いや、以前から物理的な距離はけっこう近かった自覚があるんだけど、今は何と言うか、心理的な距離というかやたらと懐かれているというか?


 特にひよりが顕著だ。


 受験も終わって肩の荷が下りたので、また一緒にダンスのレッスンを再開しているんだけど、それ以外の時間でも何かにつけて一緒にいる。

 どこに行くのにも、例えばその日の夕飯の買出しなんかにも一緒についてきて、わたしの周りを嬉しそうに飛び跳ねている。


 他の姉たちも、わたしと行動を共にする頻度が増えたような気がする。


 そして、以前のようにきらりさんや琴音ちゃんが遊びに来てもあまり警戒しなくなった。


 なんだか余裕のようなものが見える。2人の言うことにいちいち反応せず、さらりと受け流している姿には貫禄すら感じるくらい。


 さすがに抱き着いたりした時には追い出そうとするけど。


 みんなの意識にどういった変化があったのかは分からないけど、以前より圧倒的に過ごしやすくなったので、これはこれで良しとしよう。



 そしてダンスに打ち込むようになったひよりはその実力をめきめきとつけていき、今や基本的な動きはほぼできている。


 これなら何曲か完全にマスターしてもらって、一緒に踊ることだってできるだろう。


 ということで基礎練習はそろそろおしまいにして、わたしの曲をベースに実際通しで踊ってみることにしたんだけど、思ったよりついてくることが出来ていて驚いた。わたしの練習をしっかり見て覚えたんだね。


 これならもう少し練習するだけで、全然人に見せていいものになると思う。


 となれば善は急げ。


「ひより、わたしと一緒にリスナーさんの前で踊ってみない?」


 わたしの提案に目を丸くするひより。


「そんな、わたしなんてまだまだ早くない? やっと1曲通して踊れるようになったばかりなのに」


 いくらひよりでも初めての時は緊張するし尻込みもしちゃうよね、わかるよ、うんうん。


 だけどそれを補って余りあるくらい、ひよりのセンスには光るものがある。それをわたしと一緒に踊るだけで満足しているのはもったいない。


 これだけ素晴らしいものをもってるんだから、世間の人にも見てもらわないと!


「まずはその1曲が大事なんだよ。まずは最初の一歩。人に見せてその楽しさと喜びを知ることができれば、これから練習にももっと熱が入るようになってくるし、それが上達への近道になるんだよ」


 これはわたしの体験談だ。


 最初はおっかなびっくりで子役デビューしたけど、見てもらえる喜びがそれ以降の原動力になった。

 Vtuberとして再デビューしたときも最初は見てくれる人数が少なかったけど、たとえ1人でも見てくれていればそれはとても嬉しいことだし、モチベーションにつながる。


 ひよりにもその心の奥底から湧き上がってくるような高揚感を味わってほしい。


「ゆきちゃんが言うと説得力が違うね。わかったよ。今踊れる曲をもっと完璧にして、ゆきちゃんと一緒にみんなの前で踊ってみる!」


 さすがひより。こうと思ったら決断が早い。


 もちろんわたしもひよりと一緒に踊れることが嬉しいし、それをみんなに見てもらえるのは誇らしい。わたしの妹はこんなにすごいんだぞって早く自慢したい。


 それからはより一層練習に熱が入るようになり、動画配信の収録も人一倍熱心に見学するようになった。


 わたしの一挙手一投足を見て、全てを自分のものにしてやろうという意気込みを感じる。


 そんなひよりの姿に触発されたのか、より姉も遅くまで学校に残ってデザインの勉強に励むようになったし、かの姉も最近特に編集技術に磨きがかかってきて、わたしの動画のクオリティも特段に上がっていた。


 あか姉は今は何も言わず黙っているけど、何かを企んで勉強をしているようだ。


 みんながなんらかの形でわたしに関わろうとしてくれている。とてもありがたいことなんだけど、少し複雑だ。


 せっかくそれぞれが持っている才能が花開いてきているんだから、もっと自分自身のために努力してほしいなという気持ちがあるから。


 でも協力してくれるのは素直に嬉しいしありがたい。今はまだその気持ちをありがたく受け取っておくことにしよう。


 あともう少しだけ……。



 それからしばらく完成度を高めるための練習に勤しみ、いよいよひよりがリスナーさん達の前でお披露目する日がやってきた。


「むりむりむりむりかたつむり! 素顔を出して踊るなんて無理だってば! ゆきちゃんが前に使ってたアバター使わせてよ!」


 わたしが使いだしてから我が家で流行ってるな、かたつむり。語呂がかわいいもんね。


 それはいいとして、ひよりがごねているのはデビュー当日に素顔をさらすかどうかということ。


 もう以前の放送事故の時に見られてるから気にしないかと思っていたんだけど、本人はそれだと緊張してちゃんと踊れないらしい。


 せっかくかわいい妹と仲良く踊れると思ったのに、まさかかつての自分の分身と踊ることになろうとは。


 でも本人がそれじゃなきゃ出ないと言うんだから仕方ない。キリママに連絡してわたしじゃなくひよりが使わせてもらうという使用許可を取ったところ、快く承諾していただいたので久々にモーションキャプチャの出番だ。


 キレイに保管してあったので問題はないはずだけど、念のためテストとしてひよりに装着して動かしてみたら何の問題もなく動いた。


 かつて自分が使っていたアバターがこんな形で復活するとは思ってなかったけど、なんだか懐かしい。


 昔から応援してくれているリスナーさんやキリママも喜んでくれるかもしれないな。


 画面上で動くかつての自分を見ていると、頭の中でとてもいい案がひらめいた。次の動画収録の時にでも試してみよう。


 楽しみがひとつ増えたけど、それよりもまずは目の前の生配信に集中。


 事前に妹が出演することは告知してあったけど、当の本人は秒数の減っていくカウントダウンをじっと睨んでかなり緊張している様子。


 そんなに固くなってたらうまく踊れないよー。


 ひよりの頭に手を乗せ、優しく撫でてあげながら緊張がほぐれるようにと語り掛ける。


「たくさん努力して、たくさん練習したんだから大丈夫だよ。なによりひよりにはダンスのセンスがあるよ。それはわたしが保証してあげる。わたしの保証では信用できないかな?」


 それまでガチガチに緊張していたひよりだったけど、それだけで少しは安心したのか柔らかい表情で微笑み返してきた。


「ふふ、本物の天才なゆきちゃんにそう言われちゃうと、自信を持つしかないよね。ありがとう! お兄ちゃん!」


 うは! 不意打ちの『お兄ちゃん』に今度はわたしがやられてしまった。


 なんなのこの可愛い生き物。今すぐ抱きしめたい。


 身悶えているといつの間にかカウントダウンが終了してわたしの姿が画面に映し出されていた。やっちまった。


【なになに?】【ゆきちゃんくねくねしてたね】【なんか変なもの食べた?】【拾い食いはやめなさいとあれほど】


 ばっちり目撃されていたようでいろんなツッコミが入っている。拾い食いて。人を何だと思ってるんだ。


「拾い食いなんてしてない! というか見苦しいところをお見せしました。雪の精霊YUKIが今日もみんなに幸せと歌声を届けるよ!」


 気を取り直していつもの挨拶。


「そして今日は事前告知をしておいた通り、スペシャルゲストが参戦! わたしの妹、ひよりです! みんな拍手~」


【8888】【妹ちゃん前に見たよー】【楽しみにしてたわい】


 そして画面外に待機していたひよりがかなり挙動不審になりながらも登場。わたしのアバターをつけているからみんなにはYUKIが2人に見えているだろう。


「みんなびっくりした? 本人がいきなり素顔で登場するのは恥ずかしいって言うから、かつてのわたしを被せてみました!」


【YUKIちゃんが2人!】【これはこれでかなりレア】【なんだか懐かしいね】【どっちも可愛い】【でも素顔見たかったな】

 いろんな反応が返ってきたけど、概ね肯定的な意見が多くて一安心。


【おどおどするYUKIちゃんってかなりレアだな】

 それは言わないであげて。これでもだいぶ緊張がほぐれた方なんだから。


「ほら、ひよりもいつまでも固まってないで挨拶してー」


 わたしの声で我に返ったのか慌ててマイクに向かって挨拶をするひより。そんなに近寄らなくてもちゃんと音声拾ってくれるから。


「み、みなしゃんはじめまちて! ゆきちゃんの妹のひよりでしゅ!」


【噛みすぎワロタ】【落ち着いてー】【ドンマイ】

 噛んだことで真っ赤になっているひよりにみんなから励ましの声。ね? そんなに緊張しなくてもみんな温かく応援してくれているでしょ。


「えっとアバターだからみんな分かんないだろうけど、本人恥ずかし死しそうなくらい真っ赤になっております。 ほら、ひより。みんな気にしてないし応援してくれてるからそろそろ帰ってきて」


 さっきのが余程恥ずかしかったのか少し涙目になってる。あーもう可愛いな! もはや我慢できん!


 思わずひよりを抱きしめて頭をナデナデ。可愛すぎるでしょ、うちの妹。


【ゆきちゃんがYUKIちゃんを抱きしめるの図】【ややこしいな】

 何とでも言え。わたしはこの可愛い生き物を愛でるのに忙しいんだ。


【尊いわぁ】【姉妹での百合もいいな】【本当に溺愛してるんだな】

 溺愛してますとも! って姉妹でもないし百合でもないわ!


「ゆ、ゆきちゃん……。みんなの前で恥ずかしいよ。離してぇ」


 顔を赤くして消え入りそうな声でつぶやくひより。あかん。完全に心臓を撃ち抜かれてしまった……。


【ひよりちゃんカワユス】【こんな妹欲しい】【ゆきちゃんが可愛がるのも分かる】

 でしょでしょ!? 小さいころからほんとなんでこんなに可愛いんだろうね。


 でもいつまでも愛でてるだけではただの兄バカ回で終わってしまう。ここはひよりの可愛いだけじゃないところも、しっかり見せつけておかないと。


「それじゃ、いつまでも兄バカやってないでそろそろ歌の方に行こうと思うんだけど、ひより、準備は大丈夫?」


 ようやくダンスの話になって少し安心したのか、先ほどまでとはうってかわって明るい表情を向けてくるひより。


 そうだよね。あれだけ練習したんだもの。もっと自信を持って。あなたなら絶対に大丈夫だから。


 ヘッドマイクを装着してひよりの手を取り、ステージへと向かう。今日は2人なのでいつもより少しカメラから離れた位置。


 最後にもう一度ひよりの手をギュっと握りしめてわたしの気持ちを伝える。一緒にステージに立てて誇らしいよ、大好きなひより。


 曲が始まり、歌いながら踊り出すとひよりはしっかりと合わせてきた。それはいつもの練習よりも格段に上出来で、一緒に踊っているわたしも楽しくて仕方がないくらい。


 お互いに笑顔を向け合いながら、一致した呼吸で動きを同調させていく。初めてとは思えないくらい完成度は高くて、ほんとアバターで踊っているのがもったいない。


 キレッキレのダンスも終わり、お互いに気持ちのいい汗をかいたままモニターの前に戻るとコメ欄には賞賛の声が溢れていた。


【さすが姉妹】【ひよりちゃんレベル高い】【姉妹の絆、尊い】

 まだ姉妹って言うか。でもみんなの言うとおり、絆は誰にも負けない自信があるよ。だってわたしにはもったいないくらい、最高の妹なんだから。


「ゆきちゃん、わたし次は素顔のままで踊ってみたいかも」


 そう言って笑うひよりの顔はとてもキラキラして眩しくて。


 わたし達はお互い誇らしい気持ちを抱いて微笑みあった。

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