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ミラン脱出


――数十分ほど前――


「もうとっくにこっちの方は終わった……が」


 少し前にじゃがいもとさつまいもは茹で終わり、今は俺の『マジックポケット』の中に入っている。


「リーフ遅いなぁ。いや2時間くらいって言ったからまだ時間に余裕はあるけど。」


 リーフの家の壁についている時計を見る。現在時刻は昼の11時過ぎ。リーフがここを出て1時間と少し経っている。

 村の中にいる生存者は俺とリーフとウェルメンだけ。そのため外ではなに一つ物音がせず、静寂がこの村を包み込んでいる。

 

「話し相手もいないし、やることも無い。魔法の練習も魔力が少なくていざと言う時に残しとかないといけないし……暇だ。」


 ほんの数時間前は命をかけた戦いをしていたが、今は誰もいない家で一人、暇だと呟いている。


 あまりにも状況が変化しすぎてなんだか笑ってしまう。


「そうだ、新しく手に入った器の欠片を見てみるとしようかな。来てくれ器。」


 フロウアから奪った時は詳しく説明を見ることがなかったから今見てみようと、器の欠片を体から排出する。


「えーと、これだな。」


 3つあるうちの一つを手に取り、詳しく見てみる。


〈魔力昇華〉

魔法に使用する消費魔力量の制限を無制限にする。

魔法制御力は使用する魔法のもとのステータスのままで、消費する魔力量に応じて、魔法制御力、消費魔力量以外の他の魔法のステータスを上昇させることが出来る。


「まだ3つしか器の欠片を持っていないけど、今持っている欠片の中で一番強いんじゃないか?」 


 俺の持っているほかの器の欠片は〈器の加護〉と〈マジックシェア〉。

 〈器の加護〉はこれを持っていないと器の欠片の効果を発動できない。だが、それ以外特に目立った効果は無い。

 〈マジックシェア〉は自分の魔力を他人に与えることが出来る。しかし、べシールから他人に自分が器の使徒だと言ってはいけないと言われているため、他人に自分の魔力を渡すことは基本ない。

 となると、もしまた神気解放をしなければならない状況になった際、込める魔力量によって魔法の効果を調整出来る〈魔力昇華〉は他の2つの権能に比べてかなり強力だ。

 

 効果は魔法に使用する魔力の調整が出来るというシンプルな効果だし、神気解放を使用する際は基本一人でいる時で〈魔力昇華〉は他人がいないと効果を発揮しない〈マジックシェア〉と比べて、自己完結型の権能だし。


「かなりいい拾い物をしたな。これだけはフロウアに感謝しないとな。」


 そうひとりで言いながら器の欠片を再度体に吸収する。

 

「……?なにか音が聞こえる。」


 静寂に包まれていた村に僅かに物音がなるのが聞こえた。


「だんだん音が近づいてきてる?」


 家の外に出て周りを見渡してみると、遠くからウェルメンが走ってくるのが見えた。

 なるほど音はおそらくウェルメンの足音だったんだろう。


 近くに来るのを待っていると、俺を見つけると俺の少し前で止まり、焦っているような声で声を掛けてきた。


「ユウキ、リーフの嬢ちゃんはいるか!?」


「えっ、いやさっきやり残したことがあるからって言って外に行ったぞ。」


「くそ、やっぱりか。ユウキ俺に乗るんだ!リーフの嬢ちゃんを探す!」

 

 それを聞いたウェルメンは膝を下ろすと俺に乗るように促す。なぜそんなことをするのか疑問に思うが、とてもふざけているような様子じゃないため、言う通りにウェルメンの背に乗る。


「スピード出すが舌噛むなよ!」


「お、おう。というかどうしたんだ?リーフを探すってなにかあったのか?」


 家や畑の間を飛ぶように走るウェルメンの背に振り落とされないように捕まりながらウェルメンに問いかける。


「野菜食い終わってお前達のところに行こうと気配を探っていたらお前達以外の気配を察知したんだ。あれは恐らく魔物だ。しかも、すぐ近くにリーフの嬢ちゃんの気配もあった。」


「はぁ!?リーフの近くに魔物って……リーフは今Gランクだからやばいぞ!」


 今リーフが勝てるような魔物はスライムくらいだ。もしもGランク以上のゴブリンやグレイウルフなんてものが相手なら……。


「だから急いでいるんだ、どうして外に出る時一緒について行かなかったんだ!」


「それは……リーフがひとりでやらせて欲しいって言うから。」


「一体何をしようとしていたんだリーフの嬢ちゃんは。」


「さあな、でもすごく真剣な表情をしてたからかなり大事な用があったんだろ。」


 ウェルメンは呆れるように言うが、実際にリーフの表情を見た俺はリーフを庇うように言う。


「む、いたぞあそこだ。」


 ウェルメンがリーフを発見したようでウェルメンの視線の先を辿ると、確かにリーフの背中が見えた。周りには大量のヒューデッドの死体が散乱し、血溜まりも多くまるで地獄をこの世で再現したかのような光景だ。


「本当だ、無事みたいだな。」


「誰ですかっ!」

 

 ウェルメンと共にリーフに近づくと、敵襲だと思ったのか敵意を持った表情で急に振り返った。


「俺だリーフ」


「えっ、あっユウキさん?」


 俺が声をかけると表情が一変し、驚いた表情になる。


「まだ時間に余裕があるが、ウェルメンがリーフの近くに魔物の気配を感知したらしくて急いできたんだが、大丈夫か?」


「あぁ……確かにさっきグレイウルフに襲われました。でも何とか倒せましたよ。ユウキさんが魔石をくれたおかげです。あれが無ければ今頃グレイウルフに食べられてました。ありがとうございます。」


「そっか、とりあえずリーフが無事でよかったよ。ところで一体何してたんだ?」


 リーフの後ろを見ると一部の土が掘り返したかのような状態になっていた。


「両親がここでフロウアに殺されてしまったんです。だから死体を見つけてせめて土に埋めるぐらいはしたいなって思って今埋めたところなんです。」


「そうか……両親もリーフにそうしてもらえてきっと天国で喜んでると思う。」


 そう言ってリーフの両親が埋まった土の目の前で手を合わせた。


「なるほど……ユウキから聞いたが、やり残したこととはこれのことか。確かに自分の親を埋葬するのは子どもである自分の手でやりたいものなんだろうな。」


 普段のふざけたような表情とは違い、落ち着いた声でゆっくりとウェルメンはそう言ってリーフの方へ振り向く。


「だがな今のリーフの嬢ちゃんはランクも低く、魔物と出会ったら危険な状態なんだろ?そういう時は俺に言うなり、ユウキに着いていってもらえば良かったじゃないか。今回は死ななかったが、次はどうなるか分からないぞ?いや、ランクが低い分、死ぬ可能性が高い。」


「ぅ……ごめんなさい。」


 さすがに反省したのか目を逸らしながらリーフはぽつりと謝った。


「反省してるのなら許すとしよう。さて、思ったよりも魔物が村の中に入ってくるのが早い。ここから脱出した方がいいと思うが2人はどうだ?」


「そうですね、私はもうやり残したこともないので賛成です。」


「俺も特に異論は無いが……ウェルメンの傷は大丈夫なのか?」


「野菜食ってたら治りが速くなったんだ。」

 

「ご飯食べたら治り速くなるってどういうことやねん。」


「俺はウェルメンだぞ?こういうことも容易いのさ。」


「いや、訳分からん。……とにかくウェルメンが大丈夫なら早速ここを出るとするか。」


 本人が大丈夫そうなのでウェルメンの提案に乗り、ウェルメンに乗ってミラン村を脱出することにする。





 

「さよなら……私の故郷」


 ウェルメンに乗り、10分ほどで入り口まで辿り着くことができ、やっと出られると思っていたところ、俺の後ろに乗っていたリーフが小さな声でぽつりと呟いた。


「…………。」


 ほんの少し振り返り、リーフの横顔を見る。その表情は悲しみに満ちていたが俺が振り返ったのに気付くとリーフは軽く笑みを浮かべ……下を向いた。


「ユウキさんに慰めてもらって……自分で死のうって思っていたあの時が馬鹿らしくなりました。みんなのために私は生きないといけない、仇をとってあげたい、そう思えるようになりました。

 でも……やっぱりちょっと……寂しいですね。」


 そう言って顔を上げたリーフは微笑みながらも目から一粒の滴が頬を濡らしていた。

 無理もない。突然故郷も親も大切なもの全てを失ってしまったんだ。

 

 ふと、自分が家族を失った時のことを思い出す。親が事故にあったと聞いた時、鏡に映った自分はどんな表情をしていただろうか。2年ほど前の出来事だがあの頃は急に両親を失い、当時まだ中学生だった俺は気持ちの整理にも時間がかかり、頭の中がぐちゃぐちゃになっていて当時の記憶は曖昧だ。


 目の前のリーフも俺とそう歳が変わらない。微笑んではいるが、心の中は未だに整理がつかず感情はぐちゃぐちゃだろう。


「リーフ、もしまた困ったことがあるなら言ってくれ。俺もお前と同じくらいに家族を亡くした。なんの予兆もなく急に……。人間ってのはいきなり親密にしていた存在がいなくなったらどうすればいいのか分からなくなっちまうんだ。特にまだ成人もしていない子どもの頃にそうなってしまったら。」


「え……ユウキさんも……その、家族を?」


 俺の言葉にリーフは目を開かせる。ウェルメンも一定のリズムで走っていたが俺の言葉が聞こえたのか僅かにそのリズムがズレる。


「あぁ……俺の場合はまだ祖父母がいたから立ち直ることが出来たけどリーフは……。まぁ……だから俺も家族を失う気持ちは分かるから遠慮せずに頼ってくれ。」


「わ、分かりました。」


「お前らまだ若いのに大変な思いをしてきたんだな。」


「ウェルメンってそういえば何歳なんだ?」


 走りながらぽつりと呟いたウェルメンになんとなく気になって質問をする。


「俺は6歳だな!」


「俺達に対して若いとか言える年齢じゃないだろ。」


「ふふ……」

 

 呆れながら俺は呟いたが、それを見て軽く笑ったリーフを見てまあいいかと心の中で思った。

 

 

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