絶望の未来、断たれた絆
絶望の未来、断たれた絆
悲鳴のした方へ二人が向かうと、そこには血だらけでボロボロの蓮の父と、胸を深く貫かれ、既に動かない母がいた。
「父ちゃん……母ちゃん!」
必死に蓮が叫ぶが、二人の目は開かれたまま、焦点は合わない。
「無駄だ。さっきそいつが心臓を貫いたからな」
低い声が、静まり返った部屋に響いた。声の主は、逆光で顔がよく見えない。
「待ってろ蓮、今父さんと母さんを呼んでくる」
颯真が助けを呼ぼうと動こうとした瞬間、男は冷たい笑いを漏らした。
「助けは来ないぜ」
男はゆっくりと近づき、その手には血濡れた首が握られていた。見慣れた、しかし今は生気のない顔。それは、颯真の父のものだった。
「なんせさっき、お前の一族は皆殺しにしてやったからな」
その言葉と、突き出された父親の首に、颯真は全身の血が凍りつくような戦慄を覚えた。目の前の光景が現実だと理解するのに、時間がかかった。
「お前らを殺せば、東雲家も月影家も終わりだ」
男の言葉に、蓮と颯真は言葉を失い、ただ身構えることしかできない。しかし、男の放つ圧倒的な威圧感は、二人が到底敵わないことを悟らせた。
「死ね」
男が手を振り上げた、その瞬間。
「霞がくれの術!」
颯真が叫び、あたり一面が濃い霧に覆われた。男が一瞬動きを止める。その隙に、何者かが二人の腕を掴み、強引に家の裏山へと引きずり込んだ。
霧が晴れてあたりが見えてくると、俺たちを引っ張ってきた人物が見えた。
「父ちゃん!」
蓮の父だった。しかし、その体は先程よりもさらにボロボロで、立っているのがやっとという状態だった。
「父ちゃん、早く逃げるぞ。あいつ やばすぎる」
「いや、俺はもう動けねえ。急所をやられちまってる」
「……」
涙を堪えながら、蓮は父の言葉を待つ。
「俺は、お前らに最後の頼みがある」
「何?父ちゃん……」
「……この未来は何者かによって歴史を改ざんされている、偽りの世界なんだ。だから、過去を変えてくれ」
「偽りの世界?過去を変える? どういうことだよ、説明してくれ父ちゃん」
「……さっき、お前の部屋の教科書みたか?」
「うん」
「……はい」と、颯真は辛うじて答えた。父親の首の衝撃で、まだ思考が、脳が働いていなかった。
「あれが正しい歴史だ。俺らはあいつにずっと監視されてて、お前らに直接話すことができなかった。だから、あの教科書を見せるため、今日部屋の片付けを頼んだんだゴフッ……」
父の口から、再び鮮血が溢れる。
「父ちゃん! 手当を!」
「いいから黙って聞け」
父の目は、今にも消え入りそうになりながらも、強い決意を湛えていた。
「今から、おれの全身全霊の禁術でお前らを過去に飛ばす。この歪んだ世界を、正しい歴史に戻すんだ。そして俺たちを、母さんたちを救ってくれ」
5秒くらいしてからか覚悟を決めた蓮が頷く。颯真も、父親の仇を討つため、震える唇を噛み締め、静かに頷いた。
「時間がない、すぐに飛ばすぞ」
父が最後の力を振り絞り、禁術の印を結び始めた。二人の体が眩い光を纏い始める。
「蓮、颯真……このくそったれな未来を、必ず……変えてくれ……」
それが、この時代で聞いた、最期の言葉となった。




