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過去の終わりと怒り


「全員起きろっ!敵が攻めてきた!」


「――っ、アイナ起きろ!」


「んぇ?」


 夜ももうすぐで明け、太陽の光がわずかに差し込む時間帯、いつもはもうすぐで村人達が起き出す時間に村人の声が集会所内に響く。

 一瞬で目が覚めた俺は隣で眠っていたアイナを起こし、手元に置いていた鉄の棍棒を右手で握りしめる。


 窓の外の陽の光からして、どうやら前回の襲撃から2時間ほどたっているようだ。あれから襲撃もなく扉とバリケードを補修している村人達以外は寝ていたが、どうやら安心して寝れるのはまだ先のようだ。


「っ、ナンディナ、オルビィン戦と――」


「あぁぁぁぁもう、これから重大な仕事があるんだから気持ちよく寝かせなさいよ、くそ共!いいわもうここであたしが全員ぶっ飛ばしてやる!」


「おいナンディナ!1人で突っ走るな!」


「俺らが頑張って直した扉がぁ!」

 

 アインダ達も目を覚ましたようで現在の状況を把握したアインダがナンディナとオルビィンに指示を出そうとするが、怒りで顔を真っ赤にしたナンディナが床を踏み砕きながら、補修したばかりの扉を蹴り飛ばし外に向かって行った。

 ちなみに扉を補修した村人は頑張りが一瞬で木片と化したことに膝をついて泣いていた。


「いやそんなことはどうでもいい……アインダ俺達はどうすればいい!」


「くそ……村人達は集会所で待機していてくれ。敵がどれだけいるか分からないからなっ!オルビィン、俺達も外に出てあのバカの加勢をするぞ。」


「分かっている、全く感情の制御が下手なヤツめ。」


 そう言って2人が外に出ようと扉に向かうと


「っ、避けろ!」


「なっ、ぁ!?」


 アインダが咄嗟に横に飛んで猛スピードで扉から突っ込んできた物体を避けるが、オルビィンはそれをモロに食らってしまい、その物体とともにふっ飛ばされ、集会所の壁に激突した。


「オルビィンっ!……と、ナンディナ!?」


「ゲホッ……くそ一体何が――」


「俺のヒューデット達が少なくなっていると思ったらやはり高ランクのものが潜んでいたか。」


 ナンディナが口から血を吐き、状況を確認しようとしたその時、壊れた扉から二対の黒い翼の赤い瞳をした化け物が入ってきた。


「……まさか、悪魔か」


 険しい顔で視線をその化け物から一切離さず、アインダは呟いた。


「悪魔じゃと……これは、まずいな。」


 真っ先にアインダの言葉に反応した村長が顔を歪める。


「村長、悪魔って一体?」

 

「いちばん弱い悪魔でもAランク、強い者だとSランクを優に超え、そこら辺の魔物とは比較にならないほどの力を持つ化け物のことだ。なぜこんなところにいるのだ。」

 

 ただ事では無いと思ったアイナが物知りの村長なら知っているかと問いかけると、悪魔という存在を村長は知っていたようで悪魔がどんな存在か簡潔に教えてくれる。


「なぜ……か、まあ簡単に言うなら魔王様の命令だと言っておこう。それにしても、この辺りの村は高ランクの者がいないと思っていたが……まあいい。せっかくの高ランクの人間だ。俺の強化されたEXスキルの実験台になってもらうとしよう!」


「魔王の命令だかなんだか知らないが、よくもあたしに怪我を負わせてくれたねっ!

 死んで詫びな、『ハイボディエンハンス』、『キルショック』!」


 覆い被さるように倒れていたオルビィンを乱暴にどかして、悪魔目掛けてナンディナは突っ込んでいく。そして悪魔の目の前で右手になんらかの力を集中させ、悪魔の顔面目掛けて手のひらを思いっきり突き出した。


「ガァァァッ!」

 

「なにっ!?」


 ナンディナの攻撃が悪魔に当たる直前、2人の間に高速で小さななにかが割り込み、ナンディナの攻撃はそれに直撃する。


 ――ブシャ――

 

 その小さななにかは悪魔がヒューデットと呼んだあの化け物達を一回りほど小さくした化け物でナンディナの攻撃を受け、身体が内側から弾け飛んだ。


「おっと危ない危ない、さすがに相手が格下とはいえ上級戦技をくらうと痛いからな。主人想いのいい手下をもって俺は幸せだ。」


「ちくしょう、2人ともいい加減攻撃に参加して!こいつを倒さないとこのままじゃ全滅だ!『ナックルアタック』!」


 ナンディナが怒りの形相でアインダとオルビィンに向かってそう言って拳を握りしめ、悪魔に再度飛びかかる。

 

「あの野郎自分勝手に動いてる癖に……オルビィンやるぞ!『ハイボディエンハンス』、『フルスイング』!」


「言われなくても分かっている。〈赤く猛る炎の矢よ〉!」


 アインダは怒りを鎮めるように深刻級をしてオルビィンに攻撃の指示を出し、床を蹴ってジャンプし、横に回転しながら勢いを殺さずに大剣を振って悪魔に攻撃を仕掛ける。


 オルビィンもそれに続くように魔法の詠唱をし、5本の火の矢を悪魔に向かって放つ。


「〈数多の魔の力・我囲み・この身に魔を取り込みて・さらなる力求む〉」


 しかしなんらかの魔法で自分を強化したのか、オルビィンの火の矢を叩き落とし、ナンディナの『ナックルアタック』で突き出した拳を右手で受け流し、左手でナンディナの腹を掴んでアインダの方に向かって突き飛ばした。


「なっ、避けろナンディナ!」

 

 ジャンプして空中にいる状態で勢いを殺すことが出来ず、

『フルスイング』でナンディナを斬り飛ばしてしまった。

 ナンディナだった物がアインダの大剣で上下2つに別れ、赤い血を撒き散らしながらぐしゃりと床にぶつかる。


「ナ、ナンディナ……」


「ふっ、絶望はまだまだこれからだ。お前達、来るがいい!」


 膝をつき、血にまみれた大剣と手を見ながら絶望するアインダを見ながら、悪魔は笑みを浮かべながら大声で誰かに合図をする。

 すると、集会所の壁の至る所から外からなにかが殴るような音が何度も響き、壁が破壊され、何体もの少し前に見た巨大な化け物が集会所内に侵入してくる。

 

「もうダメだ!」


「死にたくないっ!」


「神様助けてっ!」


 村人達が化け物達の間をくぐり抜け、逃げようとするが、巨大な化け物がそれを許さず、村人達を捕まえ雑巾のように絞ってボキボキと骨をへし折ったり、圧倒的な力で殴り殺したりと地獄絵図が展開されていた。


「おい立て!このままだと村人達が死んでしまうぞ!」


 オルビィンがアインダの胸ぐらをつかみながら、冷静さを殴り捨て叫ぶ。


「絶望するのはあとだ、俺は村人達を避難させに行く。お前はこの悪魔を引き付けておいてくれ。後で合流する!」


 そう言ってアインダの返事を聞かずに村人達を襲っている化け物達に走りながら魔法を打ち込んでいく。


「〈赤く猛る炎の矢よ〉、〈不可視の刃よ〉!

 生き残ってる村人達は俺についてこい!」


 オルビィンの指示に従い、村人達はあとをついていく。


「アイナ、俺達も行くぞ。村長は俺がおぶっていく。」


「分かりました!」


「わしはよい、わしをおぶればそれだけ化け物達に捕まりやすくなる。」


「いいから年寄りは若いやつの言うこと聞いてればいいんだよ!」

 

 静かに首を振る村長を無理やり背中にのせ、アイナとともにオルビィンについて行く。


「若いやつ……?お主今年45じゃろ、もう若いとは口が裂けても言えん年齢だ。」


「うるせぇ、舌噛むかもしれないから喋るなよ。」

 

 苦笑いをしながらそう言って大人しくする村長に走りながら俺はそう言う。





「うわっ!?」


 村中を通常の化け物が徘徊する中、オルビィンを戦闘に生き残りの村人達が見つからないよう極力化け物の少ない道をしばらく村の中を走っていたが、前にいた村人がよほど慌てていたのか躓き、音を立てて地面に体をぶつけた。


「ガァァァッ!」


「ひいっ!?」


「〈疾風の守り球よ〉、〈不可視の刃よ〉!」


 躓いた村人に横から通常の化け物が飛びかかるが、それに気づいたオルビィンが手の平をこっちに向け、緑色の小さな魔弾を放った。


「ガァッ!?」


 魔弾は化け物と村人の間で静止し、その姿を1枚の薄い障壁へと形を変え、化け物の攻撃を阻み、そのうちに風の刃が化け物を斬り裂いた。


「大丈夫か?」


「ああ、はい。大丈夫です。」


 村人に手を貸しオルビィンは周りを見渡す。


「よし、ここら辺でストップだ。」


「ここは、わしの家か?」


「村長の家なのかここは。まあそれはいい。この村に来た時村人達を避難させるため村中を駆け回ったが、一番大きい家はここだった。今からとある魔法を皆にかける。

 その魔法は『ウィンドオブフライ』という魔法で自由に空を飛ぶことが出来る魔法だが、魔法をかけた人の魔法制御力、または戦技制御力が高くないとまともに飛ぶことは出来ない。おそらく皆の制御力はそこまで高くないと思うが、それでも少しの間宙に浮くことならできるはずだ。そして村長の家は2階建てだ。屋根に登ればそうそう化け物達も手は出せないだろう。そのうちに俺はアインダと合流し、悪魔を叩く。」


 オルビィンの説明を聞き、村人達はそれに賛成し、オルビィンが村人達に魔法をかけ始め、村人達は屋根に登っていく。





 

「さあ、あんたらもだ。」

 

「おお……俺飛んでる。」


「ふふっ、なんですかその感想は。」


 俺たちの番になり、オルビィンに『ウィンドオブフライ』をかけてもらい、俺とアイナは飛んで屋根の上に登った。


「次は……とちょっと待ってくれ、魔力を回復させる。」

  

 俺達を上にあげ魔力が尽きそうになったのか、オルビィンは懐から魔石を取り出し、砕いて魔力を回復させ次は村長の番という時……村長が発言する。


「ひとつ聞いていいかの?お主とアインダで悪魔を倒すことは出来るのか?ナンディナは死に、アインダも今悪魔と戦っている。悪魔は最低でもAランクはあり、さらに化け物のおまけもついている。勝てるのか?」


「さあな、アインダが生きていれば可能性があるが……聞こえないだろ?」


「なにがだ?」


「戦闘音だ。あんたらは化け物達から見つからないよう必死になっていただろうから周りの状況に気づかなかったかもしれないが俺は気づいていた。遠くの方で僅かに戦闘音がしていたのを。

 だが、10分ほど前……それがいきなり聞こえなくなった。アインダはやられたかもしれない。」


「そんな……」


 冷静にそう告げるオルビィンの言葉に、アイナは目を伏せる。


「だから俺はあんたらを化け物の手の届かない屋根の上にのせて『ウィンドオブフライ』でビギシティに行き冒険者ギルドの連中に知らせ戻ってくる。」


「お、おいあんただけ逃げる気かよ!?」


 話を聞いていた別の村人がオルビィンに突っかかり胸ぐらをつかもうとするが、オルビィンは村人の手をはたき、睨み付けた。


「俺1人ではこの問題は解決できない。これが最善の方法なんだ。」

 

「もし魔法でビギシティへ行き、また村に戻ってくるまでどのくらいかかる?」


「……ビギシティまで行くのに『ウィンドオブフライ』で1日はかかる。さらに、魔法を使っている間は当然魔力も消費し、魔石もあまり残っていないから途中で魔力の回復を待つ時間も確保しなければならない。……3日はかかる。」


 村長の問いにオルビィンは瞳を閉じ、そう言った。


「は……3日!?そんなに待てるわけないだろ!」


「食料もないのに屋根の上で3日過ごせって言うの!?」

 

「そうだそうだ、それにあの悪魔もいる!きっと俺達見つかったら魔法を撃たれて死んじまうよ!」


「……」


 それを聞いた村人達は口々にオルビィンを責め立てる。


「皆の者落ち着け!」


「あいつは自分だけ逃げて俺達を見殺しにする気なんだ!」


 村長が騒ぐ村人達を静めようとするも、村長の声は届かず、オルビィンの責める声は大きくなる。


「皆の言いたいことは分かる。だが、これしか方法がないのも事実なんだろうな。」


「はい、オルビィンさんの目は嘘をついているような目ではありませんでした。私では他に方法は思い付きませんし……ですが、3日もここで救助されるまで耐え続けることは……。」


「できそうもないな。」


 責め立てられているオルビィンを見ながらアイナと話すも、他に方法は思い付かない。


「……おい待て、まずいまずいっ!化け物が大量にこっちに来てるぞ!」


 他の屋根の上にのっていた村人が目を見開きながら指を指す。


「っ!?」


 指を指した方には大量の化け物がこっちに向かって来るのが見えた。おそらく騒ぎ声のせいだろう。


 「ちっぃ、登れなかった村人達は家の中に非難しろ!ここは俺が食い止める!そこの村人、化け物はどのくらいいる!」


 非常事態にオルビィンは村人達に指示し、家の中へと非難させ、化け物を見つけた村人に化け物の数を聞く。


「ど、どのくらいって……たくさんだよ!めちゃくちゃいるんだよ!」


「オルビィン、化け物は見る限りでは50体ほどだ!中にはさっき見たすばしっこいやつが10体、でかいやつが15体くらい混じってる!」


 パニックになっている村人の代わりに俺が答え、オルビィンはそうか……と呟いた。


「魔力もバカみたいに食うし、魔石も残り少ないからできれば使いたくなかったが、相手がそんなにいるんじゃ使うしかないな。……家にいる村人は絶対に出てくるな!そして、屋根の上にいる村人は伏せてどこかに捕まっておけ!」


 オルビィンは覚悟を決めたような表情で化け物達の方向を向き、振り返って大声で言った。そして懐から2つ魔石を取り出し、砕き詠唱を始めた。


「〈荒れよ・哭けよ・刻めよ……」


「ガアァァァァッ!!」


 大量の化け物が次第に距離をつめ、オルビィンに襲いかかろうとする。


「風さらに鋭さ増し・鋭く尖りし刃・ここに顕現し……」


 化け物達はオルビィンのすぐそこまで迫っており、それを見ている村人は早く!と声を荒げるがそれを気にした素振りも見せずオルビィンは静かに詠唱を続けた。


「あらゆるものを消し飛ばせ〉、食らうがいいっ、これが超級嵐属性魔法『ゼロストーム』だっ!」


「ガアァァァッ!?」


「うおぉぉぉ!?」


 オルビィンの詠唱が終わると、化け物達の中心で風が渦巻き、一瞬で巨大な竜巻が発生し、化け物達は竜巻に吸い込まれ、さらに竜巻の中で風に切り刻まれているのか、竜巻の中は血で染められる。


 それだけでなくあまりに竜巻の勢いが強く、『ゼロストーム』により周囲の家は粉々になり、さらに俺たちの周りも強風が吹き、皆吹き飛ばされないよう屋根にしがみついている。


「はあぁぁぁぁぁ!」


 オルビィンが声をあげるとさらに『ゼロストーム』の勢いは増し、化け物達は次々に竜巻に吸い込まれ、人の形を保つことができないほどに斬り刻まれその命を散らしていく。

 何体かの化け物は両手両足を畳み込み、なんとか被弾を抑えようとするも、『ゼロストーム』で上空まで飛ばされ、地面に激突し、ぐしゃりと音を立て同じく命を散らしていった。


「どうっ……だっ!はぁ……はぁ……」


 ほんの数十秒でほぼ全ての化け物を倒し、荒い息を吐きながらオルビィンは膝をついた。


「おい大丈夫か!?」


「降りるな……はぁ、魔力が無くなって疲労感があるだけだ。」

 

 屋根から飛び降りオルビィンの状態を見ようとするも、オルビィンが気にするなと手で静止し、魔石を取り出し砕く。


「すげぇな、化け物共を一瞬で片付けちまった!」


「さっきは疑って悪かったな!」


 建物の中から様子を見ていた村人達が出てきてオルビィンの周りに集まり、先程とは違って手のひらを返したかのようにオルビィンを褒め称える。


「あいつら……調子のいいヤツらだな。」


「あはは……って、なんでここに!」


 呆れている俺の横でアイナが苦笑いを浮かべ、そして絶望したかのような声で地上を見ていた。


「ふむ、あれだけのヒューデットを……しかも変異種もいたのに攻撃すらさせずに一瞬で殲滅するとはなかなかだな。」


「お前はっ!……アインダはどうした?」


 パチパチと拍手をしながら現れたのはさっき集会所を襲ったあの悪魔だった。

 悪魔の姿を見た瞬間オルビィンは悪魔を睨み、アインダのことを尋ねる。


「アインダ……ああ、さっきのあの戦士のことか。それなら我がEXスキルの実験台になってもらった。言葉を濁さずに言うのであれば、生物としては死んだと言っておこう。」


「……くそっ」


 悪魔の言葉に舌打ちをし、魔法を放つオルビィンを見ながら俺は……いや俺達村人は絶望する。


「アインダがやられた?……嘘だろ」


「うわぁぁぁぁ!アインダの仇!」


 1人の村人が武器を持ち、悪魔に飛びかかるもオルビィンの魔法を防いだ悪魔が手刀で村人の腹に風穴を開ける。


「ふん、村人風情が俺に敵うと思っているのか?バカが。

 さて、オルビィンとか言ったな。お前に提案がある。」


「提案?ふざけるな、俺の仲間を2人も殺しておいて何言っている。」


「〈鋭利なる魔弾よ〉」


「うがっ……!?」

 

 オルビィンが悪魔の提案とやらを速攻で断ると、悪魔が手から魔弾が放たれ、屋根にいた1人の村人の頭に穴を開け、村人は屋根から転がり落ちていった。


「断ればこんな感じに村人を殺すことになるが?」


「くそっ、提案とはなんだ。」


 怒りで声が一段低くなったオルビィンが悪魔に質問する。


「なに、簡単なことだ。俺の仲間になれ。もうすぐしたらビギシティを我々は襲う。その際に……」


 悪魔の言葉が途中で続かなくなる。


「ビギシティを襲うだと?あそこには俺の実家がある。悪いが仲間になる事なんでできないな!」


 途中でオルビィンが魔法を放ったからだ。さらに追撃とばかりにオルビィンは火の矢を出現させ悪魔に攻撃する。


「ふーむ、まあいい。ヒューデット達よ、狩りの時間だ。」


 悪魔がパチンと指を鳴らすと、悪魔の後ろにどこからか大量の化け物達が現れ、村人達とオルビィンに襲いかかった。


「ガァァァッ!」


「あぁぁぁぁぁぁっ!?」


「痛い痛い痛いぃ!!」


「あ……あ……こんなの……ありえない」


 地上で村人達が化け物に襲われ、次々と死んでいく。

 あまりにショッキングな現実にアイナは口をパクパクさせ、膝から崩れ落ちた。


「〈赤く猛け〉ぇぇっ!あぁぁっ!?」


 頼みの綱であったオルビィンも大量の化け物達に囲まれ詠唱が間に合わず、化け物達に殴られ、噛みつかれ……その姿は見えなくなってしまった。


「ガァァァッッ!!」


「くそっ、こっちに来るな!うわっ!?」


 ついに地上にいた皆を殺し終わった化け物達が屋根の上にいる俺達をターゲットにした。


 村長の家の壁をぶち破り、柱をも壊して家の倒壊が始まり、村人の1人が態勢を崩して屋根から落ち、化け物達に食われる。


「ぐっ、マジかよ……ここで……ここで終わりか。」


 ガシャン、とさらに建物が崩れ、バランスを崩し屋根の端に捕まるが、もはや建物が倒壊寸前で安全な場所などどこにもない。


「カーフさんっ!手をっ!」


「いいんだ、もう……生き残ることなんてできない。」


 手を伸ばすアイナに微笑みながら俺は手を離した。

 地面に着地し、最後の抵抗とばかりに持っていた棍棒で周りの化け物達に攻撃を仕掛ける。

 すると、俺の隣にどさりとアイナが落ちてきた。


「カーフさんだけに任せません!私も最期はあなたと一緒に死にたいです!」


「アイナ……」

 

 持っていたフライパンで化け物達を殴るアイナと共に化け物達に攻撃する。しかし、ほんの数秒で化け物に囲まれ、終わりを悟った。


「すまないアイナ。こんなことになってしまって……」


「カーフさんは悪くありませんよ。」


 互いに抱きしめながら微笑み……化け物達に押し倒され、一瞬の激痛の後、意識は無くなっ――「やめてぇぇぇぇぇっ!!!」





 夕焼け空に私の声が響く。もう過ぎ去って変えられない過去の出来事ということは分かっていた。

 

 それでも……村の皆、そして家族の死を見て黙っていることは出来なかった。


「なんで……なんで……皆を……」


 いつの間にかフロウアは私の元から離れたところでにやにやとして立っていた。

 貧血で意識は朦朧としている。シャープデットにやられた右足はずきずきと痛み、涙で視界がぐちゃぐちゃになっている。あんなものを見せられて精神も崩壊寸前。体力もほとんどなく魔力も過去を見ている間に回復した分だけ。

 そんな絶望的な状態でも私はフラフラになりながらもフロウアの元まで辿り着き……


「なんで皆を殺したんですかっ!答えてっ!」


「理由は2つある。1つは先程も言った通りビギシティを襲うための戦力を補充するためだ。そしてもう1つは……」


 にやりとフロウアは両腕を広げ、満面の笑みを浮かべ


「楽しいからだ。人々の負の感情、絶望の表情、恐怖に彩られた悲鳴……あぁ、それを聞いただけでゾクゾクする。」


 ――ブチッ――と何かがキレたような音が私の脳内で鳴り響いた。


「そんな……」


「ん?」


「そんなことのために、村の皆を!アレンさんもリーパーさんも!私の家族も!殺したって言うんですかっ!〈我は力を望む〉、〈宿れ光剣我が手に〉っ‼」


「っ!?」

 

 怒りをむき出しにし、ほとんど残っていない魔力を用いて、『ライトソード』を右手に準備し、『パワーライズ』で脚力を強化してフロウア目掛けて駆け出し、一瞬で距離を詰め右手の『ライトソード』をぎょっとしているフロウア目掛けて振りぬく。

  

「はあぁぁぁぁっ!」


「ヒューデットぉぉぉっ!」


「うっ……」

 

 フロウアの首を取ったと思った瞬間、ヒューデットが私の後ろに飛びつきバランスを崩した私の『ライトソード』はフロウアのすぐ隣の虚空を斬った。

 

「ガアァァァァ!」


「邪魔をしないで!〈集いし魔力よ〉!」


 態勢を崩した私の首元にかみつこうとするヒューデットに至近距離で顔面目掛けて『マジックショット』を放つ。ヒューデットを倒しすぎたせいでステータスが大幅に上がっているのか、ただの初級魔法だけでも一発でヒューデットの顔面が破裂した。

 

「この村の崩壊を見せ、心を折り俺の手下にするつもりだった。」


 顔を伏せフロウアは静かに呟く。

 

「私は何度言われようともそっちにはつきません!」

 

「この短期間でそれほど強くなっているのだからこちら側に来ればそれなりの待遇を用意してやろうと思ったが……」


 フロウアが顔を上げる。その表情はどこか残念そうな顔をしているが、表情がすぐに切り替わり、残虐な笑みを浮かべあたりにいるヒューデットを見渡す。

 

「躾けられぬ獣ほど恐ろしいものはない。ヒューデット達よ、手加減はここまでだ。殺せ。」


「ガアァァァッ!」


「くぅ……」 


フロウアの号令で周りの大量のヒューデット達が咆哮し、私目掛けて飛びかかってくる。


「〈宿れ光剣我が手に〉、〈宿れ光剣我が手に〉!」


「怯むなっ、殺せ!」

 

『ライトソード』を振りながらその場で一回転する。斬られたヒューデット達は倒れるが、次々にフロウアの命令通りずんずんと進んでくるためキリが無い。


(これだけのヒューデットを倒すことなんて出来ない。)


 ヒューデットの攻撃をバックステップで躱し、後ろにいた他の複数のヒューデットに『ウィンドブロウ』を放ち、怯ませている間に『ライトソード』でまとめて斬る。


(足も怪我してるから『パワーライズ』をかけられなくなったら避けることも出来ない。)


私の使える『ライトヒール』で治るような傷だったら良かったが、かなりの重傷で一瞬で治すことなんてできない。今は『パワーライズ』で足を強化し無理やり動かしているけど、魔力がなくなったらそれも出来ない。


 (そして……魔力も……)

 

 元々魔力が少ないのにヒューデットの相手をするだけで大量に魔力を使用し、もうほとんど残っていない。


 (私が死ぬのは多分……ううん確実……。でも――)


 ヒューデット達の隙間からあの悪魔を見つける。少し離れたところで他人事のように私の姿を見てニヤニヤと笑っていた。


 (もう死んでも構わない……でも、あの悪魔だけは道ずれにする!)


 決意を固め、『パワーライズ』で再度足を強化し、走りながら目の前に立ち塞がるヒューデットだけを魔法で薙ぎ倒す。


「あぁぁぁぁぁぁっ!〈さらなる力を求む〉、〈さらなる力を求む〉、〈さらなる力を求む〉!」


「なにっ!?」

 

 フロウアと私の間を阻むヒューデットがいなくなった瞬間、『ライトソード』1回分の魔力だけを残し、『マジックチャージ』で『ライトソード』の攻撃力を上昇させる。


「〈宿れ光剣我が手に〉ぃっっ!!」


 驚愕に目を見開くフロウアに両手を掲げ『マジックチャージ』で火力を底上げし、眩く光る『ライトソード』を掴み、フロウアの脳天目掛けて『ライトソード』を振り下ろす。


「皆の仇っ!」


 肉体を斬り裂く感触を手に感じながらも、フロウアを真っ二つに斬り裂くまで手に力を入れる。


「うあぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 叫びながら力を入れ、手にかかる感触が急に軽くなった。

 目の前を見ると、フロウアが真っ二つになっていてフロウアの血で私の手もべっとりと赤く汚れていた。


「あ……は……ははは、倒した。私……倒せたんだ。」


 それを自覚した途端、身体中から力が抜ける。アドレナリンがきれたのか、身体中にある傷がズキズキと痛みを訴える。

 ……そしてヒューデット達が倒れた私を目指してやってくる。


 ――終わりだ――


 それを見て私は死を察する。死ぬのは怖い。でも、皆の、家族の仇をとることが出来た。それだけで心の中はすっきりとして死への恐怖が和らぐ。先頭にいたヒューデットが手が届く所まで来て、私の頭へと手を伸ばす。私はそれを目を閉じて最期が来るのを待った。


「呑気なものだな。」


「…………ぇ?」


 耳に響く悪魔の声。それを聞いた私は目を開ける。

 目の前には動きを止めたヒューデットがいる。そして声が聞こえた後ろを振り返るとフロウアが立っていた。


「〈無駄なき魔弾よ〉」


「ぁ…………」


 お腹に熱を感じ、そこに視線を向ける。たった今フロウアが放った魔法で小さな穴が空き、そこから出血していた。

 全身から力が抜け、パたりとそこで倒れ込んでしまう。


「な……なんで……」


「なぜ俺が生きているのか……か?簡単なことだ。中級闇属性魔法『クリエイトアバター』で自分そっくりの分身を作り、お前をはめただけだ。

 あれだけ頑張ったのにそれが無に帰した今の感情はどうだ?」


「さい……あく……ですね」


 もはや動くこともままらない体で私の顔をのぞき込むフロウアを睨めつける。視界に先程フロウアを斬った手がうつるが、幻覚だったためか、べっとりとついていたはずの血がどこにも見当たらなかった。


「そうかそうか、なら立つといい。俺が憎いのなら立ち上がらないと勝てないぞ?」


 私がもう動けないことを理解しているはずなのに煽るようにフロウアは言う。


「まぁ俺に勝つことなんて出来ないだろうがな。もうすぐお前は大量出血で死ぬ。だがここまで頑張ったお前に少しだけ褒美をやることにしよう。リーフの両親はここに来い。」


「「ガァ」」


「一体……なにを……」


 たくさんのヒューデットの中から2人のヒューデットが現れる。フロウアの命令通り、出てきたのは私の両親だ。

 いったい私の親に何をするつもりなのかフロウアをにらみながら質問する。

 

「そうにらむな。俺はお前のためを思っているんだ。1人で死ぬのは嫌だろう?家族で一緒にあの世に行けば多少は不安も安らぐだろう。」


 そう言ってフロウアは呼び出したお父さんとお母さんの頭に片手を置き、そして頭を握り潰した。


「…………ぁ…………ぅぁ」


「あぁ……その絶望の顔……本当にいい!」


 目の前で頭部を失い倒れる両親。ヒューデットとなって以前のような姿ではなくてももちろん両親に対する想いは変わらない。おなかの痛みなんて消し飛んだ。目の前で倒れた両親を見つめ、フロウアに対する怒りが限界を超え、もはや舌が回らず言葉にできない怒りが脳内を埋め尽くす。


「大丈夫だ、お前もすぐに俺があの世に送ってやる。」


 気味の悪い笑みを浮かべながらフロウアは私の隣にやってきて私の頭をわしずかみにし、片手で体がわずかに宙に浮く。


「なあ、今お前の心はどんな感情が渦巻いているんだ?死に対する恐怖か?両親の死に対する悲しみか?なあ教えてくれよ。」


「恐怖でも……悲しみでもないです。」


「ほう?」


 私の返答に不思議そうにフロウアは首をかしげる。


「いま私の心は!あなたに対する怒りだけです!」


「ふふふ、はははははっ!そうかそうか、まあそうだろうな。これだけ自分の故郷で好き勝手され、村人たちも家族も殺されたんだ。で?どうするという言うのだ?お前じゃ俺に勝てない。」


「うっ……ぐぅ……ぁぁぁぁああああっ!」


 私の言葉にフロウアは口をあけて笑い、私を地面に放り投げた。


 フロウアに攻撃しようと体に力を入れる。


「そんなぼろぼろの体で何ができる!」


 フロウアの言葉を無視し、力を入れるも、フロウアの言うとおり、立ち上がることすら困難だった。


「ふ……うっぐ……」


 あまりにも悔しくて、自分がみじめで涙がこぼれ土が涙を吸う。


「神様……私に……力を、あの悪魔を倒す力をください。あの悪魔を倒せるのなら私の命も捧げます。」

 

 空を向いて、いるのかすらもわからない神様に願う。


「く……はははは!この期に及んで神頼みか!」


「……ぇ?」


 フロウアの笑い声は耳を通り過ぎた。なぜなら今私の脳内に声が響いたからだ。


(あぁ……やっと叶えられる。)


 その瞬間、今まで感じたこともない力が体中を駆け巡った。










 今回使用した魔法


グレートオブハイライズ 上級無属性魔法

肉体強化値 B+

魔法制御力 B

魔法効果時間 C+

消費魔力量 B-

詠唱

数多の魔の力・我囲み・この身に魔を取り込みて・さらなる力求む

説明

『パワーライズ』の上位互換の魔法。

多くの魔力を身に纏い、全身の身体能力、動体視力を向上させる。


ウィンドブロックシューター 中級風属性魔法

魔法防御力 E

魔法制御力 E-

魔法効果時間 E

消費魔力量 E--

射程 D++

魔法発動速度 C-

詠唱

風の魔弾よ・その身に内包したる力・解放せよ

省略ver

疾風の守り球よ

説明

風の力を借り、2cm程度の魔弾を放つ。

魔弾は自分の意思で即座に展開できる縦横1mの障壁を内包しており、離れた位置に即時展開可能。


ウィンドオブフライ 上級風属性魔法

魔法制御力 C+

魔法効果時間 C++

消費魔力量 C

魔法発動速度 B

詠唱

風よ・身を浮かす力・空自由に駆ける力・地を駆ける我に・与えたまえ

省略ver

与えよ我に・空を制す・風の力

説明

風の力を借り、空を飛ぶことが出来る。

使用者の魔法制御力が高ければ高いほど、精密な飛行ができる。

また、他人に『ウィンドオブフライ』をかけることも出来るが、空での飛行はかけられた者の戦技制御力、魔法制御力に依存する。


ゼロストーム 超級嵐属性魔法

魔法攻撃力 A++

魔法制御力 A++

消費魔力量 A+

射程 S−−

魔法発動速度 S

詠唱

荒れよ・哭けよ・刻めよ・風さらに鋭さ増し・鋭く尖りし刃・ここに顕現し・あらゆるものを消し飛ばせ

説明

巨大な竜巻を起こし、鋭く切れ味のある風で敵を切り刻む。

さらに、ゼロストームを起こした場所のマナを風で吹き飛ばし、30秒間、その場にいるものはマナを吸収できなくなる。

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