リーフの提案
洞穴の外にリーフと共に出る。洞穴の中にいるリーネには聞こえない程度に離れるが、洞穴からはほんの数メートルほどの距離で、例え魔物が洞穴に来たとしても問題なく発見できる。
「明日も早いからお前も早く寝た方がいいぞー?」
草をもしゃもしゃと頬張っている馬に向かって俺は背中を軽く撫でる。
「そうですよー、今日も1日頑張ってくれましたからねー。」
「ブルムッ!」
リーフも俺と同じように馬を撫でると、馬は気持ちよさそうにその場でうずくまりすやすやと眠り始めた。
「それでリーフ、リーネのことについてだろ?俺を外に出したのは。」
腰をかけるのに良さげな石を見つけ、腰を下ろす。リーフはそんな俺を見ながらこくりと頷いた。
「はい……まず大前提として、ユウキさんは奴隷と言うものを知っていますか?」
「あぁ、もちろん知ってるさ。そんなの子どもだって知ってるだろ?あまりバカにしないでくれ。」
「さっきリーネちゃんの尻尾を触ろうとした人は誰でしたっけ?それがいけないことということは子どもでも知ってますよ?」
「…………スイマセン。」
鋭いリーフのツッコミに俺は謝ることしか出来ずにいるとこほんと、リーフは咳払いをして仕切り直した。
「とりあえず奴隷という存在は知っているみたいですね。」
「あぁ……それで奴隷の話をするってことは……。」
「その口ぶりからするにユウキさんも?」
「多分、リーネは奴隷じゃないかって思った。」
「同じくです。あの首輪、少し違いがありますけど前に似たような物を見たことがあります。ミラン村で。」
「ミラン村で?あの村にも奴隷がいたのか?」
「ち、違いますよっ!あの村で奴隷なんて買ってません。」
誤解を解くようにリーフは手をバタバタと振りながら必死に言う。
「ミラン村の村人達はミラン村での物はもちろん、ビギシティや周りの村と協力して生活してきました。しかし、遠出しないと手に入らないものもあります。そして村にはたまに行商人という商人が来て私達の欲しいものを売ってくれたのです。」
「なるほど、つまりその行商人が奴隷を使役してたってことか?」
「えぇ、主に商売を手伝ったり、途中で出くわす魔物と戦うための奴隷だったりと何度か見た事あります。」
「奴隷ってことはやっぱり扱いが酷いものなのか?人権とか保証されていないんだろ?」
そう聞くとリーフは思い出すかのように腕を組んで目を閉じ、うーんと唸った。
「私が見た行商人の奴隷は少なくとも主である商人の方とはいい関係を築いていたような気がします。お互いに笑い合い会話しているところを何度か見た事あるので。」
「それはいい主に買ってもらったってことなのかな。さっきリーネの素肌を見たがあれはどう見ても……。それにリーネの俺達人間に対してのあの嫌悪感と俺が大声を出した時のあの様子……。」
リーネの傷を癒す際、脇腹以外にも古傷や最近出来たであろう傷があった。最近できた傷は分からないが、火傷跡や何か鋭利なもので斬ったような小~中サイズの傷がいくつもあった。もしリーネの主が意図的に痛めつけたとしたら。
「やっぱりユウキさんも勘づいていたんですね。そこまで分かっているのなら……ええと、その……。」
俺の考えをリーフに伝えると少し言いにくそうに顔を伏せる。
「リーフ?」
「リーネちゃんは王都に行かなければならないって言っていましたよね。多分それはリーネちゃんの主人が命じたこと。」
「主人は王都にいる。このままリーネを王都に連れていったらまた主人に酷いことをされてしまうかもしれない?」
「はい、奴隷はどれだけ酷いことをされても主人に逆らうことは出来ません。」
ここまで言われたら俺もリーフが何を言いたいのか分かってしまう。
「リーフ、それは犯罪になってしまうんじゃないか?」
「……私まだ何も言ってないですけど。」
「リーネが可哀想だからこのまま王都にいくのはやめてどこか別のところに行こうってリーフは言いたいんじゃないか?」
リーフの言葉を先に言うとリーフは俺から視線を逸らした。
「人の奴隷を勝手に別のところに連れていくのは奴隷を盗んだことと同じことになるんじゃないか?それに馬も王都行きだぞ?勝手に進路を変更することは出来ないんじゃないか?」
「うっ、で、でもっリーネちゃんがこのままじゃ!」
「それは分かってるさ、俺もリーネに酷い目にあって欲しくない。だけどまだリーネが酷いことされているってことが確定したわけじゃ――「あの傷とリーネちゃんの私達に対する様子を見て何もされていない訳ないじゃないですか!」
気持ちは分かるが早計な判断だ、リーフにそう伝えようとすると俺の言葉を遮ってリーフは声を荒らげる。
「っ――、リーフ落ち着いてくれ。大声を出したら魔物を呼び寄せる可能性がある。」
「うっ……すぅー、はぁー……」
リーフの凶変ぶりに怯みそうになるが、それを堪え、リーフにここで大声をあげては危険であることを伝える。それは流石にまずいと思ったのかリーフは一旦深呼吸をして落ち着く。
「……すみません。」
「大丈夫だ。リーネのことを思って言っているのはものすごく伝わってくる。」
「ユウキさん……。」
「でも一つ気になるんだ。リーフが優しいことなんてことは前から知っているけど、どうして今回はここまでしようとするんだ?」
「あの時……ミラン村でフロウアと戦った時、私は誰も助けることが出来なかった。アレンさんもリーパーさんも、村の皆も。両親も……。」
いつもの敬語がなくなり、ズボンの上から力強く自身の太ももを握り締め、ギリギリと音が出るほどにリーフは歯を食いしばる。
「嫌なんです、辛いんです、もしかしたら助けられた命が目の前で無くなるのが……。何も出来ない自分に本気で嫌になるんです。」
右手で自分の心臓の辺りをギュッとわしずかみする。
「もしかしたらリーネちゃんの主人がリーネちゃんを痛めつけるのが好きかもしれない。これは考えすぎですか?あの傷とあの様子を見て?もしこれが本当ならリーネちゃんは……辛い目にあう。もしかしたら自分で死を選んでしまうかもしれない。」
確かにリーフの言う通り、リーネが酷い目にあっている可能性は十分にある。だからこそリーフは助けたいと思っているんだろう。
「私は……助けたい。」
俺をじっと見てリーフはそう言った。
「俺もそう思ってるよ。」
「え?」
「まだリーネは……多分俺達よりも歳下だろ?そんな奴が奴隷で、自由を剥奪されて人権もなくて、酷い目にあっているなんて俺も許せない。」
拳を握ってそう言う俺を目を丸くしてリーフは驚いたように見つめる。
「力になりたいのは本当だ。だけどもしバレたら俺もリーフも犯罪者の仲間入りだ。リーネも助けることが出来なくなってしまう。……ちなみにリーフは奴隷についてどれぐらい知ってる?」
「私は……さっき言ったようにミラン村で見たくらいだからほとんど分かりません。」
「そうか……俺も奴隷についてはほとんど知らない。まずは王都で奴隷について調べてそこから動くのもいいんじゃないか?少なくともほとんど知識のない状態で動くよりもそっちの方がいいと思う。」
「そう……ですね。すみません、私自分の意見ばかり言ってあなたの話も聞かずに犯罪に加担させようとするなんて……。」
「それだけ人を助けたいって……リーネを助けたいって思ってたってことだろ?俺はそこまで他人のことを助けたいとは思ったことはほとんどない。そのリーフの優しさはお前の最大の長所だよ。」
落ち込むリーフに軽く笑いかけながらそう言うと、頭を上げてリーフも少し笑顔になる。
「とりあえず、王都に到着しないと進展もないことだし、今は無事に着くことを祈ろうぜ。」
「そうですね、あとリーネちゃんの手当てもしないといけませんね。」
「そうだな……魔力は十分回復しているし『無の加護』と『ライトヒール』の合わせ技で回復するといいんだがな。」
現在俺が使える中で一番の回復効果を発揮する『ライトヒール』に、属性を付与できる『無の加護』。『無の加護』で俺の『真・無属性』で無属性になっている『ライトヒール』を光属性に変更し、光属性の回復力が高くなるという属性効果を加味すればもしかしたら治るかもしれない。
「ちょっとリーネに会うの気まずいな。」
「リーネちゃんもきっと分かってくれますよ。ユウキさんが優しい人だってこと。」
さっき俺のせいで様子のおかしくなったリーネを思い出し、若干足が重くなるがリーフがそう言ってくれて少し気が楽になり、俺達は元いた洞穴へと引き返した。




