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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第105曲 波紋は意外と遠くまで届く

 姉妹達の献身的な介護のおかげもあって、その日の夜にはお風呂に浸かりながら自分でマッサージできる程度には痛みも引いていた。


 明日の学校に響くことがないよう、しっかり念入りに自分の手の届く範囲をもみほぐしていく。


 けっこうな痛みが走るけど、それが気持ち良かったりもする。


 腕の傷は縫うまでもない薄皮一枚の浅いものだったので、お風呂上りに消毒だけしておけば問題ない。


 湯船につかり、手足を伸ばして筋肉のコリをほぐしていく。


「ふへぇ~」


 お湯の温かさと痛気持ちいい感覚で思わず間の抜けた声が漏れる。


 天井からポタリと水滴がひとつ。小さな滴が水面に波紋を作り、それは隅々にまで広がっていく。


 心無い男が起こした事件のおかげで、わたしの周辺にも波紋が広がった。


 本当はまだもう少し隠しておくつもりだった脳機能障害の話。


 パトカーや救急車が集まってきてたから、事件が近隣や学校で噂になったりしないだろうか。


 みんなはもう平気だと言ってはいたけど、心の中にはあの事件の恐怖が刻まれてしまっているだろう。

 恐怖という感情はそんな簡単に薄らいでいくものじゃない。


 幸いみんなはわたしの事を受け入れてくれた。だったらわたしがみんなの心に気を配り、少しでもケアできるようにしていかないと。


 より姉にはもっと自分の事を考えろと怒られてしまったけど、やっぱりみんなの事を優先的に考えてしまう。


 だってそれがわたしの使命なんだから。


 物心ついたころから背負ってきた使命はそう簡単に曲げられるものでもない。

 もし曲げてしまったらわたしはわたしでいられるのだろうか。みんなに幸せを届けられないわたしに存在価値なんてあるんだろうか。


 どうやらわたしの心の中にまで波紋は広がっているみたい。今までこんなこと考えたこともなかったのに。


 ロクなことを考えそうにないので、さっさとお風呂から上がってしまおう。


 そう考えて立ち上がろうとした時、お風呂場の扉が音を立てて開いた。


「え?」


 素っ頓狂な声が出てしまう。


 自宅のお風呂だからと完全に油断していた。


 そこにいたのは体にバスタオルを巻きつけたあか姉。


「な、な、なななん……!」


 なんでこんなところにと言いたいのだけど、咄嗟の事過ぎて口から言葉が出てこない。


「ゆきの体をマッサージしに来た」


 何を言いたいのかは伝わったようで返答はしてくれたけど、それにしてもなんでお風呂に!?


「筋肉痛はお風呂でマッサージするのが一番効果的」


 今度は心を読まれた。


 いや、マッサージしてもらえるのはありがたいんだけどさ、よりによってお風呂でって。


 しかもバスタオルを巻いているということは、その下には何も着けていないというわけで……。


 一気に顔が熱くなってしまった。きつく巻かれたバスタオルは体のラインをきれいに映し出していて、正直目のやり場に困る。


 視線を逸らしていると察してくれたのか、わたしの背後に回って湯船に入ってきた。


 驚かさないように気を遣った優しい手つきで、ゆっくりと腕に触れてくる。指先が腕に触れた瞬間、ピクリと身体が反応してしまった。


「痛い?」


 ふるふると首を振るわたし。痛いわけじゃない。むしろ心地いい。ただとても過敏になっているだけだ。


 静かな空間にちゃぷちゃぷという水音が響く。


 視覚情報がない分、あか姉の息遣いやお湯の中で体を動かす時に出る水音、肌に触れる指先の感触など他の感覚が敏感になってしまう。


 普段から無口だけど、いつも以上に寡黙になって黙々とマッサージを施してくれている。


 やがて腕が終わり、肩から首にかけてさするようにゆっくりと揉み解していってくれるあか姉。首の部分に指が触れるたびにゾクゾクとした感覚が走り抜け、変な声が出そうになる。


 必死に我慢して他の事を考えるようにしていると、あか姉の呼吸も荒くなっていることに気が付いた。


「あか姉大丈夫? のぼせてきたんじゃない?」


 心配になったので声をかけたが、返ってきた答えに聞くんじゃなかったと後悔した。


「大丈夫。ゆきがキレイすぎて興奮してきただけだから」


 興奮って! 何考えてマッサージしてんの!


 肩が終わって今度は背中を解してくれるのはいいのだけど、背中は首以上にゾクゾクしてしまって声を抑えるのが大変。


 必死で我慢はしているものの、どうしても時折声が漏れてしまう。


 その声を聞いてさらに息が荒くなるあか姉。


 ちょちょちょちょっと、あか姉? なんだか怖いんですが……。


「次は前」


 前はだめぇ! 下はタオルで隠しているものの、胸を隠す分はなくて上半身は完全に裸。


 体を丸めて見られないようにガードしていると、後ろから前に手が伸びてきた。


 むんずと掴まれたのは胸。


 いや、そんなとこ筋肉痛になんないから! それ脂肪の塊だってことくらい、あか姉だって持ってるんだから知ってるでしょうが!


 でもあか姉はそんなことを気にすることもなく、わたしの胸をムニムニと揉んでいる。先ほどまでと違って息遣いは平常。どうやら興奮よりも好奇心の方が勝ってしまったようだ。


「不思議。男の子なのにこれはどう考えても女の子。柔らかい」


 こちらとしても不思議な感覚だ。そんなとこ揉まれたことないし。


 なんだか熱くなってきたような気がする。姉に胸を揉まれる弟ってどんな構図だよ……。


 あか姉の指が胸の先っぽを弾いた。


「ひゃん!」


 何今の!? 電気が走るような、未知の感覚が全身を走り抜けた。思わず大きな声が漏れてしまう。


「おぉ。かわいい声。やっぱりここは敏感だ。ますます女の子みたい。本当は女の子?」


 こらこら、何とんでもないこと言ってくれちゃってんの。れっきとした男の子ですよ、わたしは。


「確かめてみる」


 確かめるって何を!? いや、なんで手が下に下りてきてんのさ! だめぇ! R18指定ついちゃうから!


 一瞬の隙をつき、素早く脱出して逃げ回るわたし。追いかけて来るあか姉。


「なんで追いかけてくるの!?」


「ちゃんと確かめたい」


 だからレイティング! なんで確かめる手段がよりによってそっちなの!



「ゆきー風呂場で何騒いでん……」


 今度はより姉が入ってきた。そして状況を見て固まってしまう。


「ななななぁぁ!? 何やってんだ茜!?」


 弟の股間をまさぐろうと追いかけてきてます。より姉助けて。


「ゆきの筋肉痛を和らげようとマッサージをしていただけ」


 嘘つけ! 途中で目的変わってたくせにー!


 助けを求めてより姉の背中に隠れるわたし。フシャー!


「ちっ」


 舌打ちしやがった!


「なんでマッサージが追いかけっこになってんだよ。茜のことだからなんとなく察しはつくけど。ところでそんなに動き回って大丈夫なのか、ゆき?」


 そう言われて気が付いた。随分と筋肉痛が楽になっている。


 最後はしっちゃかめっちゃかになっちゃったけど、最初はちゃんとマッサージしてくれてたもんね。けっこう長い時間優しくほぐしてくれていたもんな。


「あか姉、ありがと」


 より姉の陰に隠れながらお礼だけは言っておく。


「どういたしまして」


 ふんわりと微笑むあか姉。その笑顔はとてもキレイで思わずドキリとしてしまった。


 さっきまでセクハラしてたのにそんな顔するのはズルいよ。


「より姉~? ゆきちゃん大丈夫だったの~?」


 そこに登場するひよりとかの姉。


「なにこれどういう状況?」


 そんなに呆れた顔をしなくてもいいじゃないか、妹よ。


 かの姉はすぐに状況を察したようで、あか姉に向かって険しい顔を向けている。


「茜、また抜け駆けとは感心しませんね」


「抜け駆け違う。筋肉痛マッサージ。気づかいの勝利」


 まったく悪びれることなくそう言い放つあか姉。途中から脱線してたくせによくそこまで堂々とできるな。


 結局お風呂場に姉弟全員揃っちゃったよ。


 お風呂に相応しい恰好をしてるのは2人だけ。


 なんでもいいけど、わたし上半身素っ裸だからいい加減恥ずかしいんだけどな。


 女子に囲まれ、胸を隠してたたずむ男子ひとり。


 なんだこれ。

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