復讐心
「リーネ、さっきは……」
洞穴に戻るとリーネはさっきと同じ体勢で、体育座りで顔を下にして俯いていた。
「リーネ?」
声をかけても微動だにしないリーネにもう一度声をかけるが変わらず、どうするか悩んでいるとすぅーすぅーとリーネから微かな音が聞こえてきた。
「……寝てる?」
「みたい……ですね。」
「…………。」
二人で必死にリーネをどうするか考えている間に本人は寝ていたという事実に頭を抱えたくなるが、リーネの境遇を考えると仕方ないと思える。まだ俺達の想像で確定している訳では無いが。
「包帯を取ってから手当てしたいけど起こすのもな……。起こさないように取れるか?……ん?」
リーネのすぐ前でしゃがみ、包帯を取ろうと服に触れるとリーネがピクっと動いた。
「どうしましたユウキさん?」
「起きてる?……いや、寝てるか。ちょっとめくるぞー?」
一瞬起きているかと思ったが、見た感じやはり寝ているようで小声で言って服をめくり、一番重症な脇腹に巻いている包帯を起こさないように取っていく。
「うっ……やっぱりまだ傷は塞がらないよな。」
脇腹に巻いている包帯は大量の血に染まっており、そこから表れたまだ完治していない傷跡を見て自分の表情が僅かに引き攣るのが分かる。
「出来れば病院とかで治療したいんですけどね。病院なら重症の患者でも上級以上の回復魔法を使えるお医者さんがいるから治せると思うんですけど。」
魔法で治せるから病院はないのかと思ったけど、病院あるんだこの世界……。
考えてみれば風邪とかは基本的に魔法で治せないため病院があるのは当然か。
「ないものねだりをしていても仕方ない。とりあえず……〈更なる力を求む〉、『無の力よ』」
『ライトヒール』の効果をあげるため、『マジックチャージ』を使用して強化し、さらに『マジックチェンジ』を発動させ、光り輝く結晶を顕現させる。それを光属性に変化するよう意識すると色が黄色に固定され、俺は結晶を砕いた。
薄暗い洞穴に砕けた黄色の破片が空中で散らばるが、直後に光へと変換され、俺の右手に光が集まる。
「〈癒しの光よ・我が身を照らせ〉」
『マジックチャージ』で強化された『ライトヒール』をリーネの傷にかける。
「う……ん、……ぅ?」
「やっぱり完治はまだしないな。」
『ライトヒール』を受けた眠っているリーネの口から僅かに声が漏れ、起きたかと心配になるがそれよりも大事なのは傷が治ったかどうか?効果はあったのか傷は少しだけ塞がるが未だに完治とはいかない。
「俺の魔法回復力だとこれが限界か。」
魔法回復力のステータスは確かD-、お世辞にも高いとは言えないためこの効果にも納得だ。
「一応太ももと腕の怪我にもかけておこう。」
脇腹の次に重症だった他の傷にも『マジックチェンジ』のクールタイムである1分の時間をおいて『ライトヒール』をかける。脇腹の傷よりは悲惨ではないためかこちらも完治とまではいかないが傷は塞がっていく。
「これなら俺でも治せるか?」
手応えを感じもう一度2箇所回復させようとすると、リーフが俺の腕を掴んだ。
「今日はこれくらいにしておきましょう。」
「リーフどうしてだ?多分『ライトヒール』をかけ続けたら治せると思うんだが?」
俺を止めようとするリーフに問いかけると、リーフは首を横に振って口を開く。
「短期間に何度も同じ箇所に回復魔法を使用すると、その部分の細胞が壊死する可能性があるんです。リーネちゃんを助けた時、私は何度も回復魔法を使用しました。効果はあまりありませんでしたが、それでも何度もかけたためこれ以上は今日のところはやらない方がいいでしょう。」
「そうなのか……回復魔法は同じ箇所にかけ続けると細胞が壊死する……のか。」
薬と同じようなものだろうか?確かに薬は1日に飲む量が決められていたりする。まさか魔法でもそういう現象があるとは思わなかったが、とりあえずこれ以上の回復魔法の使用は辞めておいた方がいいだろう。
「私がもっと効果の高い魔法回復力が使えれば……すぐに治してあげることができたのに。」
リーフが悔しそうな表情でぽつりと呟く。
「そう自分を責めるな。とりあえず俺は見張りをしとくからリーフは休んでくれ。」
「いえ……私よりもユウキさんの方が体力も魔力も消費しているでしょうしユウキさんが休んでください。」
「大丈夫だ。リーフだって戦闘したし疲れているだろ?もちろん途中で見張りの交代は頼むが、今はリーフが休んでくれ。」
「う……分かりました。見張りよろしくお願いします。」
リーフもやはり疲れていたのか俺の提案に頷き、リーネの隣に座り込む。
「それじゃあ、後で起こすからそれまでゆっくりしてろよ。」
そう言いながら俺はさっきの洞穴の入り口まで戻っていく。
ユウキってやつも、リーフっていうやつも2人とも馬鹿だ。
ユウキが大声を上げ、その後に私が膝に顔を埋めるとユウキとリーフは外に出て言った。意識を耳を潜めると簡単に声が聞こえてきた。2人とも外に出れば聞こえないだろうと思ったんだろうけど獣人を甘く見すぎている。
肉体の機能面で言えば、獣人はニンゲンに遥かに勝る。この程度の距離で私に聞かれないように出来ていると思っているなんて……本当に馬鹿だ。
「なんであのニンゲン達は……。」
ユウキ達に起きていることに気付かれないように小さく呟く。このペティオ王国では獣人の扱いは基本的に良くない。 私の元々居た獣人の国、イファル国は以前ペティオ王国との戦争に負け、もはやペティオ王国の奴隷国となっていると聞いたことがある。
主人の外出の際、私は警護役でよく付き添うが、周りからのニンゲンの冷ややかでこちらを見下すような目で見られるのはものすごく窮屈で、慣れようとしても慣れることができない。主人が店の中に入ったりして店の外で待っていると石を投げられたり、こっちが聞こえるような声量で獣人の悪口を言うことなどしょっちゅうだ。
外に出たくないと主人に言ったこともあるが全くもって聞く耳を持たない。あの主人が私の言うことなど気にすることもないだろうけど。それどころか私が本気で嫌がる事など普通にするし、私の人間嫌いも半分近くは主人のせいでもある。
「奴隷?」
ユウキとリーフから私は奴隷ではないのかという会話が聞こえてくる。さらに主人から酷いことをされているのではないか?ということまで話している。
「当たってる……この奴隷の首輪と傷を見たら誰でも当てられる。」
一瞬どうして分かったのだろうと思ったが、少し考えれば私の姿を見れば奴隷であることくらいは想像つく。
「本当に……あのニンゲン達は馬鹿だ。」
会話を聞いていくと私を連れて主人から離そうとしているようだ。だが、ユウキの方はそれに乗り気でないみたいだ。当たり前だ、誰が奴隷の為に犯罪者になるリスクを取るのだろうか。
「……。」
しかしユウキの方も私を主人から離すのに前向きでリーフを説得している。
「……来る。」
話し合いが終わり、私のところに2人は戻って来る。今はニンゲンと話したくないため、寝たフリをしてその場はやり過ごす。
どれだけニンゲン達が主人から私を離そうと行動しようとしても私には関係ない。ニンゲンというだけで私は信用しない。
ユウキの回復魔法で体が少々楽になるも、絶対に仲良くなんてならない。リーフがどれだけ私のことを想っても心を許すことはない。
「隣ごめんねリーネちゃん。」
私の隣に腰をおろしながら私が眠っていると思っているからか、小声でリーフはそう言って私の頭を軽く撫でた。
「……。」
主人のように強く頭をぶつのではなく優しく撫でられ、昔お母さんに撫でて貰った時のことを思い出す。
少しだけ……気持ちがいいと思ってしまうが、あえて過去のトラウマを思い出す。
――絶対にニンゲンは許さない――
うん、大丈夫。私のニンゲンへの復讐心は揺らがない。いつか自由になった時、ニンゲンは皆――
「絶対にあなたのこと、助けてみせるから。」
リーフの声に気が逸れてしまう。本当に邪魔なニンゲンだ。今は首輪のせいでニンゲンに攻撃をすることができないがこの首輪が取れた時が私の反撃の時だ。




