突撃
「ふぅ、流石にこれだけの長時間ほぼぶっ続けで走るのは久しぶりで疲れたな。
さてガローはヒューデットが100体はいるから気をつけろって言ってたが……100体どころじゃないな。」
「俺には暗くて見えないな。〈我は力を求む〉」
既に日が落ち、辺りは暗くなっているため、俺は『パワーライズ』で視力を強化して辺りを見渡した。
門を過ぎると、左右に巨大な畑が広がっておりその奥の方にたくさんの家が見える。そして、家のある村の奥の方には数えるのもバカバカしいほどのヒューデットが見える。
「なぁ本当にあの数のヒューデット相手に、ガールフレンドが生きているって思うのか?流石に無理があるんじゃ……ない……か?」
ウェルメンがそう言い切る直前に、村の方でなにかがひかり、その後にヒューデット達の悲鳴が聞こえてくる。
「あれは……光属性?リーフ達以外に生存者はいないって話だったからあれは多分リーフだ!」
「いやあれは、聖属性魔法だ。光属性の上位の属性だな。しかも超級魔法の『シャイニングブラスター』とは……お前のガールフレンドはSランク並の魔法使いなのか?」
「聖属性?いや、リーフは光属性が得意属性でビギシティを出る時はまだEランクだったはずだ。でも、もしかしたらヒューデットを倒しまくってランクを大幅に上昇させたって可能性も……あるかもしれない。」
これだけのヒューデットがいるため、どれだけランクが上がっても不思議じゃない。
「そうか……だがマズイ状況かもしれないな。超級魔法は強力だがその分魔力の消費も馬鹿みたいに多い。そんでまだヒューデットは残ってるから疲弊した状態でヒューデットの相手をすることになるな。」
「じゃあ速く行くぞ!」
ウェルメンの言葉に俺は焦りながらウェルメンに言うと、ウェルメンは村の方へ走り出した。
「 とりあえず家の周りを走るからガールフレンドを見つけたら教えてくれ。俺も探すが、物陰からヒューデットが出てくるかもしれないからそっちに意識は集中させたいからな。」
「了解した。」
高速でウェルメンは走り、ほんの数十秒で家の周りに辿り着き、道を塞ぐヒューデットを回避し、時に攻撃しながら移動していく。
「――っ!」
ウェルメンの背の上で辺りを見回していると、さっきも見た光が近くで再び発生する。
「1回目の『シャイニングブラスター』でヒューデットがほとんど減ったのにまた撃ったのか?もしかして強力な個体がいるとかそんなんか?」
「ウェルメン早く向かってくれ!」
「分かってる!」
光の方にウェルメンは急いで足を向け走るが、その途中でヒューデット、しかも筋力に特化したあのでかいヒューデットが物陰から飛び出してきてウェルメンの足に掴みかかってきた。
「うぉ!」
「なっ!?」
よりにもよって光に2人とも意識を向けていたため、それに気づくのが遅れ、ウェルメンは盛大に転び、それによって背にいた俺は宙に投げ出された。しかもウェルメンの体長は5m、そこから無防備な状態で放り出されるとなると――不味い!
「〈風よ阻め〉!」
咄嗟に地面に向かって『ウィンドブロウ』を放ち、風の衝撃で地面衝突の衝撃を和らげる。
「危な……ウェルメン!」
「こっちは気にするな、光が起こったのはすぐ先だ!ここを片付けてすぐに行くから先に行ってろ!」
転んだ時の音に誘われたのか、変異種を含めた何体ものヒューデットがウェルメンを囲んでいる。しかしウェルメンは俺の方を見て先にいけと言い放ち、戦闘を開始した。
「分かったっ!」
そう言い俺は走りながら家々を通り過ぎ……そして人型のなにかがリーフの首を絞めているのが視界に入った。
「〈赤き炎を纏いし火矢よ・刺し射抜け〉っ、届けぇっ!」
「ぐはぁっ、一体何だ!?」
黒い翼を生やした人型のなにかに『ファイアアロー』が突き刺さった。
俺に気づいていなかったのか盛大驚き、突き刺さった『ファイアアロー』を強引に引き抜きこっちを睨んできた。
体は酷くボロボロになっているが、とんでもなくヤバいやつだと精神は悲鳴をあげ、早く逃げろと叫ぶかのように手が震える。が、それを無視しそいつと相対する。
「お前は……確かこの女とパーティを組んでいたやつだな。確かユウキとか言ったか?」
「なんで俺の名前を知ってる?」
「俺はヒューデットと感覚を共有できる。数日前にお前とこの女が倒したヒューデットと視覚を共有していたから知っているということだ。
……そして、お前の実力も。」
人型のなにかがニヤリと笑うと、ぞくりと背中に冷や汗が流れる。
「おやリーフは何か言いたいようだぞ?ほれ返してやる。」
人型のなにかがリーフを強引にこっちに投げてくる。それと同時に嫌な予感がし、何が起きてもいいように意識をそいつに向けながらもリーフを抱き抱える。
「うおっと!」
「〈無駄なき魔弾よ〉」
やっぱり何かを狙っていたようで魔法を放ってくるのが見えた。意識していなければそれを食らっていただろうが、なんとか体が動き、リーフを抱えたまま横に飛ぶ。
「チッ、危ねっ!」
咄嗟に飛んだが、リーフは大丈夫だろうか?そう思いながらリーフを見ると、服はボロボロ、あちこちが血にまみれ顔色も非常に悪いのが一瞬で分かった。
「大丈夫かリーフ?て、どう見ても大丈夫じゃないよな、待ってろすぐに助けてやる。〈更なる魔力纏いて・爆ぜよ魔弾
〉っ!」
リーフを片手に抱き寄せながら、『マジックボム』を放つ。
激しい音をたて『マジックボム』が直撃し、土埃が舞い上がる。
「ふん、あれだけヒューデットをけしかけ倒させてやったというのにこの程度か。」
土埃の中からそいつはほぼ無傷で姿を現す。
「ほとんど効いていないだと……。」
「当たり前だろう、低ランクの分際がこのSランクの悪魔であるフロウアに勝てるわけないだろう。」
「悪魔……しかもSランクだと!?」
以前ガローがもしかしたら悪魔が今回の騒ぎに関与しているかもしれないと言っていたが、本当にそうだったとは思いもしなかった。
「くそっ、ウェルメンが来るまで耐えないと……。」
小声でそう呟いていると、がくっと大きくバランスが崩れる。
「はぁ……はぁ……うっ、けほ」
「大丈夫かリーフ……っ!?」
リーフが立ってられなくなったようで、膝を折ったことでバランスを崩したみたいだ。さらにリーフは手のひらを口に当てて咳をすると、その手が一瞬で赤く染まる。
「〈癒しの光よ・我が身を照らせ〉!」
それを見た俺はリーフを座らせ、『ライトヒール』をリーフにかけるが、全くといっていいほど効いてはおらず、リーフは座るのもきついのかその場で仰向けで倒れてしまう。
「お前一体何をした!」
「知るか、相手をしていたら急に中級魔法までしか使っていなかったのが、超級魔法なんてものを使い出してきた。その代償がその状態なんじゃないか?」
怒りをあらわにしフロウアに問いつめるが、フロウアは地面に転がった何かを拾った後、顔を顰めながらそう言った。
「超級魔法……リーフが?」
それだけ多くのヒューデットをリーフは倒したんだろうか?確かに周りには多くのヒューデットの死体がある。
「おかげで魔王様に貰った力の1つが使えなくなってしまったではないか。」
そう言って、さっき拾った何かを俺に見せる。
「……っ!?器の……欠片?なんでお前がそれを持っている!」
そこにはまさかの器の欠片があった。べシールから見つけたら集めておくように言われていたがまさか悪魔が持っているとは。
「そうだ、器の欠片だ。もっとも俺が持っているのはほんの一部に過ぎないがな。
魔王様は神の欠片を俺達が使うとEXスキルが強化されるよう改造することが出来る。さらに、複数の欠片を取り込むとEXスキルが増えることもある……が、持ち主が大ダメージを受けると、体から排出され再び魔王様に改造してもらわなければEXスキルも通常のものになる。俺はその女から大ダメージを受けこの器の欠片を1つ体から排出してしまった。おかげでこの欠片で強化したEXスキルが通常のものとなってしまった。俺はその女に復讐せねばならん。だから、その女を渡せ。そうすればお前は楽に死なせてやろう。」
自分の勝利を確信してるのかこっちが聞いていないことも勝手に喋ってくれた。
器の欠片、そしてほかの欠片も少しフロウアが持っているだろう。フロウアを倒せば、俺は器の欠片を取り込むことでさらに強くなり、べシールからの依頼も僅かに達成出来る。
だが……リーフはボロボロで切り札――神気解放を使用しても俺はフロウアに勝てるかどうか分からない。
(逃げるしかないな。)
俺はそう心に決め、ウェルメンが来るまでの時間を稼ぐことに集中する。
「悪いがそれは出来ないな。彼女は俺の友達だ、渡せば死ぬと分かっていてそれを素直に聞くわけないだろう。」
「それを言うなら、お前はすでに死ぬ事が確定しているというのになぜ渡さない?2人とも死ぬのだからお前は死ぬ時は楽に死にたいだろう?」
俺の言葉をふっと笑い、片手に魔力を宿しながら俺に聞いてくる。
「殺らせるかよ。『無は有に』」
フロウアの攻撃に備え、『無は有に』を使用し、防御力の高い水属性へと変化させる。
「ふん、そんなに死にたいのであれば死なせてやろう!
〈無駄なき――〉」
「おぉらっ!」
「うぉ!?」
「ウェルメン!」
フロウアが魔法を放とうとした瞬間、ウェルメンが飛び出してきてフロウアに体当たりをし、フロウアが吹き飛び、そこに追撃とばかりに『エアスピン』をいくつも放ち、さらに強烈な『ウィンドブロウ』を叩き込み、家に衝突し衝撃で家が崩れ下敷きになる。
「これは……運がいいな。」
その際にこっちに向かって飛んできた器の欠片をキャッチして、ウェルメンにリーフを見せる。
「ウェルメン、この子が探していた子だ!」
「はぁ……はぁ……すまん遅くなった!無事見つけられたようだな。おいこのガールフレンド……」
馬のため表情が分かりずらいが、リーフを見た途端ウェルメンの雰囲気が僅かに変わるのが分かった。
「……ユウキ、撤収だ。このガールフレンドは置いていく。」
「は、何言って……」
「このガールフレンドからは魔力どころか生命力の欠片すら感じない。多分魔力を使いすぎて魔力の代わりとなる生命力を使用しすぎたんだろう。だが、生物は生命力が無くなったら死亡するから無意識にリミッターがかかるはずだが……どうして全て無くなっているんだ?」
ウェルメンはなにか考え込むようにリーフを見ているが、それどころでは無い。今はフロウアは家の下敷きになっているが、ボロボロになっているとはいえあれで死んだとは思えない。
「でも、まだ息はある。帰って治療すれば……」
「本来魔力が無くなって生命力が少なくなったら魔石を使用するんだ。そうすれば魔力が回復しない代わりに、生命力を回復することが出来る。」
「なら、魔石を使えば!」
腰袋から上級魔石を取り出すが、ウェルメンに止められる。
「魔石は使うために僅かに魔力が必要だ。だが、このガールフレンドの魔力もその代わりになる生命力も全くない。
しかも魔力って言うのは人間の指紋とかと同じように人によって僅かに異なるんだ。だから魔石を砕いた魔力を持つ者に魔力は流れる仕組みになっている。」
「そ、そんな……」
「ここからビギシティまで数時間かかる。まだ息があっても生命力が無くなればすぐに死んでしまう。このガールフレンドの生きていられる時間はあと20分もないと思うぞ、諦めるんだ。そうすればお前くらいは無事にビギシティに帰せる。」
「だ、だが……いや待て、要は外部から魔力を補給させることが出来ればいいんだな?」
「そうだが、何かあるのか?」
「あぁ、ガローから聞いてるだろ?切り札があるって事。
それを使えば上手くいくかもしれない。」
俺の所持する器の欠片の1つ『マジックシェア』は自分の魔力を触れた相手に渡すことが出来る権能だ。
「……分かった、お前を信じてみよう。とりあえずここを離れるぞ、ガールフレンドを乗せてくれ。」
リーフを乗せるためにウェルメンが足を折り畳む。
「そうはさせるものか!〈無駄なき魔弾よ〉!」
「なっ……」
俺がリーフの体を持ち上げ、ウェルメンの鞍に乗せようとしたタイミングで崩れた家からフロウアが姿を現し、ウェルメン目掛けて魔法を放った。
「ぐっ……卑怯者が!」
タイミングが悪くウェルメンは足を折り畳んでいたため、回避が間に合わず、胴体に小さな穴ができ真っ赤な血がそこから零れ、美しかった白い体毛が赤く染まる。
ウェルメンはふらつきながら俺達から少し離れフロウアと相対する。
「ユウキ逃げろ、切り札ってのがあるんだろ!こいつは俺が倒す!」
「だけどその怪我じゃ負けるぞ!相手はSランクだ!」
俺の指摘にウェルメンはふっと口元に笑みを浮かべる。
「だが、あいつも相当ボロボロのようだぜ?同じSランク同士なら勝てないわけじゃない。」
「ほう、言ってくれるな。だが、その怪我以前にだいぶ体力を消費しているようだが?」
「うるせぇ、ほらユウキさっさとガールフレンドを助けちまえ。」
「ウェルメン……すまない」
「逃がすか!」
「おらよっ!」
ウェルメンに背を向け、リーフを背中におぶってその場を退避する。
退避直前でフロウアが襲いかかってくるのが分かったが、ウェルメンがそれを許さずに妨害してこっちに来ることは無かった。




