久しぶりの安眠
「ギルドマスターにミラン村に行くなって言われた時、ギルドマスターに人の心なんてないのかって思ったけど……リーフのこと心配してたんだな。」
ギルドマスターの部屋を出て少しアイオン達と話した後、外をリーフと歩きながら俺は少し前のやり取りを思い出していた。
それなりの時間ギルドマスターへの報告をしていたからかビギシティは夕焼けで空はオレンジ色に輝いていた。
「ギルドマスターもギルドマスターとしての責任があります。一個人として助けたいと思っても、ギルドマスターとしては今回の出来事は私情を挟まず見捨てるという判断が正しかった。」
リーフは俺の言葉に反応してそう口にし、俺を見て続いて口を開いた。
「ユウキさんはどうやってギルドマスターを説得したんですか?
こう言ってはあれですが、ギルドマスターの意見をユウキさんが曲げられるとは思いません。街を守るために神の欠片の話をした時、あれだけの反応を見せたギルドマスターが優秀な戦力であるユウキさんに私を助けに行かせようとするはずはないと思うのですが……。」
「俺は別に優秀でもなんでもないぞ……?
まぁ、ギルドマスターは俺を信じたと言うより俺を信じたアイオンが説得に協力してくれたからだ。切り札を持っているって俺が言ってそれをアイオンは信じてくれた。そしてウェルメンも同行させるって条件でなんとか許可を貰ったんだ。」
リーフの俺に対する過大評価に俺は眉をひそめて否定しながら説明した。
「切り札ですか?」
「あぁ、リーフが気絶している時に使用した。それのお陰で3日の間ステータスが下がってしまうことになったけど……リーフを助け出すことが出来たんだ。安い代償だ。」
若干カッコつけて言ってみる。可愛い子の前では俺もカッコつけたい年頃なのだ。
「私のせいで……すみません。」
「いいって。それで……どうする?この前ハーパン学園に入学するために一週間後に王都行きの馬車に乗るって言っていただろ?もう一週間経ってるから馬車もあるか分からないし、こんなに短期間で色々あったから――」
「私はハーパン学園に行くつもりですよ。」
今後どうするか、それをリーフに聞こうとすると先回りするように俺の言葉に被せてきた。
「馬車はまた探せば見つかります。ユウキさんは今回の一件で私が心変わりしたのかと思っているんですか?」
「……まぁな、普通あんな絶望のどん底に叩きつけられる出来事を体験したら怖くて冒険者を辞めると思う。でも今のリーフの目を見ているとそんなことは思ってなさそうだな。」
「私は……まだまだ未熟な冒険者であり魔法もまだ上手に扱えません。こんな状態では再びフロウアに出会った際、また敗れてしまうでしょう。私は強くなりたい、もっと魔法を勉強して、クエストで戦ってもっと強くなるんです。だから私は恐怖に負けている暇なんてないんです!」
胸の前で両手を握りしめ、真っ直ぐな瞳でそう言い切ったリーフを見てミラン村で気絶から覚めた直後のリーフを思い出す。あの時のリーフは生きる気力を欠片も感じず、それどころか俺の短剣で自殺しようとしていた。だけど今のリーフは絶望に負けず、村の者達の仇を取ろうと前に進もうとしている。
「少し前……ミラン村で生きる気力を無くしていたリーフと同一人物とは思えないほど変わったな。」
そう言って俺は笑みを浮かべると、リーフは俺から目を逸らし少し頬を赤らめる。
「あ、あなたが私を救ってくれたからですよ。あなたがあの時私をフロウアから助けてくれたから……あなたがあの時絶望の奥底から引っ張ってくれたから……だからこうして前を向けるんです。」
「俺なんかが力になることが出来て光栄だよ。さて、もう俺はへろへろで立ってるのもやっとだから宿に帰るが、リーフはどうする?」
もうすぐ少し前まで俺達が泊まっていた宿に着くというところで俺はリーフに聞いてみる。
「実は私も結構限界が近いので寄り道せずに宿に帰りたいです。」
「だよな、そもそもどっか寄るならここまで一緒に来てないもんな。」
そう言って宿屋に着き、受付でカギを受け取りリーフと別れ部屋のベットに飛び込む。
「あー本当にすごい出来事だったな。」
脳裏によぎるのは死人やヒューデット達の血にまみれたミラン村の光景だった。まるで某ゾンビゲームの世界に飛び込んだかのようでそれなりに時間がたった今では夢だったんじゃないかとさえ思えてしまう。
「でも本当にあったことなんだよな。」
実際死にかけたし、剣で刺されたときの痛みや地面にたたきつけられた時の衝撃を思い出すと体が無意識にびくっと震えた。
「こうしてるとめちゃくちゃ眠気が襲ってくるな。」
ふわふわとしたベットに寝そべっていると、久しぶりに安心して眠れることへの安堵感で瞼が徐々に閉じていく。
これからのことは明日の俺に任せて今日のところは眠ろう。そう思い眠気に身を任せ俺は瞼を完全に閉じた。




