ケイブスパイダー
「ユウキさん、そろそろ行きましょうか。」
「あぁ……腰が痛い。」
あれから交代まで見張りをしていたが、魔物が現れることはなくリーフと見張りの交代をした。リーネの隣で寝るのは流石にあれなので少し離れたところで眠り、ついさっきリーフに起こされたところだ。
ビギシティを出てからはずっと硬い地面で眠っているため腰が痛く、眠気が未だに取れない体を起こし腰をポンポンと叩く。
「ニンゲンは……貧弱」
腰の痛みを和らげているとリーネの声が聞こえ、リーネの方を見ると僅かに眉を顰めており、俺が見ていることに気付くと真顔で鼻で笑った。
「お、おう……あんまり慣れてなくてな。」
昨日のようにならないように、バカにされても気にする素振りを見せずに俺は苦笑いをしながらそう言った。
「リーネの様子は戻ったみたいだな。」
「寝て気持ちをリセットできたのかもしれませんね。でもユウキさん?」
「あぁ、分かってる。あまり大声を出さないように……だよな。」
リーネに聞こえないように少し離れ、リーフの言葉にこくりと頷いた。
「これどうぞ、もうこれでブラックボアのお肉は使い切っちゃったのでまた食料を確保しないといけませんが……。」
外で焼いていたのかブラックボアの串焼きを3本リーフに渡される。
「サンキュ、まぁ一応黒パンとかはあるけどな。食料確保も視野に入れておこう。」
そう言って肉を腹に収め、出発の準備を行う。
「さてと、出発するか。俺が手網を握るからリーフは周囲の警戒を頼むよ。」
「分かりました。リーネちゃん、行きましょうか?」
「……。」
リーフがリーネに言うと、無言でその場で立ち上がり俺達のあいだをすり抜けて洞穴から出ていく。
「……ん?」
リーネは何も言わなかったが、歩いている後ろ姿をよく見てみると怪我の影響か少し足をふらつかせている。
「本当に……助けてやりたいな。」
「ユウキさん何が言いました?」
「いや、なんでもない。俺達も行こう。」
不審がるリーフにそう言って2人でリーネの後を追った。
「森はまだまだ続きそうだな。」
馬を走らせてから2時間ほど経過したがまだまだ森を抜けられそうな様子はない。
「周りが見辛いから早く出たいんですけどね。」
「だな、いきなり魔物が出てきて不意打ちとか食らうのも危険だしな。」
昨日は森に入ってすぐにブラックボアと遭遇したことを思い出し、リーフの言葉に軽く頷いて同意する。
「でも、途中で絶対魔物と遭遇するでしょうね……。強力な魔物と出くわさないように祈りましょう。ところでリーネちゃんは傷は大丈夫ですか?」
荷車の隅っこで体育座りをして丸くなっていたリーネにリーフは尋ねる。俺が一瞬振り返ると、少しだけ頭を動かし顔を上げて脇腹に手を軽く当てていた。
「大丈夫な訳ない……。まだものすごく痛い。」
先程からリーフは周囲の警戒をしながらもリーネに話しかけてどうにか仲良くなろうとしているが、ほとんどリーネは無視している。
「や、やっと会話してくれましたよユウキさんっ……!」
「うぉっ!?よ、よかったな?」
声を落としリーフは若干疲れの混じった、それでいて喜びを隠せないような声でいきなり俺の耳元で話した。
「どうしました?」
「いや……別に。いきなり耳元で話しかけられてちょっとびっくりしただけだ。」
「ご、ごめんなさいつい嬉しくって!」
リーフは慌てて俺から離れ、どうやらリーネの正面に移動したようだ。
「リーネちゃん、傷が痛むなら私が回復魔法を――」
「いらない」
「会話は成立したけど速攻で振られてるじゃん。」
回復魔法を使おうとしたリーフは聞いている感じ、速攻でリーネに振られたようだ。
「お前、さっきからうるさい。少し黙ってて。」
ついでに鋭い追撃の拒絶の言葉がリーネから放たれ、なにか硬いものが荷車に落ちたような音がした。再度振り返ると、リーフが膝を折ってまるでガーンという表情が似合いそうな表情をしていた。
「と、とりあえずここで休憩するか!」
流石に可哀想なので慰めるため、そして馬を少し休めるためにここで休憩を取ることにした。
「私やっぱりしつこかったですかね?」
完全に落ち込んでいるリーフはしょんぼりとした表情で俺に問いかけてきた。
リーフをこんなことにした本人は現在近くの川で魚が取れないかチャレンジ中である。
「しつこいの前に完全に嫌われているんだろうな。もちろん俺もその対象に入ってるだろうしどうしたものか……ん?」
木にもたれかかってはぁ、とため息をつき上を見ると人間の頭ほどの大きさの黒い蜘蛛が3匹いた。
「ぅるばぶぇっ!?」
「ユウキさん?……ぇ、くもぉ!?」
俺は何を言っているのか分からないレベルの叫び声をあげ、リーフも俺の反応を見た直後に蜘蛛に気付いて絶叫した。
「フシャッ!」
急いで木から離れ、俺の顔面目掛けて口から糸を吐き出そうとする蜘蛛から距離をおく。蜘蛛はテクテクと細長い脚を使って木から降りて前脚を俺達に向かってあげて威嚇のような動作をする。
「あれは……ケイブスパイダーか?確か洞窟に生息する魔物だよな?」
王都までの道のりで出現する魔物の情報は冊子を見てある程度は記憶している。
「そのはずです。ケイブスパイダーの特徴である背中の黄色の斑点模様があの魔物達にはあるからケイブスパイダーのはず……。それよりもどうしますか?」
リーフは構えながら横目で俺を見て戦うか逃げるかを聞いてくる。
ケイブスパイダーはEランクの魔物、それが3匹だから普通なら逃げた方がいい。だが、ケイブスパイダーは小柄だからか素早く俺達が馬に乗る時間がない。リーネも離れたところにいて回収は出来ないだろうからここで倒すしかない。
「ここで倒そう、逃げる時間が無いからな。」
「分かりました、それでは……〈小さな火球よ〉!」
リーフは頷き、『ファイア』をデュアルアクションを使用し、ケイブスパイダーの目の前に左右に1発ずつ放った。
「フシュゥー!」
左右のケイブスパイダーはなんとその場で飛んで『ファイア』を躱し、木に向かって口から糸を吐いて空中を移動しそれぞれが別の木に着地して俺達を狙っている。
「フシュア!」
目の前の移動しなかったケイブスパイダーが俺に向かって糸を放つ。
「〈痺れの荒縄よ〉、『無の力よ』!」
右手から『エレキバインド』をケイブスパイダーの糸に向かって放つとバチバチと音を立てて糸が燃え尽き、それと同時に『エレキバインド』が消滅した。それを見て俺は左手で『無は有に』を発動し、赤く光を灯した結晶を魔力を込めながら握り潰す。
「フシュアッ!」
「させません、〈風よ阻め〉!」
右手側の木にいたケイブスパイダーが俺を狙って飛びかかってくるもリーフが『ウィンドブロウ』を放ったおかげで空中にいたケイブスパイダーは突風を下から受けることになり、バランスを失って派手に地面に激突した。
「〈小さな火球よ〉!」
目の前のケイブスパイダーが仲間を攻撃され怒ったのか、リーフに向かって飛びかかろうとするが、『無は有に』で火属性へと変化した『ファイア』を横から放つ。
「なっ、くっ離せ!」
左手で狙いをつけ放つ直前に左側のケイブスパイダーが俺の左腕に糸を吐き、引っ張られ『ファイア』の軌道がそれてケイブスパイダーをかする程度に留めてしまう。
幸いリーフから注意をそらすことができたが、左腕は糸に引っ張られたままでケイブスパイダーは牙を剥いて糸を手繰り寄せ俺を捕食しようとしてくる。小柄だが引っ張る力は強力で力ではこっち側が不利だ。
「なに……?」
ケイブスパイダーに苦戦していると、1匹のブルーフィッシュを手に持ったリーネがこの状況に困惑しながらやってきた。
「まずい……リーネ逃げろっ!」
状況が状況なだけについ大声を出してしまうが、それにリーネは大声に関しては反応せず、ケイブスパイダーの方に意識を向けている。
「リーネっ!ちっ、いい加減離せ!」
リーフに飛びかかったケイブスパイダーとリーフに『ウィンドブロウ』で撃墜させられたケイブスパイダーが傷付いているリーネを見て、俺やリーフよりも狙いやすいと判断したのかリーネの元にテクテクと走っていく。
「させないっ、〈集いし魔力よ〉!」
リーフが走りながら2匹のケイブスパイダーを狙って『マジックショット』をデュアルアクションで1発ずつ放つが、ひょいっと避けられてしまう。
俺は腰につけていた短剣を取り出し、ケイブスパイダーの糸を切断しようと振りかぶって糸に斬りつけるが、以外と強度があるのか僅かに斬り込みが入るだけだ。
「フッシュァ!」
そうこうしているうちにケイブスパイダーがリーネに狙いを定め、飛びかかる。
「うっ……ぐっ」
横に飛んで回避しようとするリーネだが、足に力をいれた直後、脇腹を抑え痛みのせいか回避することができない。
「リーネちゃん!〈我は力を求む〉!」
その直前、リーフは『パワーライズ』で自身の両足を強化し、ケイブスパイダーとリーネの前に自らの体を入れこませ……2匹のケイブスパイダーは牙をリーフの肉へと食い込ませた。




