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雪の精霊~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第100曲 雨の中、物思いにふける

 年度が変わって4月。


 今年になって一番変わったことといえば、かの姉が映像デザイン系の学校に進学したこと。


 わたしの動画編集を手伝っているうちにすっかり興味を持ってしまったようで、本格的にその道に進みたいと思ったそうだ。


 わたしの活動によって人生の目標ができたのならそんなに嬉しいことはない。


 前にも増して編集作業を手伝ってくれているので、今やもうわたしが編集にタッチすることはほぼないくらいになっているんだけど、就職先をここにしちゃだめだよ?


 みんなはそれぞれ自分の道を歩んでいってもらわないと。


 そして変わったことと言えばもうひとつ。


「ゆきちゃーん! また今年から一緒だね!」


 ひよりがわたし達の通う学園に合格したことだ。


 あれだけ成績が怪しかったのに、よくがんばったものだ。えらいぞ! ひより。お兄ちゃんは誇らしいです。


 毎日楽しみにしていたわたしとのダンス練習も封印して、勉強に励んでいた姿をちゃんと見てたからね。


 わたしもよく付きっ切りで勉強を教えてあげたりしていたから、喜びもひとしおだ。


「これでまた中学の時みたいに3人で通えるね!」


 うちはきれいにひとつずつ年の離れた姉弟が4人もいるのだけど、年の離れた姉妹や長子、末っ子はどんなにがんばっても1人で学校に通う時期というものができてしまう。


 ひよりもこの1年間、寂しい想いをしたのだろうかと思うと、合格した本人よりもわたしの方が感極まってしまいそうだ。


 より姉は年が離れているからもっと一人の時間が長いんだけど、そこは可愛がられるのが末っ子の特権とでも言いましょうか。小さいころからひよりがかわいくて仕方ないわたしにとって、甘くなってしまうのはどうしようもないことなんだもの。


 でもこれであと2年間、ひよりに寂しい想いをさせなくてすむ。高校生にもなれば精神的にも中学生の時よりも成熟してくるし。


 わたしの卒業するときが潮時だな……。



 それからは生徒会長として忙しい日々を過ごしながら、プライベートでも配信活動と家事に勤しむ生活。


 そしてひよりが受験勉強から解放されたことで、2人でダンスの練習をする時間が復活した。


 ひよりに教えるのは楽しい。乾いたスポンジが水を吸収するかのようにどんどんステップをマスターしていくので教える側としても甲斐がある。


 そして何よりも楽しんで練習している姿は光り輝いていて、とても眩しい。情熱もセンスもあるひよりならいつか一緒に踊れる日も来るだろうし、自分でチャンネルを立ち上げてもいいかもしれない。本人がどう考えているのかは知らないけれど。



 生徒会長としても去年とは違って目立ったトラブルもなく平穏な日々。プライベートでも前述のとおり充実した毎日を過ごしていた。そんな生活をしていれば日々の充足感は高くとも、月日はあっという間に過ぎ去っていく。


 特筆することといえば今年の体育祭も仮装リレーでとんでもない恰好をさせられたことか。


 去年はウェディングドレスで公開処刑されたけど、今年はチャイナドレス。しかも下着が見えそうなくらい極限までスリットが入っていて、とてもじゃないが全力疾走なんてできるはずもなく。今年もじっくり衆目にさらされ続けてしまった。来年は頼まれても絶対やらねー。



 体育祭が終わるともう梅雨の時期。今年は結構雨が多く各地で災害も発生していたようだけど、ありがたいことにわたしの住む地域では、川の水量が増加して恐ろしいくらいの勢いで流れているのを目にしたくらいで、とくに大きな出来事もなく平和なものだった。


 月曜が創立記念日で3連休なのだけど、あいにくの雨模様になってしまった日曜日。近所の公園の歩道わきに植えられている紫陽花が見事な花を咲かせているだろうと思い、散歩がてらに散策。


 予想通り花は満開。歩道を歩くにつれて青から始まって紫色、そして赤へと変化していく紫陽花の花は雨に濡れてとても風情がある。


 わたしの目にはモノクロにしか映らないけど、その濃淡によるグラデーションは見ていて美しいと感じる。本当はもっと色とりどりの花が咲き乱れているんだろうけれど。


 花の色は土壌の酸性値によって決まるらしいから、ちゃんとその辺を計算して調整された土壌を作って植えられているのだろう。

 そうやって人の手と自然が融合した調和の中に生まれる美というのは心が感じられて、ずっと見ていても飽きることがない。


 それと雨の中、傘を差して歩くのも好き。

 雨のしずくが周囲を埋め尽くす中、傘を差した真下にだけできるわたしだけの空間。わたしひとり分のパーソナルスペース。

 歩くにつれてその空間も移動し、まるで水の中を切り裂いて進んでいくかのような感覚。

 降りしきる天からの恵みを切り裂いて進んでいく姿がそのままわたしの人生のようで、つい考え込んでしまう。


 わたしの視界はいつも白と黒。もうすぐ梅雨が明けて、世界は夏に向けてさらに彩を増していくんだろう。


 わたしには感じ取ることのできない景色。生命力にあふれているはずの夏の風景も、わたしにとっては冬とほとんど変わらない。


 物心ついたころからこんな世界に住んできたから、今さら自分を不幸だなんて思うことはないけど、一度くらいはその色とりどりの世界を見てみたいなと思う。あか姉やひよりが選んでくれたオシャレな服がどんな色彩をまとっているのかもちゃんと見たい。より姉がデザインした服も。


 不幸だとは思わないけれど、みんなと見ている世界を共有できないというのはやはり寂しくもあるんだよね。


 特別な力なんていらないから、みんなと同じ世界を見て同じ苦しみを味わって努力を重ねて。四苦八苦しながらおじいちゃんになりたかったよ、神様。


 傘をたたみ、目を閉じて上を向く。顔にあたる雨粒が気持ちいい。雪の精霊ならこの雨で溶けてしまっても良さそうなものなのに。


 わたしの中では何も溶けることがない。凍てついた世界。


 風景も感情も、思い出も。すべてが凍り付いてしまうわたしの世界。


 ここから解放された時、わたしは何を思うのだろう。何を感じることができるのだろう。


 そしてその時、わたしの大切な4人の天使様たちは……。


 って何を考えてるんだわたしは。いつものわたしらしくもない。幸いまだ時間はありそうだし、そんなことを考えている暇なんてまだないはずなのにどうして今日に限ってそんなことを考えてしまったのか。


 風邪をひくわけにもいかないので、濡れネズミになる前に傘を差しなおす。そしてまたわたしだけの空間を作り出し、散策を続ける。


 雨の匂いがする。胸いっぱいにその空気を吸い込み、間もなく夏を迎える季節の変化を少しでも感じようと足掻いてみる。


 曲作りに詰まってしまったから気分転換をするため外に出てきたのだけれど、つい感傷的になってしまった。


 気持ちを切り替えていつもの元気で明るいゆきちゃんに戻らないと姉妹に余計な心配をかけてしまう。わたしがいつもと違う気分になっていると敏感に察知してしまうからな、あの人達。


 笑顔を作り気持ちを鼓舞して自分を取り戻す。わたしは人々を幸せにする使命を背負った雪の精霊。自分のことで感傷にふけっている暇なんてないんだ。


 もう一度自分に言い聞かせ、暗い感情を吹き飛ばしたわたしは帰路につく。


 

 雨の中をゆっくりと歩き、足元が濡れないように注意しながら愛しの家族が待つ自宅を目指す。今日の晩御飯はどんな美味しいものを作ってあげようか。


 わたしの料理に舌鼓を打ち、幸せそうに食べる家族のことを思い浮かべるとこちらも幸せな気分になれる。


 今日は珍しくお母さんだけ休みが取れて家にいるから、いつもより賑やかな食卓になるだろう。


 楽しみな気持ちに浸りながら歩を進めているとやがて自宅が見えてきた。


 いつもの見慣れたはずの我が家。しかし、その姿が視界に入った瞬間わたしの全身に緊張が走る。


 全身の毛穴が逆立ち、本能が警戒信号を最大限に発している。


 開け放たれた玄関のドア。


 いつもは必ず閉められているはずのそのドアに異変を感じ取ったわたしは歩みを速めた。

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― 新着の感想 ―
ゆきちゃんの心の奥にある気持ちが胸に迫り、苦しく感じるほどでした。次に何が起こるのか気になりすぎます!
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