復活
――全身が痛い、体が重い、息が苦しい――
気絶してもなお、気絶する前に俺を襲った神の力の代償が俺を逃さず苦痛を与え続けてくる。
やっぱりいくら使徒としての適性があるとはいえ、ただの人間が神の力を短時間に2回も使うとこうなるのか。
1回目とは比較にならないほどのデメリットだ。正直ステータスが5分の1になるくらいならかなりの倦怠感が身体中を襲うんだろうな、と考えていた自分を殴り飛ばしてやりたい。あまりにも神の力の代償を甘く見すぎていた。しかしそうしないとリーフを救えなかった。必要な対価だった。
……ダメだな、この苦痛から意識をそらそうと別のことを考えようとするが、辛すぎてこの苦痛を無視することなんてできない。
そんなことを思っていると、ほんの少し……本当にほんの僅かだけ、体が楽になるのを感じた。
「ぅ……」
これは……回復魔法?ぼやけてはいるが、今の回復魔法のおかげで苦痛が和らぎ、目を僅かに開けることが出来た。
うっすらとリーフの姿が見える。そうか回復魔法をかけてくれたのはリーフだったのか。礼を言おうと腕に力を入れ立ち上がろうとするが、まだ痛みで腕を動かすことが出来ない。
「私は……多分あなたに助けて貰ったんでしょうね。こんなにポーションを使うほどまでに怪我をして、それでも助けてくれた。なのに私はなにも出来ない。」
リーフの独り言に俺は再びリーフに顔を向ける。
「っ……」
「なにが皆さんの仇は絶対とる、ですか……。何も出来なかったじゃないですか。」
リーフは今にも泣きそうな暗い表情で呟きながら膝から崩れ落ち、地面に落ちていた俺の短剣を手に取り、喉を突き出し短剣の切っ先を喉に向けた。
まさか……
「もう……嫌だ……私なんてっ、消えてしまえばいい……。」
「だ……め……だ!そ……の手、……を下ろせ!」
震えながら呟くリーフを見て死ぬつもりだと理解し、必死に口を動かす。だが、口から出る声はかさついていて声量はとても小さく、リーフは一瞬だけピクりと止まるも短剣を喉に突き立てようとする手を再び動かす。
「ぐ……っ、うっ、あぁぁぁっ!〈集いし魔力よ〉ぉぉっ!」
リーフの短剣が喉に刺さる前に『マジックショット』で短剣に当てて飛ばそうと腕に力を込め、上体を起こして腕をリーフの持つ短剣に向け、詠唱する。俺の体内に残っていた魔力が魔弾へと変化するが、2度目の神気解放により元のステータスの5分の1となった魔力量では僅かに『マジックショット』を作り出すのに届かず、おそらく生命力であろうものが体から抜け落ち、魔力が無くなったときの倦怠感とあわせて経験したことがない……まるで体の感覚が無くなったような気がして腕の力が抜け、顔面から地面に叩きつけられた。
「ユウキ……さん?」
『マジックショット』はなんとかちゃんと短剣に当たったようで、ざくッと音を立てて短剣が地面に突き刺さる音を聞いた。そしてリーフの声も。
「ユ、ユウキさん!大丈夫ですか!?」
直前まで自殺しかけていた人間とは思えないほど、驚愕した表情でリーフが俺の体を上向きにして抱き抱える。
「これは……上級ポーション!ごめんなさいユウキさん、使いますよ!」
抱き抱える際に俺の腰袋にあったポーションを見つけたのか、腰袋からポーションを取り出し、それを俺の口に押し付け容器を傾ける。
「ぶっ……ごほっ!?」
「あぁぁぁ、どうしよう!飲み込む力もないなんて……」
ポーションを飲み込む力すらなく、ポーションを上手く飲み込めずむせてしまう。
「こ、こうなったら!」
リーフはなにかを決心したかのような表情でポーションを自分の口に含み――
「っ!?」
俺の唇に自分の唇を当て、ポーションを俺の口の中に流し込んできた。
さっきは飲み込むことが出来なかったポーションをリーフの口移しにより体内に入れることができ、徐々に体の痛みや倦怠感が軽くなっていく。ただ、やはり上級ポーションでも効果が足りないようで、完全に治ることはなくステータスも低下したままらしく、おまけに生命力を使ったことによる倦怠感も続いていてお世辞にも大丈夫とは言えない状態だ。
俺がポーションを全て飲みこんだのを見てリーフはゆっくり口を離す。
「ユウキさん……大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……完治とは言えないがなんとか立てる程度には回復した。え、えーと、ありがとうリーフ。」
仕方なかったとはいえ、さっきの口移しが原因で俺もリーフも互いの目を合わせず、けれどもちらちらと見ながら会話する。
「うぐっ……ユウキ……か?あいつらは……倒したの……か?」
「ウェルメン!お前生きてたのか!?」
「へ、へへ……あいつら……俺の耐久力を、甘く見て……死亡確認すらしないで……お前のところに行きやがった。」
変な空気が漂っている中、ウェルメンがふらつきながら俺の元にやってきたが、力尽きたのか俺の足元でばたりと倒れ、息をきらす。全身血まみれで背中に大きな切り傷がある。おそらく俺が戦ったヒューデットに負わされた傷だろう。
「リーフっ、回復魔法を使ってくれないか!?」
「あっ……えと、今は私回復魔法が使えなくて……」
リーフが目を逸らし……よく見ると手をきつく握り締めながら悔しそうにそう言った。
「まじか……俺も今はステータスがえげつないほど下がってるからな……。」
自分のステータスを脳裏に浮かべる。
ユウキ・ツキモト (17)
魔法使い 得意属性【無】
魔法攻撃力 G
魔法防御力 G
魔法回復力 G
魔法制御力 G+
魔力回復速度 G
魔力量 G++
Dランク
スキル欄(1)
詠唱省略(小)
EXスキル
無の加護(真・無属性)
器の欠片(3)
器の加護
マジックシェア
魔力昇華
神気解放の2回連続して使用した効果により3日間、ステータスが5分の1となる効果で今の俺のステータスは酷いことになっている。そこら辺にいるスライムにすら勝てるか怪しいほどに。魔石は残っているから魔力を回復させ俺が回復魔法をかけることが出来ないことは無いが、たかだか魔法回復力Gランクが回復魔法なんて発動したとしても状況は変わらない。
「中級ポーションでいけるか……?」
さっきヒューデットに向かって投げた時分かったが、中級ポーションと上級ポーションでは効果に大きな違いがある。
中級ポーションだと、軽いダメージしか与えられなかったが、上級ポーションだとかなりのダメージを与えることが出来た。これにより2つのポーションの回復効果に大きく差があることが分かる。
しかし、今手元にあるのは中級ポーションたった1つだけ。でも、リーフを救うことが出来たのはウェルメンのおかげだし、ビギシティに帰る際にもウェルメンの協力がいる。
ポーションを腰袋から取り出し、ウェルメンの背中の傷に向けて中身を振りかけた。
「やっぱり中級ポーションじゃ……って、結構治ってる?」
あまり効果が無いかと思ったが、予想よりも効果があり、ウェルメンの背中の傷が塞がっていく。
「ポーションあったんだな……助かるぜ。」
ウェルメンはそう言い立ち上がろうとするが、やはりよろけてしまい上手く立ち上がることが出来なかった。
「おい、ウェルメン無理するな。大丈夫か?」
「このウェルメンはなぁ、特殊な個体だから傷の治りも……早いんだぜぇ……!それよりこのことをガローのやつに伝えないといけねぇ!」
確かに傷は治りつつあるが、血は大量に出てたし、ここまでほぼ休憩なしで来たせいで体力も底をついているだろう。
「無理するなって、お前だけじゃない。俺もリーフもボロボロだ。このままビギシティに行こうとしたところで、途中でヒューデットや魔物に遭遇したら終わりだ。しばらくここで休憩した方がいい。」
「……そうだな。俺としたことが気がせいちまってたみてぇだな。じゃあ俺はお言葉に甘えて休んでいるから……そこの嬢ちゃんと話すといいぜ。」
ほんの少し俺の後ろで俯いているリーフをちらっと見て、ウェルメンはその場で寝転がった。




